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大江山の鬼の魔手  作者: 真言☆☆☆
2/6

闇に潜む鬼

「 この寒いのに、ご苦労なことだ。」

 移香斎とて、人の子、寒い夜は、厠が近くなる。

 新陳代謝はすこぶる良いので、出すものは出す。

 厠できばっていると、外で凄まじい殺気を感じ取った。

「う~ん、う~ん。」と気張るふりをして、天井の小屋組へ

素早くぶら下がった。

 断崖絶壁を登ることで鍛え上げた指先、楽勝である。

ドスッ

 厠の戸が、外から槍で突かれた。

 手ごたえが無かったので、すぐに引き戻された。

「曲者。」

 移香斎が、音を立てずに厠に降り立ち、戸を開け、

厠の外の庭へ飛び出た。

 敵は、忽然と姿を消していた。

「そこか。」

 足元の小石を拾い上げると、庭石の一つに投げた。

 軽く投げたはずなのに、バシッと庭石にめり込んだ。

「よくぞ、我が隠れ身の術を見破った。」

 敵が、庭石に似せた布を宙へ放り投げ、姿を現わした。

 本当は、痛かったはずなのに、顔色一つ変えない。

 『 流石、忍びだな。 』

 移香斎は、感心した。


 それだけではない。

 帯の後ろに差していた短い槍を取り出すと、

シャキン、シャキンと柄の部分を引き伸ばした。

 伸縮自在の面白い業物と、感心した。


「南蛮鬼倒流槍術 鬼夜叉。羅刹鬼の仇をとらせてもらうぞ。」

 曲者は、名乗りを上げた。

「ふっ、おぬしごときにできるかな。」

 移香斎は、帯に差していた小刀を抜き、挑発した。

ゴオツ

 風を切り、槍を最小最速で振り回して、足を狙ってきた。

 大口を叩くだけのことはある。羅刹より、腕が立つ。

 移香斎は、後ろに一歩下がって、かわした。

 鬼夜叉の攻撃は止まらなかった、体ごと回転し、

遠心力で加速して、首を狙ってきた。

ガギィ

 前に踏み込み、小刀で受け止めた。

 今のは危なかった。

 鬼夜叉は、回転の途中で、槍を両手から片手持ちに

切り替えて、大きく間合いを伸ばしてきた。

 後ろにかわしていたら、間合いを見誤り、首と胴体が

おさらばしていたであろう。

 槍の穂先を斬る前に、引き戻された。

「おぬし、何者じゃ。竹藪権兵衛は、偽名であろう。」

 絶対なる自信を持った攻撃を受け止められた鬼夜叉が、

移香斎に問うてきた。

「死にゆく者に、名を聞かせても無駄であろう。」

 あくまで、非情である。


ゴオオッツ

 鬼夜叉の殺気が、極限まで高まった。

「ならば、冥土の土産に見せてやろう。

 我が奥義、八岐大蛇にて おぬしを屠る。」

 鬼夜叉が槍を手元で小さく手首の回転を活かし、振り始めた。

ヒュン ヒュン ヒュン

 小さな緩やかな槍の円運動が、やがて大きな神速の

円運動になった。

フォン フォン フォン

 鬼夜叉の技量もさることながら、特別にしなる槍の特性を

十分生かしている。

 残像効果が効いている。

 並みの剣士なら、槍が八匹の大蛇に見えて、思わず

ちびるであろう。

ゴオッ ゴオッ ゴオッ ゴオッ ゴオッ ゴオッ ゴオッ ゴオッ

 八匹の大蛇が襲ってきた。

 一瞬で、八か所の急所をあらゆる方向から 神速で、

しかも手首の捻りを加え、突いてきた。

 無念無想。

 移香斎は、風にゆらめく柳の葉のように体をさばき、

小刀で八匹の蛇すべてを、柔らかく受け流した。

 これには、鬼夜叉も唖然となり、間合いをとった。

 その隙をつき、小刀を鬼夜叉の頭上に高く放り投げた。

 鬼夜叉は、丸腰になった移香斎を、槍で突いてきたが、

頭上の刀が気になり、速度が落ちていた。

 それでも、移香斎の水月を正確に貫いたと思った瞬間、

移香斎の体が、ゆらりと消えた。

 鬼夜叉は、驚愕した。

 これほど、恐ろし思いをしたのは、初めてであった。

 移香斎が、槍の上を走って向かってくるのである。

 『こやつ、化け物か。体重を、全く感ん。』

 為す術がなかった。

ザクッ

 移香斎は、槍に上で、空中から落ちてきた小刀を右手で

受け取ると、そのまま鬼夜叉の顔面に鋭い斬撃を加えた。

 闇に閃光が煌めき、額から顎まで赤い血の線が噴き出た。

 移香斎の勝利であった。

 

 小刀を血振りして、納刀した。


 ふと、誰かに見られている気はしたものの、すぐ近くに敵の気配はない。

 不思議に思ったが、移香斎は、道場の奥の部屋へ戻った。


 やけに冷え込む、星一つ出ていない不気味な夜空であった。



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