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俺たちの高校生活支援部!!  作者: ハチノグノ
正真バトル編+番外編
40/40

本当の言葉で(正真バトル編 第九話)

大事な中堅戦、任されたのはあの女。珍獣、ゴリラ、猿に育てられた女、バカアホマヌケ。いろいろな異名があるが、彼女は果たしてどんなパフォーマンスを見せてくれるのだろうか…。


「うむ、見ものだな…」


「見ものだな…じゃないでしょ!後半ほとんど暴言じゃないの!」


「なんだ、いつの間にか戻ってきてたのか」


先ほど、中堅戦の出場選手およびお題の発表がなされた。高援部は後攻で、まだ出番のない柏木はこちらに戻ってきていたようだ。


「はぁ、この後は私の番だってのに励ましの言葉もなし?」


「冗談だよ。まぁ、とりあえずは中堅戦先攻の、ホストクラ部の模擬デートを見てみようじゃないか」


柏木に対するはホストクラ部副部長 前園彰まえぞのあきら


「お前の対戦相手、前に柏木が敵情視察でボコボコにしたやつだぞ。物理的にな」


「え、あんな人いた?あんまし覚えてないんだけど」


やはり本当にこいつは猿に育てられたのかもしれない。


「いただろ?あの時にお前についてたホストだ。お前がビンタで気絶させたんだろうが」


「あー、そんなこともあったかも。でもあの人あんまりカッコよくなかったし、勝つのは私で確定ね」


自信満々に宣う柏木。


カッコよくなかったという割にはめちゃくちゃ照れてましたよね?


「新田さん、芽依さん、そろそろ始まるみたいですよ」


制服に着替え終わった鹿苑は、俺たちの意識を舞台の方へと向けた。


『さて、1対1で迎える中堅戦。先攻はホストクラ部です。今回のお題は、後夜祭で甘い告白を!です!それではホストクラ部代表の前園彰まえぞのあきら選手と荒木美沙あらきみさ審査員、よろしくお願いしまーす!』


司会のアナウンスでホストクラ部の模擬デートが始まった。


「今日は楽しかった?」


「は、はい…」


前園は一言で表せば好青年。いい意味でホストっぽくはない。髪の色は黒色で、アクセサリーも控えめ。他のメンバーとは違って見た目から落ち着いている。


対する審査員の荒木は、気が小さそうな文学少女なイメージだ。


「そっか。それなら良かった。あのさ、良かったらなんだけど、俺とフォークダンス踊ってくれない?こうやってキャンプファイヤーを見てるだけじゃもったいない気がして」


「い、いいんですか?私なんかと」


「もちろん。俺は荒木さんと踊りたいから」


「じゃ、じゃあ、踊ります…」


「へへっ、やった」


そう言いながら顔を赤らめる前園と荒木。


「二人の初々しさというか、純朴そうな感じがなんとも言えんな」


俺は壇上の二人を見ながら呟いた。

そんな俺の言葉を聞いて、柏木が俺を小突く。


「なに敵に感心してんのよ」


「でもああいうの実際キュンキュンしないか?」


「まぁ、確かに」


柏木は少し不服そうながらも俺の意見を認めた。


『ここで前園選手と荒木審査員、ともにキャンプファイヤーの下へと向かっていきます!!』


「じゃ、じゃあ…」


「は、はい…」


そしてフォークダンスをするために手を繋ぐ二人。


『ここで手と手が接触!!このボディータッチ、荒木審査員には結構効いているのではないのでしょうか」


「意外と踊れるもんだね」


「ふふっ、周りの人に合わせれば踊れないことはないみたいです」


俺もこんな青春を送ってみたいものだ。


「そういえばうちの高校って後夜祭とかあんの?」


俺は横の柏木に尋ねる。


「そんなの知らないわよ」


即答で柏木。


柏木ってそういう行事が好きそうなタイプに見えて意外とドライなんだよな。こいつの口から学校行事の話題が出たことあんまりない気がする。


「鹿苑は知ってるか?」


「私も知りません。興味ありませんから」


こいつらに聞いた俺が間違いだったようだ。

すると、後ろで見ていた松浦先生が話しだした。


「うちは後夜祭あるぞ。例年、割と派手にやるから、昼間の出し物よりもそっちが本命ってぐらい気張る生徒もいるぐらいだ」


まぁ、正真バトルとかいうよく分からんものにこれだけの労力をかける学校だ。後夜祭もそこら辺の学校の規模じゃないのだろう。


「へー、キャンプファイヤーはやるんですか?」


「あぁ、やるぞ。あんな感じでな」


松浦先生は前園たちを指差して言う。


「俺もあんな風に踊ってみたいもんです」


俺は松浦先生にぼやく。


「ははっ、相手がいないなら私が踊ってやろう」


「言質、取りましたからね」


「そんなのなくても踊ってやる」


「わ、分かりました」


いちいちセリフがカッコいいな、この人は。その分、たまに見せる頭のおかしい部分は際立つのだが。


俺は舞台の前園たちの方へ視線を戻した。


「ねぇ、あれってD組の荒木じゃない?なんであんななのが前園先輩と…」

「きっと仲間内の罰ゲームか何かよ。じゃなければ荒木みたいなモヤい女とキャンプファイヤーなんて囲まないでしょ」


『おっと、荒木審査員。あの前園選手とフォークダンスを踊ってしまったばかりに同学年の女子から嫉妬を買ってしまいましたー』


同学年の女子ってなんだ。そういうエキストラの使用は許されてるの?


「ま、前園さん…。私もう大丈夫ですから」


「大丈夫って、なんで?」


「だって、私なんかと前園さんが踊ってたら不釣り合いですし…」


「そんなの関係ないよ」


「いいえ。だから、手を離してください…」


そして二人の手が解かれて離れる。


『先ほどまで良かった二人の雰囲気が徐々に悪くなっていきます!ここからどう巻き返していくのでしょうか!』


「いや、離さないよ」


前園は離れた荒木の手を掴み直す。


「や、やめて…!」


前園に手を握り直された荒木は顔を赤ながらも、再び前園を振り解いてどこかへ走り去ろうとする。


「あ、荒木さん!」


前園はその後を追おうとするが、少し躊躇い、そのうちに荒木の姿は見えなくなってしまった。


『こ、これは波乱の展開です!順調な駆け出しから一転、二人は離れ離れになってしまいました!』


そのころ、ホストクラ部サイドでは。


「ここからどう立て直すつもりだ、前園のやつ」


次鋒戦代表の槙島が、ホストクラ部の部長である東雲に問う。


あきらは自分からあんなエキストラを仕込んだんだよ?そりゃあ、こうなることは想定内さ。君も見てきただろ?ホストクラ部副部長の前園彰を。なら分かるはずだ」


東雲は余裕の笑みで槙島に語りかける。


「へいへい。代表がそういうなら黙って見てますよ」


「ふっ、それでいい。この中堅戦は確実にホストクラ部が取らせてもらう」


前園を見る東雲の目には、副部長への絶対の信頼が伺えた。


「どうしよう、私。前園さんにあんな酷いことを…」


前園から逃げ出した荒木はキャンプファイヤーの明かりも見えない、特別棟4階の廊下にいた。


そんな彼女のもとに駆け寄る足音が一つ。


「え。だ、誰…」


正体の分からない足音に怯える荒木。荒木はその場に立ちすくむことしかできなかった。


「や、やめて。来ないで…!」


階段を登りきった何者かは、荒木の元へ歩みを進める。そして二人の距離が縮まると、その正体が明らかになった。


「ま、前園さん?」


「ははっ。み、見つけた」


荒木に対する前園は息を切らしていて、少し汗ばんでいた。


「な、なんでこの場所が…」


「そ、そりゃあ荒木さんの行くとこなんて俺にかかればすぐ分かるよ」


「で、でもぜぇぜぇしてるし、汗もかいてる…」


「ば、バレたか…」


滴る汗を拭いながら話す前園。


「バレちゃったらしょうがない。簡単な話だよ。虱潰しに校内を回っただけさ」


「そ、そんな…」


「この後夜祭っていう特別な行事を、荒木さんと過ごせないのは嫌だったからね」


「わ、私は荒木さんと一緒にいるのは嫌です…!」


「嘘つき」


そう言って荒木の両の手を握る前園。


「だから私は…」


「さっきの続き、しない?」


荒木の言葉を遮り、強引に前園はフォークダンスの続きを始めた。


荒木は嫌そうにしながらも、それに抵抗することはなかった。


「ここじゃあキャンプファイヤー見れないですよ…」


「でもここなら周りの目を気にしないで済むでしょ?」


人気のない特別棟には、微かにキャンプファイヤーの下で流れている音楽の音が聞こえていた。


「前園さんって少し強引です」


満更でもない顔で荒木はそうボヤく。


「うーん、荒木さんにはこれくらいがいいのかなって」


「意地悪…」


「意地悪で結構」


「…もう!」


喧騒から逃れた二人だけのこの空間はどこか儚い空気を纏っており、司会と観客、高援部とホストクラ部の面々も黙って二人を見守ったいた。


「そういえば知ってる?この学校の言い伝え」


「いえ、知りませんけど…」


「なら教えてあげる。この後夜祭で、キャンプファイヤーを囲みながら愛の誓いをしたカップルは永遠に幸せになれるらしいよ」


「なんですか、それ。それにここからじゃキャンプファイヤー見えすらしないから意味ないですよ」


「そうだね。でもそんなおまじないみたいなもの、僕たちには必要ないでしょ?」


それを聞いた荒木は、少し落胆した様子を見せた。前園が自分にそういう気がないという風に捉えたのだ。


「だってさ、そんなおまじないなくても僕は一生君を幸せにするから」


「そ、それって…どういう意味ですか?」


「ふふっ、愛の誓いだよ」


そして前園は繋いでいた手を振り解き、今度は両の腕で荒木を自身の方へ手繰り寄せた。


「やっぱり、前園さんは強引です」


「でもそうじゃなきゃ君はまた逃げ出しそうだから」


「ふふっ、もう逃げ出しません」


「じゃあ、今からすることからも逃げないでね」


「は、はい…」


そして前園は、荒木の唇へ口付けをした。


『フィ、フィニッシュー!!荒木選手!ベタにキャンプファイヤーという舞台を使わず、あえて人気のない場所でロマンチックな告白をやり遂げました!場内は二人の雰囲気に圧倒され、今もその名残りを残したまま、皆口をあけて二人を見ることしかできていません!!』


「好きだよ、荒木さん」


「ううん、名前じゃなきゃ嫌だ」


「僕のこと強引って言うけど、そういう荒木さんも実はわがままだよね」


「な!ま!え!」


「はいはい。好きだよ、美沙」


「私も好きです。彰さん…」


そして二人は再び口を重ねた。


『オーバーキル!!ホストクラ部副部長の名は伊達ではありませんでした!この完璧なパフォーマンスに後攻の高援部はどう攻めるのでしょうか!!』


「はぁ、司会の言う通りだな」


俺はポツリと呟く。


「はい、あんなの見せられてしまったらもう…」


近くにいた鹿苑も同じように弱音を吐いた。その他の高援部サイドの人間も、口に出さずとも同じようなことを思っていたのだろう。


しかし、あの女だけは違った。


「俄然やる気が湧いてきたわね」


前園はうちの狂犬の闘志に火をつけたらしい。


「すまん、柏木。俺たちが弱気になってどうすんだよな」


「芽依さん、すみません。私ったら…」


「いいわよ、別に。ふふん、この芽依さまに任せんしゃい!」


本当、頼りになる相棒だよ。



『さーて、お次は高援部のパフォーマンスです!先ほどのホストクラ部は圧巻の模擬デートを披露してくれましたが、対する後攻の高援部はどんなものを見せてくれるのでしょうか!!それでは柏木選手、荒木審査員、よろしくお願いしまーす!!!』


いよいよ始まった柏木の模擬デート。果たしてあいつはどんな後夜祭デートを見せてくれるのか。


「美沙ちゃん、今日は楽しかったね〜」


どうやら緊張はそこまでしていないようだ。


「は、はい。私も楽しかったです」


「そっか、なら良かった」


「は、はい…!」


会話はそこで終わってしまい、その次の言葉は両者のどちらから出ることはない。


「「…」」


『おーっと!出鼻から妙に気まずい雰囲気が流れているが、チーム高援部大丈夫かー!」


「「…」」


実況の声だけが会場に響き、沈黙のままの二人。


何やってんだあいつ。最初はあんなに意気込んでいたが、何か作戦があってのものだったんじゃなかったのか?


「新田、焦るのは早いんじゃない?」


後ろから出てきたのは秋元。俺の様子がおかしかったのか、それを宥めるように言葉をかけてきた。


「秋元…」


「焦る気持ちは分かるけどさ、芽依ならきっと大丈夫だよ」


その言葉を受けて、俺は舞台上の柏木へ再び視線を戻す。


「いやでも、あれじゃあ…」


俺は舞台上の柏木の方を指差す。


「信じてやりなよ。芽依はやる時はやる子でしょ?部長である新田がまず最初に信じてあげないでどうすんのよ」


秋元は俺の目を見つめながら言う。秋元の言っていることは正論だ。しかし…。


「新田!私がこんだけ言っても分かんないの!?芽依のこと良く分かってるのはずっと隣にいたあんたでしょうが!!」


痺れを切らした秋元は俺の胸ぐらを掴み、壁に俺を押し当てる。その力から秋元の俺に対する怒りがどのくらいのものかが伝わってきた。


「凛ちゃん、やめて!新田が可哀想だよ」


吉村が割って入り、激昂する秋元を止めようとする。


「吉村は黙ってて。私はこいつに言わなきゃいけないことが…!」


「いや、でもあれ…」


吉村は柏木の方を指差す。


「だから、今はこいつに…ってあれ?」


秋元の目に入ってきたのは、先ほど俺が指差していた柏木の姿。


「芽依、何やってんの?」


俺から視線を移し、柏木の姿を目の当たりにした秋元の手が俺から離れる。


「ゴホッ、ゴホッ。お前の言う通りだよ。柏木を信じてやれってな。でもあれみたら少しは揺らぐだろ!」


俺が秋元に焦るなと言われて、少し気持ちが軽くなった瞬間に見た柏木の姿。それは…。


『柏木選手!鼻と口で割り箸を挟み、キャンプファイヤーの周りで一人、盆踊りを踊っています!!なんという奇行でしょうか!』


鼻割り箸と言うのだろうか。古くから伝わる宴会芸にあれは他ならない。


「ごめん、新田。信じろとか言った私が悪かった」


「いやいいんだ。俺は秋元の言う通りにあいつを信じることにしたよ」


そんな俺の言葉に反応したのは吉村。


「いや、あれは信じなくていいんじゃない?」


そんな吉村と秋元が柏木の様子に呆れているのを見て、俺たちよりさらに後ろで戦況を見守っていた坂野がポツリと呟く。


「中堅戦は終わりだな」


そんな坂野の声が届くのは、同じく後ろで俺たちを見守っていた松浦未希まつうらみきのみ。


「いいや、まだ終わらんよ」


「なんでそんなことが言えるんです?あれはもう軌道修正不可能でしょ」


「それをやってのけるのが高援部とその仲間たちだからな」


坂野はそんな松浦の言葉を信じられずにいた。


「そんなに君は信じられんか?見てみろ、前のあの子らを」


「本当だ。目が死んでない」


「ははっ、そうだろ。多少ボヤいたりしても、まだ仲間の勝ちを信じてるんだ」


「それでも、僕の目は死んだままです」


「そのうちあの目に当てられて君も分かる時が来るよ」


「そんな日は来ないです」


「ははっ、少し前にもこんな会話したな」


坂野と松浦の会話が終わったころ、会場に実況の声が響いた。


『な、なんと!あの大人しそうな荒木審査員が柏木選手の鼻割り箸盆踊りに声を上げての爆笑!先ほどまでの沈黙が嘘のようです!』


「そんな馬鹿な」


坂野から言葉が漏れ出した。


「そりゃあ、本人たちが馬鹿だからな」


松浦が坂野の言葉に反応する。


「ここから見せてくれるんじゃないか?高援部の底力を」


「まぁ、でも前園のパフォーマンスは超えられませんよ」


こんな会話をされているとも知らず、柏木は無我夢中に盆踊りをし続けていた。


「か、柏木さん…、わ、私笑いすぎてお腹が痛いので、も、もうやめてください。ふはっ、ふははっ」


荒木はツボに入ったのか、キャンプファイヤーが設置されているグラウンドで笑い転げている。


「ど、どぉうこれぇ、おもしろれしょぉ〜」


調子に乗った柏木は止まることを知らず、余計に馬鹿な宴会芸を加速させた。


「も、もうやめてぇ〜。ほ、本当に笑い死んじゃうからぁ〜」


『柏木選手、驚くべき手法で距離を縮めていきます!しかし、ここから告白までもっていくことができるのでしょうか』


「あいつアホだろ」


「はい、アホです」


俺の言葉に鹿苑が返す。


「まぁ、でも芽依らしいといえば芽依らしいね」


「ははっ、凛ちゃんの柏木さんのイメージどうなってんの」


秋元と吉村も軽く笑いながらそんなことを口にしていた。


「まぁ、実況の言う通り、こっからどう告白までもっていくかだな」


距離は縮まっても、このままじゃ友達止まりだ。それを柏木はどう打開していくのだろうか。


「ふぅ。美沙ちゃんがもう限界そうだからここまでにしとこっか」


柏木は挟んでいた割り箸を取り、荒木が座っていた方へと戻った。


「は、はい。そうしてくれると助かります…。ぷはっ」


「でも美沙ちゃんが笑ってくれてよかったよ」


「ふふっ。私、こう見えてああいう下品なのが一番笑っちゃうんですよ」


「下品って何よ、下品って」


序盤と打って変わり、お互い話しやすそうな雰囲気が形成されている。これがアイスブレイクというやつか。いや、少々ブレイクしすぎな気もするが。


「美沙ちゃんは踊らなくていいの?盆踊りはふざけてたからあれだけど、一緒にフォークダンスとか」


「私は大丈夫です。ああいうのはちょっと別の世界っていうか」


「そっか、それならいいや。てか話は変わるんだけどさ、美沙ちゃんって好きな子とかいるの?」


「い、いませんよ…」


「ふーん、私はいるよ?」


私って…。あいつ自分が男役してんの忘れてんのか。


「そ、そうなんですか?」


「うん。どんなことでも私と一緒に喜んでくれて、一緒に怒ってくれてー。そんで一緒に哀しんでくれる。あと、楽しんでもくれる。そんな人」


「ふふっ。喜怒哀楽、ですね」


この時、私は荒木美沙とは別の人間を思い浮かべていた。模擬デートなのに何言ってんだろ、私。でもきっと、私は仮の自分を取り繕おうとすると何も上手くいかないから。あいつは、入学してすぐのそんな私を拾ってくれた。そんで、素でいることの素晴らしさを教えてくれた。だから私は演技で何か言うことはしない。


「そう。そんな人なの」


「そうですか。素敵ですね、そういう関係は憧れます」


これから私が言うのは美沙さんに向けて言う言葉じゃない。違う人に向けて言う言葉。少し美沙さんには申し訳ないけど、演技うそは私には無理だから。本当の言葉を使わせて。


「喜怒哀楽、それを共にしてくれる、そんなあなたが私は好き。私と付き合ってください」


『き、きたー!ついに柏木選手の告白です!ここにきて柏木選手、出場者の中でも抜きん出た演技を披露してきましたー!!』


柏木のやつ、あんな演技ができるのか。まぁ、確かに入学したばっかりの頃は高校デビューを成功させようと、仮の自分を演じていたわけなのだが。それにしては演技じゃなくていつもの柏木まんまというか…。


そんな俺の胸の内は関係なく、まだ終わっていない模擬デートは進行していく。


柏木の言葉に、荒木は少し間を置いて口を開いた。


「はい、ごめんなさい」


「えっ」


「「「「「「えっ」」」」」」


驚きの荒木の言葉に、実際に対峙していた柏木とそれを見ていた俺たちは同じような声を上げた。


そして、そんな言葉を吐いた荒木は硬直する会場全体を差し置き、ステステと舞台から降りていった。


それは試合終了を合図するようなもので…。


『しゅ、終了ー!!!これにて高援部の模擬デートは閉幕です!今までにない終わり方で少し私も驚きましたが、審査員の荒木さんが壇上を降りたということはそういうことでしょう!!これから勝敗のジャッジへ移りますので、会場の皆さんは少々お待ちください』


俺たちが呆然と立ち尽くす間に結果発表の準備が整い、荒木と前園、柏木が壇上に揃う。柏木も俺たち同様に固まったままだ。


そして当然、勝敗はというと…。


『中堅戦、勝利は…チームホストクラ部!!前園選手おめでとうございます!!』


「ま、まぁ、そうなるよな。振られたわけだし」


「そ、そうですね。そうなりますよね。振られたわけだし」


俺と鹿苑はようやく声を出すことに成功し、現実を受け止め始めた。後ろで観戦していた秋元たち四人も

同じような様子だ。


『荒木審査員、このように勝敗を決めた理由をお聞きしてもよろしいでしょうか』


荒木の手にマイクが渡される。


「はい。どちらもよくて、実は途中までは柏木さんの方が良くて好きだったんです。でも最後の告白があまりピンと来なかったというか。私的にそこが残念で、総合的に考えた結果、アベレージが高かった前園さんが勝利ということでジャッジしました」


『なるほど!それじゃあチーム高援部にもチャンスはあったということですね…。はい!ありがとうございました!両選手と審査員の荒木さんに大きな拍手を!!」



柏木はすぐにこちらには戻らず、制服に着替えてから舞台袖で待つ俺たちの下へと帰ってきた。


「お疲れ」


俺がそう声をかけると、柏木は声を出す元気がないのか、小さくグーサインをこちらに送り、設置されているパイプ椅子に崩れるようにもたれかかった。


「おい、大丈夫かよ」


「大丈夫なわけないでしょー。私だけ振られたのよー。こんなことってある?」


「いやでも、めっちゃ良い演技だったけど。司会もそう言ってたし」


「演技じゃないわよ、バカ…」


「は?演技じゃないってどういうことだよ」


「うっさいわね。今は私に構わないで」


「そうかよ。あんまし辛いようだったら一緒に泣いてやるから呼べよ〜」


「呼ばないわよ、このバカ新田!」


露骨にやさぐれている柏木。まぁ、それだけ悔しかったってことだろう。それにしても、いよいよ危うくなってきたな。先ほどまでは意識から遠のいていた負けという2文字が、俺の頭に浮かんできたのだ。


「芽依さん、大分荒れてますね」


鹿苑に続き、秋元や吉村も同じようなことを呟く。それに俺は言葉を返した。


「今はほっといてやれ。どうせそのうち元気になってるさ」


柏木のことはよく分かっているつもりだ。人より数倍落ち込む分、立ち直るのも早い。今は少しでも早い回復を祈ろう。


「やれやれ、坂野にお前らを信じろって言っていたのに負けてしまうとは。我が部の顧問として情けない」


意気消沈している俺たちの下に松浦先生と坂野が歩み寄ってきた。


「僕の予想した結果になっただけですよ、先生」


坂野が意地悪そうにそんなことを宣う。


「ねぇ、新田。このメガネ、私いい加減ムカつくんだけど」


秋元は額に血管を浮ばせながら、坂野を牽制するような言葉を吐く。


「まぁ、落ち着けよ。メガネ先輩はこういう人だからさ」


「おい、勝手に俺のイメージを決めるな」


「そういう先輩も俺たちがこの後も負けるって勝手に予想してるでしょ」


「あぁ、もちろん」


自分でそう言うように促しておいてなんだが、なんでこの人はこっちの陣営にいるんだろう…。


「メガネ先輩、ツンデレは女の子だから許されるんですよ?しかも、全くデレないし」


「そもそも君は僕のデレには興味ないだろ」


「まぁ、そうですけど」


「全く可愛くないやつめ」


「同じ言葉を返します」


俺と坂野が例の如くバチバチに舌戦を繰り広げていると、松浦先生が俺たちの間に割り込んできた。


「君らはずっと喧嘩してばっかりだな。これから遂に私の出番だと言うのに。その時はちゃんと応援しろよ?」


その言葉を聞いた俺たちは、お互い睨み合った後、再び視線を逸らした。


「おい、返事は」


「「はい」」


「ふん、よろしい。じゃあ、私は着替えてくるからな」


そう言って松浦先生は更衣室の方へと歩いていった。


松浦先生の男装かー。さぞかしカッコいいのだろう。別に俺がどうこうされるわけではないが、ドキドキしてきた。


次負ければ敗北が決まる大一番の副将戦。お願いしますよ、松浦先生。


正真バトル編 第十話に続く。

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