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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第34話 肉は後回し

 馬車が停まったのは道の脇に広場みたいに整地された場所だった。背の高い草も刈られて川が見える。


 魚を獲りに川に行った時、わざわざ草むらを抜けて行ったのに、ここまで来ていれば直、川だった。損した気分だ。知らなかったから仕方ないが、ちょっと悔しいのは俺が小物だからだ、とか認めない。


 さっきまで馬車に酔って引っくり返っていたペタは、馬車が止まった瞬間に凄い勢いで飛び出して行って、今は元気に走り回っている。なぜか人見知りっぽかった狸族の子供も一緒に走り回っている。ペタのガキ大将体質が発揮されたようだ。というかアイツ回復早すぎるだろ。


 この休憩場所は町に向かう人が休む定番の場所なんだろう。簡単なかまどみたいな物も設置されているし、座る所や屋根のある所もある。これは便利だ。


「兄ちゃんは腕に自信があるのかい?この時期に歩いて町に向かうなんて」


 馬のおっちゃんが聞いて来る。馬の口で言葉を喋ると違和感がハンパないな。しかし、時期ってなんだ?魔法使い族関連じゃないよな。


「いえ、ちょっと遠くから来たんで分かんないんですが、何かあるんですか?」


 おっちゃんと俺は、狸族のお母さんと一緒に魚を焼きながら話をしている。狸族のお母さんは上手に魚の処理をしてくれた。俺が塩を提供するととても喜んでくれた。味付けなしで食う気だったのか。木の枝に刺さってあぶられている魚達を見ながらのちょっとした雑談だ。だが俺には重要な情報収集でもある。


 ライオンぽいお姉さんは、近くの木の根元に座って干し肉をガジガジしている。魚には興味がないようだ。剣はしっかり近くに置いてある。


 狸族のお母さんが教えてくれる。


「騎士団がね、最近あんまりモンスターを間引いてくれないからこの道も危険なんですよ」


 ほう、あいつら民の味方とか言ってたくせに、職務放棄してるわけか。ロクでもない奴らだな、やっぱり。


「第2騎士団は、ほとんど町にいないらいしいぞ」


 馬のおっちゃんが言う。第2って、なんか聞いたな。忘れたわ、まあいい。町に騎士が少ないのは俺にとっては良い話だ。魚の向きを変えながら聞く。


「町の騎士団ってどれぐらいいるんすかね」


「そうだなー」


 おっちゃんが少し考えてから、


「まず第1から第3まであってな、それぞれに団長がいて、副団長がいて、大隊長がいて、その下に中隊長が……」


 この辺からちょっとボーッっとしていた。


「まあ全部で500人ぐらいが正騎士と見習い騎士だな、確か」


「なるほど。すごく良く分かりました。ありがとうございます」


 笑顔でお礼を言った。


 虎が500か。多いのか少ないのか分からないが、まあ想定内だな。しかも第2とかいうのがいないんならもっと少ない。正面から戦うつもりもない。


「まあ、そんな訳でさ、この辺も今は危ないから普通は馬車を使うんだよ。子供連れで歩いてるからびっくりしたのさ」


 馬のおっちゃんもいい人だなあ。お金払ってここからも乗せてもらうかな。ペタには目隠しでもしとけば酔わないだろう。飯を食ったら勝手に寝るかもしれないしな。


「それに、歩きだと町に着くのは夜になっちゃいますからね。夜になると門が閉まるから町に入れてもらえないですよ」


 狸族のお母さんからの仰天発言。俺ら町の外で夜明かす事になるとこだったの?マジか。ニャの兵士さん色々足りないよ情報が。いや常識だったのかもしれない。そりゃ、夜はモンスターとか危ないから門があれば閉じるだろう。俺の考えが足りなかっただけか。濡れ衣だコレ、ニャの兵士さんごめんなさい。


「すんません、この後も乗せてもらっていいですかね?お金払いますんで」


 俺がおずおずと頼むと、おっちゃんは馬の口元を少し上げ「毎度」と言った。商売上手め。






「さかなうまい!まさかこんなに、しおとあうとは!このしっぽのおこげと、しおのカリカリしょっかん!あたらしいな!」


 ペタレポは今日も絶好調だ。両手に魚も予想通りだ。ただ2本ずつってのは予想外だが。狸族の母子もおっちゃんも満足そうだ。馬の顔が魚を食うシーン、とてもファンタスティック。しかしこりゃもうなくなるな。追加で獲って来ようか。あ、そういえば、


「ペタ、そこら辺に背の高い草むらあるだろ。結構、動物いるみたいだぞ。丁度、お前ぐらいの大きさのやつ。魚なくなったら獲りに行くか?」


「にくか!にくもすてがたいな!」


 俺とペタがおかわりの相談をしていると、馬のおっちゃんが少し低い声で聞いて来た。


「兄ちゃん、それ本当か。どんな動物がいた?近くかい?」


 ん、おかしな雰囲気だな。狸族のお母さんも魚を食う手が止まった。


「結構、あちこちにいましたよ?気配だけで姿は見てないんすけど、さっきもその辺にいたっぽいですよ、子供ぐらいのヤツ」


 俺がそう言うと、大人2人の耳があちこちを向く。もしかしてこの流れは。


「確かにいるね。それも多い。早く馬車を動かしてくれるかい?」


 今まで関係ないとばかりに離れた所にいた、ライオン姉さんが近くに来た。ニャはなかったか。残念。ガオーとか言われてもちょっと違うしな。しかし、この人がこう言うって事はやっぱりモンスターって事か。


 ヤバイんじゃないか?ここまでかなりいたぞ。


「ペタ、肉は後回しみたいだ。片付けて馬車に乗るんだ」


 火を消しながらペタに指示を出す。ペタがササっと残った魚をくわえる。


「それと、そのお母さんと男の子を守ってあげるんだ」


「ほうはいは」了解だ、だな。


 馬のおっちゃんも急いで御者台に上る。俺とライオン姉さんが周りをうかがいながら最後に荷台に乗る。やっぱりいるな。逃げる為に隠れてるんじゃない、これはこっちを狙っている隠れ方だ。失敗した。どうも平和ボケが抜けていなかった。


「こんな昼間でもモンスターって出んだな」


 俺の独り言に、隣に乗ったライオン姉さんが答える。


「そりゃ、いくらでもいるさ。ボウヤはどこかのお坊ちゃまかい」


 ボウヤて……そりゃ、そっちの方が年上っぽいけども。それでもせいぜいハタチ過ぎぐらいだろアンタ。そういうキャラなのか?ロールプレイか?


 馬のおっちゃんの掛け声で馬車が動き出す。間に合ったか。


「ちょっとばっかり安全な所にいたんでね。でも目が覚めたわ」


 ここは日本じゃない。命の軽い星だ。俺にとっちゃ……ベガスだ。


 ライオン姉さんが少しフンと鼻を鳴らして視線を後方に戻した。荷台の床に片膝を付けさやに入ったままの剣を握っている。馬車は既に走り出している、まだ危険なのか?


 俺はモンスターの生態なんてほとんど知らない。気を抜いちゃいけない。俺も同じように隣に並ぶ。


「きた!」


 背後からペタの声が聞こえたと同時に、全身緑色の子供みたいな生き物が草むらから飛び出して来た。弓を引いている。武器を使うモンスター?いや、あれはモンスターなのか?


 現れた緑の生き物は3体。荷台目がけて飛んでくる矢も3本。馬車は自転車程度のスピードしか出ていない。


 ライオン姉さんの剣のさやが、矢を1本叩き折った。残り2本は俺の両手に1本ずつ握られる。


 「へえ」ライオン姉さんの短い声が消える前に、ペタが俺達の間に割り込んで来て矢を放つ。だがその矢は当たらず、緑の生き物達は草むらに飛び込んだ。


「にげた」


 ペタが悔しそうに言う。だが馬車の中には安堵あんどの空気が流れる。ライオン姉さんも剣は握ったままだが、荷台に尻を置く。特徴的なライオン尻尾からも力が抜けた。


 しかし、俺の中には強い違和感が残っている。今のがモンスターだって?


 毒々しい緑色の体と顔、子供程の身長、そして二本足で立ち弓を使ってきた。腰にはボロ布を巻いていた。


 俺の知っているモンスターは、狼や熊、トカゲのような野生動物だった。肉食動物の事をモンスターと呼んでいると認識していたんだが。それに俺はグリードベアの毛皮を持っている。野生動物なら臭いで近寄らないはずだ。


 ライオン姉さんはアレをモンスターとして扱った。だが、俺の目から見た今の生き物はモンスターじゃない。この星に来て散々見た動物人間の一種にしか見えなかった。武器を使い服を着る知能もある。人族じゃないのか?


 握ったままの矢を見る。作りは雑だ。ペタが持っている物とそう違いはない。だが、


 矢じりに指をわす。ヌルっとした物が塗ってある。毒だ。指をほろでぬぐう。


「ハルキ、また、かたまったのか?」


「座りなよボウヤ」


 ペタとライオン姉さんの声が遠くから聞こえるが、俺の思考には届かない。こっちの住人がそうだと言うならアレはモンスターなんだろう。


 だが奴らには知能がある。なぜ走る馬車に後ろから射掛けた?馬か御者のおっちゃんを狙えば、馬車を止められただろう。更に言うなら、もっと前から見張っていたくせになぜ休憩場所で仕掛けて来なかった?


 2本の矢をへし折り荷台から投げ捨てる。ペタが「もったいないー」とか言ってるが、お前はこんなもの使っちゃ駄目だ。考えながらバックパックから投げナイフを取り出す。今は4本だ。足元に突き立てておく。バックパックはもう一度しっかりと背負い直す。


 俺があいつらなら?


 休憩場所で仕掛ければ何人かは倒せる。だが確実に反撃をくらう。特に剣を持ったライオン姉さんには警戒するだろう。ペタも弓を持っている。そんな相手をまとめて行動不能にする為には……

 

 1カ所に集めて一気に殲滅せんめつする。


「おっちゃん!馬車を止めろ!」


「え?」


 俺の叫びに、御者台に座る馬のおっちゃんは反応したが馬車は止まらない。そりゃそうだ、今は敵から逃げている所だ。説明もなしに止まる馬鹿はいない。だがそれじゃ間に合わないかもしれない。


 突き立てていたナイフを1本抜きながらペタの横をすり抜け、驚く狸族の母子を横目に、御者台に足をかける。


「止めてくれ!」


 ナイフを馬のおっちゃんの顔の前に突き出す。もちろん刺すつもりなんてない、止めてくれ早く。


「兄ちゃん、何を」


 その瞬間、目の前を走っていた馬が斜めになって崩れ落ちるように倒れた。


 遅かった。


 馬の脚を払うように道の端から転がって来た丸太の上に車輪が片方乗り上げた。一瞬の浮遊感の後、荷台が横倒しになり地面の上を滑る。


 投げ出されそうになった馬のおっちゃんをナイフを持ったままの右腕で捕まえながら、荷台のふちを左手で掴んで耐える。急激なブレーキをかけられた荷台部分は、未だ繋がったままの馬を中心に反転して止まった。


 俺が抱え込むようにしたおっちゃんは目を回しているが大丈夫だ。代わりに俺の全身が痛むが、バックパックのおかげで背中側は守られたみたいだ。頭も打ってない。


 狸族の母子は、母親が子供を抱くように倒れている。ライオン姉さんは後部から投げ出されたのか姿が見えない。ペタも……いない。


 いや、見慣れた白い尻尾が母子のに下に見えた。


「ペタ!」


 馬のおっちゃんを降ろす。今は壁のようになった荷台の床にナイフを刺し、狸族の母親を持ち上げようとした時、馬車の外からバラバラと足音が聞こえた。


 馬車の後方、それに破れたほろの向こうにも、緑色の子供の姿が見える。




 囲まれた。




読んでくださってありがとうございます


緑で子供みたいのは例のアレです。

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