神隠し編・責任問題
「……それで……俺が呼ばれた理由を教えて貰えますか?」
何度考えてもここに呼ばれる理由が思い当たらない。
神隠し、の件で呼ばれたにしてもいくらなんでも早すぎないか?
たった、一日でどうこうできるわけないし。
「ふん、その理由はお前が一番よく分かっているんじゃないのか?」
首を傾げる俺に嫌みったらしくそう吐きつけたのは国王ではなく宰相だった。
名前はロノフとかだったっけ?
「……言ってることの意味が分からないんですけど」
心当たりがあるならとっくに言ってる。
というかこの人相変わらず俺のこと嫌いっぽいな。
「はっ、白々しい! 一体どういうつもりだ?」
「どういうつもりって……」
いや、ほんとわけが分からん。
なに?
「貴様が昨日『神隠し』と見られる男をわざと取り逃がしたことは調べがついている!」
「――ッ!?」
……どういうことだ?
なんでこの人俺とハクトが会ったことを知ってる?
昨日の騒ぎのせいか?
いや、真夜中だったし野次馬に来るような奴もいなかった。
ここに来るまでにあそこを通った時人混みが出来てたから今になって大勢が気づいて集まってる状態なはず。
ならなんでこの人は俺とハクトが会ったことを知ってる?
いや、そんなことより……
この人はどこまで知ってる?
「ふん、所詮は盗賊。どうせ欲に目が眩んだのだろう。だが、残念だったな。私の目は欺けん!」
これ以上ないほどの侮蔑の視線を向けながら俺に嘲笑うようにそう吐き捨てるロノフ。
仲間意識の欠片もない。
一応俺も王国の戦力の一部みたいなものなんだけどな……
サクトでも俺を見かけても嫌そうな顔するだけで殺しにかかって来たりしないのに国のブレーンがこれじゃダメなんじゃないのか?
「……欺くも何も単純に捕まえられなかっただけ――」
「分かり切った嘘をつくな! 私の部下がお前を監視して得た情報だ!」
弁明しようとする俺をロノフの怒鳴り声が遮る。
……そもそも監視されてたことすら初耳だよこの野郎。
いつからだ?
昨日から?
それとももっと前から?
……いや、仮に以前から監視していたとしたらグレンが気付かないわけがないからたぶん昨日から、もしくは俺が単独行動を取っている時だけ。
仮に昨日からだとしたら昨日のいつから?
朝からだとしたら俺がルクアに聞きに行ったことも知ってるのか?
もしかしたら王城を出たところからかもしれない。
……まぁそんなことが分かったところで何って話だよな。
今、考えるべきなのはそんなことじゃなくて……
「なんで俺のことを監視なんてさせてたんですか?」
ハクトが神隠しだとばれているのかどうか。
もしばれてるなら後々面倒なことになりかねない。
「ふん、貴様のような賊の事を警戒しておくのは当然の事だろ?」
どうやって探ろうか?
そもそもハクトが神隠しだと気付いると仮定してこの人ならどういう判断を下す?
どれだけの犠牲を払ってでも殺しにいくのか。
必要以上に被害が出ないように交渉でもするのか。
それによって俺の心配の種が一つ増えたり減ったりする。
「……そうですか。……それで誤解があるみたいですけど俺は別に神隠しを取り逃がしたわけじゃなく殺されかけて命からがら助かったってだけの話ですよ?」
「嘘をつくなっ! 私の部下が――」
「それってどこから俺の事見張ってたんですか? もし本当に俺の事を見張ってたなら俺が殺されかけた事を知らないはずはないんですけど」
まぁ、見張ってたってのは本当なんだろう。
じゃなきゃ俺が神隠しと遭遇したことを知ってるわけがないし。
「……知らないわけではない。確かに部下からもそのような報告はあがっている。だが、貴様はそのあと現れた女と神隠しが仲睦まじく帰るのを見送っていたそうじゃないか」
「――ッ!」
……まずいな。
これ普通にハクトのことばれてるかも……
「……そうしないと死にかねませんでしたから。けど、そこまで見てたなら手助けの一つでもしてくれれば良かったんじゃないですか? 結果はともあれ俺は依頼達成に向けて動いてたわけですし」
こっちが死にかけてたってのに助けにくるつもりがないなんて酷い話だ。
いくら俺が嫌いでもそれくらいはしてくれてもいいだろうに。
それじゃあまるで――
「私の部下には貴様のことを監視するという任務があった。貴様のような賊を助けるために私の部下を危険にさらせとでも?」
さも当然とばかりにロノフは俺に向かってそう言葉を返す。
ストレート過ぎない?
もうちょっとオブラートに包んでもいいでしょうに。
俺けっこう傷つきやすいところあるんだから優しくしてほしい。
「……まぁ、あなたが部下想いなのは分かりましたけど、もしあのとき助けに入って貰えていたらたぶんなんとかなってましたよ」
その部下とやらがうまく動けばたぶんだけど捕まえることもできなくはなかったはず。
「はっ! 自らの無能を棚にあげて私の部下に責任転嫁か!?」
「いや、別にそういうつもりはなかったんですけど……。というか『無能』ってことは俺がわざと神隠しを逃がしたって疑いは晴れたと考えてもいいんですよね?」
「な、にをっ! 今のは言葉の綾に過ぎない! 貴様が陛下の意に背き神隠しを逃がしたことには違いないだろ!」
……まぁ、経緯はともかくこの人が言ってることもあながち全部が全部間違ってるわけじゃないんだよな。
実際、俺はハクトを逃がした(じゃなきゃ死んでた)わけだし。
けど、別に国王の意に背いたつもりはない。
国王としてはあいつを殺すだの捕まえるだの以上にあいつによる被害者がこれ以上でないことが一番なんじゃないかと俺は勝手に解釈させて貰ったわけだ。
「貴様は自らの犯した罪の重さを理解しているのか!? 貴様のせいでまたしても神隠しによって罪なき人々が被害を被るかもしれない!」
いや、別にあいつは全くの無害な奴を快楽的に殺してたわけではないと思うんだけど。
だからといって人を殺していいなんて言うつもりは全くないがそれでも理由もなくただ殺すために殺すような奴と一緒にされてしまうのはあいつも心外だろ。
「そして、何よりも貴様は我々の監視下にあったザンクを殺しアストライアの名に泥を塗った賊を取り逃がしたのだぞっ!」
青筋を浮かべ喚くロノフ。
そっちが本題なのな。
まぁこの世界じゃそれが普通なんだよな。
というかどっちにしろ監視下にあった奴を殺されてる時点でアストライアの名に泥塗りたくってるよな。
挙げ句の果てに汚名返上の相手間違ってるし……
「……本当に神隠しがザンクを殺したんですか?」
とりあえずこっちの誤解だけはなんとか解いておきたい。
変なちょっかい出されてハクトがキレたら面倒なことになりそうだし。
「……どういう意味だ?」
「いや、単純に牢屋に入れられてる奴をわざわざ警備を掻い潜ってまで殺す意味が分からないんですけど」
「賊の考えなど私が知るわけがないだろ! そういう意味では貴様には理解できるかもしれんな」
嘲笑うように最後にそう付け加え言葉を返すロノフ。
いちいち嫌み言わないと話進められないのかこの人は。
「じゃあ何を根拠に神隠しがザンクを殺したってことになったんですか?」
「あの独特の殺し方が神隠しがやったという何よりの証拠だ」
「いや、『あの独特の殺し方』とか言われても俺はその現場を見てないんで分からないです。……一度見せてもらってもいいですか?」
ルクアが言うには神隠しがやったにしては歪な形に柵とかが削られてたらしい。
仮にハクトがやったのだとしたら絶対にそうはならない。
まぁそもそもハクトには本人が言っていたようにザンクを殺す理由がないからまずあり得ない話だけど。
どっちにしても見れば分かる話だ。
この人が怒りを向ける相手は別にいるってことを教えて神隠しのことは忘れて貰わないと。
しかし、俺のそんな目論みは次のロノフの言葉であっさりと消え去った。
「……すでに現場は片付けてある」
「……は? 片付けたってどういう――」
「そのままの意味だ。あれをそのままの状態にしておく必要が一体どこにある? あんな不名誉な物を」
「何言って……! もっときちんと調べるべきじゃないんですか!?」
「その必要はない。神隠しがやったことに違いないのだからな」
「そんな決め付けるような――」
「話をすり替えるな!! 今話すべきなのは貴様がそのような大罪人を意図的に取り逃がしたという一点のみだ!」
俺の声は反論を許さないロノフの大声に塗り潰された。
この人ほんとになにやってんだ?
普通もっと調べるだろ?
それを決め付けるようなことして何になる?
そんなことだからグレンみたいな無実の奴が犯罪者扱いされるんだろうが……!
「俺は――」
「もういい!! また論点をすり替えるつもりだろうがそうはいかんぞっ! 貴様のやったことは到底許されることではない! 不敬罪だ! 貴様のような逆賊は死刑だ!」
「…………はぁ!? んな……」
あまりにも滅茶苦茶なことを言うロノフに呆れて一瞬固まる俺。
なにこれ?
デジャブ?
なんか前にも同じようなことあったような……
「……大体そんなこといくらあなたが偉くても一人で決めていいことじゃ――」
「陛下も賛同している」
「……え?」
俺は思わず視線を今まで一言も言葉を発してこなかった国王に向ける。
いや……なんで……?
おかしいだろ……
なんで国王が一言も喋ってないんだよ……
「あの国王様……」
ほんの数日前に見た時と同じ疲れているような顔。
けど……なんか……なんだ?
「陛下、この逆賊は死刑でよろしいのですよね?」
ロノフが問う。
バカげている。
そんなことがあるわけがない。
どう考えてもこの人が言ってることはめちゃくちゃだ。
だけど、なのに、国王は……
「あぁ、たしかに余はアキを死刑にすべきだと言った」
疲れたような目をしてそう言った。
次回の更新は二日後とさせて頂きます。




