表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
和泉先生と五つの禁断  作者: 色葉充音
禁断の恋
31/31

最終話 禁断のその先

 あれから8ヶ月が経った。受験だったり、体育祭だったり、文化祭だったり……アニエスたちと一緒に最後の青春を満喫して、今日やっと卒業式が終わった。


 告白の後、和泉先生と何かがあったり何かが変わったりはしていない。わたしたちはまだ先生と生徒という関係性だ。……まあ、2人きりになった時、頭を撫でてくれることはあったけど、でもそれくらいだった。


「伊都ー! 卒業おめでとうデス!」

「アニエス……! 一緒に卒業おめでとうだね」

「ハイ!」


 本物の桜はまだ咲いていないけど、セーラー服の胸の部分につけた造花は咲いている。ハイテンションなアニエスと話していると、類くんが近づいてきた。


「伊都先輩、アニエス先輩、卒業おめでとう」

「「ありがとう(デス!)」」


 声を重ねて言うと、いつものようにセーラー服を着ている類くんは微笑んだ。そして、何やらアニエスに耳打ちしている。はっと目を見開いたアニエスは、「行きまショー!」とわたしの手を引っ張った。


「どこに行くの?」

「着いてのお楽しみということで」

「そういうことデス!」


 そうやって連れてこられたのは、すっかり常連となった旧校舎の昇降口近く。そこには、和泉先生の姿があった。


 先生はきちっとネクタイを締めてスーツを着こなしている。いつものとは少し違うドキドキを感じるのは、見慣れないその格好がよく似合っているから。ついさっきまでの卒業式で遠慮してあまり見なかった分、今こうやってじっと見つめる。


「……深町さん?」


 和泉先生に苦笑されてしまった。


「かっこよくて、つい……」


 思ったことをそのまま口に出すと、先生は片手で顔を覆う。そのまま何かを耐えるように長い息を吐き、手を離したと思ったらにっこりと人の良い笑みを浮かべた。


 アニエスと類くんはそんな先生とわたしを交互に見てから言う。


「伊都、ファイトデスよ!」

「僕たちはあっちに行ってるから」

「……2人ともありがとう」


 2人が去っていくと、和泉先生はわたしの方へ近づいてきた。


「卒業おめでとう、深町さん」

「ありがとうございます、和泉先生」


 わたしが今日一の笑顔を向けると、嬉しそうに笑ってくれた。そのまま少し見つめ合ってから、先生は口を開く。


「夏休み前からずっと返事を待たせているもの、覚えてる?」

「もちろん、です」


 忘れるわけがない。あの告白のことだ。


「本当は今、その答えを言いたいんだけど……憂いは全て取っ払ってからの方が良いからね」


 確かに卒業式は終わったけど、3月31日までわたしは高校生。「憂いは全て取っ払ってから」というのが、素直に嬉しい。それだけ真っ直ぐ向き合ってくれている和泉先生のことが、本当に好きだ。


「4月1日、短時間にはなると思うけど、会える?」

「会えます。というか会いたいです」


 思わず食い気味に答えてしまった。「よかった」と笑った先生と共に、時間と場所を決める。


 その後2人で、アニエスと類くんが待っているところへ向かうと、「どうなったの?」と問い詰められた。


「おあずけ、かな」


 そうやって笑ったら、2人はまた今度聞かせてと笑う。ふと視線を向けた旧校舎の窓から、玲さんが手を振っているのが見えた。




 4月6日、アラームの5分前に目が覚めた。

 今日はベッドでごろごろせずに、体を起こして洗面所へと向かう。顔を洗って、歯磨きをして、昨日のうちに決めていたワンピースを着て、薄くメイクをして、朝ごはんを食べて……。


 持ち物の準備はあらかじめ済ませていたけど、念の為もう一度確認する。そうこうしていたら、約束の時間まで残り20分となっていた。


 バッグを持って、上着を羽織って、全身鏡の前でひらりと一周して、メイクの最終チェックも完了。「行ってきます」と家を出る。ざあ、と桜の花びらが舞った。


 最寄駅に11時待ち合わせ。その約束の5分前に着いたら、もうあの人は待っていた。学校で見ていたものとは違う、まだ見慣れないラフな格好。黒いズボンに白いシャツ、上着代わりのベージュのシャツジャケットを羽織っているその人は、つい先日できたばかりのわたしの恋人さんだ。


「いず……日色さん」


 声をかけると、高校時代のものとは比べ物にならなくらいの甘さを含んだ笑顔が返ってくる。


「おはよう、伊都」


 そう呼ばれるのはまだしばらく慣れそうにない。じわりと頬が熱を持つ。日色さんに近づくと、そっと左手を差し出された。


「行こうか」

「っ……はい!」


 その手に右手を重ねると、すぐさま恋人繋ぎにされる。……これにも、まだしばらくは慣れそうにない。じっと日色さんを見上げると、嬉しそうに笑っている。それがなんだか悔しくて、ちょっとした仕返しがしたくなった。


「……日色さん」

「うん、何かな?」

「…………大好き、です」


 日色さんは少し目を見開いてから、幸せそうに微笑んだ。


「愛してるよ、伊都」


 どくん、と心臓が跳ねる。仕返しのはずが、ものすごい強さのカウンター攻撃をくらってしまった。


 ……でも、そういうところも大好きです。




 失ったもの:

 伊都、和泉日色以外との恋愛の可能性。

 日色、深町伊都以外との恋愛の可能性。




【和泉先生と五つの禁断】


   —end.—

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ