表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
モンストル  作者: 髪槍夜昼
虚言と渇望の吸血鬼
9/136

第九夜


銀の吸血鬼との戦いを終えた、翌日の夜。


ルーセットは鼻歌交じりに部屋の荷物を纏めていた。


怪しげな品々を分けながら、背後でぼんやりと眺めているヴェガを一瞥する。


「それじゃ、本当に純血の住処は知らないのか?」


「しつこいですね。命令も全て眷属越しで直接会ったことすらないんですよ。まあ、仮に知っていてもあなたには教えませんが」


不機嫌そうに鼻を鳴らしながら、ヴェガは吐き捨てるように言う。


純血に迎えられながらも、直接会ったことさえない。


顔を合わせる程に信用されていない。


あくまで保護対象として見下されていた。


その事実を再確認するようで、ヴェガの機嫌が悪くなる。


「それでも、あのジジイにくらいは会ったんじゃない?」


「…ジジイ?」


「純血の中でも特にプライドが高い、霧ジジイだよ」


少し苛立ちながら言うルーセットの言葉に、ヴェガは思い当たる点があった。


辺境の里にいたヴェガの下へ現れ、強引に純血に迎え入れた吸血鬼。


その吸血鬼が、常に霧のような姿をしていた。


「確か名前は………ルヴナン、だったかしら?」


「そう、そのジジイだ。やっぱりまだ生きてんのか」


珍しく不機嫌そうにルーセットは呟く。


嫌っている、と言うよりは恐れているように苦々しい顔をする。


出来れば自分の知らない所でくたばっていて欲しかった、と残念そうに言った。


「…あなたでも誰かを嫌ったり、怒ったりするんですね」


「君は俺を何だと思っているのかな?」


「変人吸血鬼」


断言するように言われた言葉に、流石のルーセットもイラッときた。


荷物の整理を止め、ゆっくりと立ち上がる。


「ほほう、そんなこと言っちゃうのか。コレは教育が必要かもな」


「…な、何で近寄ってくるんですか」


「何、俺は変人吸血鬼だからね。その名に相応しい所業を行おうかと…」


「いや! それ以上、近づかないで変態! 手を広げるな!」


「父娘の愛を深めようじゃないか、まずはハグから行こうか?」


高級ホテルの一室に、少女の悲鳴が響いた。








「全くよぉ。ルヴナンの旦那にも困ったもんだぜ!」


月明かりの差し込まない、暗い森の中。


死神のような容姿の男は苛立ちながら、近くの樹木を蹴り付けた。


身に纏う黒いローブには大量の血が付着しているが、男自身に外傷はない。


「絶好の獲物を用意してくれると思えば、その前に雑用を押し付けやがって!」


叫ぶモールの背後には木々に交じるように杭が生えていた。


樹木と見間違う程に巨大な杭、その数は二十。


その一本一本が、瀕死の吸血鬼を串刺しにしていた。


息も絶え絶えな吸血鬼では、その杭から逃れることは出来ず呻いている。


頑丈な肉体を持つ吸血鬼は死ぬことも出来ず、太陽が昇る時まで地獄の苦しみを味わい続けるのだ。


「不審な動きをしている派閥がいるから先に殺せって………俺っちはアンタの下僕になった覚えはないってのぉ!」


モールがルヴナンに従っているのは、あくまで利害が一致しているからだ。


戦場を求めるモールにルヴナンは戦場と餌を提供する。


そして、モールの戦いに口を出さない。


それが二人の契約だった筈だ。


なのに、彼ら純血同士の派閥争いに巻き込まれるのは割に合わない。


おまけに戦わされるのが、数だけが取り柄の雑魚では不満も出る。


「旦那の態度が偉そうなのは元からだけど、最近は特に人遣いが荒いと思わない?」


今まで独り言を叫んでいたモールは語り掛けるように言う。


一人で騒がしいモールが本当に狂ったように自分の影を見つめた。


影に語り掛けるなど、正気の沙汰ではないが生憎とそれを指摘する者はどこにもいない。


「なあなあ、どう思う? クロちゃん!」


『…騒々しい。叫ばずとも聞こえている』


その影から、男の声が響いた。


それはモールにしか聞こえない、影の声。


狂人の妄想のように、モールの頭の中に存在する影。


常人には何も聞こえないが、モールにはその姿すら見ることが出来た。


『ルヴナンと敵対しているのは………コカドリーユの派閥だ。恐らく、こいつらも銀の吸血鬼同様にコカドリーユの息がかかった連中だろう』


躁病のようにハイテンションなモールとは対照的に、鬱病のように物静かで暗い声で話す『クロ』


「つまり?」


『…つまり、放っておけば町へ進攻してお前の獲物を奪っていただろう。ここで殺しておいた方が後々邪魔が入らずに済む』


「おおー! 相変わらずクロちゃんは頭が良いぜ! ってことは、後はもう俺っちの好きにしてイイってことだよな?」


興奮するように叫びなら、モールは影から取り出した細長い杭を握る。


それをバトンのようにグルグルと回し、先端を町へ向けた。


「ならばいざ行かん! 俺っちの戦場へ! 俺っちの獲物の下へ!」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ