そして自称勇者は正しさを求める
今日中にもう一本、短いとはいえ書けるかしら。
僕には両親がいなかった。
僕を生んでから二月もしないうちに交通事故で死んだらしい。
だから、僕は施設で育った。
そして、そのせいか周りは僕を嫌なものを見るような目でいつも見てきた。
そんな僕の唯一の友達は本だった。
ある日、一冊の本を読んだ。
勇者がその圧倒的な力を使い魔王という『悪』を倒す、そんなおとぎ話だ。
その本の中で勇者はいつでも『正しかった』
その力と知恵の限りを尽くして民を守った。
たとえそれが勇者を誤解し非難する愚民でも守った。
勇者は彼の全てをかけて誰一人傷つかない『正しさ』で守ったのだ。
そんな『正しい』彼の周りは人で溢れていた。
圧倒的な力と知恵で『正しい』選択をする勇者は何も持っていない僕にはただただ眩しかった。
自分もそんな勇者になりたかった。
そうすれば誰かが僕をしたってくれるかもしれないから。
『正しく』あれば誰かが側にいてくれるかもしれないから。
けど、そのために必要な力も知恵も僕にはなかった。
だから、必死になってその両方を手にいれようとあがいた。
勉強と運動にほとんどの時間を費やした。
遊ぶ時間なんてものは当然、それ以外にも極力食事や睡眠の時間すら削った。
そうして、僕は学校一の秀才にして学校でも随一の運動神経の持ち主になった。
これで、全てうまくいくと思っていた。
誰でも救うことができると思っていた。
憧れた勇者になれると思っていた。
けど、現実はそんな甘くなかった。
ある日、クラスでイジメが起きていることに僕は気づいた。
原因は単純。
いじめられていた子は他より劣っていた。
それだけだった。
なぜ、他より劣っているからいじめるのだろうか?
力や知恵は人を守るために使うものではないのか?
それが『正しい』ことではないのだろうか?
……分からないけど、きっとこれは止めることが『正しい』ことだ。
だから、僕は僕の全力を尽くしてイジメをとめた。
必要な暴力を使って。
必要な根回しを行って。
イジメという『悪』を潰すために僕の力と知恵の限りを尽くした。
結果、イジメはなくなった。
僕は、正しいことをしたはずだ。
……なのに、僕の居場所は、やはりなかった。
それどころか僕は責められた。
曰く、やりすぎだ、と。
曰く、両親がいないからだ、と。
曰く、人の心を持っていない、と。
分からない。
両親がいないことと僕の『正しさ』に何か関係があるのだろうか?
それとも僕は『正しく』なかったのだろうか?
……いや、テレビでも本でもイジメはよくないことだとあった。
なら僕のしたことは『正しい』はずだ。
なのに……なぜ……?
分からない。
そして、分からないまま僕は刺された。
刺したのは、僕が行ったことによって全てを失い学校を退学になった元クラスメイトだった。
薄れゆく意識のなかで彼は言っていた。
「お前のせいだ……お前がいたせいで……お前のせいで俺の人生はもう終わりだ! ……なんで、なんで俺がこんな目に……っ」
……何を言っているのだろうか?
もし、僕が止めなければいじめられていた彼は死んでいたかもしれない。
なのにどうしてこいつは僕が『悪』のような反応をするのだろうか?
僕は……間違っていなかったはずだ。
ではなぜこいつは僕を『悪』だとする?
周囲の奴らは僕を『悪』だとする?
……あぁ、そうか。
そんなの考えるまでもない。
こいつらが……愚民だからだ。
僕のしたことを理解できない愚民だからだ。
僕の『正しさ』が理解できない愚民だからだ。
僕はきっととっくに勇者になっていたんだ。
だったら僕が教えてやるよ。
お前ら愚民に『正しさ』ってやつを。
この勇者が『正しさ』でお前ら愚民を守ってやるよ。
絶対にな。
それを最後に思考はパタリと途絶え、気がつけば異世界に行くことになっていた。
そして今、そんな自称勇者の前には姫がいた。
まさか、あの人相の悪いチンピラから助けた女の子がこの国の姫だったとはな。
まぁ、異世界転生物の小説なんかではよくある展開か。
にしてもあのチンピラ……僕の拳を受けて無事とは、とんでもないな。
人間程度、本気で殴れば森で殺した魔獣みたいに簡単に殺せるはずなのに。
まぁ、所詮はチンピラ。
誤解だとか言ってはいたが、結局はこの姫様に脅しでもかけて本当のことは言わないようにでもしたのだろう。
それよりも今の僕にはやらなければいけないことがある。
「姫君!」
「はい? なんですか?」
小首を傾げる姫君ことルクア。
「どうか、この榊錯人に貴女を守らせていただけないでしょうか?」
王族の側にいればそれだけ多くの『悪』を潰せる。
そして、僕の『正しさ』を思い知らせてやる。
絶対に守ってやるよ。
愚民ども
勇者になりたかった少年は気付けない。
正しさには人の数ほど種類があることを。
自分が正しいことを疑わない愚かさを。
そして、自らの過ちに気付くことのできない者に何かを守ることなどできないということを。




