[第28話:Pine]
蒼松の攻撃により、宙に飛ばされたラスコ・ロームは、体勢を崩し無防備になった。
「"コーシカ・ウダリャーチ"っ!!」
「" 華鼠装:連火線"っ!!」
「" 淡猪装:ボアアーチャー"っ!!
ラスコ・ローム目掛けて、スミレ、蓮田、矢島の攻撃が放たれた。
3人の攻撃はラスコ・ロームに直撃し、その衝撃で発生した爆炎がラスコ・ロームを包む。
「…まだだ!攻め続けろっ!!」
蒼松はチャンスを逃すまいと、鬼気迫る声で指示を出した。
未知数の相手を目の前にし、蒼松の作戦が吉と出るか凶と出るか、今はその判断を委ねるよりは皆この男の判断を信じた。
「まだまだぁっ!!!」
蒼松は、目にも留まらぬ速さでラスコ・ロームに細かい斬撃を与えた。
蒼松の攻撃の垣間に、矢島、蓮田、スミレも自身の渾身の攻撃を与え続けた。
ふと、一瞬の間が訪れる。爆風が海風に流される中、静寂がお台場の戦地を包んだ。
蒼松一行は、TV局の屋上からラスコ・ロームを見下ろした。
「…蒼松、こんな力技な攻撃で、アイツに効くのか?」
矢島は次の攻撃体勢をとりつつ、蒼松に問いかけた。
その問いは、矢島の不安を隠そうとする気迫とは裏腹に、確かな"怯え"を表していた。
「…小賢しい作戦とか、頭脳戦で勝てる相手ならそうしてますよ…。それ以前に、今の戦力がどれだけあの化け物に通じるか、全員が知る必要がある。作戦なんて、その後から何とでもなりますよ。」
蒼松は、矢島に答えつつ全員に言い聞かせるように言った。
「今更やり方にどうこう無いっすよ。蒼松隊長が信用してくれてるからこそ、だろ?我々はその信用に応える。それだけでしょ?」
蓮田は、最年長の貫禄で蒼松の思考を理解していた。
「蒼松隊長、改めて言われなくても理解してるつもりだ。攻めるぞっ!」
スミレも、元軍人の勘で蒼松の考えは理解していた。
スミレは"猫乃牙"にありったけの焔のオーラを纏い、ラスコ・ロームを包む爆風目掛けて飛び出した。
爆風がゆっくり晴れ、ラスコ・ロームの姿が月明かりに照らされ、露わになった。
その全身に特に大きな損傷は見えないが、少し荒い吐息を吐いていた。
『…ナメルンジャ…ナイワヨォォォォォォ!!!』
ラスコ・ロームは、叫び声と共に口元に怪しげな黒いオーラを溜め込み、それを一気に放った。
「…なっ…!?」
スミレは、攻撃の勢いを抑えられず、ラスコ・ロームの放つ黒いオーラを真っ向から受けた。
「…スミレ・エレーナっ!!」
蒼松の叫び声と共に、スミレの姿は一瞬にして黒いオーラに包まれた。
蒼松、蓮田、矢島は息をするのも忘れ、ただ呆然とオーラを見つめる。
「…!?」
オーラの光が消えると、焔のオーラの光を失ったスミレが、力を失い垂直に落下した。
「…スミレ…エレーナっ…!」
蓮田が、落下するスミレを受け止めようと、スミレに向かって飛び出した。
「…蓮田っ!!」
蓮田の視界の外に、只ならぬ殺気を感じた矢島は、蓮田を追って飛び出した。
「っ…!2人ともっ!」
蒼松の呼び止めも間に合わず、ラスコ・ロームは次なる攻撃を放った。
ラスコ・ロームの周囲に、8つの暗黒の塊が浮かび上がる。
その塊は、それぞれが無作為に撃ち飛んで蓮田と矢島を強襲した。
「…言わんこっちゃ…"淡猪装:ボア・インジェクション"っ!!」
無作為に飛び襲う塊に対し、矢島が猪の形をした水のオーラを放射状に放ち、抵抗した。
矢島の攻撃が、蓮田を襲うラスコ・ロームの攻撃を間一髪で打ち消した。
「…行けっ!蓮田っ!」
矢島は、蓮田を庇いながらラスコ・ロームの攻撃に抵抗を続けた。
蓮田がなんとかスミレを回収し、別のビルの屋上へと降り立った。
「…蓮田っ!そのままスミレを連れて戦線離脱だっ!」
蒼松の指示に、矢島と蓮田は驚いた表情を見せた。
(…戦線…離脱…だと?ラスコ・ロームとどう戦うって言うんだ…。)
蓮田は迷いを過らせたが、蒼松の指示に従い、スミレを連れて現場を後にした。
ラスコ・ロームをビルの屋上から見下ろす蒼松に並ぶように、矢島が移動してきた。
「…おぉい、どう言うつもりだ?蒼松…。」
矢島は、呆れた声で蒼松の顔を見たが、その表情は驚きに変わっていた。
蒼松は、蒼く透き通る右眼で真っ直ぐにラスコ・ロームを見ていた。
「…矢島さん…前に言ったけど、この一件には"黒幕"がいるって。」
「…ああ。それが、今のこの判断と何の関係があるって言うんだ?」
矢島は、蒼松に若干の恐れを覚えながら、そう答えた。
「…"蒼白百合"は、別名"真実の眼"。肉体としての眼球を失った俺は、人工的にだがこの眼を手に入れた。こいつには、"白愉兎"と"由梨 千保"の2つの要素が備わっている。これは、変幻自在な蒼白の光に映し出される、精密な"核"の情報を見ることができる…。」
蒼松は視線をラスコ・ロームから外すことなく、淡々と説明した。
「…おい待て。話がややこしすぎる。つまり、どう言うことなんだ?」
矢島の思考は、蒼松の説明に追いつかず、必死に回転を繰り返した。
「…俺には、"奴の核"が見えている。そして、"黒幕"も。後者に関しては、かなり相手も警戒していてハッキリは見えないが、重要な鍵は握っている。今からそれを試す。」
そう言うと、蒼松は手にしている"白愉兎"を大剣状から銃のように持ち替えた。
すると、"白愉兎"の刀身に空いた穴に向かい、徐々に水のようなオーラが集まっていく。
「…" 蒼白踊舞弾"」
蒼松が持ち手の引き金を引くと、刀の先端から無数の水弾が勢いよく放たれた。
水弾は、ラスコ・ロームの背中目掛けて鋭い勢いを放ち、襲いかかる。
蒼松の強襲を受けたラスコ・ロームは、少しよろけて海へと着地した。
その背中は、僅かながらダメージを受けて白く水蒸気のようなものが発生していた。
「…っ!蒼松っ!」
ラスコ・ロームの背中を見て、突如矢島が大声を出した。
「…やはり。奴の本体、"ラスコ・ローム"は背中に潜んでいる。」
蒼松は、少し安心したようにラスコ・ロームを見下ろした。
その表情には、勝利を確信するような笑みが浮かんでいた。
「…蒼松っ!どういう事だ!」
矢島は、確信の表情を見せる蒼松を問いただした。
「2人で1人。"ラスコ・ローム"というNAMELESSは、その力を分散しないと本来の力を抑えることのできない、特殊な生命体なんです。"強大な肉体"と"本体核"。この2つが合わさって、初めて完全体となるんです。
しかし、その形状は交わる事ができない。何故なら、交わる事で"己"を失う。つまり、意思を持たない本能生物となってしまう。」
蒼松が冷静に説明する中、それに合わせるようにラスコ・ロームの体は、2つの黒い光が分裂するように光ってみせた。
「恐らく、これは"黒幕"が仕組んだ"制御装置"。"黒幕"がその縛りを解除しない限り、こいつらは完全体になる事はないのです。」
「…要するに、今のうちに奴を潰すしか、俺らに勝つ道はなさそうな感じな。」
矢島は、蒼松の言葉を完全には理解していないが、本筋を理解したかのように反応をみせた。
「…まあ、そんなところです。敵の弱点は分かりましたし、やるなら今しかないっ!」
蒼松はそう言うと、"白愉兎"を構えた。
「待て待て蒼松。そうは言っても、どうする気だ?ノープランか?」
矢島は、今にも攻撃を始めそうな蒼松を制止するように、慌てて言った。
「…ノープランというか…ここまできたら、力尽くでやるしかないっ!」
蒼松がそう言うと、"白愉兎"に蒼白いオーラが纏わりはじめた。
「…ふっ、力技かよ。らしくねぇなぁ~。でも、隊長さんがそう言うなら仕方ねぇ。」
矢島も納得したように、"猪突槍"を構えた。
そして、意を決して蒼松に言った。
「…さぁて、そんじゃ、"finale"といこうか!」




