011-6「どーこだ」イラスト付き
食事の片付けも終わり、残っているのは先程と同じ私と彩月と霙と白鴎だけだ。
「それでは、お腹も膨れたところで、髪飾りを決めていきましょうか。とはいえ、デザインはもうほとんど決めてしまいましたが」
「そうなの?」
「はい。聖女様が食事をしている時に考えてしまいました。ドレスに合って、聖女様に似合う髪飾り。こんなものでしょうか?」
彩月が見せてくれた飾りのデザイン画は、まさにドレスが髪飾りになったようなものだった。ティアラが、まるで洋服を着ているようだ。どちらかというと、ティアラというよりは、カチューシャかもしれない。霙と白鴎もドレスと髪飾りのデザイン画を見比べている。
「可愛い」
思わずじーっと見つめてしまう。改めてやはり彩月はデザインを考えるのが好きなのだなと思う。好きでなければ、こんなにすぐに考えるなんて出来るはずもない。
「なにせ、今回は盛大なお披露目だというのに準備期間があまりにも短い。すぐにでも取り掛からないといけませんからね。だからといって、適当なデザインなんてしていませんよ、私が魂を込めて作るのですから」
「……ありがとうございます」
彩月の熱量に押し切られそうだ。この場合押し切られても問題は無いか。
「そうと決まれば、早速制作に移りますね」
「えっ、あっはい、ありがとうございます」
食事の後の彩月の滞在時間がわずか数分だった。これならば、食事の前に決まってしまった方が良かったのではないだろうか。けれど、一緒に食事が出来たから、特に問題はない。
「今日は特にもうする事はないから、ゆっくりしてくれ」
白鴎が私の髪をふたつのお団子にしてくれているのを鏡越しに見つめながら霙に返事をする。
「はぁい」
ゆっくりしてという事は好きな遊びをしても良いんだよね。今の気分はおままごとかな。
「それじゃあ、みーとおままごとします」
「わかった、風呂の時間になったら、また来る」
「はーい」
おままごとのキッチンの前にみーと一緒に座る。さて、今日は何をしようか。
ジュースは前に作ったし、お弁当も作った。おままごとって楽しそうだけど、遊び方がよく分からないんだよね。
「とりあえず、お弁当作ってみよう」
みーの目の前にお弁当箱を置いて、まずは何を入れようか考える。食品が入っている箱を覗けば、まだまだ私の知らないものが沢山ある。そうだ。私がよく知らない食材を詰めて、また緑弥に見せに行こう。そうすれば、作ってくれるかもしれない。
「まーずは」
どれにしようか。パンかご飯か。どちらかというと今の気分はパンだ。先程の食事でおにぎりを食べたからだろう。
「よし、これにしよう」
私が選んだのはサンドイッチのようなパン。茶色いパンにレタスや卵が入っている。トマトが入っているのは見なかった事にしよう。あとは
「ニンジンさん」
これは絶対にいる。あとは何にしようか。ごそごそと箱の中を漁ると卵焼きが出てきた。これも好きだ。まだもう少し入りそう。
「……ん?」
中から正体不明の何かが出てきた。
「たこさん?」
足が沢山あるからタコだろうか。けれども、タコは頭が丸かったはずだが、これは細長い。
「……」
色は茶色のようなオレンジ色の様なもの。美味しそうなのか、美味しくなさそうなのか分からない。ここに入っているという事は食べ物なのだろう。
「一応……」
入れるだけ入れてみよう。多分、食べ物だと思うし、きっと美味しいだろう。これだけでも十分美味しそうだけれど、なんだか、色が偏っている。強いて言うならば緑が欲しい。
「何かあるかな」
再び箱を漁ると小さな緑色の花束を見つけた。
「可愛い!」
これも食べられるのだろうか。でもこれは完全に花束だ。さすがに食べられないだろう。しかし、食べられる花もあると言うし。綺麗な緑色だから入れておこう。
「でーきた」
弁当箱がいっぱいになった所で弁当作りは終わりだ。緑弥に持っていこう。弁当箱に蓋をして立ち上がる。きちんと蓋が閉まっている事を確認して出発だ。と思ったが、何も無いはずの床で滑った。
「ふぎゃぁ!」
ビターンとういい音がした。
顔から転び、額を打ってしまった。両手で弁当を持っていた為、上手く受身が取れなかった。
「よいしょ」
立ち上がって改めて緑弥のところに行こうとすると、手元が軽い事に気づく。弁当箱は持っているのに、何故だろうと視線を手元に移す。
「……!」
弁当箱を見ると、中の食材が飛び散って卵焼きだけになっていた。
「大変!」
足元を見るとパンとニンジンが転がっていた。
「よかった。えっと、あとは」
緑の花束とタコに似た何か。
「どーこだ」
そんなに遠くには行っていないと思うけれど。足元を探すけれど、どこにもなかった。
「あれぇ?」
机の下や椅子の下、ソファの下を探してみる。
「ない」
ドアの近くか、それともキッチンの近くか。
「ない」
あとはベッドの下だろうか。
「あった!」
出てきたのはタコ。丸くて細長いからコロコロと転がったのだろう。
「あとは緑のお花……」
しかし、不思議な事に緑の花をいくら探したところで一向に見つからず、最後はとうとう諦めてしまった。探そうと思った時に出てこず、諦めた頃に見つかるのだろう。
さぁ、蓋を閉めて緑弥の所まで。
緑弥がいる調理場までの道は先程行ったからよく分かっている。
「おじゃましまぁす」
調理場に行くと、緑弥さんが椅子に座って本を読んでいた。前回同様、読んでいるのは、レシピ本だろうか。
「ああ、いらっしゃい。どうかしたか?」
「お願いがあって来たの」
「お願い? どんな……、なんかおでこ赤くないか」
早速気づかれてしまいました。
「さっき転んじゃった」
「なんか、俺のところに来る度怪我してないか?」
「……」
そんな事ないよと言いたいところだけれど、この間来た時も走って転んで、膝を怪我していた。
「全く……。ほらこれ」
緑弥は私に小さなタオルをくれた。触ってみると、水で濡らしたのかひんやりしていた。
「これは?」
「打ったところに当てとけ」
おでこに当てると冷たくて、とっても気持ちがよかった。
「ひんやりする」
「冷やす為のものだからな。これ以上酷くなるようなら、絶対に績のところに行けよ」
「はぁい」
「……本当に酷くなったら行くんだぞ」
何故二回言ったのだろうか。
「そんで、お願いってなんだ」
あぁ、忘れていた。私は抱えていた弁当箱の蓋を開ける。
「あのね、今度こんなお弁当食べてみたいな」
「……ハンバーガー、ウインナー、卵焼き、それとニンジンか。ブレないな」
褒められてるのだろうか。
「これならすぐ作れる。また作る日を考えておくよ」
「ありがとう!」
思ったよりあっさりと許可がもらえてしまった。いつかは分からないけどまた作ってくれる事だろう。
「それじゃあ、お邪魔しました」
「ああ」
緑弥さんに弁当箱を預けて、背を向ける。部屋に戻ろうとしたところで「まて、」と、声をかけ引き止められた。
「どうしたの??」
「いや、なんか髪に刺さってるぞ」
「え?」
私の髪といえば、先程白鴎が二つのお団子にしてくれていた。もしかすると、髪飾りをつけてくれていたのだろうか。
「なんだ、これ。髪飾り……、いやブロッコリーか……。いや、なんで髪にブロッコリー刺してるんだよ」
不思議な名前の髪飾りがあるものだ。緑弥が髪からとってくれたので私もそれを視界に移す事が出来た。見るとそれは、私が先程なくした緑色の花束だった。これって、ブロッコリーという名前なんだね。
「あ、そんな所にあったの?! さっき転んだ時に無くなっちゃったの」
「転んで髪に刺さるとかどんな奇跡だよ」
確かに。
「で、これもお弁当に入れれればいいのか?」
「お願いします!」
「わかったこれで彩りは完璧だな」
彩り。色の事だろうか。難しい言葉を使わないでほしい。
「またね」
「ああ、またいつでも来い」
なんだか楽しい冒険だった。帰りも転ばないように気をつけよう。額に当てた濡れタオルが気持ちいい。
「おかえり聖女様」
部屋に戻ると白鴎と霙がいた。
「ただいまです」
「おでこどうかしたの?」
「転んじゃったの。緑弥さんが冷やすのくれたよ」
私が額にタオルを当てていたから何事かと思ったようだった。
「見せてみろ」
霙が私の前髪をめくる。
「……少し赤いが、すぐに落ち着くだろう」
そんなに心配しなくても痛くないから大丈夫なのだけれど。心配してくれているというのは、とても心が温かくなる。
思わず頬が緩みそうになった。
本日二度目の風呂だ。1日に2回も風呂に入るというのは、とても贅沢な気がしてきた。けれど、今日は昼寝をしていなかったからか、頭と体を洗い終わって、湯船に浸かる頃には、睡魔が襲ってきていた。頑張って耐えていたけれど、体を拭き終わって、パジャマを着てからは、本格的に目が開かなくなってきた。
「ちょっと……、ねむたいです」
「ああ、そうか。いつもは昼寝をしていたが、今日はしていなかったな。今日は早めに寝るか」
コクリコクリと、耐えていたはずの睡魔が襲ってきて、私の頭を地面につけようとする。
「寝てもいいよ。布団まで連れて行ってあげるから」
「……ココア」
「また明日ね」
「……はぁい」
白鴎に手を伸ばすと、分かっていたように私を腕に抱き抱えた。抱っこされたまま、左右に揺られ、まるで揺りかごのような感覚を味わう。
うっすらと目を開けてみると目の前には窓があった。
窓から見る萱草色は、とても綺麗だった。
※この画像はAI生成画像です




