パーティでのあれこれ(後編の後編編)
…………は?
えっと……あれか?
あの二人そういう関係だったのか……?
いや、美男美女でお似合いだとは思うんだけどさ……
えー……
「……いや、きっと誤解だな……」
「で、でもアキ、あれはどう見ても……」
「ばっか、まだ分かんないだろ!?というかあの二人が本当にそういう関係だったら俺が困るんだよ!主に明日からの接し方とかでさ!」
というかそれが唯一にして最大の問題だ!!
そもそもこれって俺以外の奴は知ってたのか!?
もし俺以外は皆知ってて俺だけハブられてたとかだったら絶対家出してやる!!
二日くらい帰ってやらないんだからな!!
「どうでもいいから早く入れ」
「バカ!入れるわけないだろ!!気まずすぎるわ!!」
「だから入れって言ってるんだろうが」
「お前ほんと嫌な奴だな!!」
「ちょっ!アキ!見て!あれ見て!」
扉を開けようとするサクトを抑えながら罵られていると唐突にルクアに肩をバシバシ叩かれながら呼ばれる。
意外に力強いな……
「なに?どうかしたの?」
「あれ見て!あれってどう見ても赤くなってるよね!?」
「どれどれ…………あー……なってるな……」
いつものクールなヘレナさんはなりを潜めほのかに頬を赤く染め目もなんだか潤んでいる。
……なんというか……恋する乙女って感じなんですけど……
「あの堅物なグレンがあんな綺麗な人と付き合ってたなんて……」
「ん?グレンってそんな堅物だったのか?」
あいつの騎士時代の話なんて碌に聞いたことないな……
「えぇ、ほんとに堅物を絵に描いたような堅物でしたよ!私の――」
『おい、貴様ら!!なんてことを……なんてことをしてくれたんだ!!』
突然中から喚くような声が聞こえる。
「なに?誰?」
「あれは……エルバですね……」
「えっと……あぁ俺に罵声浴びせてきた人か……」
「……私が席を外した時ですか?」
「ん?……たぶんそうかな?」
「そうですか……」
俺にそう返したルクアの声はいくらか冷たいもので何をする気かなんとなく予想がついてしまった。
「怒ったらダメだからな?別にあのおっさんが間違ったこと言ってたわけではないし」
「……善処します」
一瞬迷った様子を見せルクアはそう返した。
『私の護衛をよくも!望みは私の首か!?この人殺しが!!助けてくれ殺される!!』
唖然とした様子のグレン達に向かって更にエルバが喚きたてる。
……なんか指輪に向かって話しかけてる?
「クズがクズをクズ呼ばわりしていたとは随分と滑稽な話だな」
「お前な……ん?クズ?あいつが?」
「あぁ、証拠はまだないがおそらくあいつは死んで当然の罪を何度も犯している」
「……なんでお前殺してないの?」
こいつの性格からして証拠なんか後回しで疑わしい奴は殺しそうなもんだけど……
「それはルクアが――」
『私に恥をかかせたんだ。お前らは死刑確定だ、私を殺そうとしたという罪でな……』
サクトの言葉を遮り中から聞こえる声。
それにつられ再び中を覗き込むとエルバがなぜか手に持ったナイフで自分の自分のことを斬りつけていた。
「何を……いや、それ以前に……死刑?」
「はぁ……」
「ほぉ……」
混乱する俺をよそにルクアは呆れたような眼差しを中にいるエルバに向け、サクトは自分で自分を斬りつけるエルバをさぞ面白いものでも見るように眺め口元を歪める。
『この部屋は音や衝撃を吸収する。すなわち事実を知っているのは私と貴様らだけ……つい先日まで指名手配されていたクズに礼儀知らずの女と私、一体どちらの証言に信ぴょう性があるだろうなぁ?』
俺はエルバの歪んだ笑みにようやく二人が面倒ごとに巻き込まれたのだと理解した。
……けど、たぶんエルバの目論見は数秒後には瓦解するだろう……
その証拠に勝ち誇ったように笑みを浮かべるエルバにルクアは顔を両手で覆い隠し、サクトは腹を左手で抑え口を右手で抑え転がりながらジタバタしている。
「本当に……恥ずかしいところを……」
「あー、いや、その……なんかごめん……」
申し訳ないといった様子で頭を下げるルクアがいたたまれなくなって謝ってしまった。
というかどうすんだこれ?
「とりあえず殺しておくか」
「……やめなさいサクト」
嬉しそうな顔をしながら剣に手をかけるサクトをルクアが少し語気を強め止める。
「……勘違いするなよルクア……僕はお前の護衛であって部下じゃない。お前の命令を聞くつもりはない」
「私は一度も貴方に命令したことも貴方を部下だと思ったこともないわ……ただ提案をしているだけ」
「……俺、ちょっと止めてくるからあとは二人でごゆっくり……」
なんか不穏な空気が漂い出したので俺は逃げさせてもらおう……
「……えっと……ご機嫌いかがですか?」
扉をそっと開けたけど誰も気づいてくれないので話しかけてみたら一斉に視線がこちらに向けられた。
「……くくくっ、誰かと思えばルクア姫のご友人殿ではないか」
「えっと……」
「何をしに来たのか知らないがいっそのこと貴様にも殺されかけたということにしておくか……」
「えー……」
「状況が掴めないか?まぁ貴様のようなクズでは理解できないのも無理はない。私が説明してやろう」
どうしよう……
言いずらい……ルクア達が外にいるとかめっちゃ言いずらい……
「犯罪者風情がつけあがるから死ぬ。それだけの――」
「それだけの……なんだ?」
「――ッ!?」
突然聞こえた俺以外の言葉に俺から扉に視線を移すエルバ。
そこには不機嫌オーラ全開のサクトとルクアがいた。
……何があった?
……いや、やっぱり聞きたくないや……
「こ、これはこれはルクア様一体どうしてこんなとこ――」
「黙りなさい」
言葉を遮り短く告げられた命令にエルバの頬がひきつる。
だがそれも一瞬のこと。
すぐに表情を取り繕うと手を擦り合わせ再び口を開き始めた。
「な、何か――」
「黙れ、と私は言ったはずですが?」
もはや「誰ですか?」と言いたくなるほど冷たい声にエルバが口をぱくぱくとしてこちらに視線を向ける。
その目が「もしかして見られてた?やっべ」と言っているような気がしたのでこくりと頷いておくとほんの一瞬前まで赤みを帯びていた顔が真っ青に染まった。
「エルバ」
「は、はい!」
「ちょっと耳を貸しなさい」
「はい!」
ルクアはエルバの耳に口を近づけ二、三言何か言葉を発する。
「し、しかし!」
「別に強制はしない。けどそれが何を意味するか分からないほどあなたは愚かではないわよね?」
「――ッ!…………分かりました……」
苦悩するような表情を見せたエルバだったが最終的には消え入るような声でポツリとそう言って部屋を後にした。
「何が……」
色々と置いてきぼりな俺はそうこぼす以外に何もできることがない。
俺以上に今の状況が理解できていないグレンとヘレナさんは尚更だろう……
「……お久しぶりです。ルクア様」
いや、案外グレンはそんなこともないらしい。
「久しぶりね……グレン」
なぜかグレンから目を背けそう返すルクア。
「……あまり……ご無理はなされないでください」
そんなルクアに苦笑を浮かべながらグレンはそう呟いた。
「…………善処するわ」
そんなグレンの言葉に迷ったような様子を見せながらルクアはそう返す。
室内に沈黙が流れる。
……本気で気まずい。
俺、めちゃくちゃ場違いなんじゃ……
「おや、ここにおられましたかアキ殿」
「あ、クロンツさん!どうかしたんですか!?」
こっそり帰りたいレベルに張りつめた空気を壊してくれたのは老紳士、クロンツさんだった。
「いえ、実は頼みごとがありましてな……」
「へ?何ですか?」
自分で言うのもなんだがこんな今日知り合ったばかりの得体のしれない子供に頼み事とは……?
「ええ、実はですな……護衛をお願いしたいのです」




