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異世界ハーレムはただしイケメンに限る  作者: 日暮キルハ
一章 手放せない日常

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背負うべき覚悟と背負わなければいけない罪

 一瞬だった。

 本当に一瞬の出来事だった。


 世界は遅くて、熊の腕も咆哮も遅くて、吹く風も舞う木の葉も遅くて、なのにレイはもっと遅くて、避けなきゃ死ぬのになぜかこっちを見て困ったみたいに笑ってて……


 だから、俺はそれをどうしても助けたくて、そのことしか考えられなくて、この遅い世界で俺だけは速くて、走って、走って、走って、多分何か叫んで、そして走って……


 ……気づいたときには俺の腕は熊の左胸に、人間ならば心臓のある場所に突き刺さっていた。


「ガ……ガァ……ア」


「あ……」


 腕と肉の間から血が流れ出る。

 いや、流れ出るなんて生易しいものじゃない。

 顔に、体に、地面に、ところ構わず飛び散った血が赤く染めていく。

 腕は生温かくてぬるぬるしていて気持ち悪くて。

 体は血の気がひいたみたいに寒いような気がするのに腕だけ妙に温かくてそれも気持ち悪くて。

 だから、今すぐにでも引き抜きたいのになぜかそれを防ぐように肉が絡み付いているような気がしてそれもできなくて。

 

 ……俺は殺すべきだったのだろうか?

 いや、そもそも俺にこいつを殺していい理由なんてあったのか?

 こいつが俺に殺されなければいけない理由なんてあったのか?

 こいつはただ『食事』をとろうとしたにすぎないのではないか?

 その過程でレイや他のやつらが殺されたとしてそれはこいつが悪いのか?

 食べることは悪いことか?

 それは違うはずだ。

 だとしたらこいつの食事の邪魔をして殺した俺が悪いのか?

 俺に……こいつを殺す資格はあったのか?


「……アキ君……」


 ……違う。

 そうじゃない。

 俺は何も間違ってなんかいない。

 俺はレイを守りたかった。

 死んでほしくなかった。

 そのためにはあの魔物には死んでもらう『必要』があった。

 そうだ。

 俺はただ守りたかっただけだ。

 何も間違ってなんかいない…


「そうだ……俺は……」


 レイのために(・・・・・・)殺したんだ。


 そうだ。

 レイだけじゃない。

 こいつらを守るためにはあぁするしかなかったんだ。

 きっとそうだ。

 だから俺は悪くない。

 悪くない。

 なにも悪くない。

 俺は何も悪くない。


 ……そうだよな?


 ……なのになぜ……?

 なぜ苦しい?

 なぜ怖い?

 なぜ……

 なぜ……


 なぜ……こんなにも痛い?


「アキ君……?」


 ……あぁ、そうだ。

 そうに違いない。

 この苦しみは……

 この痛みは……


「俺は……俺には資格がないから……だから……」


「アキ君?」


「だってそうだろ? 資格があるから……命を奪う資格があるからお前らは……」


「……資格って、なに?」


 レイが俺に問う。

 だから、俺は答える。


「何って……この世界で生きてきたお前らにはあって日本でぬくぬくと生きてきた俺にはないものだよ。それがあるからお前らは負担ではあってもそこまで苦しまずに魔物を殺せる――」


「苦しいよ」


「……え?」


「苦しいし痛いよ」


「……」


「……ねぇアキ君、よく聞いて……」


 そう言ってレイは俺の頬に両手を当てる。

 力はこもっていない。

 ただ優しく添えられているだけ。

 なのに覗きこんでくるレイから顔を背けられない不思議な力強さを持った両手だ。

 俺とレイは数秒無言で互いの目を見つめ合う。

 そして、レイが口を開いた。


「苦しまずに殺せる資格なんて持ってる人は多分いないよ」


「……は?」


 ……レイは何を言ってるんだ?

 ……そんなわけないだろ。

 そうじゃないと……

 だって、そうじゃないと……

 俺は……


「アキ君……私もカイもアイもマイもメイも、相手が魔物でも人でもナイフを突き立てる時は苦しくて怖くて痛くて逃げだしたいような気持ちになるんだよ。それでも……それでもこれはしなければいけないことだから、私にはこのくらいでしかみんなを支えられないから、だから必死になって命を奪っているの。私は殺す資格なんて便利な物持ってないしきっと他の誰も持ってない。ただ、覚悟と感謝をしてるだけ。奪った命に対しての感謝と自分がいつか殺されてしまうかもしれないっていう覚悟を。それくらいしか私にはできないしそうするべきだと思うから。……だからねアキ君、もう一度考えてみて。この世界に命を奪ってそれが許される人なんて本当にいると思う?」


「…………それは……それ、は……」


 ……いるわけがない。

 当たり前だ。

 そんな奴がいるわけがない。

 俺は何を勘違いしていた?

 だったら……

 じゃあ、俺は今まで――


「……お前らにこんな気分を味あわせていたのか?」


 肉を抉る感覚。

 血が腕を滴る感覚。

 最期にあの熊の魔物があげた声。

 全部、全部俺にまとわりつくように残っている。

 こんな感覚を俺はこいつらに味あわせていたのか?


「否定はしないよ……けどね……」


「……そうか」


 ……味あわせていたのだ。

 守るはずが守られていたのは俺だ。

 俺は何をやってるんだ?

 俺は……


「けどね……」


 俺に当てた手に少し力を込めながらレイが口を開く。

 そして、一瞬だけ言葉を止めこう続けた。


「私は、アキ君がどうしてもつらいなら別に魔物を討伐する必要なんかないと思うんだ。そんなことしなくったってアキ君は十分私達を助けてくれてるし支えてくれてる。アキ君が来てからレブルの皆前より楽しそうなんだよ。だからさ……そんな顔しないでよ……アキ君がそんな不安そうな顔してたら私達も不安になっちゃうよ」


 ……本当に何やってんだ俺……

 レイに一体なに言わせてんだ……

 俺は何のためにここにいる?

 俺は何のために頭なんて俺の手に余るようなものになった?

 こいつらを……守るためだろ……

 それがなんで……こんな不安そうな顔させてんだよ……!

 守るはずが守られて、あまつさえ闘うことから、殺すことから逃げ道さえ用意され……

 みっともないにも程がある。

 これでいいのか?

 ……良い訳ないよな?じゃあどうする?


 そんなの決まってる。


「…………ごめんレイ。本当にごめん。俺が不甲斐ないばかりに心配かけて不安にさせて聞きたくもないようなこと聞かせてやりたくもない討伐なんかやらせて……」


 謝らないといけない。

 謝罪の言葉を口にしなければならない。

 そして……

 覚悟は決めた。

 口を開け、もう逃げるな、全部背負え。

 それが俺の罪で役目だ。


「もうお前らに背負わせるようなことは絶対にしないから。俺がお前らを苦しめるものからお前らを守る。絶対に」


「……けど」


 できる限り声に優しさを込めて、できる限り声に力を込めてレイの頭に手をおき俺はそう言った。


 説得力や信憑性なんてものは皆無。

 当たり前だ。さっきまでグチグチとくだらないことを考えて、絶対に考えてはいけないようなことすら考えて口にしてはいけないことを口にしたのだから。

 説得力や信憑性なんかあるわけないし信じてもらえなくてもそれでいい。

 ただ、今はこう言わせてほしかった。

 これしかできないし言わなきゃ何もできない気がしたから。


 結局俺は理由をつけて逃げていただけだ。

 はじめは自分がこの世界の人間でないことを理由に。

 そして、次は『資格』なんてありもしないものがないことを理由に。

 挙げ句の果てに殺してしまって今までの『理由』じゃあ逃げられそうにないからその理由をレイに求めた。仲間に求めた。


 レイのため?

 俺の安っぽい良心を守るために一体俺は何を代償にしようとした?

 本当にクズでしかない。


 ……それでもただ一つ、あのとき俺がレイを助けたかったことだけは正真正銘俺の本音で殺した理由だ。

 もちろん、だからと言ってもうレイを免罪符にする気など毛頭ないしそんなことははじめからできるわけのないことだ。

 どんな理由があろうと、例えそれが仲間を守ろうとした結果だったとしても殺すことが許される道理はない。

 どこまでいっても殺しは殺しでその罪を軽くしたり無くしたり許されたりするような免罪符はこの世にはありはしないしあってはいけない。

 殺した者は一生その罪と向き合わなければいけない。

 もしかしたら死んだあともそうなのかもしれない。

 殺すという罪はそれほどまでに重い。


 だからこそ俺はこう思う。

 遅すぎるけど……

 それでも……


 殺す罪を背負う覚悟を決めなければいけないと。


「……正直さ、正直すごい怖いし嫌だよ。血や肉の臭いも魔物が死ぬときにあげる断末魔みたいな声も。……けどそれでも……お前らのうちの誰か一人でも欠けることはもっと怖いから……だから俺は殺したいんだ。誰のためでもない俺のために」


「……そっか……」


 レイは言っていた。

 感謝をしていると。

 奪った命に対しての感謝をしていると。

 だけど俺にはそんな高尚なものはない。

 そりゃそうだ。

 これまで出てくる肉がどういう経緯で出てきたかも一体誰が殺したのかも考えずにただ『いただきます』と口に出すだけだった俺だ。

 そんな奴が命に対しての感謝なんて感情本心から持っているわけがない。

 持っていたとしてもそれは表面的な建前みたいなものでレイ達が持っている本物とは全然違う。

 その結果が逃げで責任転嫁だった。

 俺は救いようがないほど愚かで身勝手でクズだ。


 俺は元々ろくな人間じゃないのだ。

 生きていた時だって大概暴力で片付けるような奴だったのだ。

 だったら安っぽい良心なんか捨てろ。

 本当に大事なものを失う前に。

 命は奪うし罪も犯す。

 たとえどれだけ重くてもその罪はひとつも逃さずに背負っていこう。

 望んで来たわけでもないこんな世界でできてしまった仲間を守りたいなんていう身勝手で自己中心的でろくでもない俺の『我儘』のために。


「……帰ろっか?」


「……うん」


 そう言って笑顔で差し出された手をつかんで俺は気づいた。


「……こいつら大丈夫?」


「あ……」


 相変わらずカイ達は倒れている。

 命に別状はないだろうけど……

 とりあえずグレン達を呼ぶのが先か。


 結果だけ言うと全員怪我はしていたものの命に別状はなく俺の回復魔法で傷痕も残らないように治療できた。

 グレンがはじめて見るくらい大慌てしてたけど、俺からしてみればお前の方が三倍はひどい怪我だったからな。

 血が流れまくってたせいで貧血のくせに慌てるから倒れたし。

 

 あと、言うことはまぁ……

 今日食べた『グラトニーベアー』の肉はこの世界に来てから一番美味しかったと思う。


 ……ありがとう。



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