第47話 ギルドだ
新しい服を買ったら、すぐに外に着て行きたい人って多いだろうか。
いや服だと色々ありすぎるな。スーツを買って遊園地には行かないだろう。靴でもいい。買ったばかりの靴をすぐに履くタイプと、タイミングを見計らって、ここぞという時に履いて出るタイプがいると思う。
俺はすぐに履いて出るタイプだ。見せびらかしたいんじゃなくて、自分の新しい姿を自分で確かめたいという願望がある。
そして今、後悔の真っ最中だ。
「ハルキ、すごいみられてるな!にんきものだ!」
ペタがそう言うがこれは違う。怪しい人を見る目だ。でも普通に剣とかぶら下げて歩いてる人も結構いるし、ペタだって弓を背負っている。俺なんかちょっとしたカワイイ果物ナイフを4本持ってるだけだ。なぜこんなに見られる。
俺は試作品の投げナイフホルダーを着けて通りを歩いている。まだ正式な製品は出来上がっていないが、練習はしておきたい。ライオン姉さんからGOが出るまでに慣らしておきたい。そういう場所がないかアニさんに聞いてみたら、とある場所を紹介してもらった。今、そこに向かっている。
その場所が近づく程に、剣や槍、弓を持って歩いている人が増えて来た。だがその人達も俺を怪しい人を見る目でチラチラ見て来る。
「新しい物ってのは中々受け入れられないよな」
「ハルキ、ひとりごとは、はやくしぬぞ」
そんなん知らないけど、なぜ製作者のアニさんが投げナイフ部分を脱着可能にしたかは分かった。
だが俺はもう、このスタイルを貫く。そもそも危険はいつ襲ってくるか分からない。その時いちいちバックパックを漁っている方が早く死ぬ。だから俺はこのまま行く。外すのは体を拭く時とくつろぐ時と寝る時と、あと恥ずかしい時だけだ。
そっと、太もものベルトを外してバックパックに入れた。
俺達が着いたその建物にはこう看板が出ている。
ごめん読めない。
だが何の施設かは分かっている。登録制の傭兵派遣組合だ。
一般人から騎士団まで、色んな所から出される依頼に従って、用心棒をやってみたり、モンスターを倒してみたり、犯罪者を追いかけてみたり、そういう荒っぽい事をする仕事が集まる場所だそうだ。戦争が起これば需要はすごいらしいが今はそっち系の仕事はない。
馬のおっちゃんも馬車の組合に入っていたな。他にも色々あるんだろう。そういうのを、組合とかギルドとか言うそうな。この建物の正式名称は「傭兵ギルド」だ。多分、看板にもそう書いてある。
かといって、俺は別に仕事を探しに来た訳じゃない。そもそもそんなつもりだったらペタは連れて来ない。この建物に併設されている訓練場に用がある。
傭兵を名乗る者が弱けりゃ意味がない。そんなのを送り出したギルドにも責任が発生する。だから、自主的に訓練が出来る場所がある。なんとモンスターと戦う事も出来るらしい。そしてその為のモンスターを捕まえる仕事もここにはある。
全てアニさんの受け売りだ。全く想像はつかない。ただ、近くにいる人を見る限り、あまりガラのよくない場所なのは分かる。ペタの手をしっかり握っておこう。
ここからだと、あの競技場のような処刑場が近い。気分が悪いな、とっとと入ろう、と思ったら入り口をくぐった瞬間に声を掛けられた。牛?いや、よく見る牛と比べると角がデカい。バッファローかな。
「おい、小僧。ここはガキの来る所じゃねえ。帰んな」
バッファローの人が言う。角もでかいが背負っている斧もでかい。これがコイツの得物か。そして態度もでかい。だが、まあまあ強そうだな。パワーもありそうだ。虎族の騎士ともいい勝負するんじゃないか?
ちょっと毛有りの人族の表情を読むのは難しいんだが、どういう気持ちで声かけてきたんだろう。口は悪いが、ひょっとして、俺達を心配して言ってくれてるのかもしれない。だとすると今の言葉はこう取れる。
『やあ、少年。ここは子供には危ないところだから、帰った方が良いよ』
優しいじゃないか。笑顔で返事を返す。
「大丈夫ですよ、ちょっと登録して訓練場を使いたいだけなんで」
そう、俺はここをスポーツジム代わりに使いたいだけなんだ。
ペタは町に来てから運動なしの食いすぎだ。流石に太る気がしたので運動させようと思って連れて来た。アニさんにそう言ったら青くなって紹介状を書いてくれた。親公認だ。問題はない。年齢制限も特にないと言っていた。
バッファローの人がポカンとしている。他の人がクスクス笑っている。中にはゲラゲラ笑っている奴もいる。ちょっと対応を間違えたか?
「ああそうだ、登録ってどこ行けばいいんですかね?」
ついでにバッファローの人に聞いてみる。さらにあんぐりと開く口。
「登録ならこっちだよー」
「きつねぞくだ!」
奥から目の細い狐族の兄ちゃんが声を掛けて来た。狐族を見ると、なんかホッとするな。ペタも嬉しそうだ。心配してくれたらしいバッファローのおっちゃんに挨拶しとこう。
「んじゃ、行ってきますんで。どうも」
軽く頭を下げて奥の狐族の兄ちゃんの所に行く。テーブルや椅子が並んでいるが特に飯屋みたいなサービスはなさそうだ。何人かずつ荒事が得意そうな男が集まって座っている。飲み物を飲んでいるのもいるが、持参したんだろうな。外にあった屋台か。持ち込みOKなんだなここは。
壁には求人広告みたいな物が貼られている。でも字が読めないのでスルーしてカウンターに向かう。
カウンターの奥が事務所みたいになっている。派遣屋ってこんな感じか、ほうほう。バイト経験がないから新鮮だ。カウンターの向こうにいた狐族の兄ちゃんが話しかけて来た。目が細いと狐って感じがよく出てる。
「えーっと、登録は君1人だよね?その子は……」
「ペタもとうろくするぞ!おとうちゃんがいいっていった!」
兄ちゃんの細い目が少し開いた。まあ驚くよな。だけど、ペタは意外にやるんだよ。エジャが狩人として認めているぐらいだ。ウチの自慢の6歳児です。もうすぐ7歳になるそうです。
「うーん、一応、年齢制限はないし、登録料が払えれば性別も関係ないんだけど……ちょっと、こんなに、えーっと、若い子は初めてだなあ」
兄ちゃんが少し困っている。そして建物内もザワついている。だがこっちにはコレがある。アニさんから貰った紹介状を出す。
「アニさんの紹介か。へえ」
受け取りながら兄ちゃんが呟く。やっぱりそこそこ有名なのか。同じ狐族だから知ってるのかもな。
そもそも、アニさんもこの傭兵ギルドに登録している。本職は革のお店だが、珍しいモンスターや動物が出たら自分で獲りに行くこともあるそうで、情報源としてここは都合が良いらしい。あの筋肉ダルマ親父は、戦闘力もかなり高い。さっきのバッファローの人よりは全然強いだろう。
「おとうちゃんだ!」
ペタはあんなのでもアニさんの事が大好きなんだな。俺も革加工の親方としては尊敬している、今は。金貨45枚の投げナイフホルダーが楽しみだ。金貨45……
少し落ち込んだ俺に、兄ちゃんが紙を2枚渡して来た。
「紹介状は確認したんで、良いよ。この紙に必要事項を書いてね」
おう、やっぱりそう来たか。どこの世界でも履歴書は必要って事ね。だが残念。俺もペタも読み書きできません。
「ペタは字がよめない!」
「俺もです……」
なんか、ペタはいいとしても俺は恥ずかしいな。勉強しときゃ良かった。喋れるんだから読み書きはすぐ出来ると思うんだけど、サボってます。
更に落ち込んだ俺に、兄ちゃんは優しい。
「ああ、大丈夫だよ。代筆するから。分からないところは良いからね」
そうやって甘やかすと字を覚えないぞ俺は。多分ペタも。そんな事はお構いなしに目の細い兄ちゃんが、質問を始める。
内容は、名前。年齢。性別。種族。出身地。国籍。あと、得意武器だ。
種族は猿族で良いとして、出身地と国籍は答えられなかった。怪しまれないだろうか。得意武器は、仕事の内容に関わって来るんだろうな。素手って答えたけど、まあ仕事をする訳じゃないから良いだろう。
国籍欄があるって事は国があったのか。なんか村とか町とかがポロポロある所だと思ってた。この町もどっかの国に所属してる訳か。興味がない事は聞かないのは俺の悪いクセだ。町の名前も知らないわ。ペタも国籍は「しらん!」と言っていたが、お前はここだろう。知っとけよ。
「ペタは弓がとくいだー!それはもうとても!」
ペタが最後の質問を終えながら、弓の弦をビヨンビヨン鳴らしている。俺もシャドーのひとつも見せた方が良かったかな。
「はは。質問は終わりだよ。じゃあ書類を登録係に回してくるからその辺で待っててね」
兄ちゃんは奥の事務員さんと話をし始めた。時間かかんのかな。外の屋台で飲み物でも買って来るか。
で、このおっちゃんはまだ何か用か?
ってかやっぱり優しさじゃなくて絡んでるつもりだったんだな。こっちは揉め事にならないように気を付けたつもりだったんだけどな。目の前に立ち塞がるバッファローのおっちゃんを見上げる。
「登録が終わったら、ちょっと軽く運動でもしねえか、小僧」
「丁度、訓練場の使い方を聞きたかったんでね、いいよ」
ゲームのチュートリアルみたいなもんだな。登録前だとやっぱり何かすれば犯罪って事か。意外に大人しい所だな。もっと荒い場所だと思ってたわ。
「ペタ、飲み物買いに行こうか。そこの屋台で売ってるから」
「にくはないのか?」
「肉もあると思うけど、動く前に食うと消化に悪いぞ。果物までだな」
文句を言うペタを連れて屋台に行く。相手を舐めているつもりは無い。どれだけ実力差を感じても、油断すれば何があるかなんてわからない。全力でやる。全力で手加減する。難しいぞ。
「はい、じゃあこれで登録完了だよ。ここの使い方の説明はいるかな?」
細い目の兄ちゃんに登録料の銀貨を渡し、代わりに登録証らしい銅のバッジを受け取ると、初心者用の説明会が始まりそうになった。説明か、長くなるな。必要な事があったらアニさんに聞けばいいか。じゃあ、
「訓練場の説明だけ聞きたいですね、あとそこの角のおっちゃんと軽く試合がしたいんですが」
すぐ近くで待ち構えているバッファローの人を指さす。細い目の兄ちゃんの顔が少し険しくなった。
ペタはいそいそと銅のバッジを胸に付けている。嬉しそうだ。子供ってこういうの好きだよな。俺も邪魔にならないとこに付けとこう。破れない服だが、普通に針は通る。でも銀貨が銅のバッジになったか、ちょっと損した気分だ。
「訓練って言ってもね……」
「いいじゃねえか、同意の上だ」
兄ちゃんのセリフに被せるようにバッファローの人、いやもういい牛でいい。牛が言う。こいつちょっと相手を見た目で判断しすぎだな。本当にプロか?
目の細い兄ちゃんは、立ち上がると、
「じゃあ、案内して説明するよ」と言った。顔は険しいままだ。
この施設には大きく分けて3つの訓練場がある。
屋外にある広場、ここは色々出来る様に、的や丸太が立っていたりする。小さい森みたいなのもある。無料だ。人族同士の争いは禁止。個人練習用だ。アスレチックみたいになっている。使い勝手が良さそうだ。
屋内には2つ。1つは対人訓練用。ここは有料、監視員の元、実戦形式の練習が出来る。人数の規定もない。殺さなきゃ許されるらしい。バイオレンスだな。
もう1つの屋内施設は対モンスターだ。地下にある。ここは戦うモンスターによって料金が変わる。もちろん、監視員付き。だが、死んでも責任は取れないそうだ。檻で囲まれている。懐かしい雰囲気だ、気分悪いトコだな。
まあ俺は今後、無料の屋外の訓練場だけを使う予定だが、今日は特別に対人の訓練場を使う。金は払いたくないな。と思ってたら牛が払ってくれた。細い目の兄ちゃんがそのまま監視につくみたいだ。
「ペタ、これ終わったら、外で弓の練習だからな。腕は鈍ってないよな?」
「あたりまえだ!はやくいこう!」
俺達のやり取りを見て、牛がイライラしている。
「じゃあ、殺しちゃ駄目だからね、お互い気を付けて」
と、細い目の兄ちゃんは言うが、結局事故で死んでも罪には問われないとか。まあ、武器も使うし戦闘訓練である以上事故はあるよな。普通は仲間同士で模擬戦をやる場所だ。武器も練習用の物がいくつも置いてあるし。
間合いの外に立った牛の手にはしっかりと自前の斧が握られている。俺も投げナイフホルダーを着けてはいるが使う気はない。あくまで動きの確認用だ。
ギャラリーが妙に多いな。あまり目立ちたくはない。騎士団に目を付けられたくない。その辺調整しながらか。なかなか難易度が高い。
「小僧、そんなちっせえナイフでいいのか?お料理でもする気か」
牛がどうでも良い事を言う。そんなん言ってる間に10発は殴れるぞ。
「ここにもナイフ持ってるけどな。使わねえよ。俺は素手派なんで」
プリンと腰のナイフも見せてやる。大サービスだ。牛の鼻息が強くなった。
「馬鹿にしやがって、このクソガキが!ぶっ殺してやる!」
叫びながらようやくかかって来た。殺すって言っちゃってるけどコレ良いのか?
右手に持った斧を横に振りぬいて来る。バックステップで躱す。2。
一度横に抜けた斧の柄を両手で握り直した。3。踏み込みながら逆から横に振って来た。それを上半身を落として避ける。6。
牛が自分の振った斧に引っ張られて少しバランスを崩す。10。
「ヌオオオ!」叫びながら斧を振り上げる牛の懐に一気に入る。15。そこから滑るように背後に回る。18。
斧を振り上げたまま振り返る牛。21。振り返る勢いで斜めに斧を振り下ろして来る。半身で躱す。斧が土の床に突き刺さる。22。23……おっと角か。成程、こっちの人族は人間とは違う武器もある訳だ。油断しちゃ駄目だな。
下げた頭をそのまま振り回すようにして角を振るう牛。流石に、ちょっと下から拳を合わせて軌道を上に変える。24……もういいだろ。
丸見えになった牛の喉に軽くジャブを入れる。これで25発目だな。まあ実際に手を出したのは角を逸らす時と最後のジャブだけだが。
「ガッ、グホッ!」
牛が膝を付いて喉を押さえる。呼吸できないだろ。まあ生半可な鍛え方では、女性にやられてもそうなる。痴漢に遭いそうになったらやってみると良い。チョップなら入りやすいからお勧めだ。まあ傷害で捕まったら責任は取れないが。
ギャラリーが数名動き出した。
次は多対1か。今度は先制攻撃の動きを確認しよう。
読んでくださってありがとうございます。
とうとうギルドが出ました。でも働きたくないみたいです。あと、自衛以外での暴力はよくないです。




