神隠し編・桜庭白音という少年7
「おい、俺達二度と来るなって忠告してやったよな? なに? そんなに殺されたいの?」
ギルドを出て徒歩一分の裏路地で僕は屈強な冒険者達に囲まれていた。
……こうなるのが目に見えていたからここには来たくなかったんだよね……
「おいっ!! 聞いてんのか!?」
「……はい」
初めてここに来た時からなんかやけに視線を感じるとは思っていた。
そして、その理由はすぐに分かった。
ルカが可愛いせいだ。
どうにもルカは冒険者の中で何と言うか……アイドル的存在らしい。
僕みたいな得体のしれない奴に優しく接するようないい子で容姿もいいのだからそうなるのは当たり前といえば当たり前の話なのかもしれない。
そして、そんなアイドルがいつもは一人なのに急に隣に見覚えのない奴を連れるようになったのが気に入らない人が出てくるのも勘弁してほしいとは思うけど止む負えない事なのだろう。
だからと言ってくるたびにこうやって囲まれるこっちの身にもなって欲しいものだけど……
大体ルカにだって問題があると思う。
あの子は僕と同い年のはずなのにどう考えてもお子様なのだ。
そのせいもあって決心をつけた人がアタックしても全くと言っていいほどになびかないらしい。
なびかないだけならまだしも口説かれていることに気付きすらしないらしい。
それでももっと積極的に伝えればいいとは思うのだけど、一度酔った冒険者が「ルカちゃん愛してるー♡♡」と言いながらルパンダイブをかまして身の危険を感じたルカに壁にめり込まされるという事件があったらしくそれ以来誰も果敢に挑戦することができなくなっているらしい。
まぁ、僕としてはろくに話したこともないのに見た目だけでそんなことをすること自体意味がよく分からないのだけど。
本当にルカがどんな子なのか理解してるのかな?
可愛いだけじゃないよ?
……いや、僕も「お前が何を知ってるんだよ」と言われればこれといって何かを知ってるわけではないのだけど。
話が逸れたね。
まぁ要するに僕はルカの親衛隊?ファン?……よく分からないけどそういう人に凄い嫌われてるしルカに近づくなって言われているのだ。あとギルドにも。
一緒に住んでるなんて知られたら殺されるかもしれないね。
ルカの実家の宿屋、『ビアンカ』の周りでこの人達がうろついているので姿を見たら一瞬で隠れるようにはしているけれど……正直いつばれるか恐怖しかない。
……というかここまで来るともはやストーカーと変わりないのではないかとも思わないでもないけどそれを口にするほど僕は考えなしではない。
揉め事はごめんだ。
「殴られねえと分かんねえのかっ!? こっちはいつでもお前みたいな雑魚冒険者ボコボコにできるんだぞ!?」
これが揉め事ではないのかと言われてしまうと何も言えないのだけど。
それにしてもこの人達も少しは違うことが言えないのだろうか?
毎度毎度同じことを言われているといい加減何も感じなくなってくる。
「オイッ! てめえシカトこいてんじゃねえよっ!! なめてんのかっ!?」
……別に無視したつもりはないのだけど。
大柄な冒険者に胸倉を掴まれ僕の体が軽く浮く。
先に言っておくけど別に僕が軽いとかじゃなくてこの冒険者がそれだけの力を持ってるってだけだからね?
変な誤解しないでよ?
「い、え……別に、そんなつもりじゃ……」
胸倉を掴まれてるせいか若干の言いずらさを感じながらも僕は冒険者にそう告げる。
「なら今ここで誓えっ!! 二度とここに来ません。二度とルカちゃんに会いません。 オラッ! 早く!!」
……また、これだ。
ちなみに誓ったところで服などで見えないところに殴る蹴るの暴行を受ける。
誓わないと言うと誓うまで同じ目に合うことになる。
決して見える場所に傷を作らないところがこの人達が小心者であることを顕著に表していると言えるだろう。
「誓います――ガハッ……! ……ゴホッゴホッ……グッ……!」
案の定誓った瞬間僕を持ち上げている冒険者の膝が僕の鳩尾に刺さる。
息の止まるような痛さに地面に落とされた僕は体を丸め蹴られた箇所を手で覆う。
「てめえみてえな雑魚がよぉッ!! ルカちゃんの隣なんてふざけてんじゃねえぞッ!! この身の程知らずがっ!!」
「なんでっ!! なんで俺は一度も話したことねえのにてめえみたいな女みたいな奴がルカちゃんと楽しそうに話してんだッ!! ふざけんなッ!! ふざけんなッ!!」
「雑魚は黙って地面なめてりゃいいんだよッ!! 俺らのルカちゃんに汚ねえ手で触れてんじゃねえ!!」
倒れ込む僕に複数人の蹴りと罵声が浴びせられる。
痛い、苦しい、惨めだ……
……きっとこれは僕がルカの元を離れて冒険者をやめればなくなるのだと思う。
けどそれはできない。
きっとこれは僕への罰なんだ。
大事な人を不幸にした僕への。
大事な人が原因でこんな目に合うなんてそうとしか考えられ――
「……ふふっ」
「「「――ッ!?」」」
……大事な人……か。
「……ルカ……」
「「「――ッ! てめえ!!」」」
そっか……いつの間にか……
ダメだね……
もうこれ以上いたら。
本当にこれ以上は。
「なに笑ってやがるッ!? このキチガイがッ!!」
「し、死ねっ!! 死ね死ね死ねッッ!!!」
「お前マジでムカつくんだよっ!! 二度と笑えなくしてやろうかッ!?」
ほとんど無意識のうちに発した僕の言葉が気に食わなかったのか更に僕への攻撃がヒートアップする冒険者達。
いつも以上に容赦なく振り下ろされる蹴りと罵倒。
なんだか目がどう見てもおかしい人がいるのだけど大丈夫だろうか?
別に怒らせようと思ったわけじゃなかったのだけど……
――ふと左腕に違和感を感じる。
顔は動かさず視線だけをそちらに向けると左腕は普通曲がらない方向に曲がっていた。
気付けばいつもは無傷なはずの箇所にもあざができていた。
……僕はよっぽど彼らにとって許せない事をしたらしい。
完全に理性がとんでしまっている。
僕を殺す気なのだろうか。
……反撃できないことはない。
ルカにそれとなく聞いた感じだと僕はどうにも人より優れたステータスを持っているらしいし魔力に関しては自分でもどうかしてると思うくらい豊富だ。
力や速さなんかはルカによっぽど劣っているけれどこの魔力はかなり有用だと思う。
適性が一属性しかなかったのは本当に悔やまれるけれど。
少し話が逸れた。
ともかく僕はステータスが他の人より豊富だ。
それでもさすがにずっとこうやって蹴られ続ければ死ぬだろうけどその前にそれを何とかする方法はいくらでもある。
それにいざとなれば生存本能が勝手に発動するだろう。
……けど、そんなことをして生きて一体何になる?
はじめはもう一度この世界でやり直すチャンスを与えられたのだと思った。
けど、今こうして蹴られていて思う。
このためにこの一月という時間があったのではないかと。
それに……仮に今この状況を抜け出したとして僕はもうルカの元には居られない。
気付いた時には手遅れだった。
いつの間にか……僕の中でルカは大事な人になってしまっていた。
この一月という時間が悪いのだ。
それも含めてこれは罪なのだろう。
大事な人を得て楽しい日々を過ごし……そして、それが原因となり極めて痛みの伴う死を与えられる。
大事な人を不幸にした僕にふさわしい罰だ。
「ハハ……ハハハ……」
「――ッ!? くたばりやがれ!! 『ファイアボール』!!」
乾いた笑みを浮かべる僕に放たれる火球。
……遅い。
たぶん生存本能のせいだろう。
いいのに。
僕はもう死ぬべきなんだ。
…………三秒って長いね。
「『ウォータボール』!! ハクト!!!」
……ルカが見える。
今まで見たことないくらい怯えた表情をしたルカが。
火球が水球に消され、少し冷たい風が僕の顔をなでる。
駆け寄ってくるルカが見える。
あれは……泣いてるのかな?
僕の体に触れて何か言ってるみたいだけど……ごめん、何言ってるか全然わかんないや……
泣かないでよ……僕は……僕はもう嫌なんだよ……
謝らないでよ……違うんだよ……違うんだよルカ。
「僕はもう……」
死ぬべきなんだよ。
それを最後に僕の世界が黒く染まった。
10話でハクトのこれまでをまとめる予定でしたがどう考えても内容が薄くなるので神隠し編が終わったあとに番外編などでハクトがルカのところで暮らしはじめてからの話とかを改めていれると思います。




