第61話
「え、ちょっと、いらないって何ですか。私、いらないなんて言ってませんよ」
幼馴染だから一緒にいる。それは確かだ。でも一緒にいるのだから、少なからず好きという感情があるわけで。好きということは一緒にいたいというわけで。今までの会話のどの辺りに、私がいらないと思う要素があったんだ。私はそんなこと一度も言っていないし、そんなニュアンスもなかったはずだ。
「あんたいっつも蒼井に対して素っ気ないよね」
「そう、ですか」
「見てたもの。蒼井がよくしてやってんのに、あんたずっとしてもらって当然って顔してた。それが腹立ったのよ!」
そんな顔、していたか。うん、していたな。
私はできた人間じゃないから、いつも私のために動いてくれる空を当然と思っている節がある。私のことを考えて、私のことを想って行動してくれる。
だってずっとそうだった。空が隣にいて当たり前、空が私のために漫画を買ってきたり、私のために勉強を教えてくれたり、そうやって私のために動いてくれるのは当たり前。瀬戸先輩の言葉に否定できないのは事実だ。
「あたしなら、あんなによくしてくれる人を放置なんてしないし、軽くあしらうこともしない、それにお礼はきちんと言うわ。あんた、お茶を一口もらったときでさえお礼を言わず返してたでしょ、その神経どうなの」
あたしなら、あたしなら、ってうるさいな。仮定の話に意味はない。
あぁ、だからあのとき、私が空にペットボトルを返したとき、睨んでいたんだ。
「あたしは蒼井に好き勝手言ったわ、さすがに突っ走りすぎたと思って謝ったら嫌な顔せず受け止めてくれて、水に流してくれた」
もしかすると、私の知らない所でこの二人は会っていたのか。
「その辺の男とは器が全然違った。あたしなんて、蒼井に嫌われるようなことを散々言ったのに、気にしてないって言ってくれたの」
握る拳が震えている。
「わたしは怒鳴られる覚悟だったのよ、無視される覚悟だったのよ。でも悪いと思ったから謝ったの」
瞳には涙をためている。
「それでも蒼井はあたしに笑顔をくれたわ」
より目つきを鋭くさせて睨みをきかせる瀬戸先輩は、私に敵意を向けていた。
「だから、あんたみたいに有難味が分からない、してもらって当然、蒼井は自分のモノっていうその精神が腹立つのよ!」
そんなこと、ない、わけがない。
私の隣に空がいるのは当然だ。だって空は私のことが好きだから、それが恋愛感情なのか友情なのか家族愛なのか、はっきりとは知らない。でも私への執着を見れば「自分は愛されている、自分は他の女とは違う扱いを受けている」と、そう思うのも仕方ないでしょう。過去に何人、空に言い寄った女がいると思っているの。何人、空が蹴散らした女がいると思っているの。あの執着を見せられたら己惚れるのも仕方ないでしょう。当然と思ったって仕方ないでしょう。
私の中にある、空に対してのこの感情が恋愛かなんて分からない。でも、好きという感情はある。それは空だって同じだと思っている。もし空の感情が私と違っても、互いを求めていることには変わらない、そこに他人の入る隙間なんてない。そんな隙間作らせない、あってはならない。
私から空を取り上げたら何も残らない。友達だって、空が連れてきた人ばかりだし、空を取り上げられたらその友達も必然的に離れていく。勉強だって空がいないとできないし、両親が一日外出していたら誰がご飯を作ってくれるの。誰が私の話し相手になってくれるの。誰が私のためにお風呂を沸かしてくれるの。誰が私のために漫画を買ってきてくれるの。誰が私のために。
「だから、いらないなら頂戴よ」
震える声で言う先輩。
「ねぇ、頂戴よ」
嫌だ。あげるわけない。誰がお前なんかに。
「あんた蒼井に恋してないんでしょ!?じゃあ、あたしに頂戴よ!」
「......やだ」
あげない、渡さない。
何故ここまで自分のクズ加減を自覚しなければならないのか。
何故ここまで瀬戸先輩を嫌な奴だと感じるのか。
「聞こえないわよ!何なのよ!!」
「あげないって言ってんの!!何度も言わせないで!!」
奪ってやる、と訴えてくるからだ。
その表情から、態度から、奪うぞと叫んでいるからだ。




