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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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30.緑の国で出会った青い男


護衛休みの日だった白戦士達が、お昼過ぎには起きてきたので街へ遊びに行くことにした。

今日こそ緑のスイーツを楽しむためだ。


ハルが食べられなかった昨日のオヤツは、双子から屋敷の使用人達に配ってくれたようだった。

「誰かが美味しく食べてくれて良かったよ」とハルが双子にお礼を言うと、「ハル様ならそう仰ると思いました」と嬉しそうに笑ってくれた。


セージも「屋敷の皆がご馳走になったから、今日は僕がご馳走しよう」と言ってくれたので、以前マラカイト国で回り切れなかったお店をみんなで回る事にした。




ハルの今日のお出かけ服は、セージが用意してくれたミントグリーンのワンピースだ。


カバンひとつでログハウスを出てきたハルは、前日着ていた服が全てだった。

以前は魔法のカバンに全部の服をしまっていたが、今のログハウスの部屋はとても広い。

当然部屋にあるクローゼットも広いので、クローゼットがガランとして寂しく感じないように、今は全ての服を部屋に片付けている。


今日ハルが着ているワンピースは、ハルの服事情を双子から聞いたセージが服飾店の友人に、「ハルサイズの服を適当に選んで届けてほしい」と用意してくれた服だった。

双子の服もお揃いカラーで頼んでくれていたので、今日は仲良し三人姉妹風のお出かけコーデでもある。





緑の街は緑のスイーツがとても充実している。

ハルがこの街に来るのは二度目だが、まだまだお店は回りきれないほどあった。

「少し休もう」と休憩場所に選んだのはカフェではなく、天気が良く気持ちの良い日だし、街並みを見渡せる少し高い場所にある公園にした。


街並みを眺めながらおしゃべりしていると、双子がハルに声をかけた。


「あ、あそこにピスタチオフィナンシェ屋さんがありますよ!人気があるのか長蛇の列ですね。私達で並んで買ってきますから、ハル様はここで待っていてください」


ハルが昨日「これも絶対美味しいやつだよ」と話していたフィナンシェを見つけて、双子が列に並びに行こうとすると、セージが止めた。

ハルと双子がおしゃべりを続けられるように、セージとミルキーが代わりに並んでくれるらしい。


「ありがとう。セージさん、ミルキーさん」とお礼を伝えて、ハルと双子は抹茶ミルクポップコーンを食べながら、街の様子を眺めつつおしゃべりを続けた。



「こうやってさ。ポップコーンを食べると、なんだか映画を見てる気分になるよ」

「映画ですか?」

「うん。大きなスクリーンで、創られた面白い話を見るやつだよ。例えば……ほら、あそこ見て。あの大きな男の子、誰かの胸元を掴んで遠くに投げ捨ててるでしょう?あんな事するなんて、シアンさんに似てるよね。ポップコーンを食べていると、あんな信じられない光景も、なんだか映画みたいに見えるんだ」


ハルの視線をたどって双子がその男に視線を向けると、確かに背の高い男が、チンピラのようなガラの悪そうな男を投げ捨てていた。


「あんなに遠く……。確かにシアン様は、以前の討伐で少女を投げ捨てていたと話してましたよね。あんな感じだったのでしょうか」

「多分ね。前にマゼンタさんも窓から投げられてたよ」

「まあ!英雄様達の中では細身とはいえ、マゼンタ様までも投げられたのですか?」

「そうだよ。あの青い子には気をつけな。あ、あの投げてる子も青い子だね」


抹茶ミルクポップコーンを食べながら三人で眺めすぎたからだろうか。

視線に気がついた男と目が合った。


「あ、こちらに気づかれたようですね」

「投げられるかな?」

「邪気は感じられないから大丈夫ですよ」

「そっか。良かった」


双子の言葉に安心して、ハルはポップコーンを食べながら、街並みへと視線を移した。

マラカイト国の街並みは緑色がメインカラーだ。

赤色カラーの街並みはエネルギーを感じられて元気をもらえる街だったが、緑色のこの国は落ち着きを感じさせられる。


この国に来たことを書いた手紙は、戦士達に届く頃だろうかと考えて、ハルはふと気がつく。


「そういえばみんなに手紙書いたけど、私の文字ってみんな読めないんだっけ?雰囲気くらいは伝わる?こんな感じの文字」



ハルは落ちていた細い棒を拾って、地面に「マラカイト国行きの船に乗っちゃいました」と書いていると、頭上から声をかけられた。


「君は黒戦士だろう?英雄達は今、クリムゾン国に集まっているんじゃないのか?」


聞き慣れない男の声にハルは顔を上げる。

ハルを覗きこんでいたのは、さっき目が合った男だった。

しゃがみこむハルを見下ろす男は大きいが、双子の様子はいつも通りだ。悪い人ではないのだろう。


ハルは安心して男に答えた。

「こういう訳があってね」と、地面に書いた文字を棒で指す。


「……なんて書いてあるんだ?」

「ちょっとこの辺の字にマラカイト国を感じない?」と、「マラカイト国」の文字をさらに枝で指す。


「……さっぱり分からんが」

「マラカイト国行きの船に乗っちゃいました、って書いてるんだよ。……そっか。やっぱり読めないのか〜」


ハルは男の言葉を残念に思ったが、封をした手紙の住所と宛名はミルキーが書いてくれている。

手紙と船で買ったお土産が届けば、何となく事情は伝わるだろうと諦める事にした。


「カフェだと思って船に乗っちゃったんだ。みんなには事情を書いた手紙を送ったけど、私の字はやっぱり読めないみたいだね。雰囲気で読んでもらうしかないよね」


よいしょとハルは立ち上がる。


「戦士服を着てないのに、黒戦士だって分かるのすごいね。船の上では誰も気づかなかったのに」

「いや、気づくだろう」


「船で一緒だった方は、みなさん声をかけるのを遠慮されてただけですよ」

「ハル様は頑張って手紙を書かれていましたので」


男の返事に、双子も同意した。


「そうなの?みんな気遣ってくれたんだ。だけど誰も読めない手紙になっちゃったね」

「ハル様のお気持ちは伝わりますよ」

「そうかな?じゃあ戦士さん達にもきっと伝わるよね」


「一生懸命書いておられましたからね」

「それで気づかれない英雄様なら、ガッカリしちゃいますよね」


「確かにね、そんな子達にはガッカリだよね」と、双子の言葉に勇気づけられたハルが大きく頷く。




『こんな見たこともない文字から事情を察するのは無理じゃないだろうか』と、側で立つ男は、地面に残る見たこともない文字を眺めていた。







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