2-2.18歳の私と36歳の彼女(2)
船の中に入ったときの印象を言葉にするなら、開放感! ホールのようなところの真ん中は吹き抜けになっていて、見上げれば、二つ上の階まで、全部見通せてしまう。しかも、驚くほどたくさんの人が船の中にはいた。待合室の寂しさとは、あまりにも違う賑やかさだった。
同時に、船という限られた空間だということもはっきりと感じる。外から見たときは、あんなに大きかったのに! 向こう側にはすぐに壁が見えた。少し見渡せば、案内をしてくれる人(部屋の位置を教えてもらった)の待機している場所や、売店や、何かの部屋を区切る壁が目に入る。それは上の階でもそうで、通路は狭くはないけれど広々としているほどではなく、並んだ窓にテーブルと椅子のセットが連なっている。というか、二階(と言っていいんだろうか)の通路や共有のスペースの窓の近くは、椅子とテーブルで埋め尽くされていた。
部屋への通路は本当に狭くて、すれ違うのにも苦労した。ちょうど脇にあったドアが開いた時には身構えてしまったけれど、眼鏡をかけた女の人が、そこから出る前に立ち止まって、私を通してくれたおかげで助かった。小さくお辞儀をしながら通り過ぎたとき、その人のいる部屋というか空間が見え、ブラインドで区切られているらしいベッドがたくさん並んでいた。ああいう部屋もあるんだと感心していたせいで自分の部屋を通り過ぎてしまうところだったけれど、入ってみると、そこは昨日まで泊まった部屋よりも、豪華に見えるくらいだった。もちろんそんなことはないと思う。冷静に見れば、設備はまあ同じくらいだとしても(ベッドは二つあるし、テレビも冷蔵庫も洗面所もある!)、狭いに決まっている。でもそんな感慨も、窓の存在に気づいたときには、どこかに行ってしまっていた。
港の方を向いていた部屋の窓からの景色は、意外なほど明るかった。そこに何があるのか、私には全く分からない。置かれている大きな箱、動く車、働く人、そういうものが、なぜ、そして何のためにそこにあるのか、そこにいるのか、分からない。でも何か、まじめに、合理的に、効率よく、懸命に(賢明に?)動いているらしかった。船に乗るためにだったり、船を出すためにだったり。
そんな景色を見つめているうちに、のんきな音楽とアナウンスが流れ、あっけにとられているうちに、景色が動いていたとようやく気づいた。足下というか部屋というか船というかが振動し始めているのも分かったけれど、それはなんて言うか、景色が動いていっていることを説明するには、頼りない気すらした。私が感じたのは、ふんわりとした力だけだったのだから。
慌てて部屋を出た。長々と風景を見過ぎて、食堂の営業時間が三十分くらいしか残っていないことに気づいたので。
部屋を出るまで自分がコートを着っぱなしだったことも忘れていた私は、ホールに出たあたりで部屋まで引き返すハメになり、その後財布を取りにもう一度同じことをした。さらに鍵を閉め忘れたような気がしたけれど、その無駄足は二歩ぐらいで済んだ。