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ミラージュオブフェイト  作者: 黄原凛斗
第一部 8章:監獄の罠
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暴戦:アベルVS下っ端エリュー




 一方、そのころのアベル。


 槍の攻防がしばらく続く。お互いに突きとなぎ払い、回転させてからの殴打なども幾度となく繰り返された。しかし、互いに致命傷はない。一見、たびたび押しているようにも見えるアベルが優勢かとおもいきや、余裕というか笑みを絶やさない監獄官の女。アベルは魔力や実力差などを“見極める目”はルカやユリアに及ばないところがある。しかし、この監獄官の実力はだいたいわかっていた。

(俺と同じ――いや、俺のほうが総合的には上のはずなのに!)

 魔力やその他もろもろを含めてもアベルのほうが上なのは事実だ。それなのに、打ち倒せる気がしない。もちろん、監獄官相手に下手なことできないという遠慮というか恐れが弟子たち全員には共通であるだろう。それでも、実力だけ見ればアベルの方が有利なはずなのに――。

 一度互いに距離をとり、体勢を立て直す、と思いきや、監獄官がつまらなそうにため息をついた。

「はー……裏の人間って聞いてたからもっとえぐいことしてくると思ったのに。案外ふっつーでつまらないね」

「は?」

 アベルの経歴を知っている。裏の問題であるから表向きには介入できない監獄だが、どうにか裏の関係者の罪状をでっち上げて裁くという噂は昔から存在した。つまり、それは――

「俺を裁く気か?」

 わずかにだが声が震えた。監獄はどんな悪人であろうと裸足で逃げ出すこの世の必要悪。正義でありながら悪辣外道。罪人のみとはいえ、どんな刑罰よりも恐ろしい悪夢を与えるいかれた役人。監獄に収容されればその時点で地獄の苦しみが待っている。

 しかし、そんなアベルの予想を裏切り監獄官の彼女は平然と答えた。

「いや、その命令は受けてないから違うよ。ミラ・エルヴィスの弟子を捕まえたらボーナスと有給が増える。だから俺たちは全力でやってるだけ。でも、面白みのない戦い方でそろそろ飽きてきたわ」

 再びため息。そして、チラリとあたりへ視線を向ける。今いるのは特に変わったことのない廊下だ。アベルの後ろの方は行き止まりで窓がある。一瞬、アベルはあそこから飛び降りることも考えた。逃げるとしたらそこが一番手っ取り早いだろう。しかし、それは向こうもわかっているはず。

「うーん……ていうか、君なんであの人の弟子やってんの? 馬鹿? 暇なの?」

 その質問の意味はアベルの経歴を知っているからだろう。貶すわけでも、見下すわけでもなく、ただ純粋に疑問といった様子で。

「別に。気まぐれだよ」

 そう告げると同時にアベルは監獄官の足を狙ってなぎ払う。しかし、読まれていたようで容易にかわされ、逆になぎ払いで生まれたわずかな隙を突いて膝蹴りをぶち込んできた。なんと顔に。

「いっ――!?」

「汚い戦闘はー、こうやってやるだろー?」

 女とはいえ監獄官。アベルに容赦なく次々と攻撃のために連続で攻撃してくる。突きはなんとかかわせたが、払いは何度か食らってしまっていた。

「経歴の割には戦い方が綺麗。ほんっと面白くねぇな。加減されてるみたい」

 乱暴な口調で貶してくると同時に廊下の行き止まりまで追い詰められる。アベルは少しだけ視界がぐらついていたが、壁際にいることに気づき、イチかバチかで動いた。

 監獄官の胸ぐらを掴み。一瞬驚いた相手をよそに全力で窓に叩きつけた。頭から突っ込ませたので下手したら大怪我すること間違いなしだ。

 窓が割れ、大きな音がすると同時に監獄官は自分の血と、ガラスの破片が舞う光景に目を丸くしていた。このまま落としてやろうかと思ったそのとき、監獄官もアベルを引っ張り、揃って窓の外に飛び出る。

 窓の外から二人揃ってアベルと監獄官が落ち、咄嗟に、落下の受身を取ろうとしたアベルは自分より先に落ちて下にいるはずの監獄官を見てぎょっとした。


 空中を蹴って、アベルより上にこようとしている。


「はぁ!?」

 空中を蹴るということは別に特別難しいことではない。しかし、浮遊魔法や飛行魔法の存在のせいであってもなくてもたいしたものではないという印象がある。それに、とてもコストがかかる。空中を蹴る、というのは空中に一瞬だけ魔力の台を作り出し、それを蹴っているにすぎない。魔法ですらないが、魔力をそれなりに消費するのではっきり言って無駄だ。空中戦をするのはあまり主流ではない。

 アベルの驚きをあざ笑うように、監獄官はと同じ高さにまで飛び上がったかと思うと、槍の石突部分でアベルの腹部を強く突いた。

「かはっ……!!」

「はははっ! 落ちやがれ!!」

 突かれたこともあり、落下するまでの間うまく受身がとれず、落下地点で強く体を打ち付けた。

 衝撃のせいで意識が飛びそうなのにも関わらず、彼女は追い打ちとばかりに着地と同時にアベルの首から胸あたりを狙って蹴りを入れた。

 蹴りが成功し、アベルが意識を失うと、監獄官は槍をしまってアベルの襟を掴む。

「よーし、これでボーナスと有給が増えるー」

 上機嫌でアベルを引きずりながら、監獄官は建物の中へと戻っていった。





弟子組はユリア≧ルカ>アベル>>>サラ・シルヴィア>>>ケイトくらいの強さだと思って頂ければ。ルカとユリアの強さは時と場合によって前後。

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