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第62話

瀬戸先輩に空を寄こせと言われた私は、逃げるように帰った。

言い逃げする私の背中に「待ちなさい!」と怒号が飛んできたが、そんなものは振り払った。


その日は空の部屋に行くことなく帰宅した。

楽しみだった漫画もまだ読んでない。

空は心配そうに電話をしてきたが、テキトウなことを言って切ってベッドに顔を埋めた。


なんなんだ、あの女は。

寄こせだなんだと言いやがって。

そんなもの、空に直接言え。空に直接好きだと言ってこいよ。そしてこっぴどく振られてしまえ。

空に告白する前に宣戦布告でもしに来たつもりか。あわよくば空を横から掻っ攫おうだなんて思っていたのか。

大体、親友が振られた時点でお前も終わっているんだ。親友が振られたのに自分も告白しようだなんてどんな神経してるんだ。もし、仮に、万が一、空が「いいよ」と告白を受け入れたらどうするつもりなんだ。親友からの視線に耐えられるのか。そうなればお前は、真実はどうであれ「親友を餌に好きな男を奪った女」というレッテルを貼られることになる。

あの女は正気か。今まで恋愛なんてしてこなかったから恋愛の仕方が分からない、とか言い訳をするつもりか。


空から離れるよう言われたことは何度もあったが、頂戴と言われたのは初めてだった。

少しだけ、ほんの少しだけだが、奪われるのではないかと思った。宣戦布告してくる女はいたが、瀬戸先輩は瞳の奥に炎を宿し、真っ直ぐこっちを向いていた。それが一番、腹が立った。「あたしは蒼井のことが本気で好きだから、本気で好きじゃないお前は引け」と、ひしひしと伝わってきた。腹が立った。じゃあお前は空の何を知っているんだ。

謝ったら笑顔をくれた、水に流してくれた、懐が広かった。それで空を理解したつもりか。自分は他の女とは違うといいたいのか、自分は顔で選んでいないと、自分は空の中身を知って好きになったと、そう言いたいのか。

たかが数日関わっただけの分際で、立場を弁えろ。お前は私と同じ土俵にいないんだ、外野の人間が間に入ってくるなよ。

腹が立つ腹が立つ腹が立つ。

あまりにも腹が立つから最後、つい大声を出してしまった。

知ったような口をきくな。お前が知っているのは外面の空だ、そんなもの、お前以外にも見せている。

中身を知って好きになったから本気だ、お前は引け。そう言われているようなのが腹立つ。なんなの。


シーツを握りしめて怒りに震える。

何故私がここまで追い込まれなければならない。

何故私があの女に空を渡さなければならない。


身の程を知れ。たかが数日関わっただけ、たかが一年早く生まれただけ。偉そうにする理由なんてない。

私は自分が綺麗な人間ではないことを知っている。空だって世間から見れば最低な男だ。

自分は綺麗なのだと、非があれば反省するんだと、真っ当な人間なのだと、全身で主張するあの女が嫌いだ。どうしてここまで嫌いなのか。私が惨めになってくるから、私が最低な人間だと自覚するから、私が負けると思ったから。全部違う。

私から空を奪うことが正当なのだと、正義だとでも言わんばかりのあの態度。ヒーローを唆す悪い女からヒーローを奪還しなければ、などと自分があたかも物語のヒロインになった気分でいるあの女が嫌い。

私は他から見ればヒーローを唆した悪女なのだろう。そんな悪女を退治しようと果敢に立ち向かうあいつ。

私は、ただの性格悪い女だということくらい自覚している。

それでも、自分が悪いなんて一ミリも思ってない、あいつに空を渡すことなんてない、私は悪くない。


私はできた人間じゃない、綺麗な人間じゃない、だからといってそれらを気に病んだことはない。


結局こんな性根が腐った自分が、嫌いじゃないのだ。



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