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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常

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14.留守番組


「なあ、俺らも神託の討伐を一度手伝わさせてくれよ。お前らが大物を片っ端から討伐しちまうせいで、討伐依頼が雑魚ばっかりでつまんねえんだよ」


「ふざけるな。帰れ!」


「ちょっとフレイム、そんな言い方はないでしょう?せっかくここまで来たんだもの。久しぶりにフレイムと一緒に討伐に出たいわ。

フォレストとマゼンタだっているのよ。メイズだって討伐出来るじゃない。お願い」





三人の幼馴染の会話は続いている。


『恋人のお願いなら聞くしかないだろう?』と、ハルは『分かったよ』とフレイムに代わって頷いてあげる。

――三人の幼馴染達は、誰もハルの了承に気づく事はなかったが。



そこにそれまで黙って聞いていたメイズが、自分の名前が出たことで、三人の会話に口を挟んだ。


「僕は討伐に参加は出来ない。討伐の間はハルに付く事になってるしね」

「何それ?メイズともあろう者が護衛に回ってるわけ?」

「どれだけ手がかかる奴なんだよ」



『最悪だ』

黄色い奴が余計な事を言い出したばっかりに、こっちにみんなの意識が向けられてしまった。

全く国宝級美貌の戦士はろくな事をしない。


「メイズさん、私の護衛はいいよ。みんなで討伐に行って来なよ。討伐風景は撮影出来なくても、後で記録をメモして写真撮っておけば大丈夫だと思うよ。

フォレストさん、今日はケルベロちゃんみんな連れて行っても大丈夫だよ。私はこのログハウスにいるからさ。

本を読んでもいいし、タブレットで久しぶりにゆっくりお喋りするのもいいかも」



『どうぞお構いなく』と、無害アピールするハルに、フレイムがため息をつく。


「ドンチャヴィンチェスラオ王子だって忙しいんだ。暇つぶしに連絡するな」

「ドンちゃんが忙しいのは分かってるよ。アッシュさんに連絡するんだよ」



ドンチャヴィンチェスラオ王子という大物の名前が出て、二人の幼馴染が怯んだ様子を見せた。

確かに王子に話されたら、あまり良い印象は持たれないだろう。


だけどハルはドンチャ王子に告げ口するつもりはない。

この幼馴染達がフレイムに構ってほしくて一生懸命なのは見ていて明らかだし、「国宝級美貌の英雄達が、なんの取り柄もない自分みたいな者と一緒にいなければいけない」という、世間が感じるもどかしさも分かるような気がする。


本来ならばルビーと一緒にいるはずだったフレイムと、「神に呼ばれたから」というだけで引き離されるというのは、逆の立場で考えると残酷なものだ。

なかなか会えない恋人の側に、自分ではない女がいる、という状況も辛いものがあるだろう。


なのでアッシュの名を出して、『ドンちゃんには話さないし、気にしなくても大丈夫だよ』と言葉にせず伝えておいた。



再びため息をついたフレイムが、「昼の討伐だけだ。お前ら、討伐が終われば帰れよ」と幼馴染達に伝え、皆で討伐に向かうことになった。





「お皿は片付けておくから、早く行ってきなよ」とハルは皆を玄関先まで見送った。


「鍵はシッカリかけとけよ。俺らが鍵で戸を開けるまで、絶対に扉は開けるな」

フレイムに何度目になるか分からない注意を受けて、また静かなビームを感じ取り、ハルは「早く行きな」とぐいぐいフレイムの背中を押して扉の外へと押し出した。


ガチャリと鍵を閉めて、ふうと息をついてダイニングに戻るとシアンがいた。



「やっと出ましたか。では片付けてしまいましょう」

「え……シアンさん、今から討伐だよ?早く追いかけなよ」


お皿を流しに運び出そうとするシアンに驚いて声をかける。


「今日はメイズも討伐に入りますし、カーマインもルビーも、相当の実力者ですよ。私一人抜けたところで、討伐は全く問題ないでしょう。

それよりせっかく友人が来てくれたんですから、友人同士で討伐を楽しんでもらった方がいいと思いませんか?」


シアンの言葉にハルは頷く。

確かにそれはそうだ。友人同士の盛り上がりの中に、シアンひとり残されても困惑しかないだろう。

ハルだってそんな中に入りたくはない。


「そうだね。みんなで楽しんできたらいいよね。私らは片付けが終わったら何しようか?」

「何でもいいですよ」

「じゃあ、一緒にオセロしよう!アザレ国で、毎日夜にパールちゃんとピュアちゃんと交代で対戦してたんだよ」

「オセロですか。子供の頃以来ですね」


「よし!じゃあ早く片付けよう!」と声をかけて、ハルは張り切って昼食の片付けを始めた。






何度か対戦した後、「少し休憩しましょう」とシアンがお茶を淹れてくれた。


「シアンさんが淹れてくれるお茶って、あの森でのログハウス以来だね。やっぱりすごく美味しいね!」

「もう随分前の事に感じますね」

「色々あったもんね。あのまま元の世界に帰っていたら、このお茶はもう飲めなかったと思うと、なかなか感慨深いよ」


ハルの言葉に、シアンはカップを下ろした。


「元の世界に帰りたいですか?」

「それはもちろん、…………あれ?どうだろう」



「帰りたいに決まってるじゃん」と言おうとして、言い切るほどの強い思いが自分の中にないことに気づく。


ハルがこの世界に来て、もうずいぶん長い時間が経った。もうすっかり今の生活に慣れてしまっていて、突然に元の世界に戻る事になったら、色々戸惑ってしまいそうだ。


あの日のあの時間。

あのタピオカドリンクの販売の仕事に、お昼休憩から戻って、午後の仕事を頑張れるだろうか。

もうすっかり仕事の手順は記憶から抜けている。


バイトから一人暮らしの部屋に戻って、夕食を作る事が出来るだろうか。買い物の時に、スマホ決済がスムーズに出来るかどうかも怪しいものだ。


ずいぶんと会っていない友達に、話題を振られて答える事が出来るだろうか。「前の討伐でさぁ、」と話したところで、誰も分かってくれる者はいないだろう。


ケルベロスのソファーに似た、ヒトをダメにしちゃうソファーは、ケルベロスではない。

ハルの部屋のソファーは、神ブラシでブラッシングしてあげる必要もないし、一緒にオヤツを食べてもくれない。


今、元の世界に帰りたいかと聞かれたら、どう答えるのが正解なのか、自分でもよく分からなくなった。



「……どうかな?帰りたいのかな?戻って上手く生活出来るかな?でも帰らないと、心配する人もいるし……」



気持ちが揺れているハルを、シアンは静かに眺めていた。




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― 新着の感想 ―
友達が突然、討伐の話しだしたらちいかわの話かなって思っちゃうかも
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