アンオーメン4 紫眼の王女
守護神ディンフリーツをその身に宿し 新たな体を得たラウルは瀕死のボルマーの前に現れた
「ラウル…… なのか……?」
「あぁ…… そうだけど?」
赤い脈が通うゴーレムをラウルと認識する方がおかしいと思うボルマー
幸い容貌が元のラウルだっただけで解ったものだ
「外界は面白いな…… 人が住める場所じゃねぇと思ってたが まさかこんな化け物がいるとはな」
「お前達は何なんだ?」
「おぉ! そういえば名乗ってなかったな」
ゼンサイは刀を鞘に収め 軽くお辞儀をする
「拙者の名は河上ゼンザイ 呪幕に留まる母国を捨て 至尊至霊の〝野羅犬〟様に仕える侍なる者です」
頭を上げるゼンザイは再び剣を構える
「な…… 何言ってんだこいつ」
「わからねぇ…… 日の国のことじゃねぇのか?」
呆然と聞いていた二人に対して ゼンザイは迷わず足に力を入れる
「言ったところで解る筈もねぇってわかってたよ
さぁこの島に巣くう妖よ! 邪魔するなら容赦はせぬぞ?」
威圧が降りかかるラウルもまたすぐに剣を抜く その顔は何か 腹を括った表情だ
「こいつ強ぇぞラウル…… 大丈夫か?」
「あぁ! 今はいろいろと負けてる場合じゃないんだ!!」
ゼンザイも何かを察したのか 横に移動しながらラウルとの距離を取る
「…………そこそこ剣術を学んだのかい?」
「あぁ…… 師匠に教わった」
「楽しみだねぇ……」
ーー俺はこいつに勝てない……
ラウルは瞬時に思った
相手が動けば動くほど感じる その実力に
ーー決めるなら…… 最初の一撃しかない
ラウルもまた中途半端に剣の修行をしてきたわけではない 相手の実力は自分以上だと瞬時に確信した
剣を交えることが出来るかどうか 自分の太刀筋を見切られ斬られるのではないかと思い知らされるゼンザイの殺気
場数が違い過ぎる
ディンフリーツとの試し合いとは全くの別物だった
ーー一回きりのチャンス…… 必ず相手を倒さねばならない
そしてその時が来る
地面を擦れる音と共に両者は動く ゼンザイの方が一歩二歩とも速い
あっという間にラウルの間合いに詰め寄り その刃がギラつく
「っっっっっ!!!」
ラウルはその場に屈む
しかしそれをも逃がさないゼンザイは刀をラウルの首目掛けて運んだ
「我流!!!」
「死ね」
振り切ったゼンザイに違和感が生じた 手応えがまるで感じていない
ふと剣を見ると
ーー刃が…… 無い……
ラウルの一本の剣には炎熱が送られている
その刃がゼンザイの刀身を折ったのだった
ーー取った 俺の速度を舐めるなよ!!
屈んだ姿勢を手で地面を蹴ることで戻し 一気に敵の背後へと回る
「っ!!?」
ゼンザイが後ろを振り向こうとしたときには 既に二本の剣を持つラウルがいた
「火山波斬り!!!!」
その炎熱を纏った剣はゼンザイの背中を切り裂いた
「兄貴ぃぃぃ!!!」
近くにいた男達が地面に倒れゆくゼンザイの下へと行こうとしたとき
ラウルとボルマーが道を塞ぐ
「「 食料…… 返せ 」」
男達は盗ったものを速やかにお返しし ゼンザイを船に乗せて島から立ち去って行った
「フゥ……」
その場に崩れ倒れるボルマーと 剣を収めるラウル二人は一息ついていた
そんな彼らに 物に隠れながら忍び寄る一人の女性
「………あの人達があのゼンザイ達を」
紫眼を見開いて物陰から観察する彼女の頭上から 脆い瓦礫が落ちてきた
「え……?」
上を向いたときには遅いと思った彼女の目にはラウルが映る
瓦礫を鞘で吹っ飛ばした少年の背中に思わず飛び込んだ
「あ…… ありがとうございます……!!」
「こんなとこにいたら危ないですよ?」
「ぅ……… うぅ……」
「!?」
元の場所からゆっくり歩いてくるボルマーと共に二人が首を傾げていた
紫眼の女性が落ち着いてきた頃
ようやく彼女は二人に口を開いた
「先ほどはいろいろと助けて頂き有り難うございました」
「いろいろ?」
「申し遅れました 私しはワッハーブ王国の王女アリヤード・D・ルイーヤ・ワッハーブ
先ほどの者達は私を捜してこの地へと訪れた 〝壬生浪〟と名乗る集団です」
ーー…………ワッハーブ?
ボルマーが人知れず考え事としている前でラウルは質問する
「なんで追われてたの?」
「………逃げ出したからです おそらく王女である私の口から大国に伝わればすぐに彼らを捕らえる本国の軍隊が向かう筈だからです」
「なるほど……」
「………そう上手く事は運んでくれませんが」
ボソッと呟くアリヤードの言葉をラウルは気にしたが
彼女はすぐにその場から立ち去ろうとする背に 既に別の考えが生まれる
「事情知らないけど助けてやるぞ! お姫様」
「え……? いや駄目です! 危険ですよ!!」
「おいラウル!! 何勝手なこと言ってんだ」
「俺の目的は一旦終わったんだ 今は何もすることがないしな……… 腕試しだ!!」
「おい!!」
そう言ってアリヤードの手を引っ張って小舟へと導いていく
ボルマーはその後ろを腑に落ちない顔でついて行く
「ボルマーの目的があったら構わない ここでお別れだな」
「っ………!!」
「アリヤードの乗ってきた船で行くとするよ ………食料ちょっとだけ分けてくれ」
「………ハァ」
溜息を吐きながら小舟に積んである荷物を全て担ぎ 地上へ降りてきたボルマー
しかし荷物をその場には置かずに ゼンザイ達から取り戻した食料の入った袋をも持ち上げると
アリヤードが教えた船のある向こうへと歩き始める
「ボルマー……?」
「日の国の侍とやり合うんだろ? 俺も混ぜろや」
そう言って颯爽に一人足を進めるボルマーにラウルは思わず笑う
「ハハッ!! 行こう! アリヤード!!」
「………… はい!!」
ーーありがとうございます 本当に……… ありがとうございます
ラウルに引っ張られるアリヤードは 涙が溢れる度に何度も袖で拭き取っていた
その紫眼から溢す涙が何を意味するのか解る筈もないラウル達
船を乗り換え 王国ワッハーブへと舵を切るのだった




