神隠し編・桜庭白音という少年5
「……ステータスカード?」
「うん、たぶん持ってると思うんだけど……」
部屋の案内を受けている最中ルカが僕に「ステータスカードを見てみれば名前以外にも何か分かるんじゃないかな!?」と言った。
なんでもこの世界に生きている人間ならまず誰でも持っているものらしい。
レベル、経験値、魔法、とツッコミどころは万歳だったけどあえて黙っておいた。
この世界ではそれが普通の事だというのならもう順応するしかない。
「ステータスカード……」
生憎そんなものは持っていないはずだけど……
「特殊な素材で作られてて一回作ったら無くしても捨てても勝手に手元に戻ってくるようになってるから持ってないことはないと思うんだけど……」
……なにげにすごい話だけどそれって結局は作ってなかったら手元にはないってことだよね?当たり前だけど。
「作った覚えもないしたぶん僕は――」
――持ってないと思う。と言おうとしなんとなくポケットに突っ込んだ手が何かに触れる。
取り出してみるとそれは持っている覚えのないカードのような何かだった。
あと、今更だけど……
「薄い……」
この服なに?
そもそもこれ服なんて言える代物じゃないよね?
薄すぎない?
というか今まではそれどころじゃなかったから気づかなかったけど冷静に考えたら僕こんな透けそうな服で歩いてたのか……
「あ、やっぱり薄いよね!? 人の趣味に口出すのはどうかと思って黙ってたんだけど……」
「その気遣いが辛い……」
ここに来るまでにすれ違った人が皆二度見してたの僕のせいだったのかな?
……いや、あれはたぶんルカが僕を引きずりながら走ってたからだね。
「とりあえず私の服で良いよね!?」
「…………やっぱり服を買うお金が貯まるまではこの服で良い」
なんの羞恥プレイだろうか?
ルカの服ってそれ要するに女物の服だよね?
それを着て人前に出ろと?
生憎僕に女装癖はないのだけど。
「大丈夫!! ハクトは女の子みたいな顔してるし細身だから絶対似合うよ!」
「それ僕の尊厳は全然大丈夫じゃないよね?」
一番守りたい物が全く守れてない。
「一回だけ! 一回だけでいいから着てみよ? 大丈夫! 本当に一回だけだから!!」
「何も大丈夫じゃないしそれ絶対一回で済まない奴だよね?」
その後、僕とルカによる攻防が繰り広げられたことはここでは割愛したいと思う。
……まさか女の子に力負けするなんて……
「それで……ステータスカードって……これでいいんだよね?」
「うん! それだよそれ!!」
息を荒げながらそう問う僕に対して息一つ乱さずルカがそう返す。
どういうフィジカルしてるのさ……
「それにレベルとか名前とか書いてあるでしょ!?」
「……うん……書いてある……けど……」
これは……どういうことなのだろうか?
ハクト・サクラバ
Lv.1(MAX)
Next. error?
HP. 2000/2000 MP. 10000/10000
魔法
ユニーク
【生存本能】MP. 1000
【虚無縹渺】MP. 5000
なんか思ってたのと違う。
レベルが1なのはここに来たばかりなのだから仕方がないと思う。
けど……なんでレベル1ですでに最大になってる?
これ以上の成長はできないってこと?
それにこの魔法なに?
分からないことが増えただけのような……
「カードの色は白だから……無職みたいだね」
「ちょっと待って弁解させて」
その「うわぁ……」みたいな目やめて。
職探しなんてしてる暇がなかっただけでこの世界で生まれていたならきちんと職にも就いていたはずだから。
……たぶん。
「それで名前以外に何か分かったことはある?」
「あー、いや……う~ん……」
分かったことどころか分からないことだらけなんだけど……
「ねぇ、ルカ」
「なに!?」
「レベルって1が最高でそこからは上がらないものなの?」
「…………何言ってるの?」
「…………ごめん、何でもない」
僕が悪かったからそのバカを見るような目はやめて。
「……本当に大丈夫?」
「……大丈夫」
だからって本気で心配そうな顔されるのも結構精神的に堪えるものがあるね。
「あっ、そうだ!! ハクト無職なんだったら私と一緒に『冒険者』やろうよ!」
いや、あんまり心配の方はされてなかったっぽい。
「冒険者?」
たしかルカははじめ僕をそれと勘違いしてたよね。
「そうだよ! すっごいワクワクするしやりごたえもあるしうまくいけば一攫千金の職業だよ!! それにねそれにね――」
……危険な香りがするのは気のせいだろうか?
「それって危険とかは……?」
僕がそう口にした途端、調子よくしゃべっていたはずのルカの表情が固まり露骨に僕から目を逸らす。
まぁ、冒険者って名前からして予想はついてたけどやっぱり危険なんだね。
「た、たしかにちょっとは危険もあるけど本当にいい職業なんだよ!! もし不安だったら私とパーティ組んで一緒にやればいいんだよ!! これでも私はBランクの冒険者だからね! ちょっとくらいの危険ならなんてことないよ!!」
ものすごい勢いで勧誘(?)を始めるルカ。
よほど僕を冒険者にしたいと見える。
やっぱり言っておくべきだろうか……
……言っておくべきだよね。
「ルカ……聞いて」
僕はお世話になるつもりはないって言わないと……
……いや、すでに助けてもらって色んなこと教えて貰ったんだけどさ……
「僕は――」
「ダメだよ!!」
「……まだ何も言ってないんだけど……」
「どうせまだお世話になるのは……とか言うつもりでしょ!? 絶対だめだからね!! 勝手に出てくなんてことしたら見つかるまでずっと探すから!! 餓死するまでずっと探してやる!!」
息を荒げ一呼吸でそう言い切るとルカはガッと僕の手を掴んだ。
分からない……何がこの子にこんな見ず知らずの人間を助けようとさせるんだ?
なんでこの子は……僕を見捨ててくれないんだ……
僕はもう僕のせいで誰かが不幸になるのなんて見たくないのに……
お父さんやお母さんみたいになってしまう人をもう見たくないのに……
「ハクトはきっと凄い冒険者になれる! 森で魔獣に襲われてた時に確信したんだからね!!」
顔を近づけ心なしか目を輝かせルカはそう言った。
何を……僕はただ殺されかけてただけなのに……
「買い被りだよ……ルカが助けてくれなかったらたぶん僕は今頃生きてないだろうし」
そう、ただの買い被りだ。
僕にそんな素質があるわけがない。
僕は欠陥品なんだ……
「絶対ある!! 間違いない!!」
「――ッ、何を根拠にそんな……」
ない。
ないに決まってる。
だからもうやめてよ。
僕は何も得られないし求めもしない。
そうやって生きていくのが僕の為でもあって皆の為でも――
「根拠だってあるよ!! だってあの時ハクトは殺されるかもしれないのに全然目を逸らさなかったもん!! 殺されかけても全然動揺しないなんて普通できないよ!!」
「……それは――」
「ルカ!! あんたうるさいっ!!」
自分の生死なんてどうでも良かったから。と答えようとする僕を遮りルカのお母さんの怒声が響き渡る。
……どうにも僕たちはかなり大声になってたらしい。
じゃなきゃあんなにやさしそうな雰囲気だったルカのお母さんがこんな般若みたいな顔になるわけないもの……
「それとハクト!!」
「は、はい!」
般若がこちらに目を向けた。
蛇に睨まれた蛙ということわざの意味が身に染みるようによく分かる。
「今の話、勝手に聞かせてもらってたけどね、勝手に出てくなんてことしたら私はあんたみたいな一文無しどころか記憶すらろくにない子供を見捨てることになるんだよ!? そんな罪悪感を私に背負わせる気じゃないでしょうね!? それにルカに助けてもらったって思ってるんだったらせめてその恩くらいは返す気概を男なら見せなさい!! あんたは貰った恩を仇で返すようなことがしたいの!?」
「――ッ……その……すいませんでした……僕の考えが甘かったです……」
甘すぎた。
本当に甘すぎた。
何にも分かってなかった。
言われてはじめて気づくことができた。
言われなきゃ何も気づけなかった。
きっと今出ていったところでこの人達は良い人だから余計な心配をかけて余計な手間を掛けさせることになる。
それを何が「もう誰も僕のせいで不幸になって欲しくない」だ。
勘違いも甚だしい。
もう迷惑はとっくにかけてて今の僕はそれから逃げようとしていたにすぎない。
そんなのは絶対嫌でダメだ。
「分かった!? 分かったら言うことがあるんじゃないの!?」
「……改めて……今日からお世話になります……」
少なくとも僕が一人でも心配されないくらいには個々の事を知って、受けた恩を返せたと思えるまではお世話になろう。
……頼むから……僕にこれ以上誰も不幸にさせないで……
「よし!! 話もまとまったことだしギルドに冒険者登録に行こう! すぐ行こう!!」
「え、ちょっ、待――」
せめて自分で走らせてほしい。
そう思いながら僕はまたしても半ば引きずられるようにしながらルカと冒険者登録をしにギルドに向かうことになった。
そのあと、勢いでランクがEにあがるまで散々引きずり回されたことがそれから一週間ほど僕の足をギルドから遠ざけさせたことは言うまでもないだろう。




