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第22話 中隊の初陣

 ケルゲレン要塞。

 その沿岸砲台が、漆黒の破壊神『アスラ』の内部侵入によって沈黙した瞬間、バルラート洋の静寂は、砲声と、鉄を焼くマンガニスの悪臭によって完全に上書きされた。


「アスラよりリヴァイアサンコントロールへ。揚陸地点防衛網の無力化を確認! 接舷強行! 第507特務中隊、揚陸せよ!」


「リヴァイアサンコントロール了解! 接岸まで残り二百! 揚陸予定地点C-2カイ中佐により破砕確認! カタパルト、全基最終充填ッ!!」


 艦隊旗艦グングニルの前甲板。

 そこには三条の蒸気カタパルトが、高圧蒸気を荒々しく噴き出しながら「乗客」を待っていた。 

 通常、シュテルツァーは接岸後にハッチから発進するのがセオリーだ。

 だが、カイが要塞内部に食い破った「上陸地点」という僅かな穴を広げるには、接岸を待つ時間さえ惜しかった。


「……野蛮な作戦ですわね。ですが、わたくし達にはお似合いですわ!」  

 第一陣。

 ニュエン・フォン・マイ少尉のフェンリルが、シャトルに固定される。

 光沢を帯びた装甲がカタパルト・デッキの放電に照らされ、高圧蒸気が臨界に達した。


「マイ少尉、タケシ准尉、射出!!」


 ドォォォォォンッ!!  

 爆音と共に、二機のフェンリルが二百メートルの空間を飛び越えた。

 時速二百キロを超える初速で撃ち出された二十トンの鋼鉄が、霧を切り裂く弾丸となって崩落地点へと吸い込まれていく。  

 マイは空中で両腕の30mmシュトローム・カノンを掃射し、要塞外壁上部と敵歩兵を散らしながら、凄まじい衝撃と共に要塞の瓦礫へと着地した。

 タケシはそれに続き、精密な着地でマイの背後をカバーする。


「次は俺たちだ。ニルット中尉行くぞ!」

「ああ。アラン少尉、我々の着地位置は左三度だ。……行く!」


 第二陣、第二小隊。

 地形把握の天才ニルットと、近接プロのアランが続く。

 グングニルの艦首が波を割り、要塞まで残り百五十メートル。

 一分間に一機。精密なシークエンスで、漆黒の狼たちが次々と射出されていく。


「チャルン大尉、ユキヤ! 弾幕を絶やすなよ!」

 第三陣。

 ミサイル特化のピチット大尉と、ユキヤのグレネードが空中で火を噴いた。

 放物線を描く彼らの機体から放たれた無数のミサイルと榴弾が、要塞の銃座を絨毯爆撃のように叩き潰す。

 空中から降り注ぐ火力が、カイを包囲しようとしていた敵を後退させた。


「ジョセフ、準備はいいか。……教え子の晴れ舞台を、特等席で見るとしよう」

「ハッ、少佐。あんまり飛ばしすぎて、着地で膝を折らないでくださいよ」

「生意気な。お前の腕を見せてみろ!」  

 そして最後の一陣。

 副官ラインハルト・サカモト少佐のグレイプニルと、ジョセフ、そしてシュミット大尉のフェンリルがシャトルにロックされた。

 艦首が要塞の防波堤に接触するまで、あと数十メートル。


「グレイプニル、射出ッ!!」  

 ミナの声が響くと同時に、銀鏡の光沢を放つ魔縄が、白熱の蒸気を置き去りにして飛翔した。

 サカモト少佐は空中で二振りの『クリーグ・メッサー』を抜剣。

 呼応するようにシュミットも一振りの『クリーグ・メッサー』を抜剣。

 シュミットは着地の瞬間、その衝撃をダイブで逃がしながら、立ち上がりざまに正面の敵機を両断する。

 サカモト少佐はシュミットの死角の二機を切り伏せていた。

 火花を飛び散らしながら切断される。

 グングニルが要塞に接舷し、バウ・ハッチが荒々しく叩きつけられた時には、既に要塞の喉元には十機の漆黒――魔狼の群れが布陣していた。


「リヴァイアサンコントロール確認……全機、揚陸完了。被害、ゼロ」

「現在のレーダー有効範囲約1300m、敵総数約94、三個大隊規模。残り79。ノイズが多い。敵数は参考くらいにしてください。各機侵攻を開始せよ。日の出まであと8時間。朝日に照らされたら不利になります。タイムスケジュールを意識してください」


 揚陸を終えた直後の部隊の前に立ちはだかったのは、帝国が誇る近接防御の要、V-14 "ブラク・シェル" 六機。巨大な物理盾を装備し、120mm砲の弾幕を張る鉄の壁だ。

「……遅いですわ!」  

 僚機のタケシを囮にして、敵左翼に突っ込んだニュエン・フォン・マイ少尉のフェンリルが、独立マンガニス推進器を臨界まで回した。

 彼女は盾の正面を避け、市街の瓦礫を蹴っての跳躍を敢行。

 空中で旋回しながら、両腕の30mmシュトローム・カノンを盾を構えていない左側――に掃射する。  

 ドドドン!ドドドン!ドドドン!ドドドン!  

 薬莢が空中からばら撒かれる。

 薬莢が地面に落ちる前には、鋼鉄の悲鳴と共に、V-14の重装甲が弾け飛んでいた。


 漆黒のフェンリル隊の中に一機、黒い銀鏡の光沢の装甲に包まれている機体がいた。

 Y-EF02/G "GLEIPNIR"(グレイプニル)。

 フェンリルの基本骨格を流用しながら、その実態は「亡霊システムの理論的限界」を追求した、極めてアンバランスな高性能機。

 「狂犬フェンリルを縛る魔縄」の名を冠する上級試作機だ。


 操縦桿を握るのは、副隊長ラインハルト・サカモト少佐だ。


「さあ、授業を始めようか。帝国諸君……」


「少佐、9時の方向より敵影3警戒を……!」  ミナの警告が終わるより早く、グレイプニルが動く。

「了解だ!リヴァイアサンコントロール!」


 サカモト少佐は、機体のピーキーな挙動を逆手に取り、足底部のローラーを逆位相で回しながら、最小限の姿勢変化で弾丸の軌道をすり抜けた。

「正面から抜くのは芸がない」  

 グレイプニルの両腕から、高出力型の超振動ブレード『クリーグ・メッサー』が二条の青白い光を僅かに纏って展開される。

 サカモトは跳躍せず、壁に脚底部を押し当てると横に跳躍する。

 二振りのブレードを交差させ振り抜いた。


 ガシュゥゥゥンッ!!


 火花を散らし断裂された鋼鉄が絶叫を上げる。 

 盾を支えていた二機のブラク・シェルの腕部が、火花を撒き散らしながらバターのように滑り落ちた。

 敵陣形が瓦解した瞬間、グレイプニルは独楽の如く旋回。

 二刀の刃が、無防備になった帝国機のコクピットを瞬時に撫で斬りにし、続く三機を一度に沈黙させた。


「そこだ、どけッ!」


 続けて中央を突破したのは、ハインリヒ・シュミット大尉のフェンリルだ。

 彼はあえて機体のスラスターを逆噴射させ、急停止の反動を利用して超振動ブレード『クリーグ・メッサー』を横一線に振り抜いた。

 熱振動にさらされた鋼鉄は火花を散らし赤熱した断面を晒しながら結合を断たれ、二機の八脚型V-22 モルト・カバが、バターのように滑らかに両断された。


「次は、いただくぜ!」  

 右翼、タケシ・サカモト准尉が、アスラ仕込みの跳躍で敵機の頭上へ肉薄。

 背後から回り込むと同時に、アイゼン・ハンマー(重質量粉砕槌)を振り下ろす。  

 ドォォォォン!!  

 ロケットブースターを噴射させたハンマーが、残る敵機の胸部装甲をひしゃげさせ火花を散らしながらコクピットを粉砕。

 衝撃波が機体内部を物理的に叩き割り、帝国機は火花を機体全体から飛散させ、ただの鉄の棺桶へと成り果てた。


 艦橋のミナ・フェリシア曹長は、義手でインカムを握りしめ、現在は最大出力でも1200mが限界のレーダーを凝視していた。

「リヴァイアサンコントロールから全機。……敵影、増加! どこか格納庫からの増援かもしれません。現在敵影89……! さらに増えます。地下格納庫?敵増援はA-6、H-5から侵攻しています」 「アスラ了解、俺がそこを潰そう」

「リヴァイアサンコントロール了解。嵐とマンガニス粉塵が濃すぎてノイズが多いです。伏兵に気をつけて!」


 ミナの悲痛な叫びをよそに、カイ・イサギ中佐のアスラは既に、島を埋め尽くす帝国シュテルツァー三個大隊と増援の中心地へと躍り出ていた。


「リヴァイアサンコントロール。…敵影、 第二波、第三波と要塞中央広場に集結中! 中佐、そのままだと、敵大軍との接敵します。正面からの激突は避けてください!」


「了解だ、リヴァイアサン……だが、俺たちを止めるには、少し練度が低すぎるな」


 カイ・イサギ中佐の『アスラ』が中央広場へと躍り出た。

「貫け……ッ!!」


 ドォォォォォォォンッ!!  

 右腕の大質量パイルバンカーが爆発。

 通常の1.8倍の炸薬を用いたパイルバンカーの一撃は、V-08 "ズル・ドゥガ" の頑強な正面装甲を飴細工のように捻じ曲げ、爆散させた。

 凄まじい反動がアスラを襲うが、カイは機体の重心移動と逆スイングでその暴力を無理やり制御し、次弾の装填音を響かせる。  

 ガシャン!カキーン!  

 装填と同時に焼けた薬莢が地面に転がり、水溜りをその灼熱で蒸発させる。

 アスラが咆哮を上げ、次の敵に進路を向ける。

 一方、西側の市街地では、第507中隊の精鋭たちが死闘を繰り広げていた。


「リヴァイアサンコントロール。マイ少尉、左! 狙撃距離に敵影2!」    

 ミナが、かろうじてノイズの隙間から捉えた輝点を叫ぶ。

「分かってますわ! あのような貧乏臭いライフルで、わたくしに勝てるなんて思わないことですわ!」


 ニュエン・フォン・マイ少尉のフェンリルが、両腕の30mmシュトローム・カノンを扇状に掃射。  

 ドン!ドン!ドン!ドン!  

 豪快に撒かれる真鍮の薬莢が石畳を埋め尽くす。

 建物に潜む狙撃型は、ビルごと四散していった。  

 そこへ、近接戦闘特化のV-11X "ゴル・ベイン" が二連装パイルバンカーを突き出し強襲してきたが、ハインリヒ・シュミット大尉の機体が瞬時に割り込んだ。


「近接戦を挑むか……。ゲルマーの誇り、その身に刻んでやろう!」  

 シュミットは超振動ブレード『クリーグ・メッサー』を一閃。

 断裂された敵機の腕が、火花を撒き散らし金切り声を上げながら滑り落ちる。

 さらにシュミットはゼロ距離で144mm自動ライフルを連射し、帝国機のコクピットを鉄屑に変えた。  

 ガァン!ガァン!ガァン!

「タケシ、前方! 光点4! ミサイルです! V-18 "スカド・ヴィズ" 来ます!」

「うおぉっ、見えてるぜ! カイの『しごき』に比べりゃ、止まってるも同然だ!」


 タケシ・サカモト准尉は、フェンリルのズィード・ブースターを全開。

 カイ中佐の「特別な可愛がり」で培った異常な重心感覚で、迫りくるミサイルの弾道を水平機動で回避。

 そこへジョセフ・カサイ准尉が2000メートル先から放った対物狙撃弾が、タケシを狙った二体のスカド・ヴィズの背部弾薬庫を正確に撃ち抜き、火柱の中に葬った。


 戦場の中央、広場。

 そこには帝国軍の特務エリート専用機 V-SP01 "ガジャ" が四脚を誇示し、随伴の汎用機を従えて待ち構えていた。  

 だが、カイの意識はすでにアスラの「神経」と完全に同調していた。


 敵のガジャが突進し、大出力を乗せた一撃を放つ刹那、アスラは物理法則を否定するように垂直へと跳ね上がった。

 脚部底面ブースターが水蒸気とプラズマを吐き出し、アスラは一気に高度210メートルへと到達。


「……堕ちろ」


 高度エネルギーをすべて破壊力に変換し、左腕の144mm自動ライフル "ヴァルキリー" が咆哮する。

 二秒間に一発という、同クラスの口径であれば不可能な発射間隔。

 地上のガジャの四肢を、そして随伴機のコクピットを次々と爆砕していく。  

 着地したカイは最後の一機、V-14 "ブラク・シェル" の大盾を、真正面からパイルバンカーで突き破った。


 ドゴォォォォォォォォォン!!!


 一時間にも満たない戦闘。

 ケルゲレン島の土壌は、帝国軍一個師団の残骸と、重油の入り混じった泥水で赤黒く染まり、静寂が訪れた。  

 アスラの強制冷却ファンが、キーンという高周波を上げながら熱気を吐き出す。


「……化け物め。本当に。俺はあれに比べればエースですら無いのだな」  

 シュミット大尉が、自機のハッチを開け、煙草をふかしながら呟いた。


「中佐……カイ。全目標の沈黙を確認。……お疲れ様」  

 ミナの震える声が響く。

 カイは汗と熱気にまみれたコクピットで、操縦桿からそっと手を離した。

 窓の外には、帝国の残骸が積み上がる「勝利」の景色。

 だが、カイの脳裏にあるのは復讐の快感ではない。  

 ミナと歩むはずだった、あの平和なマライカの日常。  

 その平穏を奪還するために、自分はこの「破壊神」という鎖を引きずり、死の山を築き続けるのだ。


 ケルゲレンの空を覆っていた鉛色の霧が、朝日に灼かれて剥がれ落ちていく。  

 艦隊旗艦『グングニル』の艦橋で、ベルナール少将は双眼鏡を下ろし、自嘲気味に笑った。


「12倍の戦力差を……たった十機の中隊で完遂させるとは。あのアスラには、戦術もドクトリンも関係無いのだな」


「奪還できましたね。貴公らの、このケルゲレンを」  

 シリチャイ中将の言葉に、ベルナールは力強く頷き、固い握手を交わした。


「ベルナール少将。彼らが帰還する前に、最高の料理と暖かい寝床を用意させなさい。……英雄としてだけではなく、我々の家族として迎えてあげるために」

「私もそう思ったところですよ」

 朝陽を浴びて黒光りする『アスラ』。  

 その破壊の権現のような機体は、今はただ静かに、主人の安らかな眠りを守るように立ち尽くしていた。


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