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惑星の魔法使い  作者: モQ
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第13話 紛れ込んでしまっただけの犬

 村に向かった時よりはゆっくりとしたペースで、ハイエナ達に絡まれた場所まで戻って来た。時間的な余裕もあるし、そもそも目的が違う。盗賊の痕跡を探しながら移動してきたからだ。


「確か、この辺だよなペタ」


「そうだ!ここでハルキがビシっとやって、あっちにむかってビュってやって……」


 ペタが全身で再現VTRをしてくれる。間違いなくここのようだ。再現完璧だな。記憶力すごいな。まあ子供が踊ってるようにしか見えないが。


「盗賊達は、どの方向に逃げた?」


 エジャが周りを見廻しながら言う。俺は思い出しながら指をさす。


「確か、あっちだな」


「ふむ。森の外に出るには最短距離だな。その方向が分かっているという事は、森に詳しいという事。やはり拠点があるな」


 やっぱりエジャは頭がいい。そうか、そこまで分かるものか。探偵だな。


「じゃあ、あいつらの行った方向にこのまま行った方がいいかな?」


「いや、予定通りハルキ殿の家に向かおう。あくまで森の外への最短距離だ。拠点に直接戻った訳ではないだろう」


「なるほどなあ。まあ、痕跡探しはエジャとペタに任せるわ。俺は専門外だしな……ペタ、行くぞ」


 声をかけるとペタが上から降って来た。


「お前、何やってたんだ」


「くだものだ!ハルキほしがってたからな!」


 洋ナシみたいな果物をいくつか抱えている。これは嬉しい。


「おお、でかした!」頭をワシャワシャ撫でてやる。ついでに耳も触っておく。


「んふふふふ!」嬉しそうだ。なんだ耳嫌がらないじゃないか。


 バックパックを開いて洋ナシっぽい果物を放り込んでいく。そうそう、こういう事をする為にこのデカいバックパックを持ってきてたんだよ。忘れてた。うん。忘れてたと言えば、バックパックの底に塩と砂糖の入ったタッパーがそのまま入っている。交換に使うつもりだったの忘れてた……嬉しそうなペタの横で落ち込む俺。それを微笑ましく見つめる保護者のようなエジャ。なんだこれ。


 再び移動を始める。あくまで行きに比べてだが、ゆっくりと森の中を進んで行く俺達。ゆっくりと増えて行くバックパックの中身。キノコ、木の実、ミカンみたいな果物、食えるらしい山菜。


 ペタが色々見つけて来ては渡してくる。その度に頭を撫でてやると犬みたいに尻尾を振って喜ぶ。こいつ、やっぱり犬族なんじゃないんだろうか。何かの間違いで狐族に紛れ込んでしまっただけの犬。ブンブン振られる尻尾を見ていると、そんな気持ちになってくる。というか、こいつちゃんとハイエナの痕跡探してるんだろうな?あとこのキノコは毒とか大丈夫か?


「ハルキ殿、止まってくれ」


 エジャが声を上げた。ペタの耳もピクピクしている。


「ああ、囲まれたな」しまったな、また余計な事考えてた。


 バックパックを降ろしながら答える。ただこれは人間……ええっと、人族の気配じゃないな。


「フォレストウルフ、だっけ?」


「そうだ。こんな陽の高いうちから狩りをするとは……やはり暑さのせいか」


 エサになる動物が減ってるって事か。そう考えれば、あのグリードベアが森の浅い所まで来てたってのも同じ理由かもしれない。もしドラゴンの鱗と異常気象が関係あるなら、このままだと森の生態系が無茶苦茶になるかもだな。


 森に家を建てられてしまった俺としてもそれは困る。どうにかできるものなら、どうにかしたい。


 エジャとペタが弓を構える。俺は弓は持ってるだけ。まだ練習してないから実戦では使えない。ついでに狼とはいえ、なんか殺したくないからナイフも躊躇ちゅうちょする。


「俺、素手でやらせてもらってもいいかな?」


「ハルキ殿のやりやすい方法で戦ってもらえればいい」


 エジャは理解があるな。助かる。ペタにも声をかけておく。


「ペタ、そっちはエジャに任せて、俺の援護頼むわ」


 こいつはフォレストウルフ1匹がギリギリだと言っていた。万が一があると嫌だ。


「おー!ハルキはペタがまもるぞ!」


「頼りにしてるぞー。エジャ、大丈夫だよな?」


「うむ、背後は任せてくれ」


 周囲の草むらから数匹のフォレストウルフがゆっくりと姿を見せる。見た感じ普通の狼だな。まあ野生の狼を見るのは初めてだが。


 背後に立つエジャと、ペタの矢がほぼ同時に放たれた。


「ギャウッ」後ろから狼の悲鳴が聞こえた。エジャは大丈夫だな。


 ペタの矢は正面から来た狼にサイドステップでかわされた。が、いらっしゃいませだ。


「ギャンッ」


 動物の方がやっぱり動きが直線的で読みやすいな。俺の右フックで狼が一匹転がる。そのまますぐそばまで迫っていた二匹目のあごを蹴りあげる。


 次は……少し離れた所にいたヤツがペタに向かって飛びかかろうとしている。が、ペタの矢がそいつの前足に当たり、もんどり打って倒れる。やっぱり飛び道具は必要だな。


 向きを変え、握っていた石を別の奴に投げつける。石は狼の眉間みけんに吸い込まれるように命中した。一度悲鳴を上げて倒れる狼。だがすぐ立ち上がり逃げ出す。ペタの矢が追い打ちをかけるが、狼が草むらに消える方が早かった。


「にがしたー!くそー!」


「1匹やっただろ?立派立派」


 ペタが前足を射抜いた狼の頭には、もう一本、矢が突き立っている。


「ペタのじつりょくなら、あと10ぴきはいけた」


「そんなにいなかっただろうが」


 見廻すとエジャの方には2匹倒れている。こっちにはペタの仕留めた1匹と俺が気絶させた2匹が転がっている。さて、これはやっぱり……うーんでもなあ……


「ハルキ殿、奪い、奪われるのは、自然の掟だ」


「やっぱエジャには、ばれるか」


 俺は、いわゆる動物を殺した事がない。もちろん肉を食って生きている以上、完全に無関係じゃないのは分かっている。間接的には殺している訳だ。緑ウサギだってペタが獲る所を見た上で食った。それを今更、善人ぶって逃がしてやるとか、どの口が言うんだって話だ。今だって多分、本気でやってれば2匹とも命を奪えていたはずだ。でも俺は手加減した。


「だが」エジャが続けて言う。


「襲っても来ず、食わないのであれば、無為むいに命を奪う事もあるまい」


 顔を上げてエジャを見る。


「今は、目的が違う。死んだフォレストウルフのみ埋めて、先を急ごう」


「ん、悪い。ありがとう」いや、エジャさんかっこいいわ。


 でも次はちゃんとやろう。もし、わざと逃がした相手に誰かがやられたりしたら俺は心が折れる気がする。ペタを見るともう穴を掘り始めている。


「だけど、食う分は確保しといた方がいいんじゃないのか?」


 俺が聞くとエジャは首を振る。


「逃げたフォレストウルフが、群れを連れて戻る可能性がある。早めに移動した方がいい。食料なら干し肉もある」


 なるほど。森じゃかなわないな。先生達を見て学ぼう。


「フォレストウルフのにくは、かたくてうまくない」ペタ先生の本音はそれか。


 三人で穴を掘って死んだ狼を埋めた。途中で気絶していた内、1匹が目を覚ましたが、ヨロヨロと草むらに入って行った。




 ……しかし、今、狼と立ち回ってみて確信できた。やっぱり全体的な身体能力が上がっている。まだ成長期とはいえ急にきたな。


 スポーツをやっているとよくある事に「伸び悩み」ってのがある。じわじわ成長していたのが、ある段階でピタっと止まる事だ。それで諦める奴もいる。だが、そこで踏ん張ると、急に壁を抜ける日が来る。タイミングは人それぞれだが本当に急に来る。ある朝起きたら、だ。俺は壁というより階段をイメージしている。それぐらいステージが一気に変わるからだ。


 まあ、それが今来たってのはありがたいよな。足を撃たれてから、もうそんな感覚を味わう事なんてないと思っていた。俺、頑張った!


「ハルキ、にやにやがきもちわるい」


 穴を埋め終わったペタが俺を指さしながら言う。人を指さすなと教えた方がいいだろうか。それとも暴言をとがめるべきだろうか。まあ、まずは、


「ペタ、そういうのは、指が当たらない距離でやるもんだ」


 頬に刺さった指をどかしながら言った。






「一度休憩しよう」


 フォレストウルフの襲撃から大分進んで、あと30分もあれば俺の部屋に着きそうな所で、エジャが言い出した。


「でも、もうちょっとでウチに着くけど、一気に行かないのか?」


 と、聞くと。エジャは、


「もしまた、何かあった場合、疲労が蓄積していれば対応が遅れる。無理をしてはいけない。それに……」


「それに?」


「ハルキ殿の家は、今まで森だった場所に、突然現れた様に見えるのだろう?モンスターや、盗賊共が見つけている可能性もある。その場合、戦闘は避けられまい」


 そうか、そういう可能性を考えてなかった。他の誰か……何かが部屋に侵入してるかもしれないのか。鍵かけたから安心してたが、鍵を開ける技術を持った盗賊だっているかもしれない。いや、いるだろう。


 といっても、現代日本のカギがそうそう開けられるとは思わないが、外見はログハウスみたいな木の小屋だ。壁を破られたり、火を着けられたり……おお、考えるとヤバイ気がしてきた。


「という訳でアレを食う」


 エジャが言う。アレって何だ?と見ればペタがでっかいキジみたいな鳥の血抜きを始めていた。お前、いつ獲ったんだ。森では最強ってこういう事か、サバイバーめ。あとは火を起こせるようになれ。ペタは俺の視線に気が付くと、ニッと笑ってきた。色々、伝わってない。


 エジャと俺で、枯れ枝を集めている間にキジは丸裸だ。こういうのクリスマスに見た事あるな。塩コショウにハーブで、オーブン使って丸焼きにしたい。が、そんな設備はここにはない。肉はきっちり部位ごとに切り分けられてしまった。


 ワイルドなターキーを想像してよだれを垂らしそうになっていると、ペタとエジャが揃って枯れ枝の山の横に立ち「ささ、先生お願いします」みたいな目で見ている。アンタ、火打ち石持ってきてたよなエジャさんや。休憩の本当の目的はコレじゃないのか?……まあ役立たずな俺の見せ場なんてこれぐらいしかない。


「おおお!ふぁいやー!」


「……うむむ、やはり不思議だ」


 ものの数秒で火がついた枯れ木の山を見ながら、二人がそれぞれのリアクションをする。やっぱりエジャも見たかったんだな。なんかちょっと得意気になった俺がいる。


 そしてキジは美味かった。もちろん塩をふりかけてやった。


「こんな白い塩は初めて見た」とエジャが言う。量があれば売れたかもなあ。


 ついでなので、さっきペタが獲った洋ナシみたいな果物も食う。うん洋ナシだわこれ。うまいな。うまいが、ペタがTシャツで手に付いた汁を拭きまくっている。あいつには、部屋に戻ったらタオルを1枚進呈しようかな。


 あとキノコも焼いたが、俺は食わなかった。森のたみ達を信じないわけじゃないが……いや嘘だ。キノコに関しては信じきれない。悪いが、毒見は頼んだ。一緒には死んでやれない。


「しかし、本当に暑くなってきているな」エジャが言うと、


「だからあついっていった!」ペタが胸を張る。


「おお、確かに村より沖縄だな」


「オキナワってなんだ?」あ、しまった。そりゃ分からんよな。


「えっとなあ、俺が前いた所の近くにある島で、こんぐらい暑いんだ。海がキレイで、ハブっていう毒蛇がいるんだ」


 俺の沖縄の知識なんて海と動物ぐらいだ。行ったことないんだから。


「うみってなんだ?」


 おっと、そこからか。まあ近くにないんだろうな。塩も高いらしいし。


「まぁ、そうだな。向こう岸の見えないバカでかい水たまりだな」


「おおお!そんなのがあるのか!いきたいな!うみ!」


「そうだな、まあ落ち着いたら見に行くか。魚もうまいしな」


 とテキトーに答えると、ペタは「うーみ!うーみ!」と言いながら跳ね回っている。あるよな……海?行ける範囲に無かったらどうしよう……ねえエジャさん?


「バイパー系のモンスターか、毒は厄介だな……やはり矢で動きを止めて……」


 なんかブツブツ言ってる。こっちは狩人ダマシイが暴走中のようだ。


 そろそろ移動の準備でもしとくか……と思って火の中に最後に残ってた塊を口に入れたらキノコだった。




読んでくださってありがとうございます。


実は沖縄には何度か行っています。

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