第21話 独身貴族宇宙人
「あったかいー」
全身を布団に潜り込ませたペタがモゾモゾしている。
「顔が寒い」
俺も布団に入ってはいるが顔は普通に出ている。だが、ペタ湯タンポのおかげで布団の中は暖かい。
ヒーロー、エジャとその仲間達に助けられて、俺達は自分の部屋まで帰って来れた。そのヒーローズの皆さんは、部屋の外に木や葉っぱなんかを組んだ簡単なテントみたいなのを作って、そこで今後の作戦会議みたいな事をしている。
当然、外は暑いので、俺は部屋のエアコンを全力で稼働させて、玄関も開放して外に冷気を送り出してあげている。まあその結果がペタと一緒にベッドから出られなくなるという状況を生んでいる訳だ。決してやましい事ではない。
だってホントに寒いんだ。
「魔法使い様、しゃわー、ありがとうございました」
そう言いながら狐族の狩人の1人が出て行く。代わりに次の1人が入っていく。
そんな優しい目で見ないで欲しい。ただ寒いだけなんだ。ペタと何か、そういう何かじゃないんだ。
狐族の皆さんはエジャの指導の元、順番にシャワーを浴びている。毎回歓声が聞こえる。魔法だ魔法だすごいすごい。うん。それはいいんだ。こっちを見ないで欲しい。ワンルームだから全員にこの恥ずかしい姿を見られている。
エジャは俺達とはぐれた後、村まで走って仲間を連れて戻ってきてくれた。一睡もせず夜中じゅう走ってだ。俺とペタも大概だけど、エジャも相当疲れているだろう。それなのにキビキビと指示を出している。
俺はエジャに今回の事をこう報告している。
ドラゴンの鱗は、やっぱりハイエナ族の盗賊団が盗んでいた。だが、そいつらは既にモンスターによって壊滅していた。
洞窟では大トカゲのモンスターが繁殖しており、他のモンスターは見かけなかった。
大トカゲの巣が、ものすごい熱気を放っていた。ここが異常気象の原因だと思ったので入口を塞いでおいた。
嘘は言っていない。ちょっとしか。
ただ、あのドーム部屋については説明が難しい上に、広まるとマズイ気がしたので教えなかっただけだ。
しかし、俺の報告でエジャを始め狐族の皆さんは大喝采した。まあそりゃそうだろう。
ドラゴンの鱗が戻って来た上に異常気象も収まるんだ。オマケに最近暴れていた盗賊団も壊滅したという。そりゃ嬉しいだろう。今夜は祭だ。いや、今、村にはほとんど人がいないから村人みんなが戻ってから祭だわっしょい。
俺の腹のあたりで丸くなっていたペタから寝息が聞こえて来た。温かくて眠くなったか。そうかそうか。俺は顔の寒さと恥ずかしさで眠くないぞ。
まあ眠くなっても玄関オープンすぎてちょっと怖い。エジャを信用していない訳ではないんだけども。
「ハルキ殿、休んでいるところすまない」
エジャが声をかけてきた。起きてるからいいですよ。上半身だけ起こす。寒っ。
「我々は少し休憩した後、ドラゴンの鱗を持って村に戻る」
エジャもちょっとブルルっと体が震えた。エアコンの方をチラ見している。あ、でもあの目は家に欲しいという感じの目だ。日本じゃ一家に一台だもんな。いや一部屋に一台か。
「あーエジャ、俺はちょっとばっか疲れたんで、一緒には……」
俺が申し訳なさそうに言うと、エジャは、
「もちろんだ。ハルキ殿は、体を休めてから村に来てくれ。何日でも待つ」
エジャも疲れてるのにエライな。でもお言葉に甘えさせてもらおう。俺もペタも軽い脱水症状を起こしている。本当なら1日2日は寝ていた方がいい。
冷蔵庫には狩人の皆さんが持ってきていた保存食や、獲れたての肉なんかが結構入っている。俺一人なら1週間ぐらいは引きこもれるかもしれない。まあ俺がそんなにじっとしていられる訳がないんだが。
エジャの目が俺の足元辺りに移動した布団のふくらみを見る。
「ペタも、ハルキ殿が村に来る時、連れて来てくれるか?」
まあ、こいつも今日は動かせないしな。引きこもり可能日数が減った。
「わかった。ペタは預かるわ。エジャ、今回はありがとう、助かった」
俺が改めて礼をいうと、エジャも返してくる。
「何を言う、本当に助かったのはこちらだ、ありがとうハルキ殿」
それからしばらくして、休憩も終わったらしく狐族達は村に帰って行った。俺はようやく玄関を閉め、エアコンを調節して快適な気温を確保した。
ペタは相変わらず布団の中で丸くなっている。冬眠中の小動物を起こさないように気を付けながら俺も、もう一度ベッドに入った。さすがに疲れた。まだ昼過ぎぐらいだが今日はもう何もしない。寝る。腹が減ったらラーメンでも食って……
ラーメンの事を考えたら、あの大トカゲを思い出した。眠いんだが眠れない。
俺は、あの赤い光のドーム部屋の正体に気付いた。同時に今回の事件全てが分かった。エジャには話せない内容だ。理解できるのは今この星で俺だけかもしれない。
気付いたのは、空っぽのはずのタマゴから大トカゲが出て来た時だ。
あれは、あの大トカゲ達はウチにあるインスタントラーメンと同じだ。食えば復活するエネルギーだ。
あの時、目の前で、ペタを襲った大トカゲが仲間に喰われていた。その直後に空のタマゴから1匹生まれた。エネルギーが消費されたから補充された。
つまり、あのドームの正体は今いるこのワンルームと同じって事だ。
あそこは、どこかの星で宇宙人に【捕獲】された誰か、いや何かの【巣】だったんだ。そして大トカゲは、その何かの為の食料として生み出されていた。
あのドームがサウナみたいに暑かったのも、その何かにとっては適温だったんだろう。
そしてその何かは【巣】を離れた。どれぐらい前だろうか、それは分からない。生きているのか死んでいるのかも分からない。
じゃあなぜ、その【巣】の入り口が開放され熱気と大トカゲが放たれたのか、これももう分かるだろう。俺は胸に下げたままの部屋の鍵を服の上から触る。
巣の主が、正確に言うとカギが戻って来たからだ。そのカギを持って行ったのはあの盗賊団の誰かだ。入り口が開いた瞬間に大トカゲに襲われたんだろう。あの洞窟に落ちていた赤い毛皮の持ち主だ。
そいつは知っていたのか、それとも偶然だったのか分からないが、カギであるドラゴンの鱗を持って入口の前に立った。立ってしまった。
巣の主は宇宙のどこかから連れてこられたドラゴンだ。【巣】が用意されてたって事は、おそらく俺と同じテストケース、この星で初めてのドラゴンだったんだろう。だが今はあそこにはいない。どこかの火山に住んでるってのがそうなのかもな。
代わりに中にいたのは、あふれ返った食料達。共食いを繰り返しながらあのドームの中で死に、産まれ、また死に……そんな事を何年だか何百年だか……もしかしたらもっと長い時間過ごしていたのかもしれない。地獄だ。
そんな地獄から解放された大トカゲ達は喜んで飛び出しただろう。そして近くにいるモンスターや動物、ハイエナ族達を喰い尽くした。もちろん抵抗した奴も逃げた奴もいただろう。だが死んでも補給される大トカゲを止める事は出来なかった。
まあ、あの入り口が閉じれば大トカゲが増える事は防げただろうが、それは出来ない。カギは扉のすぐ近くに落ちてたんだからな。開きっぱなしだ。
「ふう」
思わずため息が出る。眠気も強くなってきた。ペタがもぞもぞと寝返りを打つのが分かる。さっきから目は閉じている。そのうち寝られるだろう。
瞼の裏に大トカゲの、つぶらな瞳が映る。
俺は、あそこからカギを持ち去った。ドームへの扉も閉まった。外にいた大トカゲはタマゴの数から考えると100匹ちょいだ。エジャ達が2、30匹は倒したから生きているのはもっと少ない。地球では100匹以下の種なんて人間が保護しないと、あっという間に絶滅する。最高ランクの絶滅危惧種だ。
だけど、あの大トカゲ達は死んで体を喰われたり、腐ったりすればあのドームの中で復活する。絶滅する事はない。いつ終わるか分からない地獄が再び、あいつらを襲う事になるだけだ。
あのドームはドラゴンの鱗が中に入った瞬間に赤い光がついた。そういう仕組みなんだろう。ドラゴンの技術なのか宇宙人の技術なのかは分からないが、今はただ暗黒の世界だろう。
暗闇の中で、永遠に共食いを続けるトカゲ達。
くそ。俺は間違ったのか?暑さとかそんなのどうでも良かったんじゃないのか?ペタ達の村だって引っ越せばいいじゃないか、森から出れば良かったんだ。
先祖に申し訳がないとか、伝統とか、そんなのどうでもいいじゃないか。危険が迫ったら逃げる。何が悪い。なんならもう一度あそこを開けて……
「ハルキ~」
腰の辺りを小さな手がぎゅっと抱きしめて来た。沈みかかっていた俺の思考が引き戻される。寝ぼけてるのか寝言か、ペタはそのままムニュムニュと何かを呟いて、また寝息を立て始めた。
考えすぎてたな。全てを救うなんてできる訳ないじゃないか。トカゲが出れば他の生き物が死ぬ。どっちを選んだって俺は納得できないだろう。
じゃあ今は、この小さな命を守れただけで満足しとこう。いや俺には十分だ。
そうだ、悪いのはそんな仕組みを作って喜んでる宇宙人共だ。
絶対あいつらの思い通りになんか動いてやらない。テストも失敗させてやる。上司に怒られろ、左遷されろ。奥さんが子供連れて実家に帰ればいい。いや奥さんと子供には悪いな。じゃあ、独身だって事にしとこう。あの独身貴族宇宙人をホームレスにしてやる。
そして俺は地球に帰る。ペタも連れて……は行けないか。行けたとしても大騒ぎだな。耳と尻尾が生えた人間なんて目立ちすぎる。研究施設に放り込まれる。でもそうなったら、俺がまた助けるけどな。あ、でもペタがいなくなったら、じいさんに悪いな。いやでも、あのじいさんならホッホウとか言って許してくれそうだ。待てよ、美咲のやつが何か言ってきそうだな「そんな小さい子に手出したの!」ああ、これは面倒くさい。
ま、帰れるようになってから、考える、か……
「ペター、飯だぞー起きろー」
俺がキッチンから声をかけるとベッドに居たペタがガバっと起き上がった。
「ほそいスープか!」
「残念、アレはあんまり毎日食うもんじゃないんだよ。今回は肉とキノコとその他諸々の適当炒めだ」
実際、俺は地球にいた頃は、体の事を考えてジャンクフードは全く食っていなかった。インスタントラーメンだって5年ぶりだ。
「えー!スープがいいぞ!」
ペタがベッドで飛び跳ねる。それは怒られるヤツだぞ。俺は気にしないが。
「ま、一週間に1回ぐらいだな」
「うーん、そこをなんとか、ふつかに1かいで」
値切りにきやがった。いやこの場合は値切りとは言わないのか?
「じゃあ5日だな」
ペタが両手の指を折りながら何か計算している。なぜ5日って言ったのに両手を使うんだコイツは。算数は必須科目だな。
「みっか!」
指を三本立てて言ってくる。
「おう、それぐらいならいいか。じゃあ三日な。という訳で、今回はこの適当炒めを食え」
そう言いながら皿に盛った、肉と何か色々炒めた物を出してやる。ペタはすぐに食いついた。なんだよ、うまそうに食ってるじゃないか。
ペタがモグモグと幸せそうな顔をしているのを見ながら思う。
悪いなペタ。明日軽く部屋を掃除したら村に行くつもりだし、ついでに町に野菜とか調味料を探しに行きたいんだわ。三日後には家にいませーん。
塩味しかしない炒め物を食べながら、心の中でペタに謝っておいた。
読んでくださってありがとうございます。
答え合わせは合いましたでしょうか。




