第41話 誰が馬鹿真面目か
俺と、ペタの親父さんのアニさんは、朝から店の裏手にある倉庫にいた。
ペタはテディベアそっくりの熊族の女性、テディさんと一緒に店の開店準備をしている。本人曰く、
「はなよめしゅぎょうだ」という事らしい。誰の嫁だろうな。
ここは、そこまで広い倉庫ではないが、多少動き回る事は出来る。壁や棚には丸められた毛皮や、加工中の革製品が並んでいる。
「ほうほう。こりゃスゴイ。そんな技は見た事ないぞ。流石は魔法使い族だな」
俺は、ライオン姉さんが来るのを待つ間、アニさんに投げナイフのホルダーについて相談していた。的代わりに壁に貼り付けた毛皮の切れ端相手に、何度も投げて見せる。体勢や距離も変えながら色々だ。手加減はしている。今の俺が全力で投げたら、こんな果物ナイフでも木の壁ぐらい突き破るかもしれない。
ゴブリンの襲撃の後に回収出来たのは、使わなかった1本だけだったから、的に当てる度に取りに行くのが面倒くさい。だがアニさんは感心したようだ。
「こんな感じで使うんで、太ももの外側に2本ずつぐらいセットできるようなベルトが欲しいんですよ」
「作ったことはないが、中々面白そうな仕事だな。体術も使うんなら、今持ってる普通のナイフも邪魔にならないように固定した方が良いな」
変なオッサンだが、やはり本職。頭の中でどんどんデザインが出来上がっているっぽい。昨夜の怒ったり泣いたりの情緒不安定な人と同一人物とは思えない。
「どれぐらいの体術を使うんだ?少しやって見せろ」
軽くシャドーを見せる。これも全力だと建物がヤバイ。蹴りも混ぜていく。当ててもいないのに棚がガタガタ動く。いや倉庫が揺れてるな。はーホントに我ながら気持ち悪い。
「まあ、こういうのを今の倍ぐらいのスピードでやります」
そう言いながらアニさんを見ると、目が点になっている。まあそうだろう。本人が気持ち悪いんだ。他人が見たらそりゃ驚くだろう。
「いやお前、倍になるのか今のが?正直、今のもほとんど見えなかったぞ」
「魔法使い族なんで」
「おお、そうか。それならまあ、おう」
魔法使い族、こういう時便利だ。本物の魔法使い族は知らないが便利に名乗らせてもらう。騎士団をどうにかしたら外でも堂々と……いや、やっぱり大人しく生きよう。というか地球帰るし。
「しかし、それだけ動くとなると相当、柔軟性と耐久性のある革が必要だな。デザインも、ナイフを固定しつつも抜きやすく……となると」
プロの目になったアニさんがブツブツ言い始めた時、熊族のテディさんが倉庫にぴょこっと顔を出した。動きがイチイチ可愛い。
「ハルキさん、なんだか綺麗な女の人が訪ねて来ましたよ」
ライオン姉さん、来たな。さあ、気合を入れて行かないと手玉にとられるぞ。
「アニさん、ほんじゃ俺、ちょっと行ってくるんで」
「ああ、親方がそうなっちゃうと、しばらく反応しませんよ。いいから行っちゃいましょう」
テディさんの言う通り、アニさんはずっとブツブツ言っている。そういう事なら放っとこう。俺もたまにああなってるみたいだしな。似た者同士か。うん。嫌だな。気を付けよう。
「ハルキさん、あの女性はどなたですか?」
「ああ、情報の提供者ですよ」
「へえ。それなら良いんですけど。ペタちゃんを泣かせないでくださいね」
うあ、テディさんもそっち側か。なぜみんなペタと俺をどうにかしようとする。どうにもならんだろ、年齢差!ね、ん、れ、い、さ!
店舗部分に入るとヤツが来ていた。超極悪盗賊、兼闇金融のライオン姉さんだ。今日は鎧を着けてないな。ライオン姉さんは店の中をキョロキョロと見廻していたが、俺を見つけると、
「や、おはようボウヤ」
と、良い笑顔で手を挙げてきた。アンタかボウヤとしか呼ばないなこの人。俺も意地でもライオン姉さんを貫いてやる。
「初めて来たけど、いい店じゃないか。質も良いし、何より腕が良い。こりゃアタシもここで装備を揃えたいところだね」
本気で言ってんのかな。どうもこの人の言葉は信じられない。ただテディさんはコロっと行ったようだ。
「あら。その時はぜひご贔屓に。良ければお茶でもいかがですか?」
ああ、テディさんそんなにニコニコしちゃ駄目だ。この女は悪い奴だ。
「ありがたいね。でもちょっと今日は時間がないんだ。また来るからさ。じゃあ行こうかボウヤ」
「どこに行くんだ?ここの人は俺の事情を知ってるぞ。ここじゃダメなのか」
「そこはほら、アタシの方の事情ってヤツさ。大丈夫、この町で一番安全な所だからね」
うわあ。うさんくせえ行きたくねえ。でも行かなきゃ金貨5枚が借金のままだ。仕方ない。話を聞くだけ話を聞くだけ。利用されてると見せて利用してやる。
「じゃあ、お姉さん、ボウヤとペタを借りて行くんでよろしくね」
ライオン姉さんが、テディさんに声をかける。ちょっと待て。ペタは連れて行かないぞ、と思ったら既にペタが見当たらない。そういえばさっきから、いなかった。
「お前、ペタを」
「ハルキーいくぞー」
店の外に停まっている馬車からペタが顔を出して手を振っている。幌馬車じゃなくて、貴族が乗っていたような箱型だ。アレよりはシンプルだが。
「あら、仲が良さそうだったから良いのかと思って、駄目でした?」
テディさんが声を掛けて来る。うん駄目なんだ。みんな騙されてる。
「ボウヤ、安全な所って言ったろ。それに……」
またライオン姉さんが囁いて来る、ええい近づくな悪者。
「アンタみたいな危険人物連れて行くんだ。こっちにも保険がいるんだよ、形だけでもね。ペタの安全は保障するからさ」
人を犯罪者みたいに言いやがって。でもまあ今はそうだけど。
「金貨5枚」
最後に止めの一言を放ちやがった。
「テディさん、ペタも連れて行きますけど、今日は危険な事はないんで」
俺の言葉に、テディさんは少し心配そうな顔をしていたが、
「分かりました。親方に聞かれたらそう言っておきますね。まあ今日は倉庫から出て来ないと思いますけど」
そう言って微笑んだ。ああ、アレでペタのお母さんは愛想尽かして出て行っちゃった訳か。なるほど。それ、本番の時はちゃんとペタを見ててくれるんだろうか?あ、でもテディさんがいるから大丈夫か?
「はーやーくー」
ペタが馬車のボディをボンボン叩いている。それご近所さんに迷惑だぞ。あと、馬車壊すなよ。借金が増える前に俺も馬車に乗り込んだ。
「そとがみえない」
「悪いね、ちょっと道は秘密なのさ。まあ帰りも送るからそこは安心しといてくれて良いよ」
ペタが木の蓋をされている窓に顔をこすり付けて嘆いている。こうやって場所を秘密にしたいって事は、まあ帰す気はあるんだろう。今の所は。馬車もさっきからわざと遠回りしている。曲がる方向と馬の蹄の音で分かる。今日は騙されないぞ。気合を入れ直す。
しばらく馬車に揺られる。外が見えないからペタも酔わない。それはいいんだがなぜか床に転がっている。町に入った時みたいだ。
「ひまだー」
「もうすぐ着くから。ほれオヤツ食べるかい?」
ライオン姉さんの差し出した丸い飴が床に転がるペタの口の中にポトリと落ちる。餌付けされた鯉みたいだな。悪い人だって教えたのに、元通りに懐いている。こいつ単純すぎるだろ。
「ライオン姉さん。今日は隠し事なしで頼むぞ」
「その為の場所に行くのさ。そっちもよろしくね」
俺は隠すよ。他の星から来ましたっつっても信じないだろうが。他の世界から来たとは思ってるみたいだけどな。どう違うんだそれ。
「あと、借金の件もなにとぞよろしくお願いします」
俺の心配事は実はこっちだ。ライオン姉さんが吹き出した。
「あはは。アンタだったら金貨5枚どころか、いくらでも稼げるだろうに、馬鹿なのかい?真面目なのかい?」
誰が馬鹿真面目か。稼ぎ方がわかんねえんですよ。コンビニバイトとかあるのか。あっても接客は苦手だぞ。偉そうな奴に頭下げるのも嫌だ。
「ハルキ、しゃっきんのある、ふうふせいかつはうまくいかないぞ」
「うるせえ。誰と誰が夫婦だ。ライオン姉さん、さっきの飴まだある?」
ライオン姉さんがくれた飴を5個、ペタの口に突っ込む。
「くるひい。でもあまひ」
「今日は大人しくしとけよ。あと、俺から離れるなよ。勝手に馬車に乗るとか禁止だからな」
「たべものくれる人、いい人、あまひ」
「そうやって誘拐する奴が世の中にはいっぱいいるんだよ」
俺とペタがワチャワチャやっているのを見ていたライオン姉さんが、
「いいね。家族みたいだ。羨ましいよ」
目を少し細めてそんなことを言う。なんか寂しそうだな。この人も盗賊なんかにならなきゃ仕方ない理由でもあったんだろうか。少しだけ気になった。
馬車が止まった。ライオン姉さんに促されて外に出る。ペタの手はしっかり握っている。どこかの路地裏だな。高級レストランのVIPルームにでも連れて行かれるのかと思ってたんだが、違う感じだ。
「ここからは歩きだ。はぐれると迷うよ。ちゃんと付いて来な」
更に細い路地に入って行く。いきなり襲撃されたりしないだろうな。そっちの警戒もしておこう。スナイパーでも仕込まれてたら流石にヤバイ。
弓だと撃った瞬間の音で分かる。町中じゃ距離もそんなに取れないだろうし、撃たれる前に気付けるかもしれない。だが、超遠距離からここまで届くような武器がないとも限らない。銃はないだろうが、俺の知らない武器だってあってもおかしくない。違う星なんだから。未知の武器は対処のしようがない。
それに、音がほとんどしない武器ってのもある。暗殺系だな。吹き矢とか、仕込みナイフとかだ。そういうのを使って来そうな雰囲気の奴は大体分かるが、熟練者は本当に見分けがつきにくい。俺の膝を撃ってくれた奴もそういう奴だった。
一応こっちも保険をかけておこう。
「ライオン姉さん、本当に俺とペタに危険はないんだな?」
前を歩くライオン姉さんに声をかけると、ライオン姉さんは、
「大丈夫だよ、信用されてないのは分かってるけど、こればっかりは信じてもらうしかないね」
と言いながら、振り返る。そして、
「何だい?その板は?」
俺のスマホを不思議そうに見る。こっちに画像や映像を記録する物がないのは、ハイエナやエジャで確認済だ。
「ちょっとした契約だな。破るなよ。どうなっても知らないぞ」
右手だけで画面を操作し、ライオン姉さんに向けて再生する。
『ライオン姉さん、本当に俺とペタに危険はないんだな?』
『大丈夫だよ、信用されてないのは分かってるけど、こればっかりは信じてもらうしかないね』
ライオン姉さんの表情が明らかに変わった。耳と尻尾もせわしなく動く。よし、騙せた。
「はぁ、そんな事まで出来るとはね。参ったよ。守る守る。だからそれ仕舞ってくれるかい?ほらペタも怖がってるじゃないか」
ペタが俺の左手を握ったまま、地面にうずくまって残った片手で耳を押さえている。ああ、そういやペタにはテレビで映像は見せたけど、スマホの事は怖い魔法道具だって教えてたな。
「ペタ、悪い。もう大丈夫だから」
「ハルキ!こわいことするときは、さきにおしえろ!」
しゃがんだままのペタに足をバシバシ叩かれた。ごめん。
読んでくださってありがとうございます。
調子に乗って書きすぎたので明日、日曜は3話アップします。
そしてまた、誤字みたいなの発見。おやー




