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【 断章 】
ぽつりと、童が座っていた。
あまりに険しすぎて人も入れぬような、荒涼とした山の中である。木々が枝を絡め合わせ、草いきれで息が詰まりそうなその場に、茫然とした面持ちで童がぽつりと。
童は誰かを待っているようだった。音がすればそちらに目をやり、人の気配がすれば腰を上げる。
しかし、昼と夜が去っても、童を迎えに現れるものはなかった。
曙光の中、獣の鳴き声がひどく近くで響いた。童はびくりと身を震わせて、それまで見せなかった不安な顔で腰を上げる。恐怖から逃れるように、小さな手で草を掻き分け、山中を彷徨いだした。
草を掻き分ける音に、混じる声。
「父上、……父上、どこなのですか?」
木の下闇と、獣の気配と、空腹とのどの渇きに、童の顔にせっぱ詰まった険しさが浮かぶ。必死になって消えた父の背中を追っていた童だったが、不意に立ち尽くし、幼い面を愕然と歪めた。
「……なぜなのですか、父上」
童は葉の彼方に輝く陽を見上げ、唖然とつぶやく。
彼は、己が捨てられたことを悟ったのだった。