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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第75話 顕微鏡を買おう

 再び降り出した大雨の中ペタと一緒に、スライムの側面に回る。


 俺は既に石を投げ始めている。だが、スライムは馬車の車列に向かって動き出した。やっぱりこの程度じゃ駄目か。


 さっきの俺のパンチは、ほぼ間断かんだんなくそれなりの威力で叩き込んだ。あれぐらいの集中した攻撃を入れるべきだろう。そうしないとアイツはこっちを向かない。


 となると、小型の弓を持っているペタ1人の攻撃じゃこっちを向いてくれない可能性が高い。矢だって10本ちょいしかない。もっと大人数で一気に叩き込む必要がある。


「ペタ、どれぐらいの距離が一番威力が出せる?」


「ちかいほうがいい」


 まあ、そりゃそうだ。いくら遠距離の武器だって言っても撃った直後が一番強いに決まっている。馬鹿な事を聞いた。


 じゃあ、距離はやっぱり50メートルぐらいだろう。これより近いと反撃はともかく、さっきの口が向いた時、事故が起こる。50メートルの口だ。嘘みたいだが体験してしまった。


「もううっていいのか?」


「いや、まだだ。もっと弓を使える奴が来てからだ」


 ペタに答えながらも石を投げ続ける。ペタも投げ始めた。すげえ子供だな、50メートル届いてるよ。


 だが、俺の石はほぼ真っすぐ飛んで突き刺さるが、ペタの石は表面に当たって落ちる。まあそりゃそうだな。あの固い肉を貫ける方がおかしい。つまりペタもすごい子供だが、俺はおかしい人間だ。


 馬車の方から弓を持った奴らが走って来る。だけどやっぱりか。


「お前ら2人だけか」


 息を切らしている2人の若いギルド員達。


「すみません!」


「全員に声を掛けたんですが……」


 だが、矢は両手に抱える程持っている。やるじゃないかこいつら。


 商人達が今度は何を言い出したのか、他のギルド員はみんな馬車の最後尾に陣形を組んで剣や槍を構えている。弓の奴もあっちだ。


 そっちから刺激を与えてどうする、潰されるのが早まるぞ。


「あいつらが手を出す前にこっちを向かせなきゃ駄目だ。一気に撃ち込む。矢は全部使いきっちまえ」


「おお!」「はい!」「イエッサ!」


 ロリコンだけ返事おかしい。


「俺が石を当てたら、出来るだけ同じ場所に撃ち込み続けろ!」


 叫びながら大きめの石を全力で投げる。その石がスライムの体に穴を開けた瞬間、息を合わせるようにペタ達3人も矢を放ち始めた。




「ハルキ!すぐふさがる!」


「良い!そのまま撃て!」


 俺の石はいくらでもあるが矢は尽きる。そしてスライムは反射による反撃で体の一部を落としてくる。すぐに傷は見えなくなる。傍目はためには無駄に見えるかもしれない。


 だが俺は離れた所から石を投げ続けている間に気が付いた。


 あいつの反撃は、ダメージを受けた部分の上から体を落とす行為だ。スライム自身は馬車の方を向いているつもりかもしれない。内臓の向きも馬車向きだ。だが体は俺達の方向に引っ張られている。部分的にだがタイヤみたいに回転している。


 両方に進もうとしているせいで、ほとんど前進出来ていない。いやわずかにこっちに寄って来ている、スライムは気付いていない。


 いや、気付く知能は無い。あいつは単細胞だ。俺よりバカだ。文字通りの脳なし野郎だ。俺とペタで石を投げても目に見える程は引っ張れなかったが、弓が加わった事で、誘導出来ている。


「なくなった!」


 ペタの悲痛な声が聞こえた。ペタは他の2人より回転が速かったし本数も少なかった。弓のサイズ的にも他の2人の持ってきた矢は撃てない。仕方がない。そしてまだスライムはこっちを向いていない。駄目か。


「お前ら2人。矢がなくなったら馬車に戻れ」


「ハルキさんは、どうするんですか!」


「もっかいだけ頑張ってみるわ。上手く道が空いたら馬車を町に戻すんだ」


 正直怖い。あの目玉に見える消化器官が脳裏をよぎる。俺は死神ににらまれたような恐怖を刻み込まれた。もう一度あの中に飛び込みたくは無い。


 だが今回は俺1人じゃない。


「ペタ、あの中にあるグチャっとしたのが分かるか?」


「おいしくなさそうなところだな!」


 おう、そうだ。おいしく食べられちゃう所だ。


「あそこがグルっと回ったら大声で教えてくれ。石をぶつけてきてもいい。でも近づくなよ」


 離れて見ていてくれれば口が向くタイミングが分かる。


「ハルキしなないか?」


「おお、ペタがちゃんと見ててくれたら死なないから。頼むな」


「わかった!まかせていいぞ!」


 こいつの任せろは信用できないんだよなあ。だけど今、信用出来るのはペタだけだ。信用できないけど信用する。意味分からないな。でもなんとなく大丈夫な気がするんだよ。


 ペタと打ち合わせをしている間にも、大量にあった矢はみるみる減って行く。そしてとうとう最後の矢がつがえられた。


 結局こっちは向かなかったか。だが、だいぶ引っ張れたんじゃないか?


 最後の矢が飛ぶと同時にスライムに向かって全力で走る。おっと、矢を追い越した。ちょっとだけスピードダウン。うん、今ので肩の力が抜けた。






 1回目の時は左右で2発殴っていた。だが誘導だけなら1発でいい。余裕だ。


 スライムの肉片が飛び散ると同時にバックステップする。目の前に肉の塊が落ちる。どれぐらい落ちて来るかもさっきじっくり観察できた。そこにもう1発。


 何度も何度も繰り返し殴っては後ろに飛ぶ。ペタからの声はかからない。だが、例え口がこっちを向かなかったとしても、このまま引っ張り続ければ道は空く。1時間でも2時間でも殴り続けてやる。体力オバケはペタだけじゃないぞ。


 そして口がこっちに向いたらそれでもいい。どっちでも俺の勝ちだ。いや、こっち向いてくれた方が楽だな。むしろ早くこっち向いて欲しくなってきた。


「まわった!」


 来たか!ペタの声が聞こえた瞬間にダッシュだ。さっきと違って、あの死神の目玉はまだ見えなかった。楽勝だ。中学の時に測った50メートル走は5,4秒だったかな?だけど、今は3秒もいらないってのはドーピングにも程がある。


 遠くでペタが手を振っている。ナイスだぞペタ、信用してよかった。狸族の村に着いたらマスターさんの肉料理を腹いっぱい食おうな。勿論、俺のおごりだ。まあ今日は、一度町に帰らないといけないけどな。道が途切れてる。


 背後からデカい衝撃と音が飛んで来る。


 振り返ると、何もない場所に落ちた口を縮めようとしている単細胞生物。何も食べてないのにモグモグしてんのか?消化器官も動いているが、草ぐらいしか入ってないだろう。もう体はほとんど草原だ。そのまま草食に目覚めちまえ。


「ハルキ!ペタはうまかったか?」


「おう、タイミングばっちりだ。さすが相棒」


 駆け寄って来たペタの頭をワシャワシャとでまわす。もうフードも関係ない。二人とも全身ずぶ濡れだ。ペタが気持ちよさそうに目をぎゅっとつむっている。ウチに帰ったらまたシャンプーしてやろう。


「さあ、後は石投げ大会だ。どっちがいっぱい当てられるか勝負だな」


「あいてがハルキでも、それだけはまけられない!」


 何だったら負けても良いんだろう。穴掘りも鬼ごっこも燃えてたよな。






 石をバンバン投げつける。ペタも両手に抱えた大きな岩を投げようとしているが、それは届かないだろうな。ほら真ん中あたりに落ちた。って、そのサイズをそれだけ飛ばせる子供は絶対いない。こいつアニさんのパワーを引き継いでる。いつか俺に届くんじゃないか?


「うおりゃ!」


 ペタが投げたのと同じサイズの石をスライムに投げつける。ちゃんと届くし大きな穴が空く。慌てたように穴を塞ぐスライム。単細胞生物には脳は無い。慌てる事もない。だけど、そう見える。ああ、可愛いく見えて来た。デカいけど、ぶちゃいくだけど可愛い。地球に帰ったら顕微鏡けんびきょうを買おう。


「まだハルキにはかてない!むー!」


 地団太じだんだを踏むペタ。悪いけどお兄ちゃん的には追いつかせる気は無い。お前が成長するより早く俺の方が成長してやる。それこそ、このスライムとガチンコ勝負できるぐらいにな。レベルは100か?999か?


 あと、いっぱい当てる勝負って言ったはずなんだが、なぜ大きいのを投げようとしたんだろうこいつは。


「ほれほれ。手が止まってるぞ、バテたか?」


「ペタにふかのうというもじはない!」


 それに、なぜ地球の偉人の名言を知っている。謎の多さではテディさんに匹敵するなコイツも。


 俺達はもう大分、道から離れている。スライムがデカすぎるから見えないが、そろそろ行けるんじゃないか?と、思ったら1台目の馬車の頭が見えた。町に向かっている。馬のおっちゃんが手を振っている。最後尾から先頭に格上げだ。


「おーい」


 ペタがピョンピョン跳ねながら手を振り返しているが、今が最後の詰めだ。ここで手を抜くとスライムは180度、一気に向きを変えるぞ。


 ペタが馬車に気を取られている間、俺は倍の回転で石を投げ続ける。おい、流石に肩が痛い。全部の馬車に手を振ってるんじゃない。あ、でも次々と戻って行く馬車の御者さん達はみんなこっちに手を振ってるな。


 それだけじゃない、幌の前や後ろから頭を出して皆が手を振って来る。商人も護衛も関係なくだ。表情までは見えないけどな。


 仕方ない、ウチのマスコットには手を振る係をやってもらって、俺が頑張ってピッチングマシーンと化しますか。








 馬車の最後尾も見えなくなった。もうそろそろ止めてもいいか。ペタはとっくに興味をなくしてカエルを探している。俺の石もポコンポコンとスライムに当たっては落ちている。ていうか、あれから一発も投げてないだろお前。お兄ちゃんの肩は限界突破ですよ。明日は筋肉痛だ。いやもう何かすげえ痛い。


「そろそろ終わろうかー」


「おおー!おなかすいたぞ!」


 そういや、今何時だ?ちょっとスマホを……


「あめ、やんだな」


 おお?ホントだ。気づかなかった。スライムの内臓もキョロキョロしている。丁度俺の背後から夕陽が差して来た。スライムがオレンジ色にキラキラして綺麗だ。お家に帰る時間だな。ハラペコだろ、川で好きなだけ魚でも食うと良い。俺もそろそろ晩飯が食いたい……て。


「やべえ!」


「どした!ハルキ!」


 最初に町に向かってる最中に確か、狸族のお母さんが言ってたぞ。


 夜になると門が閉まるから町に入れない、とか!


「ペタ!俺にしがみつけ!」


「おお!」


 ピョンと胸にしがみついて来るペタ。俺はそれを左手で支える。定位置だ。


 さあ、次の勝負相手は時間だ。最初からトップスピードで行くぞ!


「ひゃぁぁぁぁぁはやぃぃぃぃぃぃ」


 夕焼けの草原にペタの悲鳴が響いた。




読んでくださってありがとうございます。


台風が通り過ぎた所で、また平和な日々が来る、といいのですがね。


そして誤字はっけん。修正しました。

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