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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第90話 同じ地球産

 森の中では俺はペタに追いつけない。異常に身体能力が上がっている今の状態でもだ。俺が前に虎族の騎士を手玉に取ったのと同じだ。これは技術だ。




 不注意でペタの心の傷に触れてしまった。こういうのが俺が子供だって所だ。体ばっかり成長して心が付いて来ていないんだ。バカだ。


 ペタの背中が少しずつ離れて行く。駄目だ、この辺りはもう人の世界じゃない。大トカゲがいない。という事はモンスターが戻ってきている可能性が高い。そこかしこに小さな洞窟の入り口が見え始めた。


 いつ、その辺の茂みからモンスターが飛び出して来てもおかしくない。ペタ1人じゃフォレストウルフの群れには勝てない。もっとヤバいやつもいるかもしれない。森自体の危険度が増している。俺でも勝てないのが出る可能性もある。


「ペタ!待て!悪かった、話をしよう!」


 叫んでも振り返ってくれない。ここが森の中じゃなかったらまだ良い。だけど今見失ったらペタが危ない。許してもらえるかどうかって話じゃない。


 ペタが少し小高くなっている部分を飛び越えた。俺も少し遅れて後に続く。




 最悪だ。見失った。


 木の陰か、いくつか見える小さい洞窟の入り口か、草むらか。分からない。どこもかしこも色んな生き物の気配がする。どれがペタか分からない。


 まだそこまで距離は離れていなかった。って事は逃げ切られた訳じゃない。隠れたんだ。近くにいるはずだ。だが、じっと身を潜められたら流石に森の中では見つけられない。下手に探し回ったら、その隙に完全に見つけられない所に移動するかもしれない。


 足を止めて叫ぶ。


「ペタ!聞こえてんだろ!一緒に帰ろう!」


 見つからない以上出て来てもらうしかない。返事は当然ないが絶対に聞こえてる。


 左手に持っていた背負い袋を地面に降ろして仁王立ちだ。我慢比べだ。


 子供の怒りは持続しない。多分ペタもだ。そのうち出て来る。出て来なくても動けば分かる。洞窟に入っていたとしても俺はアイツの動きを捉える自信がある。逃げるだけじゃなく隠れるのも下手だ。


 ただ問題もある。ペタの我慢強さだ。あいつは初めて会った時、脱水症状を起こすぐらいの時間、俺の部屋を見張っていた。子供の我慢強さを振り切っている。いずれ出て来ると言っても明日や明後日まで我慢するかもしれない。


 そして、その我慢強さが今は危ない。ここら辺はもうモンスターだらけだと思って良い。俺の手の届かない距離でペタが襲われたらと思うと気持ちが悪くなって来る。本当はそこら中駆けずり回って探したい。だが動けない。




 近くにある木が揺れた。こういう感じになるとは思っていた。だからこそ、この見通しの良い場所を選んだんだ。こっちから見えるって事は向こうからも見えるって事だ。隠れてるペタより、無防備に仁王立ちしている俺に来る。


 今まで見た事のない、巨大なイノシシに似た奴が俺に向かって吠えた。牙が並んでいる。こっちのイノシシは肉食か。




 俺の知っているイノシシはかなり草食寄りの雑食だ。そして臆病な生き物だ。動かずに突っ立っている人間にわざわざ向かっては来ない。


 だが、さっき見えた尖った牙。残念ながら俺を食い物だと思っている。地球の知識はあくまで参考にしかならない。そしてこのサイズだ。普通の奴の10倍ぐらいあるんじゃないか?ちょっとした牛ぐらいはある。


 だが足の形、普通のイノシシよりも鋭く飛び出した2本の牙、そして豚っ鼻。コイツの戦闘スタイルは間違いなく突進からの突き上げだ。猪突猛進ちょとつもうしんって言葉もあるが、ただ突っ込んで来るだけならかわすのは簡単だ。闘牛ならぬ闘イノだ。


 だが今は躱せない。


 ここを動けば、ある程度把握している周囲の気配を捉えきれなくなる。大きめの生き物はまだかなりいる。そして動いているのもいれば止まっているのもいる。その中のどれかがペタだ。どれかは分からないが。


 ついでにその気配の中には、こっちを敵だと思っている奴がまだいる可能性もある。ここヤバイな。モンスターパラダイスになってるかもしれない。ペタ、頼むから早く出て来てくれ。俺死ぬかもしれないぞ。


 イノシシがグッと頭を下げた。来る。


 土を蹴り上げて突進して来たイノシシは想像以上に速い。そしてこっちは周囲全てに意識を飛ばしている以上、ナイフなんか投げたってピンポイントで狙えない。じゃあ、こうするしかない。俺も体をぐっと沈めた。


 ゴズンッ


 鈍い音と共にイノシシの動きが止まる。俺の肩と豚っ鼻が激突した。重い!軽自動車かお前!踏みしめた両足が地面に沈む。脚が、腹が、背中がミシミシときしむ。だが俺は動いていない。これが相撲すもうならここからガップリと組み合って勝負続行だ。でも俺には腕があるが、お前には無いな。じゃあ悪いけど俺の勝ちだ。


 イノシシの鼻にキスされながら、両手で飛び出した牙を握る。後ろの茂みにも大きいのがいる。ペタかどうかは分からないが、お客さんの方に投げる訳にはいかない。


 こういう力技はやった事ないんだけど、出来るようになっちゃったなあ。


 300キロぐらいありそうなイノシシが俺の頭上に逆立ち状態になった。流石に牙だと安定しないな。腕がキツい。早く放したい。ここから足元に叩き落せばプロレス技、パワーボムの完成だ。


 だけど、それをやればこのイノシシは多分、自分の体重に潰される。いやそれは仕方ない。コイツが襲って来たんだ。


 ただ、どうやら後ろにいるお客さんはペタじゃない。数が増え始めている。ペタが分身の術を身に着けたんじゃなければ、これは俺を狙っているって事だ。


 少し無理な体勢で、体をねじりながらイノシシを背後の茂みに投げつける。勢いで牙が2本とも折れた。悪い事をした。でも死ななかったんだから良いだろ。こっちも腹筋がちぎれそうだったぞ。脇腹が痛え。


 ブギャ


 イノシシのか、お客さんの方かは分からないがおかしな悲鳴が聞こえた。それが2回戦目の合図だ。一斉に周りの木々が揺れる。


 ホウッホウッ、という鳴き声と共にかなりの数が動き出した。




 連戦の相手は俺にはやりにくい奴らだ。猿か。俺、猿族っぽいらしいんだよな。


 俺の周りを取り囲むように木からぶら下がっているこいつらは、よく動物園の猿山にいるようなニホンザルじゃない。オランウータンに似ている。というかオランウータンだろう。まさかこれが猿族じゃないよな?


 うなり声を上げながら1匹が俺に近付いて来る。唸り声だ、喋ってはいない。じゃあ動物だ。オランウータンのオスによくある顔の横のヒダがデカい。フランジという部分だ。という事はこのオスが群れのボスか。


 そもそもオランウータンは群れを作らない。それが、ざっと20匹はいる。強力なモンスターがいるこの星で、身を守る為に群れを作るようになったんだろうか。


 動きも地球のと同じだ。俺に向かって来るボスは長い両腕を使って体を揺らしながら地面を歩いて来る。もしかすると俺と同じ地球産かもしれない。ちょっと親近感がわく、猿仲間だ。あ、やっぱり嫌だな。


 オランウータンは木の実とか果物を食う。虫や小動物を食う事もあるが、あえて人を食う事は無いだろう。となると向かって来る理由は1つだ。


 ここはこいつらの縄張りなんだ。どうやらよそ者の俺を追い出したいだけだ。俺を殺そうとは思っていない。


 これは手を出したくない。だが俺は動けない、どうしよう。ペタ、お前のせいでこんな面倒な状況になってんだぞ。いや悪いのは俺だった。どうにかします。


 ホウッホウッ


 周囲から威嚇いかくの声が響く。ボスも少し距離のある位置で止まった。流石は猿だ。俺がイノシシを投げ飛ばすのを見て危険な相手だと分かっている。


 だからこいつらは違う戦い方を選んだ。


 ボスがその長い手で石を投げつけて来た。肩に当たる。ちょっと痛え。


 それを引き金に、周りから石や木の枝がどんどん飛んで来る。俺は避けない。こいつらの縄張りに入り込んだのは俺だ。出て行かないのも俺だ。こっちから攻撃は出来ない。


 石や枝を避けたり受け止めたりしないのは俺の誠意だ。いや、自己満足だ。こんなのがこいつらに通じるとは思えない。思えないんだけど何やってんだろう。


 このボスを軽く痛めつければ、おそらく群れは逃げる。そしてこの縄張りには戻って来ないだろう。だけど俺がこいつらの縄張りを奪う理由は無い。勝手に家に入って居座るなんてのは普通に犯罪だろう。


 俺はちょっとお邪魔してるだけなんだ。もしかしたら同郷どうきょうだ、分かってくれないかな。猿は頭が良いんだろ?喋った事は無いけど。


 石が頭に当たった。血が流れ出したのが分かる。汗みたいに垂れて来る。少し目に入って視界が悪くなった。だが俺はボスから目をらさない。



 ただ、ちょっと股間だけはこっそり手で守っている。これはホント許して。



 ボスと見つめ合いながらも周りの気配を探ろうとするが、流石にこの投擲物とうてきぶつの雨にさらされていると、もう訳が分からなくなった。ペタは移動してしまったかもしれない。


 だけど、こんな状態になっている俺をほっといて逃げるような子じゃないぞ。逆に助けに来るかもな。矢は撃つなよ、俺が勝手にやってる事だ。……来ないな。



 あ、でも近くにいると思ってここでじっとしてるけど、そもそも俺の予想より遠くに行っていたらどうしよう。俺、ここにいる意味ないじゃねえか。バッシバシ当たってる、この石やら枝やらは何の意味もない事になる。うわ、すげえ馬鹿だ。そろそろぶつけるの止めてくれないかな。怪我はどうせすぐ治るだろうけども、何気に結構、痛いんだぞコレ。お前ら、調子に乗るなよ。


 思わずイラっとしたら、ボスが少しだけ後ろに下がった。後ずさった感じだ。流石にオランウータンの表情は分からない。だが、あれはビビった動きだ。


 ホウッ


 ボスの一鳴きでピタリと石や枝が止まった。


 うーん。ちょっと俺が思っていたのと違う。もっとこう、種族の垣根を越えた何かが伝わって、友情みたいなのが芽生えて欲しかったんだが、どうも恐怖を与えたかもしれない。漫画みたいにはいかないもんだなあ。


 ボスがグルっと向きを変えると、近くの木に向かって歩き出した。気のせいか最初より速足だな。でも、そこはボスの威厳をアピールしてるんだろう、逃げるって感じは見せていない。だが多分、逃げてる。同じ猿仲間だから分かるわー。






 何か来る。


 気配を隠そうともしない何か。ゆっくりとだがこっちへ向かって来る。木がへし折れる音が遠くから近付いて来る。


 オランウータン達も騒ぎ出した。ボスももう威厳も何もない。すぐそばの木に慌てて登る。他にも小さい動物や鳥も隠れたり逃げ出し始めた。急に騒がしくなる森。


 ここにいたらヤバイ。目に入った血をぬぐって背負い袋を拾い上げる。すぐに逃げないと。


 って、ペタはどうした。どこにいるんだ、マジで駄目だ。出て来い。


「ペタ!」


 近付いて来る何かに狙いを定められる可能性もある。ここで声は出したくなかったが、もし近くにいるなら隠れている場合じゃない。邪魔な木をへし折りながら進んで来る。相手は間違いなく化け物だ。


「ペタ!逃げろ!」


 叫びながら、俺も逃げる方向を探る。単純に離れても駄目だ。向こうは地形無視で突っ込んで来れる化け物だ。となると、洞窟だ。


 ああ、また洞窟か。この辺に来るたびに飛び込む羽目になるな。うんざりだが仕方ない。死ぬよりマシだ。木の倒れる音はかなり近くまで来ている。


 いくつか見えている洞窟の入り口の中でも、俺がギリギリ入れる大きさのやつを選んで走る。近さより狭さだ。確実にデカいであろうあの化け物が入れない大きさだ。


 茂みを跳び越える。さっき俺が投げ飛ばしたイノシシが引っくり返っているが、それも跳び越える。下敷きになったオランウータンが2匹見える。スマン。ちょっと助けられない。


 少し先に見えていた洞窟に滑り込む。何もいない。いや、もっと奥に逃げたのかもしれない。暗がりになっていてよく見えない。だが俺は奥には行けない。


 ペタがどこにいるか分からないんだ。近くにいなければいい。だが、まだその辺に隠れたままかもしれない。あの野生児は意外に逃げる事に関しては鈍い。俺が見失ったのも、あくまで森に慣れていないからだ。逆にここまで追いかけられた方が驚きだ。


 村のそばではフォレストウルフが精々だったんだろう。なら、木に登れば十分だ。獲物を追いかけるばかりで逃げるって事を練習してないんだ。何度か鬼ごっこをしたが、逃げる時は直線ばかりで簡単に捕まえられた。


 多分、あいつはまだ近くにいる。俺みたいに洞窟ならまだいいが、木の上や茂みの中じゃ最悪だ。


 だから俺もこれ以上、洞窟の奥には入れない。ここから様子をうかがう必要がある。何事もなく脅威きょういが去るのを見届けなければいけない。何事かが起きれば……飛び出さなきゃいけない。




 洞窟のすぐ近くで足音がゆっくりと止まった。俺が投げ飛ばして、引っくり返ったままのイノシシと、潰されたオランウータンの近くだ。


 そりゃ、いいエサが転がってるんだ。止まるだろう。


 くそ、体が震える。コイツは駄目だ。今なら勝てるかもしれないなんて思ってたが、心の深い所が恐怖を覚えている。あのスライムとは違う。純粋な殺意の塊だ




 前足が4本ある巨大な熊が、その1本で300キロのイノシシを軽々とすくい上げた。




読んでくださってありがとうございます。


因縁の相手の登場です。


そして因縁の誤字の修正です。

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