第44話 無職の癖に観光
さて、数日の余裕が出来てしまった。
今日は町をブラブラしてみようと思う。もちろんペタも付いて来る。まあ、俺の正体はバレていないし目立った動きさえしなければ大丈夫だ。俺はニャの女性がどれぐらいいるかのリサーチも兼ねている。うん変態っぽいな。ちょっと昨日、興奮しすぎたせいだ。我ながらこの考えは気持ち悪い。自重しよう。
昨日、店に戻ったら、心配しているかもなーと思っていたペタの親父さん、アニさんは俺達が出て行った事にも気付いていなかった。それはイカンわ。そりゃ、俺が投げナイフのホルダーについて相談したせいだってのは分かってる。だけどなあ娘が危ないかもしれないんだぞ。駄目だろう。連れ出した俺が言うのも何だが。
お母さんは逃げて正解だったかもしれない。ペタも村で育ったおかげでこんなにノビノビとした野生児になった。ん、正解か?
代わりに、テディさんが心配してくれていた。ちょっと遅くなったからなあ。あんなに可愛らしいテディベアそっくりの人に心配をかけるとは動物好きの風上にも置けない。反省だ。
そのテディさんが晩御飯を用意してくれたので、みんなで頂いた。みんなと言ってもアニさんはまだ倉庫にいたみたいなので、テディさんがニッコリ笑って「連れて来ますね」と言って部屋から出て行った。腕をグルグル回していた。きっとバイオレンスな事が繰り広げられたのだろう。
昼を、ちょっと食いすぎたせいもあって俺もペタもいつもより食えなかったが、やっぱりテディさんの飯も美味しい。昼間の豪勢なのもいいが、あれはたまに食うから良いんだな。インスタントラーメンと同じだ。
そう、インスタントラーメンだが、3日に1回というのは数えるのが面倒なのでペタが食いたがったら出してやる事にした。コイツはその辺、変に真面目だから3日以内に言い出す事はないだろう。逆に計算を間違えて遅く言う可能性はある。
そして心配していた通り、昼間にタップリ寝て、寝られなくなった夜更かしペタが、俺の泊まらせてもらっている客用の部屋に突撃して来た。
「でな!そしたら、ミリとウアジとゾゾがな!すっごいいきおいでな!」
うん。お前の話に出てくる人が誰だか全く分からない。村の子供だってのは分かるが。狐族の村に戻ったら子供に名札を配ろう。小学生だってやってるじゃないか。あれはきっと先生が覚えられないからだ。と勝手に思う。なんなら大人にも付けてもらおう。俺の為に。俺がこっちの文字を覚えたらだが。
その後、乱入してきた筋肉親父のおかげでペタは連れ出された。なんとか寝不足にならずに済んだ。
「じゃ、今日は観光ですんで、まーったく危険な事はないので。行ってきます」
これは本当だ。昨日のライオン姉さんとの話は、途中であの酔っ払いがダウンしたせいで中途半端になったが、まだ数日かかるとか言ってたのは確かだ。
俺はもうライオン姉さんと一緒に行動する事を決めている。俺だけじゃちょっとターゲットまで辿り付く方法が考えつかないし、何より、ライオン姉さんに復讐なんかさせない為だ。俺が止める。
という事で頭脳担当はライオン姉さんに任せて、俺は肉体労働だ。適材適所だ。何かする時は連絡してくるだろう。
「晩御飯までには帰ってきてくださいね」
テディさんが言う。お母さんみたいだ。この人なら、あの駄目親父を立派に監督出来る。もうペタのお母さんとはキッチリ別れて、テディさんと再婚すればいい。ペタは預けられないが。
ただ、毛有りの熊族と、毛無しの狐族が結婚出来るのかとか、子供が出来るのかとかはよく分からない。こっちの星は、とにかく人族の種類が多すぎる。元々、別の星で進化してきた生物だから、そういう機能が全く違う可能性もある。だとすると俺とペタも10年後だろうが無理だって事だ。確かめる気はないけど。
「いってきます!」
俺の手を握ったペタが笑顔で空いている方の手を振った。テディさんに。筋肉親父は朝っぱらからまた倉庫に籠ったからいない。俺、相談しただけなんだけど。本気で作られたらお金払えるんだろうか。金貨50枚あれば余裕だったと思うけど。まあ最悪ペタを使って値切らせよう。あの親馬鹿はコロっといくだろう。
「ペタがあんないするぞ!あんしんしていいぞ!」
歩きながらペタが腕をブンブン振りながら言うが、当然俺は安心していない。こいつのナビは森の中では高性能だが、町となるとポンコツだ。
「おう、じゃあ東町ってとこに行こうか。案内頼むぞ」
今日、行きたい所は一応ある。町まで一緒に来た狸族の親子がいるはずの服屋だ。ペタのパジャマがわりのズボンを買い直したいのと、ゴブリンのせいで頭を打ってしまった母親が気になるからだ。
あとは、どこかで投げナイフを調達したい。安物の果物ナイフでいいからそんなに高くはつかないだろう。元々持っていた最後の1本はもう果物も剥けない程ボロボロだ。ハンバーグぐらいしか切れないかもしれない。
太陽の向きから考えて、東はスラムのあった方だ。だけどあんなに奥まで行かなくていいだろう。ちなみに中央の大通りが南北に伸びていて、それを基準に東、西だとすればアニさんの店は西になる。
まずは大通りに行って、お店を覗いてみてから誰かに道を聞いて狸族の母親のお見舞い兼、買い物だ。昼はどっかで適当に食おう。
「たぶんこっちだ!」
早速ペタナビが誤作動を起こした。そっちに行くと完全に逆だ。
「おーそうか。でもちょっとこっちも見てみたいなあ」
「もうハルキったらしかたないな!」
こうやってちょっとずつ方向を誘導する。
「あんまりフラフラしちゃだめだぞ。女の人にもフラフラするからなー」
ぐっ。痛い所を突かれた。多分ライオン姉さんの事を言っているんだろう。もしかしたらテディさんを見る目もちょっとギラギラしてたかもしれない。自覚はある。だが、まさかペタみたいな子供にまで分かる程とは。
ただ、言い訳をさせてもらえば、テディさんに関しては決して女性だからどうこうじゃない。あの見た目なら男だろうが老人だろうが俺のハートは揺さぶられる。揺さぶられない動物好きがいたら見てみたい。だってテディさんはテディベアまんまだぞ。地球だったら世界中で大人気だ。動物好きじゃなくても、ほとんどの女の子はあの魅力には勝てない。俺は男だが。しかも熊族はみんなあんな感じらしい。動くテディベアがいっぱいいる星。すごい事だ。今の所、テディさん以外は見ていないが探してみよう。今日の目的が増えた。忙しくなるぞ。ちょっと待てよ、どっかに熊族の村とかあるかもしれないな。狐族や狸族の村みたいに。あ、だめだ。想像しただけで涎が垂れそうだ。
「ハルキ、そっちにいったら、おとうちゃんのいえにかえるぞ」
まさかのペタナビに軌道修正された。屈辱だ。
「ハルキは目をはなすとすぐこれだ」
大袈裟に首を振るペタにちょっとイラっとくるが、嬉しそうに振り回されている尻尾を見ると、心から悪い気持ちがすぐ抜ける。くそう、この天然癒し系め。猫族より太くてモフっとした尻尾は最高だなコノヤロウ。
中央の大通りに近付くとだんだんと人が増えて来た。みんな仕事とか毎日の買い物とかで忙しいんだろうな。こっちは無職です。無職の癖に観光してます。あー。学生なら堂々と歩けたのに、高校生になってみたかった。
この町はどこを歩いていてもでっかい砦が見える。アレには近づかないようにだけ注意だ。流石に無策で騎士団の本拠地に近付くのは危険だ。
それにしても騎士がいないな。町中をウロウロするような仕事じゃないにしても、もうちょっと見ても良さそうなもんだが。代わりに猫系やトカゲの兵士みたいなのはたまに見かける。この辺はああいう兵士が見張ってるのか。騎士は、じゃあ何をしてるんだ?訓練か?まあ訓練は必要だよな。
ペタナビを誘導しながらフーラフラと歩いていると、結構長い階段があった。こういうのを見ると登りたくなる。常に運動を意識しているからだ。ついでに高い所から町を見てみたい。不自然にならないようにペタを誘導して登ってやろう。
ところが、階段の下に立っていた兵士に止められた。
「ここから先は上流階級の方々のお住まいだ。勝手に立ち入ってはならん」
おう、ちょっと焦ったじゃないか。そうか、この階段の上から砦寄りの方は貴族様の屋敷とかのエリアになってるのか。でも登るのもダメか。封建主義だな。階級社会だ。奴隷とかいないだろうな。
「すみません。田舎から来てまだ間がないので知りませんでした」
「だれがいなかものかー!」
俺が言い訳をすると、ペタがピョンピョン跳ねながら怒る。そんなペタを見せながら「ね?」と言うと。
「確かにそのようだ」ほら納得してくれた。
この兵士も悪い人じゃなさそうだ。ついでに聞いてみよう。
「そういえば、騎士様を見かけないんですが、どこにいらっしゃるんですか?」
言いながら門で見張っていた顔の腫れた中隊長虎を思い出す。あいつはまだあそこで俺を探してるんだろうな。
「詳しい事は我々も聞かされてはいないのだ。本来ならばこの辺りから上の警備は第2騎士団の方々の任務なのだがなあ」
兵士はそう言ってため息を吐く。仕事を増やされて疲れてるんだろうな。
「そうでしたか。すみませんお忙しい所を」
頭を下げてその場を離れる。振り返ってちらっと見たが、確かに高台の上にはお屋敷っぽいのが見える。だが上流階級の住む場所にしては警備の兵士が少ない。普段は、もっと下々の方を警備している人達なんだろう。それが第2騎士団とやらがいないせいで上も見なきゃいけなくなっている、と。ちゃんと休憩はとらなきゃダメだぞ。ブラック騎士団だな。
そういや馬のおっちゃんも、第2騎士団がいないとか言っていた気がする。この辺が砦へ侵入するカギになってくるのか?まあそれはライオン姉さん次第だ。俺は知らん。
「いなかものっていわれた」
ペタがプンスカ怒っている。でもな、実はそれ俺が言ったんだよ。なんか記憶がすり替わってるみたいだからそのままにしとくけど。
「よし、大通りに出たら何か食べ物を買ってやろう。屋台みたいなのもあったろ」
「手をうとう」
ペタの機嫌が治った。基本的に食い物でカタがつくのはお約束だな。問題はこの無駄に距離を稼いでいるペタナビで昼までに大通りに出れるかだ。ちょっと立ち食いのつもりが普通に昼飯になるかもしれない。まあいいけど。
で、やっぱり昼になった。
まあ俺は朝イチで運動してるからいいが、ペタは最近食ってばっかりだからな。軽いウォーキングだ。丸いのも可愛いらしいとは思うが、野生児ペタが木に登れなくなったり森でコケたりするようになったら、じいさんやエジャに何を言われるか分からない。それになんか不気味な殺気を放つお母さんも怖い。さっきの階段10回ぐらい往復させたかった。
「ペタ、何が食いたい?」
大通りにずらっと並ぶ出店や、食堂みたいな店を見ながら一応聞いてみる。
「にく!」
「だろうな」
さて、肉と言われても正直どの店が何を食わせてくれるのかサッパリだ。甘いのか辛いのか、焼くのか煮込むのか、何も分からない。だって看板が読めない。
そして収入のアテがない以上、高い物は出来るだけ避けたい。となると、
「よしペタ、いっぱい出店があるだろ。好きなところで好きなのを買って、さっき通った広場で食べよう」
これなら目の前で売り物が見えるし値段も書いてある。流石に数字は覚えた。しかも値切りまで出来る。家計に優しいぞ屋台。
大通り沿いにはちょくちょく公園のような広場がある。ベンチもあった。あの砦さえ見えなければ住みやすそうな町じゃないか。砦いらね。
「おおお!すきなのをすきなだけか!」
好きなだけ、とまでは言っていない。まあ見た感じ異常に高い店はない。ペタの食欲を満たすぐらいなら大丈夫だろう。
と思っていたが。まさか大銅貨5枚も使う事になるとは思っていなかった。エジャ貯金に手を着ける日も近い。この小動物の胃袋は異次元だ。なぜこの体で俺より食うんだ。大食い選手権みたいなので稼げないだろうか。子供じゃなかったら絶対面倒見きれない。早く計画を進めてくれライオン姉さん。破産する。
幸せそうに肉の串焼きをほおばるペタ。座っているベンチには食い終わった串や皿が積まれていく。俺もなんだか負けたくなくて結構買ったから、金がかかったというのもある。それは認める。
一緒に買った、トロピカルな味のジュースを飲みながら、町を眺める。砦は一旦、視線から外す。
この町はキレイだ。この公園には小さい池もあるし、花や木も植えてある。うろうろして見て来たが、ゴミもあまり落ちていない。ちゃんと捨てる場所がある。地球にもポイ捨てすると捕まる国とかあったな。もしかしたらそういう法律があるのかもしれない。
それでも町が清潔ってのは大事だ。住んでる人の気持ちが変わる。みんな生き生きとしている。
とはいえあのスラムを見た後じゃ、それも上辺だけだろうなってのも分かる。この町は、持つ者と持たざる者の差が激しい。まだまだ俺には見えない部分もあるんだろう。そういう所で育ったライオン姉さんが、あれだけしっかりしてるのはある意味奇跡だ。よっぽど兄貴や仲間に恵まれたんだろう。まあ犯罪者ではあるが。
そして奇跡がもうひとつ。なんとこの町には公衆トイレがあった。あのスラムの謎の家にもあったが、割とちゃんとしたトイレだ。勿論、レバーやセンサーで水は流れないが、直接下水道に繋がっているのか中に水が流れていた。奇跡だ。
アニさんの家はツボだったが、どこかにちゃんと捨てる所があるんだろう。つまりこの町にはちゃんと地下に下水道がある。だからその辺に困ったモノが落ちたりとかもしていない。狸族の村にはちょくちょくあった。池に繋がっている水路もあるがあれも綺麗な水だろう。清潔最高。
なんか俺、この星に来てからトイレの事ばっかり考えてるな。
読んでくださってありがとうございます。
どこに行ってもまずトイレの有無の確認。これ重要。




