第46話 これが大人ってややや奴だ
一瞬耳を疑った。
処刑場だと?あの競技場みたいなでかい施設が?
そりゃ、地球にだって死刑はある。だが普通は一般人に見えない所でこっそりとやるもんだ。昔は磔なんかもしてたそうだが、あんな専用の建物まで建てたりはしていなかったはずだ。
この星に来て1番のカルチャーショックを受けた。恐ろしいのは、この兵士との会話が聞こえていたはずのペタや狸族の男の子が、何も反応していない事だ。
「それは…一般人も見られるんですか?」
俺が恐る恐る聞くと、猫の兵士はおかしな物を見る様な目をする。
「当たり前だろ。その為の建物なんだから。賭けだってやってるぞ」
俺は当直だから見に行けないけどなー。と嘆く兵士。
足元が浮くような不安感が沸き上がる。何だここは、俺はどこに居るんだ。
なんで人が処刑されるのを娯楽みたいに言うんだ。いや、娯楽なんだ。テレビもネットも無いこの星で、人の命は娯楽に費やされる。それも犯罪者だ、見ている方も罪悪感が無い。
キレイな街並みが急に色あせて見える。分かっている。住人が悪い訳じゃ無い。そのシステムを作った奴らが悪いわけでもない。どこかでこういう捌け口を作らないと人なんてのはすぐに不満を貯める。モンスターの脅威もある星だ。ストレスも多いだろう。
だが、ここで産まれ育っていない俺にはその感覚が理解できない。ここでは俺だけがおかしいんだ。ライオン姉さんはあの建物で皆に見られながら殺される覚悟を持って、それでも盗賊をやるしかなかったんだ。
「ハルキ、どうした?きもちわるいのか?」
ペタに心配された。俺の顔はそんなに青くなっているか?まあそうだろう。狸族の男の子も心配そうだ。お前、俺の事怖がってる訳じゃなかったのか。
「ん、ああ。ちょっとだけな。そろそろ帰ろうか。遅くなるとテディさんが心配するからな」
アニさんは倉庫だろう。ペタと男の子を促して塔を降りる。螺旋階段を下りながら、ペタが、
「おとうちゃんのいえ、たぶんみつけた!3つあった!」
とか騒いでいる。いや3つは無いだろう。俺を元気づけようとしているのか。情けない。子供に心配されてるよ俺。
狸族の男の子を家まで送った。また泣きそうになる男の子。ペタが肩を叩いて励ます。ペタは仲間意識が強いから、一度軍団に入ったお前は大丈夫だ。またそのうち来るさ。
男の子と母親と、影の薄い旦那さんに見送られて、ペタの手を握りながら帰る。方向は、勿論ペタの父親のアニさんの家だ。そしてその先には処刑場がある。
見世物になり、命を賭け事に使われる。実は俺にもそんな経験がある。だが、俺は死んでいないし、相手も死んでいない。ただ、その時期はどんな場所でも命の危険を感じていたが。
だが、処刑ってのは違う。死ぬ。絶対だ。それを見られる。どんな形かは知らないが賭け事にも使われる。そしてあの建物の規模からして、相当の数の一般人がそれを見る。それも頻繁に行われているんだろう。
あー。駄目だ。すげえ地球が恋しい。今すぐ帰りたい。
「ハルキ!きょうのごはんはなんだろうな!」
「んー肉だといいな」
「ハルキ!しっぽさわってもいいぞ!」
「おーいいのか、太っ腹だな」
ペタの声まで遠くに聞こえる。尻尾のモフモフ効果もなんだか効き目が無い。
「ペタ、俺はここに向いてないのかもしれないわ」
俺の一言で、ペタが立ち止まった。手も離れた。
「どうした?」
振り返ると、ペタの耳と尻尾が逆立っている。
「ハルキ!」
ペタが怒ってる。
「ハルキがいなかったらペタはしんでた!ハルキがいなかったら村もしんでた!エジャもじっちゃんもしんでた!」
プルプル震えながら叫ぶペタ。おい、ここは人目が多いぞ、みんな見てるぞ。
「ハルキがいなかったら、うまのおっちゃんも、ピックも、ピックのおかあちゃんも!ライオンねえさんもしんでた!」
ライオン姉さんはどうだろうな。あの人はなかなかしぶといぞ。ピックってのは狸の子だったな、覚えてなかったな。
「ハルキは、ハルキは、ここにいなきゃだめだ!いなきゃいやだ!」
目に涙を浮かべて叫ぶペタ。涙は嫌だ。やめろ。
思わずペタの頭を抱き寄せる。震えが伝わって来る。見えないけど泣いている。とうとう泣かせてしまった。
「悪い、ごめんペタ。ここに居るから」
ペタは黙ってプルプル震えている。
「俺はどこにも行かないから。な?」
「いやだ!」
ん?
「おとうちゃんのいえにいって、ごはんたべる!」
コノヤロウ。
「じゃあ帰るぞ。肉だ、きっと!」
ペタを無理矢理、肩車する。ちょっと顔は見れない。
「おー!にくにむかって、とつげきだ!」
ペタが俺の頭をバシバシ叩く。いつもよりちょっと強い気がする。
ってか、いつの間にか周りに人がいっぱい居るじゃねえか。うわ恥ずかしい。なんだか皆が、いい笑顔でこっちを見てる。屋台で肉串を売ってるおっちゃんが声を掛けて来た。
「兄ちゃん、子供を泣かせちゃ駄目だぜ。ほれ、これでも食えお嬢ちゃん」
「ありがとうおっちゃん!」
ペタが肉串を受け取る。それを皮切りになんか、あちこちから食い物をもらってしまった。おいおい、なんだこの見世物扱いは。
ペタが持ちきれない果物や肉は俺の手に握られている。ペタの尻尾は上機嫌に揺れている。顔は見えないが、ハムスターの様に頬がぷっくりしているだろう。
あんまり食うとテディさんの飯が入らなくなるぞ。それともハムスターみたいに頬袋に詰めて、持って帰ってゆっくり食う習性でもあるのか?
食べ物をくれた人達にお礼を言って、その場を立ち去る。ここに居たらいつまでも見世物だ、めっちゃ恥ずかしい。
さささっと逃げ込むように路地に入る。早く帰ろう。このハムスターが俺の持ってる肉に手を伸ばす前に帰らないとおデブまっしぐらだ。ジャンガリアンがゴールデンになる。
「なんだか、感動的なシーンだったじゃないか。役者でもやっていけるんじゃないかい?」
ひー。見られたくない人に、見られたくない場面を見られた。こういう場合どうする?俺はこうする。
「すみません人違いです」
路地に居たライオン姉さんの横を速足ですり抜けたが、すぐ横に並んで付いて来る。まあそりゃそうだな。この人からは逃げられんわ。
ライオン姉さんは俺の手から肉串を1本とリンゴをひとつずつ奪うと、かじりながら話し始めた。
「昨日は、なんか悪かったね。情けない所を見せちまった」
「いや、お互いさまなんで。出来れば今のも見なかった事にしてくれ」
ライオン姉さんが笑う。ペタが俺の上で「かえせー」と騒いでいる。だがどんどん食ってくれ。ペタがおデブになる前に。
「こんなとこで話すのも何なんだけどね、返事を聞かせてもらえないかい?」
喋りながら肉串を一口で食ったライオン姉さん。さすが肉食獣。まあ返事は決めている。
「協力するわ。でもあんたが余計な事しないように見張るからな」
「ふふっ。それでもいいさ。じゃあ契約成立だ」
俺の手からもう一つリンゴを奪って、代わりに小さい袋を乗せて来た。この感触…ま、まさか。
「これは、約束してないと思うけど?」
これを受け取ると、最初の取引が成立してしまう。殺人の共犯者だ。だけど、ライオン姉さんはリンゴをシャリシャリかじりながら、
「ああ、それはこのリンゴと肉の代金だ。アンタはアンタの好きにすればいいさ」
なんだよそのカッコイイセリフは。でもくれるなら有り難く頂きます。しっかりと袋を握る。うわ、早く中が見たい。
だけど、どうやってあの砦に入るんだ?さっき見張り塔の上から見たけどかなり厳重な警戒だったぞ。よくある下水道からの侵入とかも嫌だぞ。臭そうだし。それに常識的に考えて、そんな抜け道、通れるようになってるはずが無い。マンガじゃないんだから。
「どうやってあそこに入るんだ?」
路地とはいえ町中だ。一応ボカして尋ねてみる。だが、ライオン姉さんの答えは、ちょっと予想外だった。
「入ったりしないさ。向こうから出て来てもらう」
え?そんな事できるの?
「というか、勝手に出てくるのさ。もちろん普通は近づけないけどね」
ライオン姉さんの目が鋭くなった。続けて言う。
「アンタに頼みたいのは、確実に居る障害を取り除くお仕事さ。もちろん、アンタのやり方で良い。計画もルートもこっちで用意する」
そりゃ助かる。元々そのつもりだったけど、あんまり考えたりしたくない。俺のやり方で良いって事は、無力化で十分って事だな。
「んじゃ、いつやるんだ?」
「それは…」
ライオン姉さんが俺の上に居るペタをちらっと見上げる。ああ、聞かせたくないよな。コイツ付いて来ちゃうもんな。
「また、連絡するさ。すぐじゃない。でもそんなに先でもない。まあそれまでは観光してな」
路地が終わって、通りに出る前にライオン姉さんは立ち止まった。そして余計な事を言う。
「まあどうしてもアタシが欲しかったら、あの辺の誰かに聞いてみな。金を渡せば案内してくれるヤツもいるさ」
鼻血でそうだからやめろ、そういう事言うの。ニヤッと笑うな。この人はこれが怖い。もう絶対遊ばれてる。そして俺の上で暴れ出したペタも怖い。
「ハルキはやらん!」
お父さんうるさい。最後の肉串を顔の前に持って行くと大人しくなった。
そのまま、通りに出る。ライオン姉さんは別の路地裏に消えた。
「うおおおおおおお!きんぴかだ!なんだこれは!」
「お、おちつけペタ、こ、これが大人ってややや奴だ」
アニさんの家に戻った俺は、ペタを引き連れて泊まってる部屋に入った。そしてライオン姉さんのくれた袋を開いた。
まー、もう凄いわ。ゴールドラッシュだわ。ペタもびっくり、俺も覚悟はあったがびっくりだ。なぜペタまで居るかというと、一人で見るのが怖かったからだ。
目の前には金貨の山。合計50枚キッチリ。借金分も引かれていない。もうこの数になるとコインじゃない。金塊だ。ロマンの塊だ。もう何にも負ける気がしない。こんな星嫌だと思った気持ちもどこかに行った。札束で500枚より遥かに凄いぞ、試せるもんなら試すと解る。ガンバレ、一般の高校生。俺は金持ち高校生だ。高校生が欲しい物は大体手に入るぞ。こっちだと何だ?そうだ、胡椒を買おう。あの小さい入れ物で銀貨1枚するやつだ。あれを樽で買ってやる。めっちゃ贅沢だ。あ、でもウチの狭い部屋に樽は邪魔だな。じゃあ小さいままで100個買おう。それでもまだ金貨は40枚残る。他に欲しい物が出てくるまでは貯金だ。ただし、狐族の村までは馬車をチャーターして帰るぞ。
ペタと2人で金貨をガジガジ噛んでみる。これで何が分かるのか知らんけど、お約束だろう。味は金属の味だ。でも金属は金属でも金だぞ。
「おう、ハルキ君、ちょっと倉庫に来てくれ。試作品を作ったぞ」
筋肉ダルマ兼ペタの父親、アニさんの声が聞こえた。あわてて金貨を隠す。見られてないよな。よし。
しっかりと金貨を袋に入れ直して、バックパックの一番奥に入れる。アニさんの家の中なのに、なんか不安になる。宝くじが当たった人が外を歩くときってこんな感じなんだろうか。
倉庫に行くと、アニさんが何かの革で出来たベルトを差し出して来た。おお、これは凄いかもしれない。バックパックを倉庫の隅にこそっと置いて。早速着けてみる。
腰の後ろの部分には、普通のナイフを留める為のホルダーが付いている。今までの様に吊り下げるタイプじゃ無く、横にして固定できる感じだ。そして太もも部分は2本のベルトに投げナイフを入れておくホルダーが2カ所ずつ。左右に一対。指で弾くと、革のバンドが外れてナイフが抜ける様になる。これなら逆立ちしたってナイフは落ちない。
想像していたホルスターより出来が良い。俺の動きの癖に合わせて作ってくれたんだろう。わずかに傾斜まで付いて投げナイフが抜きやすい。その太もも部分と腰のベルトも更に脱着可能なベルトで固定されている。これなら動き回ってもずれない。
「少し動いてみろ」
そう言われて、軽くシャドーからのナイフ投げなんかを試してみる。完璧だ。すげえフィット感。全く動きの邪魔にならないし、ナイフも付けているのに付けていないみたいなエアリー感。どっかの下着のCMみたいな言葉が出て来るぞ。ナイフを投げる時もスムーズだ。アニさん天才じゃねえのか。
「スゴいっす。完璧です」
思わず目がキラキラしてしまう。俺は尊敬に値する人にはちゃんと敬意を払う。
「おとうちゃんはすごいんだ!」
なぜか一緒に付いて来たペタが偉そうにする。こいつはいつも人の手柄を横取りしようとするな。だが、お前のお父ちゃんはホントにすごい。
今日は、嫌な事もあったけど、コレと金貨50枚でチャラだ。いやもう全然上回った。…て、まてよ?コレ、当然お金払わなきゃいけないよな。
「あの、コレ、すっげえ良いんですけど、えーといくらぐらい払えば?」
ドキドキしながら聞いてみる。アニさんは腕組みしながら、
「おう。それは試しに作っただけだからな、金はいらねえよ」
って、もう最高。愛してる。いや、こんな無精髭筋肉親父は愛せないから、大尊敬ぐらいにしとく。先生と呼ぼう。先生がまだ何かおっしゃるぞ。
「ただよ、試作は間に合わせで作ったからな。その革だとハルキ君の動きじゃすぐダメになる。もっと良い革で作りたいんだけどな」
おんや、雲行きが怪しいぞ。先生、それはちなみに…
「どれぐらいお支払いしたらよろしいでしょうか?」
「何だ、急に腰が低くなったな。まあ、そうだな、ウチで手に入る革で一番向いてるのはワイバーンだな」
なんか高そうだな。何だそのワイなんとかって。
「値段か…作った事ねえヤツだしな、ハルキ君はペタちゃんの恩人だから作業料はナシとして…素材代金もちょっと割り引いて、金貨45枚だな」
割引価格でそれか!もう値切る余地なしか!
「はらえるな!ハルキかねもちだからな!」
うおお、ペタ余計な事言うんじゃねえ!
「おお、もう金があるのか!よし、俺の職人としての最高の技を見せてやろうじゃないか、ハルキ君!」
筋肉ダルマ先生の目がギラリと光る。もう止められない。
こうして、俺の所持金は金貨5枚と銀貨20枚弱になった。成金高校生は一瞬の夢だった。
でも良いんだ。昨日よりはお金持ちだから。
読んでくださってありがとうございます。
お金持ちになんかさせるものか。




