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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常

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28.久しぶりのオルトロス


黙り込んだターキーに、ハルは少し誇らしい気分になる。


今日の自分はいつもと違う。

そんな気分だった。


今朝のお嬢様の件に続いて、さっきの自分もまた強そうに見えた事だろう。

魔獣研究家のターキーには、「ケルベロスとオルトロスはハルのものだ」と堂々と宣言してやったし、双子の前でも格好のいい姿を見せる事ができた。


ハルは晴れ晴れとした笑顔を双子に向けようとして――少し離れた所でハルをじっと見つめるオルトロスと目が合った。



「オルトロちゃん!!」

目が合った瞬間、ハルはオルトロスに駆け寄った。

ぎゅうっとオルトロスにしがみつく。


「オルトロちゃん、今の見ててくれた?強そうだったでしょう?久しぶりだね、元気にしてた?

お迎えありがとう!今日もすごく可愛いね。オルトロちゃんはいい子だね」



オルトロスは低反発のもっちりとした感触だ。ぎゅっと抱きしめると、もっちり感に包まれる。

ぎゅううううううっとしがみついていたら、なんだか眠たくなってきた。



今日は大事なお客様が来るからと、早起きして久しぶりのオシャレを頑張った。

やってきたお嬢様には、大事な友達を蔑ろにされて、怒って言い返してやった。

そのまま家出をしたら、思いがけず観光船に乗り込んでいて、隣の国まで来てしまった。

たくさんの屋台を巡ったし、愛するケルベロスとオルトロスの事で男と言い争った。

まだ一日は終わっていないが、色んな事があったのだ。


ハルはぼうっと意識が霞んでいく頭で、無意識にオルトロスの背によじ登る。ぎゅううっと背中にしがみついてもっちり感に包まれると、あっという間に眠りに引き込まれていった。


「ハル様。……ハル様?」

双子の声が遠くで聞こえる。

「ミルキーさんは戻った?おやつを食べよう」と声をかけたいが、今は眠すぎる。


『「やっぱり最初に食べるのは、抹茶のクレープにしよう」って言わなくちゃ』と思いつき、「……クレープ……」と呟きながらハルは深い眠りに落ちた。






「……まさかとは思うが黒戦士寝たのか?」

「こんなに早く?しかもオルトロスの上で?」

動揺するカーマインとルビーに、双子は優しい目をハルに向けながら説明する。


「今日はとても大変な日だったのですよ」

「ハル様はよく頑張られましたからね」


「……そう…なのか?」

「はい。英雄様らしい振る舞いをなされていましたから」


双子は自分達に詳しい説明をしたい訳でもなさそうだったし、カーマインとルビーも黒戦士の事情なんて興味もないし、知りたくもなかった。

「そうか」と適当に相槌を打っておく。


お互いに興味がない者同士の会話だった。





セージは話の区切りがついたとばかりに、双子とオルトロスに声をかける。


「ミルキー戦士は……ああ、あそこにいるな。じゃあ白戦士達も屋敷に向かおうか。オルトロス、馬車に乗るぞ。ハルを落とすなよ」


挨拶代わりにカーマインとルビーに視線を送った後、馬車へと足を向けたセージ達に、ターキーが声をかける。


「え、ちょっと待ってください。話はまだ―」

「話は終わりだ。どうしてもというなら、日を改めて屋敷に来ればいい」


ターキーにそう言葉をかけて、足を止める事なくセージ達は馬車に向かった。








オルトロスと出会った翌日。

ハルは今、セージの執務室でオルトロスのブラッシングをしているところだ。


結局あれから眠り続けて、目覚めたら朝だった。

ぐっすりと深く眠ったハルは元気よく目覚めたが、それに対して双子は顔色が悪かった。


どうやら身じろぎひとつせず深く眠り続けるハルが心配で、昨夜はずっとハルの側に付いていてくれたらしい。

以前の神託の討伐で、数日間眠り込んだハルを思い出して、不安にさせてしまったようだった。


今日は双子にゆっくり休んでほしいと伝えたが、「ハル様のお側を離れる事はできません」と譲らなかったので、ハルは屋敷を出ずセージの側にいる事を約束して、双子とミルキーに休んでもらう事にした。

ミルキーも万一のために、眠らずに部屋の外で控えていてくれたらしい。

こうして今日は白戦士達は護衛休みの日となった。




「セージさん、これ。アザレ国の神殿で買った、オルトロちゃん用の美神ブラシなんだけど、使ってみてね。

これいいよ。すっごく潤ツヤになるんだから!こうするんだよ」


ハルはオルトロスにスウッと美神ブラシを滑らせて、セージにお手本を見せる。


「コツは、毛の色ごとにブラッシングする事かな。私のこだわりなんだ。こうすると綺麗なオルトロボールが出来るよ」


「オルトロボール?」

「オルトロちゃんの毛玉ボールだよ。ミックスカラーもいいけど、カラー別の方が並べた時に綺麗じゃない?

あ。持ち歩くなら、ミルキーさんに『聖なる缶』を作ってもらった方がいいかも。ボールとおやつは一緒にカバンに入れない方がいいって、みんなに注意されるから」

「………そうか」





オルトロボールという初めて聞く言葉に、セージが思わず聞き返すと、ハルに当たり前のように答えられた。


『まさかケルベロスの抜け毛を丸めて持ち歩いてるのか?』とは、答えが分かっているのにわざわざ尋ねる事ではないように思われた。

『聖なる缶』も初めて聞く言葉だが、何となく見当がつくし、聞いたところで戸惑うしかないやつだろうと判断して、「そうか」と相槌を打っておく。



ハル達がマラカイト国へ来ることになった経緯は、ドンチャヴィンチェスラオ王子の使者から届いた手紙で説明があったし、昨日馬車の中で白戦士からも詳しく事情を聞いた。


ハル目線での話も聞いておこうと、今朝スッキリした顔で起きてきたハルにも直接事情を聞いている。


ハルの話では、「ミルキーさん達に強そうだったって褒められたんだ」と嬉しそうにしていて、「あの場に私がいない方が良かったしね」と何でもないように話す言葉は少し気になったが、英雄達に対するわだかまりは全くないようだった。


英雄達の対応が間違っていたとは思わない。

収益金が魔獣被害地域に当てられる立派なチャリティーイベントで、目的はどうあれ落札者は、多くの寄付金を納めた功労者だ。その落札者を軽んじるわけにはいかなかっただろう。


だけど前回の討伐のトラブルの経緯を知るセージは、以前の少女戦士達との絡みに似通ったものも感じていた。


ハルから話を聞くまでは、前回のように英雄達とハルに距離を作る出来事にならないかと心配していたが、『杞憂だったか』と安堵して、セージは手元の書類を手に取った。





いつもはセージと補佐官がペンを滑らせる音が響くだけの部屋に、今日はハルのオルトロスに語りかける声が時折り小さく響く。



「オルトロちゃんの色は優しいね。ケルベロちゃんがエスプレッソなら、オルトロちゃんはアメリカンコーヒーだよ」

「ここはミルクティー色だね」

「貴重な抹茶ラテ色もある!すごいね、オルトロちゃん。良い子だね」



スウッスウッとオルトロスをブラッシングしながら、ハルは優しくオルトロスに話しかけていた。





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