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優しさの行き着く先で

「……急いで、ここを離れようか」


 酷く冷静に、そして優しくフジは口を開いた。

 血と涙に汚れた私を、魔法で綺麗にする。そして、支えてくれた。


「ボタン兄さんはどうするの?」


「ついて行きたいけど、ちょっと……無理かな。流石に傷が痛いや」


 話声が酷く遠くに聞こえる。

 何も考えられなかった。

 ただ手に残る感触だけが、私を犯罪者だと責め立てる。


 誰も、私を責めないのが怖い。


「僕はここに残るよ、この惨状は適当に言っておくから任せて」


 そのまま地面に倒れるボタン。

 息も上がっていて、無理していたことはすぐにわかった。


 ボタンさん……本当に、ごめんなさい。


 罪悪感で視界が歪んだ。


「……うん。歩乃華とカンナは僕が支えるよ。それで、様子を見て次の国に行くから」


 震えた声で、フジは言葉を紡ぐ。

 そしてそのままボタンと現実から顔を背けた。


「シィノは、どうする?」


 そうだ、シィノ。


 歩乃華は床に座り込んでいる姿を見て、安心した。

 酷く苦しそうな顔をしているのに、安堵した思い浮かばない。


「私も、残りますわ。腰が抜けて動けませんの」


「そう……だよな、わかった。出来れば、僕達を犯人とは……いや、なんでもない」


 フジは目を逸らした。

 私も苦しくなって目を瞑る。


「じゃ! どこか別の場所に向かってレッツゴーだよ!!」


 無理やり明るく振る舞うカンナ。

 私を庇うために、カンナは教皇を突き刺した。

 幼い少女には、重すぎる罪。


 ごめんね、カンナちゃん。

 結局、助けられちゃったよ。


 歩乃華達は誰か人が来る前に、その場を離れた。


 傷だらけのボタンと、シィノを残して。



 静寂が満ちる。



「これで、僕のこと忘れられなくなったね」


 それだけを言い残して、ボタンは意識を手放した。


……

………



 シィノは泣きたかった。


 どうして心優しい方々が、こんなに傷つく必要があるのか。

 理解できなかった。


 教皇は悪人だ。シィノを閉じ込めて、沢山の人を傷つけた。

 だから死ぬことも、正義による裁きだったの。


 4人は悪くない。それどころか、私のヒーローだわ。


「この世界が、狂っているのね」


 4人が罪の意識を持つのもおかしい。

 4人だけが、私を助けてくれたの。


 私が助けますわ。


 手始めに、この国を滅ぼしましょう。

 4人を傷つけるこの国は、もういりませんわ。


 歪んだ依存心。それがこんなにも心地いいなんて、知らなかった。



「あ! 見つけた!! 君が精霊酔狂病を持っている子だね!!」



 酷く楽しそうに、狂った声が聞こえる。

 ……1人じゃない。たくさんの人が私を囲んでいた。


 でもこの人達は、この国の人じゃないわ。


 汚れた黄土色の髪。傷だらけの大きな体はどこか人間じゃなかった。

 溝のような濁った瞳は、神経を逆撫でしてくる。


「僕はアノニマスの創設者、愛情担当のラルガ・クレイラガン。君を勧誘しに来たよ」


 この人達の手を取ることは、明らかなる間違いで悪の道だろう。


「もし私がアノニマスに入れば、あの4人を、この世界の苦しみから解放できますか?」


「君がしたいなら、できるよ。君はアノニマスの代表の1人。どんな願いでも叶えるさ」


 私がしたいのなら、ね。

 入ったら直ぐに代表とか、何も分かりませんわ。

 でも、力が手に入ることは確実。


 私には地位も知識も、力もない。


 シィノは4人の顔を思い出す。


 ……この手を取らない理由は、ないわ。


「いいですわ。私もアノニマスに入ります。そして、あの4人を……解放して見せますわ」


 待っててね。


 シィノは微笑みながら、遠くに行ってしまった3人を思う。


 意識のないこの方には、最後に回復魔法をかけておきましょう。


「君は優しいね。優しさ担当はキモイしなぁ……うん、正義担当で!」


「別にどうでもいいですわ。私、あの4人が幸せになってくれればいいの。なんなら、5人で一緒に生活ができたら楽しいはずだわ! それに……」


「わーマシンガントークってやつ? 可哀想だね、初めて助けてくれた人に依存するなんて」


 ラルガはそれすらも愛おしそうに笑った。


「普通の人間って、やっぱり面白ーい」


 この方は人間では無いのかしら? シィノは首を傾げる。

 そして納得した。

 人間では無いのでしょう。だって、こんなに"罪"だらけの人間、見たことないですわ。


「やっぱり、ジィルに止められてたけど……会いたいなぁ、送り人達に。きっと、すごく人間なんだろうなぁ」


 決ーめた! と、楽しそうに歪む声。

 逃げていた歩乃華に悪寒が走った。


 世界に嫌われた男と、世界に愛された少女。


──まだ、邂逅しない。

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