第19話 ウロコゲットだぜ
地上から斜めに開いた、巨大な筒の様な洞窟。
俺達のいる通路から見て、左上には出口。右下には、今回の探索の最大の目玉賞品である、ドラゴンの鱗。だが地面部分には人間よりデカい大トカゲ達。
あの、グデーっと寛いでいるトカゲ達がいなければ、話は簡単だ。
ヒョイヒョイっと鱗を回収して、ヒョイヒョイヒョイっと出口から出れば、終了だ。帰り道さえ気を付ければ、ペタのじいさんからの熱烈な歓迎と大量のごちそう、多分ほとんど肉、が待っているだろう。
だが、実際は大トカゲがいる。あっちこっちにいる。
さっきまでは出口しか見ていなかったから、他の出口を探そうと思っていた。しかし、ドラゴンの鱗というオマケが、そう、今はオマケだ。そのオマケが現れてしまったせいで困っている。
ここで、脱出を優先したとしても誰も責めないだろう。でもなー。取れそうなんだよ、あのドラゴンちゃんの鱗がさ。丁度、いないんだよ。そこまでのルート上に大トカゲが。
ペタが横でウズウズしているのが分かる。取りに行きたいんだろうな。でも、コイツはかなり消耗している。行くなら俺だ。俺なんだ。行きたくないのも俺だ。
仮に、鱗を取りに行く方向で考えてみる。
まず、ペタはここに残す。この場所は大トカゲ共には見つかっていない。見つかるまではここに待機させて、もし大トカゲが向かってくるようだったら俺と合流させればいい。それに、ペタは弓を持っている。コイツの腕なら、バラバラと向かってくる突進型のトカゲの数匹ぐらいは処理できるだろう。
そして、俺はできるだけ大トカゲの気を引かないように、ドラゴンの鱗を回収しに行く。今はまだオネムの時間の大トカゲを起こさないようにすれば行けそうだ。
で、上手く取れたとする。そしたら脱出だが、ペタと合流したら真っすぐ巨大な出口に向かうのが一番早い。だが、その間には大トカゲがポツポツといる。ここから見た感じ、どういうルートを通っても、何匹かとはぶつかる。
正直あいつら単体ならそんなに怖くはない。動きも単純だし、倒さなくても飛び越えるだけでいい。軽いフェイントを入れれば、問題なくすり抜けられるだろう。
ただペタをどうするかって問題が出て来る。疲れてるペタに同じ動きが出来るか分からない。俺がまた抱えてもいいが、そうなると、出口に向かって登る形になっているこの洞窟から出ようとした場合、動きがかなり鈍る。その間に他のトカゲが集まって来るだろう。
じゃあ、今いるこの横穴まで戻って、別の出口を探すか?これも難しくなる。鱗を取りに行けば、1匹や2匹はこっちに気付く可能性が高い。今は光が届かないから見えていないが、もし、あのドラゴンの鱗の落ちている場所より奥に、他の大トカゲがいれば更に危険は増える。そのまま穴に戻れば、確実に追いかけっこの再開だ。もう生きて洞窟から出られなくなる気がする。
つまり、鱗を取りに行って巨大洞窟の出口から出るか、取るのを諦めて他の出口を探すか、の2択になった。
「ハルキ、とりにいこう?」
ペタがグリグリと頭を押し付けて来る。やっぱりアナタはそっち派なんですね。耳がペコペコと動いている、目がきゅるるんと輝いている。なぜお前は、俺の弱い所を的確に突いてくるんだ。あとなんで、白いんだ。他の狐族はみんな狐らしくキツネ色じゃないか。ホワイトタイガーとかでもそうだけど、なんか他と違って、白い動物ってのは特に俺の心をわしづかみにする。
「よし、取りに行こう。でも、俺の指示通りに動くんだぞ」折れた。
「わかった!」
ペタが真剣な顔で頷く。だが耳は喜びのダンス真っ最中だ。
「じゃあまずは、俺一人であの鱗を取りに行く。お前はここで、待て、だ」
ちょっと不満そうな顔をするペタにもうひと押し。
「ペタ、お前はここから、大トカゲの動きを見張ってくれ。俺に気付いて追いかけて来そうな奴がいたら、弓矢でやっつけてくれ。頼めるか?」
「おお、ペタのせきにんはじゅうだいだな」
ペタが、こくこくと頷く。コイツは何かを任されると張り切る。扱いやすいな。
「鱗を回収したら、近くまで戻って来るから、そしたら一緒にあのでっかい出口から出るぞ」
「みっしょんこんぷりーとだな」
この英語が混じった会話も、俺の脳がこんな翻訳をしているんだろうな。まあいい。コンプリートの前にスタートだ。
ゆっくりと穴から体を出していく。寝ているのかなんなのか分からないが、大トカゲに動きはない。そのまま、音を立てないように気を付けながら、岩肌を伝って降りて行く。
少し見上げればペタが弓を構えて、こっちを見ている。心配そうな顔をする前にその弓をこっちに向けないで欲しい。怖いから。人に弓を向けちゃいけません、とは習わなかったが、俺も。
ドラゴンの鱗まであと少しの所まで来た。一気に暑さが増したぞ。サウナだこりゃ。もしかしてこの鱗が熱いんじゃないだろうな。だとしたら、異常気象の原因はこの鱗って事になる。持って帰らずに埋めるか海にでも沈めた方がいいんじゃないか?……そういえばペタを海に連れてくんだっけ。海はどこだ?帰ったら誰かに聞こう。
足元に鱗がある。恐る恐る触れてみる。熱くは……ないな。ちょっとホッとした。大きさは車のタイヤぐらいある。でかいな。メタリックな赤色に輝いている。
鱗でこの大きさなら、本体はどんだけデカいんだ。少なくとも3メートルの大トカゲごときじゃ太刀打ち出来ないサイズだな。ロケットランチャーとかでも倒せないかもしれない。この星のどこかにいるのか。全力で会いたくない。しかも……
鱗を持ち上げてみた。結構軽いが、メチャクチャ固い。軽く力を入れたぐらいじゃ曲がらない。よくゲームでドラゴンの鱗を使った鎧とか出て来たけど、ホントに良い防具になりそうだな。しかもモンスターを寄せ付けない効果付きだ。まあ1枚だとさすがに鎧にはできないけど。ついでに加工できるかが怪しい。
やったぜ、ウロコゲットだぜー。と頭上に持ち上げて、ペタに向かってピラピラしてやる。光が反射してよく見えてるだろう。と、思ったら、ペタが横穴から飛び出してこちらに向かって来る。
おい、待てって言ったよな!?何やって……
ピュンッ!とペタの弓から矢が飛ぶ。その直後、俺のすぐ横にある岩の上から大トカゲが1匹転がり落ちた。
ヤバイ、気が付かなかった。ちゃんと気を張ってれば絶対気付いたはずなのに。俺の最大の弱点は、この妄想癖だと思う。そして今ので結構な数の大トカゲが動き出した。最悪の展開だ。
「ペタがいなかったらあぶなかったな!」
「おお、マジで助かった」
すぐ傍に寄って来たペタに礼を言いながら状況を確認する。既に、かなりの数の大トカゲに取り囲まれている。地形がゴツゴツしているおかげで、一斉に襲って来る事は出来ないようだが、じわじわと包囲網が完成していく。
このまま出口に真っすぐは無理だ。包囲を崩すか、薄い所から回り込むか……
「ハルキ、うしろにはいないぞ!」
少し飛び出し気味だった大トカゲの頭を射抜いたペタが、そう叫んでくる。
だが、背後に気配がないのは俺も気付いていた。ただ、そっちに行くと出口から遠ざかる事になる上に、暗闇でほとんど視界が確保できない。
更に、この暑さ。いや熱だな。熱気が背後の暗闇から来ているのが分かる。そっちは逃げるべき方向じゃない。
俺が考えている間もじわじわとトカゲが迫って来る。こちらが少し下がると、その分近付いて来る。ペタが時々、矢を放ち、一匹のトカゲの動きが止まる。そして近くにいる別の奴に喰われる。さっきまで仲良く寝てたくせにな。
だが、そうやってかき乱してくれれば突破口が見つかるかもしれない。
観察を続けながら、一歩、また一歩と後ずさって行く。既に光の届かない位置まで来てしまった。これ以上、下がるのは危険だ。強行突破するしかないか?
ナイフは抜いていない。俺の片手はドラゴンの鱗でふさがっている。両手が使えなくなるのはマズイ。場合によってはペタを担ぐ必要だってある。飛びかかってきたら拳で応戦してやる。この鱗を投げつけたっていい。
覚悟を決めた。踏ん張る為に右足を一歩引きながらペタに声をかける。
「ペタ、一気に抜けるぞ。ど真ん中に思いっきり撃ち込んでくれ。そこに他の奴らが集まって包囲が薄くなった場所を……」
引いた右足が地面の変化を捉えた。今までのゴツゴツした地面じゃなく、平らで滑らかな床のような感覚だ。
そんな違和感を感じた瞬間、急に背後が明るくなった。
「あかい」
ペタが呟く。背後から来る光は真っ赤だ。だがその光で自分の今いる場所の状態が分かる。
俺の左足は、洞窟のゴツゴツした地面を踏みしめている。
だが、後ろに引いた右足は、大理石でできたような床に乗っている。
トカゲ共の動きも止まった。この光が嫌なんだろうか、近付いて来ない。向きを変えて岩陰に隠れる奴までいる。
「ペタ、トカゲを見張ってくれ」
声をかけてから、背後に目をやる。
なんだ、ここは……
真っ赤な光に満たされた空間は、だだっ広く何もない。いや、天井や壁はある。ただ今までの洞窟とは違って、でこぼこした作りじゃない。ただ、ドーム球場のような何もない巨大な部屋がそこにあった。
もう数歩、部屋に入って、今度は自分が入って来た入り口を見る。
巨人が住んでる家の玄関のような、でかいアーチ状の穴がある。いくらドーム球場っぽいと言っても、この場合の巨人は、どこかの野球チームじゃない。本当にデカい人って事だ。あのグリードベアよりもはるかに、でかいヤツの家だ。
なんだ、ここは。心の中でもう一度繰り返す。明らかに自然の驚異じゃない。人工的に作られた場所だ。理由は分からないが。
「ハルキ!みんなかくれた!」
ペタがそう言いながら部屋に入って来た。
「あつい」舌を出してハーハーしている。犬っぽいわあ。
確かに暑い。さっきからのサウナみたいな暑さはこのドームのせいか。空調設備みたいなのがあるのかは分からないが、空間全体が熱い。ついでにこの赤い光も天井や壁が光っているみたいだ。照明みたいな物もない。
もしかして、ここから流れ出た熱い空気が、森に広がって異常気象のような暑さを起こしていたのか?だとすれば、この入口を塞いでしまえば、ゆっくりでも、気温は元に戻るんじゃないだろうか。
だけどなぁ。
巨人用の出入り口を見上げる。これ塞ぐってどうやりゃいいんだ。この星には重機とか、ないよなあ。
「おくに、なにかあるぞ」
ペタが何か見つけたみたいだ。一番奥だと100メートルぐらいはありそうだが、目がいいなコイツ。ああ、でも確かに、真っ赤に塗りつぶされて見えにくかったが、奥の方に何か丸っこい塊がある。それもかなりの数だ。
ペタがタッタッタと奥に走って行く。おいおい、大丈夫か?結構無鉄砲だよな。
「ハールーキー、たーまーごーだー」
一番奥からペタが叫んでくる。ドームに反響して聞き取りづらいが、タマゴ?卵って言ったよな?
ペタの周りには、身長と同じぐらいの塊。いやタマゴか。でかいな。じゃあ、ここってもしかしてあの大トカゲの……
「うああーーー!」ペタが叫びながらこちらに向かって走って来る。
「どうした!」
あわてて駆け寄ろうとすると、ペタは途中でクルッと向きを変えてタマゴの方に矢を放ち始めた。タマゴの間から飛び出して来た3匹の大トカゲの頭に矢が突き立つ。
俺が駆け寄った時には、3匹とも動かなくなっていた。念のためナイフを抜き、1匹ずつ首の部分を切りながら矢を回収していく。俺も、結構こういう事出来るようになったなあ。地球じゃ考えられなかったけど、荒療治ってやつだな。フォレストウルフを殺せなかった俺に見せてやりたい。
「ペタ、お前なあ、もうちょっと注意深く行動しないと、そのうち痛い目みるぞ」
言いながら、矢を返してやる。
「まことにもうしわけございません」だからお前はどこの政治家か。
ま、やっぱり大トカゲのタマゴだったか。という事はここが本当の巣なんだな。なんで外にいる奴が、入りたくなさそうだったのかは分からないが。
密集したタマゴの周りをぐるっと回って、他に大トカゲがいないか確認する。大丈夫だな。というか、100個以上ありそうなタマゴは、既に孵っているようだ。全部割れている。
「たべれるの、ないな」そういうお前は、食べられそうになったがな。
「とにかく、脱出するぞ。こんなアッツイとこにいたら死んじまう」
このサウナみたいな暑さの中にいたら1時間ともたないだろう。今なら、外のトカゲ共も怯んでるし、強行突破できる。
このドームは謎のままだが、一度戻って、エジャとかに相談して入り口を埋めてしまおう。これで異常気象も解決、ドラゴンの鱗も戻って、村も俺も万々歳だハッピーエンドだ。
「どこからでるんだ?」ペタがおかしな事を聞いてくる。
「そりゃ、入ったトコから出るに決まって……」
るだろ。とは続かなかった。
俺達の入って来たバカでかい入口は、影も形もなくなり、ただ赤い光を放つ壁だけがあった。
読んでくださってありがとうございます。
このお話は尻尾成分が満載です。トカゲの。
脱字を発見。修正しました。2回ぐらい見たのに…これからは3回見ますスミマセン。




