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異世界ハーレムはただしイケメンに限る  作者: 日暮キルハ
二章 守るためなら何をしてもいいのか?

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神隠し編・桜庭白音という少年8

 目覚め、というものは人によってそれぞれ違うと僕は思っている。


 水中から水面へと上昇していくのに似ているという人もいれば、スイッチを入れられたみたいに不意に目が覚めるという人も居るだろう。


 ちなみに僕だと意識はそれこそスイッチが入ったみたいに覚醒するけれど体が置いてきぼりでじわじわ体と意識が繋がっていくような感じだ。


 それはたとえボコボコにされて意識を失った後の目覚めでも変わらなくて……


「…………ん?」


 意識が戻り、僕が目にしたのはいつもと違う天井だった。

 そして、なぜ知らない天井が上にあるのかを理解するより早く次は自分の体がやけに重たいことに気付いた。


 目が覚めた時は大概体がだるくて重いのだけどこれはそういうのというよりは実際に何かがか体の上に乗っているような、そういう重さだ。

 何が乗っているのかめんどくさいながらも確認するために首だけを動かして視線をそちらに向ける。

 

「……ん……」


 ルカが僕の上に突っ伏すようにして寝ていた。

 そして、それと同時に自分が意識を失う前までにあったことを思い出す。


「……案外僕って頑丈なんだ……」


 体のいたるところが包帯で巻いてあったりするものの痛みという物は一切なく最後に自分で見た自分の様子よりはよっぽど元気だ。 


 ……いや、もしかしたら光属性が使える人が回復魔法をかけてくれたという可能性もある。

 そうだとしたらそれでも治らないほど酷いけがだったってことになるけど……


 まぁけがの程度に関してはとりあえず今は置いといて……


「ルカ、起きて」


 ルカを起こさないと…… 

 ルカが起きてくれないと僕が動けない。

 詳しい状況が確認したい。


 意識を失う前ルカがこっちに来るのが見えたような気がした。

 ……これが気のせいだったらと思うとぞっとするね。

 

 だってそんな幻を見るくらいにはルカに依存しているということになってしまう。

 ……確かにルカには助けられてる。

 ルカがいなければそれこそ僕はあの時魔獣に食い殺されていただろう。

 そうでなくても職に就けずにどこかで野垂れ死んで居たかもしれない。


 ……この一月、本当に楽しかった。

 お父さんが生きていた時の生活が戻ったみたいに世界が明るかった。

 ルカもエレナさんもルカのお父さんであるルイスさんもコレットにも本当に良くしてもらった。

 エレナさんに褒められるたびに、ルイスさんに話しかけられるたびに、コレットに甘えられるたびに、ルカが笑うたびに、あったかくなるような……そんな言い表しようのない幸せに心が満ちた。


 ……だからこそ僕はもう一緒に居てはいけない。

 これ以上一緒に居ればきっと僕は……もうそれを手放せなくなる。

 

 その先にあるのは……きっと僕のせいで誰かが不幸になる、そんな未来だ。

 僕は欠陥品だから。

 そんな僕ときちんと心が通ったルカ達ではいつか決定的な『歪み』が生じるのが目に見えているから。


 それがお母さんを壊した。

 もう二度とあんなのはごめんだ……


 あんな目にもう一度合うくらいなら……


 ずっと一人でいる方がよっぽどましだ。


「ん、目覚ましたか」


「……えっと……あなたは?」


 ルカを起こそうとする僕にかけられた声。

 それにつられ声のした方に顔を向けるとそこにはガタイのいい冒険者と思われる男の人が立っていた。


「俺はドルガっていう。色々あってお前の看病に駆り出されたかわいそうな冒険者だ。感謝しろよ?」


 男の人、もといドルガさんは渋い顔でそう言うと「なんか俺ばっかりこういう目に合うよな……」とぼやきながら僕の寝ているベッドの側まで歩を進めた。


「体調は?」


「……痛いところはないですね」


「そうか」


「はい」


 沈黙が流れる。

 決して居心地の悪いそれではない。

 というより僕が会話をするとこうなることが結構な頻度であるのでそもそも僕はあまりそれを居心地が悪いと思うことがない。


 とはいえ今のこの状況。

 ドルガさんが何も聞いてこないのならこちらとしてはいくつか聞いておきたいことがある。 


「あの――」


「嬢ちゃんにも感謝しておけよ?」


 ……被った。


 いや、まぁいい。

 別に僕の話は聞こうと思えばいつでも聞ける話だし、今ドルガさんが切り出した話も僕の聞きたいこととそうずれているとは思えない。


「ルカに感謝ですか?」


 日頃からお世話になっているとは思っているがドルガさんが言っているのはそういうことではないだろう。

 そんなことを突然言い始めるとは思えないし十中八九この状況に関してだ。


「酷い慌てようだったんだぞ? それこそいつもの様子からは考えられないくらいにな」


「そう……ですか……」


 言われてみれば寝ているルカの頬には何やら泣いた後のような様子が見て取れる。

 

「……詳しく教えて貰えますか? 何があったのか」


「……ま、そのためにわざわざ様子見に来てやってるようなもんだからな」


 ドルガさんは一言そうこぼすとそのまま事の次第を話し始めた。


★★★★★


「……おい……嬢ちゃん! お前……知ってるのか?」


 きっかけは俺のその一言だった。

 我ながらお節介なことこのうえないと思う。

 だからこそこれまで黙っていて今だって本当に言うべきなのか迷っているのだ。


 だが、決めた。

 俺は言う。

 あいつのプライドはへし折ることになるかもしれんがそれでもこのままあれを放置するのは一人の大人としての対応とはとても思えんからだ。


「ん? 何のこと?」


「――ッおい、ドルガ……」


 首を傾げる嬢ちゃんに俺を止めようと声をかける冒険者仲間。

 だがここで止まるつもりなんてもんは当然ない。


「嬢ちゃんが最近連れてくることのある奴なんだがな」


「ハクトのこと?」


「おう、そのハクトの話なんだが……」


「……?」


「……率直に言うとハクトとやらは嬢ちゃんの追っかけにここに来るたびに殴られてるぞ」


 そう言い切った俺を依頼も受けず酒ばっか飲んでるバカ共が頭を抱えながらため息交じりに見てくる。

 なんか異様に腹たつな。


「……え? なに言ってるの? どういうこと?」


 一人一切状況が理解できていない様子の嬢ちゃん。

 ……案の定把握してなかったか。


「どういうことも何もそのまんまの意味だ。」


「でも……ハクトそんなこと一言も――」


「どこの男が女にお前が原因で自分が殴られてるなんて言えるかよ」


「でも……でもっ……じゃあなんで今まで誰も教えて――」


「せっかく耐えてるってのにそれをわざわざ台無しにするような無粋な奴はここにはいねえよ」


「そんな、そんなのっ!」


「それよりいいのか? たぶん今もそこの裏路地で殴られてると思うぞ」


「――ッ! ……ハクトッ……」


 理解できないと言ったような表情から俺の言葉に一瞬で青ざめると短くそうこぼし嬢ちゃんはギルドを出ていった。


「……無粋な奴め」


「……ほっとけ」


 ジト目を向けるバカ共にそっけなくそう返す。

 分かっている。

 これでは誰も救われないことくらい。

 

 それでも俺には全員を救う方法なんてとてもじゃないが思い浮かびそうになかった。

 だからこそせめて……せめてこんなくだらないことでこの二人が仲違いするようなふざけた結果だけは避けたかった。


 ……本当に無粋だっただろうけどな。


「絶対にあの自称『ルカちゃん親衛隊』の奴らの恨み買うことになったぞ?」


「だろうな」


「……損する奴め」


「……間違いなく一番損してるのはあのハクトって奴だろ? せっかく隠してただろうに俺のせいで全部ばれちまっただろうからな」


「ハハッ! そりゃ違いねえ!! 謝っとけよドルガ!」


「へいへい……なんて謝るかね……」


 あのハクトって奴にもだけど嬢ちゃんにも謝っとかないと後が面倒くさそうだよな。

 ……なんか本当に貧乏くじ引いたか?


「た、たたた助けてっ!! ハ、ハクトが!! ハクトがぁっ!」


 考え込む俺を遮り割り込んで聞こえた嬢ちゃんの声。

 普段と違い焦り、泣きそうなその声に驚きつつも嬢ちゃんに視線を向けすぐにその理由を理解する。

 想像の何倍もハクトは酷い状態だった。


 腕は確実に折れている。

 全身傷だらけのボロボロでもしかしたら内蔵をやられてる可能性があるかもしれない。

 あいつらがこんな目立つ外傷を残すような暴力の振るい方を……?

 何があったんだ? 


「――ッ!? とりあえずこっちに運べ!!」


 俺はギルドが緊急の場合用に用意しているベッドに二人を案内した。


★★★★★


「まぁそんなわけでそのあとギルドマスターが呼んでくれた回復術師とギルドに備えつけてある薬のおかげでお前はそれなりに今元気で居られるってわけだ」


 そう言ってドルガさんは話を締めくくった。


「えっと……要するにドルガさんがルカに僕の状況を教えてそれでルカが僕を助けに来たってことですよね。……あの人たちは?」


「冒険者資格はく奪だな。まぁ当然だろ。嬢ちゃんが入らなければ人ひとり殺すことになってたわけだからな」


「……そうですか」


 本当に僕はだめだな……

 結局ルカに助けられてしまってるじゃないか。

 結局ルカを泣かせてしまってるじゃないか。

 結局ルカを不幸にしてしまってるじゃないか。


 愛おしいような、くすぐったいような、辛いような、苦いような、苦しいような、そんな想いで何となく唯一自由に動かせる右腕を使ってルカのオレンジ色の髪をなでる。


「んぅ? ……ハ、クト? ……ハクト!? 大丈夫!? けがは!? どこも痛くない!?」


 起こしてしまったらしい。


 まぁちょうど良かったとも言える。


「……ねえ、ルカ」


 ありがとう。


「なに!? どこか痛いところある!?」


 ごめんね。


「ううん、違うんだ。そうじゃなくてね……」


 僕は君が……


「この一月、本当にお世話になりました」


 きっと君の事が……


「僕はもう……『ビアンカ』には戻れない」


 大切で仕方ないんだ。

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