第14話 便利なタイプの魔法使い
「はーい。皆さん並んでくださーい。今から注意事項を言いまーす」
「おー!」ペタはノリがいい。もはやノリで生きていると言ってもいいな。
エジャはまだ、キョロキョロしながらも玄関前に並んだ。ミステリーサークルがどうも納得いかないらしい。木がないもんな。根っこすら残ってない。
俺の部屋というか小屋に着いた。十分に注意を払いながら近づいたが、怪しい気配はなかった。カギも掛かったままだったし、小屋も外側をぐるっと回ってみた感じ、どこにも変化はない。多分大丈夫だろう。
ちょっと、玄関横に立ててあった松葉杖が倒れていて、干していたペタの服が消えたぐらいだ。飛んだか。まあボロだったし、許してくれるだろうと思ってたし。
「ペタのふくがない!まあいいか!」
ってご本人も言ってたし。問題はない。でも今度からは外に服を干すのはやめよう。ウチの洗濯機はドラム式洗濯乾燥機だ。電気代がもったいない気がして使わなかったが、よく考えればウチの光熱費は、宇宙人持ちだった。ガンガン使ってやる。エアコンも出来るだけ使わないつもりだったけど、なんなら24時間つけっぱなしにしてやる。貧乏性なんか地球に置いて来た。
そういう訳で、今は松葉杖を振り回しながらの、簡単なレクチャー中だ。
「まず、ウチは土足厳禁です。中に入ったら靴を脱いでくださーい」
「なんだってー!」ペタは知ってるはずだから無視だ。
「次にー、汚れたままの服でベッドに乗ってはいけませーん」
「ななななんだってーー!」ああこれは本気で驚愕してるな。
「今日のところは入ったらすぐにシャワーをしてもらいまーす」
「しゃわー?」「シャワー?」
おっと、二人ともシャワー分からないか。そういう概念がないんだろう。ペタはシャワーしたはずなんだが、気を失ってる間に勝手に洗ったから、知らないよな。
「まあ、水浴びだな。そういう設備があるから。使い方は教えるから順番にやっちまおう。ついでに服も洗っとくから」
「なんと……町の貴族の様だな。この小屋にそのような物が」
エジャが感心している。ふっふっふ、本気で驚くのは入ってからだ。狭い中に色々詰まってますよ。
まだ、夕方ぐらいだが、今日の所は探索は終了して、ウチで作戦会議の予定だ。夜の森は危ないからな。狼とかと無理に戦う事はないだろう。
「だが、この様な見晴らしの良い立地で、木の小屋では危険ではないか?」
エジャが言う。それは俺も気になっていた所だ。あのグリードベアみたいな奴が来たら、壁ごと持ってかれそうだし、火をつけられたらよく燃えそうだ。……まあ見たままの小屋だったら、だが。宇宙人がそんな間抜けな家を建てるだろうか。
「だいじょうぶだ!」
ペタが急に弓矢を構え、小屋の壁に撃ち込んだ。いきなり何してくれてんだコイツは。と思う間もなく、矢は壁に弾かれてクルクルと宙を舞う。
「ほら!このいえ、すごくかたいんだ!」
「ペタ、まさかお前、最初に来た時、撃ったのか?」
「うったうった!うったし、けった!」
矢を回収しながら胸を張るペタ。何してくれてんだコイツは。だが、これで不安が減った。どうやら、この家は、外側も壊れない成分で出来ているらしい。火にも強いだろう。一応、後でちょっと炙ってみよう。
「流石、魔法使い族の家という事か……ふむ」
エジャが壁を触りながら呟いている。もう魔法使い族の名前からは逃れられないな。人間って言ってもナンダソレってなるだろうし、今後はそれで通すか。恥ずかしさもそろそろ薄れてきたし。まあ、肉弾戦が主体の魔法使いってのもアリか。……アリなんだろうか?そんなゲーム見たことないぞ。いやでも、俺が出せるライターの火では緑ウサギも倒せないだろう。スマホで撮ったところでいい記念になる程度のものだ。旅のお供にってゆうレベルの魔法使いだ。魔法使いとしては落ちこぼれだ。いい。もう新しいジャンルの、便利な魔法使いとして生きて行こう。
「なーなー、はやく入ろう?」
ペタに腕を引っ張られて我に返った。おっしゃるとおりだ。いつまでも沖縄の暑さの中、突っ立ってる訳にはいかない。早く入って冷たい水とシャワーだ。
カギを開けた瞬間、ペタがドアノブに飛びついた。予想通りだ。そのまま扉を開けさせ、俺が先に入って靴を脱ぐ。次はペタ、最後にエジャが入って来た。
俺は、部屋に上がるとクルっと向きを変えて両手を広げてこう言う。
「ようこそマイホームへ」
靴を勢いよく脱いだペタが俺の脇をすり抜けてベッドに突進する。が、広げていた俺の腕に絡めとられてジタバタしている。両手を広げてたのは読んでたからだよ、このイノシシ娘め。
最後に入ったエジャは、まだ靴を脱いでいない。というか固まっている。
「なぜこんなに涼しい!」ショータイムはこれからですよ。
風呂場から、ペタのキャーキャー言う声が聞こえる。俺は、エジャにトイレの使い方を教えている。ペタには前回教えたから大丈夫だろう。多分。いや、後でもう一回教えておこう。
「水で流れるという訳か……すごい。仕組みが分からない。いや魔法か……」
エジャは何でも驚いてくれる。そして最後は魔法に行きつく。ペタの場合は驚き方がなんだかおかしな方向だから、こうやって普通に驚いてくれると、教えている方も楽しい。
最初に部屋に電気を点けたら「魔法の灯りか!」
コップを出したら「なんだこの美しいガラスは!?」
氷を入れたら「なぜこんな時期に氷が!!」
水を出したら「これがペタの言っていた……本当にいくらでも出るとは!」
水を飲ませてやった一連の流れだけでこれだ。それからも全てにいいリアクションを取ってくれた。そして、その姿をスマホの動画で撮影しておいた。確かテレビに付いてたコードでスマホを繋げれば、テレビ画面にスマホの動画を映せたはずだ。後で上映会だ。さっきなんか、カーテンを開けて地球を見せてやったら、なんか手を組んで泣いていた。ついでだがガラス自体はこっちにも存在する事が分かった。
「きゃーきゃー!」ペタ騒がしいな。
「ぎゃーぎゃー!」子供ってプールとかでも大声出すよな。
「ぎゃー!めがー!めがいたいー!」あ、子供がよくやるアレか。
助けに行きたい所だが……今更ながら道徳とかどうなってるのか気になる。まだトイレを観察しているエジャに、
「ちょっとペタの様子を見たいんだけど、覗いてもいいもんかな?」
と、聞くと、
「ペタぐらいの子供なら、村では普通に裸で水遊びをしている」
と答えてくれた。じゃあ問題ないか。
「んじゃ、ちょっと見て来るわ。あ、そのボタンは触ると結構大変な事になるからやめといたほうがいいぞ」
ズボンの裾と上着の袖をまくりながら、ウオッシュレットのボタンを触ろうとしていたエジャにそう言うと、エジャはビクッと硬直した。後で正しい使い方を教えてやろう。
そして、風呂場を開けると、案の定ペタが顔面泡まみれになっていた。シャンプーハットが欲しいな。
「しっぽがきついー」
ペタがベッドの上でゴロゴロしながら文句を言う。エジャも床に置いたクッションの上でモゾモゾしている。座りが悪いんだろう。
二人ともシャワーを浴びさせてからTシャツとジャージを着せてやった。もちろん尻尾用の穴は開けていない。
「もうすぐ、服が乾くからちょっとだけ我慢してろ」
「服を洗うだけでなく、そんなに短時間で乾かす魔法か。便利だ」
エジャは全て魔法で納得してくれる。そう、俺は便利なタイプの魔法使いだ。
テレビ画面には、エジャのドッキリ映像や、ペタがドライヤーで乾かされながらホコホコした顔をしている映像が流れ続けている。
繋げるのにちょっと苦労したが、やった甲斐があった。ペタは画面にへばりついたり裏を覗いたりしてワーワー騒いだし、エジャは驚きすぎてコケていた。今はもうリピート3回目ぐらいだから落ち着いたようだ。だが、なんだかんだで、まだ目は釘付けだ。
俺は、獲って来た食材を冷蔵庫に放り込んでいる。今日の晩飯は、この山菜やキノコと、エジャが持っていた干し肉を使おう。明日は、何か獲物を持って帰って、焼くなり煮るなりしたい。
そして部屋に帰って来て、俺も驚いた事が2つほどある。
まず、スマホだが、充電しようとしたらバッテリーが100%のままだった。
これはすぐ分かった。部屋の電気と同じだ。エネルギーとみなされて補充されているんだろう。これは便利だ。そして改めて、この部屋の物はできるだけ持ち出さないようにしようと思う。世界がおかしくなる。まあスマホは持って出るけど。
2つ目は、ごみ箱を開けた時に気が付いた。捨てていた5食分のインスタントラーメンの袋、その中身が復活してやがった。スープの素もだ。これにはビビった。
一応、仮説は成り立つ。これもエネルギー扱いされてるって事だ。人の体を構成する為のエネルギー。間違ってはいない。ただ、どのタイミングで補充されたのかはよく分からない。分からないがありがたく頂いておこう。ごみ箱から袋入りのラーメンを取り出して水で袋を洗った。
しかし、そういう事なら、肉や野菜もスーパーで買って冷蔵庫一杯に入れておくべきだった。多分食ったら復活しただろう。先に言っておいて欲しかった。結局、外に獲りにいかなきゃいけないじゃないか。あと味噌と醤油と胡椒も買っとけば良かった。2000年も待ったなら、あと1日ぐらい準備させて欲しかった。
もしかしてと思って、砂糖と塩を半分取り出していた袋を見たが、こちらは復活していなかった。まあタッパーにまだほとんど残っているから、減ったとみなされなかったのかもしれない。宇宙人基準は分からない。
ピーッ、ピーッ、と電子音が鳴った。
「なんだっ!」エジャが飛び上がる。
「あー乾燥が終わったんだ、取ってくるわ」
エジャを手で制して服類を引っ張り出して来た。
「うおおお!ふかふかだ!」
ペタが自分の分の服を抱きしめながらニコニコしている。
「なんかいいにおいもするな!」
「本当に乾いている。凄い」
エジャも驚きつつも満足げだ。早速二人とも着替え始めた。うーん、目の前で普通に脱ぐんだなこいつら。目を逸らしておく。……もう着替え終わったか?
「ペタさんや、なぜTシャツはそのままなのかな?」
「こっちも、きにいったから、もらうな!」何を勝手な事を。
でも1枚ぐらいなら余計にやってもいいか……と思っていたらエジャがスポンっとペタのTシャツを脱がした。
「ペタ。これはハルキ殿の服だ、勝手に奪うのは盗賊と同じだ」
おお、エジャはやっぱり常識人だ。俺は子供に甘いのかもしれない。既に上下ワンセット進呈してしまっている。穴まで開けてだ。まあ、穴を開けた時は正直言うと、そこから尻尾が出ている光景が見たかったというのもある。
「じゃあ、これでかいとろう」
ペタが偉そうに言うと、自分のポーチから銀貨を出してきた。そこに入れてたのか。洗った時にポケットにないと思った。というかそれ俺がやったやつだろうが。
「銀貨は子供には早い。倒した盗賊の持ち物ならハルキ殿の物だ」
エジャに銀貨まで取り上げられた。そしてそのまま俺に戻って来た。ペタがブーブー言いながら、元のTシャツを着ている。うん、この銀貨は後でこっそりペタにやろう。孫にお小遣いをやる爺さんになった感じだ。親に黙ってお小遣い。親にバレたら没収だ。まあ、この場合の親にあたるエジャは、爺さん役の俺より年上だが……年上だよな?そういえば聞いてなかった。見た目で25ぐらいだと思ってたけど地球と同じ感覚だと間違ってるかもしれない。そもそも種族が違うし。
「そういや、エジャって何歳なんだ?」
「ん?25だが」見たままだった。
「ペタはもうすぐ7さいになる6さいだ!」聞いてないがお前も見たままか。
「ハルキはなんさいだ?」
今更の自己紹介みたいになってなんかムズがゆい。はい僕は17さいです。
「みたまんまだな!」俺と同じような事言うな。
「その歳で、あの動きか。ハルキ殿、村で狩人になる気はないか」
エジャからまさかの勧誘だ。だが俺はまだ地球を諦めてはいない。あの宇宙人は俺をテストだと言っていた。なら、奴らが予想できないような何か、この星にふさわしくない何かをすれば、テスト失敗で強制送還とかあるかもしれない。まあ犯罪者になる気はないが。
「いや~ん」とか言いながらウネウネ動いているペタ。お前の旦那になる気もないぞ。という訳で丁重にお断りした。
読んでくださってありがとうございます。
このお話はSFの皮をかぶったファンタジーです。




