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消えたと知って、探して

 最初は、少し遅いなと思っただけだった。

 フジが宿をとってからもう長い時間が流れた気がする。本だってもう読み終わりそうだ。


 10分。


 30分。


 ……まだ、帰ってこない。


 何かに巻き込まれてしまったのではないか? そんな事が思い浮かんでしまったせいで、フジは集中して本の残りを読むことが出来なかった。


 仕方がない、これは心配だったから──なんて言い訳をしながら、フジは宿を出て大通りを歩く。もちろん祝福の使用に魔力を多く込めながら。


 何も変わっていない街のように思えるが、小さく話が聞こえてくる。


(さっきの見た? なんであの子達は走っていたのかしら?)

(あれじゃない、盗みでもしてバレたのでしょう)

(いいや、私は貴族だと思うわ! 従者のような美少年から逃げていたしね)

(私もそう思うのよ! 美少年は女の子達が落としたものを拾っていたもの)


 確証はまだ持てない。でも、胸騒ぎがする。

 カンナがいる限り、武力面で劣ることは無いはず。それに盟約が発動していない、だから歩乃華は確実に生きているはずだ。

 一目見るだけでもいい。楽しく、平和に遊べていると知れたなら。


 大丈夫、大丈夫なはずだ。

 ……なのに、嫌な予感が消えてくれない。


 少しずつ足は早くなっていく。

 胸元をギュッと握りしめて、前方を睨みつけた。

 早くなっていく鼓動の音がうるさい。これはもう、祝福を使うべきだ。


 祝福を最大活用して、カンナと歩乃華の声を探す。……その代償で様々な人、動物、虫の声と心が聞こえてしまうが。


(先日イワツが……)(向こうの奥さん家を出たらしいの)(あー早く終わんねーかなー)(イケメンイケメンイケメン)(この服かわ……たっか!!)(家帰りたいな)(アノニマス……っ!)(お腹空いたな)(戦争かぁ、儲けるかなぁ)



 ……いた。


 アノニマス? なんでとち狂った組織の名前をカンナが呟くんだ。まさか、まさかじゃないよな。

 聞こえてきた方角に向かって走り出す。そこは路地裏であり、普通なら立ち入らないほど治安の悪いところだ。

 嫌な予感は、当たってしまうものなのか?


「カンナっ! どうした、何があったんだ」


 怪我をした状態で、よろよろと立っているカンナ。一点を睨みつけている。

 つられてそこを見るが、何も見えない。


 不自然な程に、"何も無さすぎる"。


 疑問は残りつつも、カンナを支えながら傷を魔法でを癒した。

 そこで気付く。ここにはカンナしかいないことに。

 フジは慌てて"いるべき人"を探す。カンナの後ろにも何処にもいない存在を。


 人攫い? いやある程度の者たちならカンナだけで制圧可能だ。だとしたらやはり、アノニマスなのか?


 アノニマス──大陸を股に掛ける大規模組織。その目的はそれぞれで、代表と呼ばれる者達の為だけにどんな事でもする集団。


 組織の組員達は代表たちに洗脳されているんじゃないか、と思えるほど崇拝している。


 なぜなら代表たちには狂気的なまでのカリスマ性──"精霊酔狂病"を持っているから。


 精霊酔狂病は精霊にまで深く影響を及ぼしてしまう罪の一つ。

 それを生まれ持った存在は、まともな生活を送るのは難しいと言われている。


 それを患っている存在達が代表だろう。

 代表は使い方次第で便利になるそれを利用し、組織を大きく発展させていったのだ。


 精霊を酔わせて、まともじゃないられなくすることを平気で行うなんて、頭がおかしい。


 狂人共の巣窟、が一番正しい名称だろう。


 代表が望んだから、と滅ぼされた国だって過去にはあるぐらいには、理不尽で自分勝手だ。


 アノニマスが嫌いすぎてフジは顔が歪む。熱く熱く腸が煮え返るくらい、アノニマスという理不尽な組織が許せない。いいや違う、これは個人的な恨みだ。

 あいつらだけは、絶対に許せない!

 アノニマスとフルシベル家の確執は歴史的に見ても深い。何回も争い、互いに負けて勝ってを繰り返しているんだ。


 ……落ち着け、今回のアノニマスの目的はなんなんだ? 一体どんなはた迷惑なことをするんだろうか。


「アノニマスが、ジィルが……歩乃華を攫ったの。私が弱かったから……守れなかったっ!」


 悔しそうに吐き捨てるカンナ。目元には殺意がメラメラと滾っていた。

 しかしフジはジィルという名を聞いて、疑問と恐怖を抱く。


 ジィル。それは何代も何代も前の送り人の時からいたアノニマスの代表の一人。

 ジィル、ドミル、コウルの三兄弟はシュティレを倒すためにいつも邪魔をしてきた。

 文献にも色濃く残っている。だが、だが今も生きているなんて……。


 ……人間じゃない。


 人間なんかが、神に近い祝福されし存在に勝てるのか?


 いいやどうでもいい! 歩乃華さえ助けられるならなんでもいいんだ!


 後ろ向きになる思考を無理やり止める。そして冷静に、考えを深めていく。

 ジィルが来たなら目的は一つだ。シュティレを倒すために、送り人に接近したはずだろう。

 

 でも早すぎやしないか?



 ……いや、今は考えるのをよそう。


──何があっても、絶対に助ける。


「ジィルは一体何をしたんだ? 逃げたか、魔法なのか」


「魔法だね、無の魔法。えっと、虚牢獄って言っていたと思う」


「……厄介だな」


 虚牢獄は世界の境界と境界の狭間、に一時的な空間を確保する魔法だ。

 だから歩乃華のいた世界とこの世界の狭間に、2人はいる。


 空間を用意してそこに転移するのも大変だ。

 だがそれよりも、狭間は用意された"理"がないから、自由自在に操ることが出来る便利さが勝ったのだろうな。


 その分魔力の消耗も激しいはずだ。このまま待っていればいずれ帰ってくるだろう。


 だが、相手は信用ならないアノニマスだ。

 魔力が渇望しても転移させないかもしれない。もしそうしたら狭間で取り残されて大変なことになる。


 ……この世界の外を探す?

 今よりも探せる確率が減ってしまう前に。


 きっとあるはずだ、転移するための指標にした何かが。


 転移魔法は座標計算ができないと扱うことが出来ない。だからこそ望んだ場所を探知系の魔法で探し、そこの特徴的な何かに対して飛ぶのが普通だ。

 ジィルもきっと残しているはず。

 その痕跡さえ見つければこちらから逆探知できるだろう。


「カンナ、ジィルは何か置いていったり残していったものはないか?」


 問いかけるとカンナは指を指す。そこにはシルクハットが転がっていた。


「それならシルクハットを置いていったよ。もしかして、転移が関係してるの?」


「あぁ。……シルクハットか」


 大きいものの方が痕跡が残りやすくて助かったんだが……仕方がない。

 フジはそれを手に取って、シルクハットの精霊達に魔力を軽く流す。


 魔力残滓が残っていた。カンナを傷つけた残滓と同じだったから、ジィルのもので合っているだろう。

 フジは残滓の色、波、量、輝きなどこと細かく読み取っていく。


 読み取った魔力を元に探せばいい。この世界の外にも精霊子は存在しているからできるはずだ。


 だが、魔力の消費は大変なことになるだろう。


 良くて長時間の睡眠、一歩間違えたら廃人か。

 迷う理由は無い。



「神の御心のままに、星の輝きを身に宿し」


 魔力の循環を通常時の十倍、百倍と増やしていく。そして高加速化した魔力を心臓の辺りで練り合わせていく。


 星の魔法。


 それは好んでは使いたくないものだった。

 魔力消費量が他とは桁違いで、魔力の少ないフジではどんなに効率的に使っても一回が限度だったのだ。


 それでも、この世界の外を探すには星の魔法しか無かった。他のものでは、力が足りない。


「清廉潔白な我が望む 我を導き給え!」


 全身に熱を感じる。血管が焼けるみたいに痛い。自分は今燃えているのではないか、そう思えてしまう。

 高純度の魔力を高加速。精霊へ伝えるイメージを細部まで明確にしていく。


 歩乃華は絹のような黒髪で、いつも優しげに笑っていた。見捨てようとした僕を、助けてくれて、知りたいと言ってくれるほど、暖かかった。


──絶対に見つけ出す。



「ポラリス!!」




 フジの唱えた言葉に、世界は対応していく。

 与えられた魔力の方向と歩乃華の存在。座標を探すにはもう少し欲しいが、でも見つけられる範疇だった。

 フジはゴッソリと抜けていく魔力を感じながら集中を辞めない。


 探せ。

 探せ、探せ──


 探せ!!



「見つけた」



 空間を見つけた。だから次は壁を壊してから転移すればいい。そうすれば歩乃華を助けることもできるだろう。


 もちろん、それは魔法が使えること前提だが。


「フジっ!!!!! フジっ!!!」


 見つけた瞬間力が抜けた。

 今気づいたが、鼻血が滝のように流れていたみたいだ。鉄の味、まずい。

 床は冷たくてぶつかったところが痛いし、指の一本も動かせない。


 ……でも、止まりたくない。

 あぁ、眠い。でもカンナだけでも送らないと。


 なのに体は動いてはくれない。


 カンナが必死に抱き起こして揺らす。でも動けなかった。


 送らないと、助けないと。



「さぁおいで付き人。どうか彼女を止めてくれ」



 しかしその前に、カンナとフジは引きずり込まれた。

 二人が行きたかったその場所に。

本日、18時30分の21時30分にも更新予定です。

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