13.訪問客
ログハウスに珍しく来客があった。
朝の討伐を終えてお昼ご飯に戻ったタイミングでの訪問客だった。
コンコンコンと扉をノックする音に、カトラリーを並べる手伝いをしていたハルが顔をあげた。
いま討伐組の戦士達はシャワーを浴びていて、近くにはキッチンで忙しそうに動くメイズがいるだけだ。
ハルは部屋の隅に座っていたケルベロスに駆け寄って、じっと扉を見つめた。
するともう一度コンコンコンと扉がノックされる。
同時にキッチンから、ジュウウッとお肉を焼く大きな音が聞こえてきて、メイズはノックに気づいていないようだった。
ハルが扉の先の者を確認するしかない。
ケルベロスの陰に隠れながら扉に近づき、声をかけてみる。
「どちら様ですか?」
「俺はカーマインだ。女の声って事は、あんたは黒戦士だろう?扉を一人じゃ開けれねえなら、他の戦士に確認しろ。フレイムの幼馴染のカーマインとルビーと言えば分かるはずだ」
『あ』と、ハルはルビーの名前に気がつく。
『フレイムさんの恋人さんじゃん』
それにカーマインの名も、何度か記録の中で見かけていた。
彼までも幼馴染だとは聞いていないが、この偉そうな物言いは、確かにフレイムと通じるものがある。
カーマインと名乗る野郎は感じが悪いが、フレイムの長年の恋人を待たせる訳にはいかない。
ハルは扉の鍵をカチャリと外して素早くケルベロスの後ろに下がり、「どうぞ」と扉に向かって声をかけた。
「入るぞ―――うおおおっ!!」
家に入ってきたカーマインは、扉のすぐ先にケルベロスがグルルルと唸りながら自分を見ている事に気づいて大きな声をあげた。
カーマインの後ろに立つ女性も、驚いた顔をしている。
聞き慣れない男の叫び声を聞いた戦士達が、素早く玄関先に集まってきたが――みんなずぶ濡れだった。
急いで来たのか、みんな服が乱れている。
ポタポタと雫を落としながら立つ戦士達に、ハルは呆れたように声をかけた。
「ちょっとみんなボタボタじゃん。もっとちゃんと拭いてから上がりなよ。それ大当たりポスター状態だよ」
「何の話だ。うるせえよ。それよりハル、一人で扉を開けるなと言ってんだろう?」
「この子達はフレイムさんの幼馴染でしょう?ちゃんと確信があったら扉を開けたんだよ」
せっかく失礼のないように扉を早く開けてあげたというのに。
ハルはむうっと口を歪めてみせてやる。
「確信?どうやったら俺の幼馴染だって確信持てんだよ」
「偉そうな話し方だよ」
「………」
『分かったか、コノヤロウ』というように挑発的な態度で言葉を返すハルに、フレイムははぁぁとため息をついた。
勝手にハルが扉を開けたのもそうだが、つい先日ルビーの事を誤解されている。出来ればハルに会わせたくない者達だった。
「とにかく確信を持ってもハルは扉を開けるな。誰もいないならメイズを呼べ」
「メイズさんはお肉焼いてるところなんだよ」
「ハル、僕が料理中でもちゃんと声をかけろ」
「うん……」
いつの間に集まっていたメイズにもハルは注意を受けて、大人しく返事をするしかなかった。
急な来客だったが、手早くメイズは訪問客分の料理も用意して、皆でお昼ご飯を食べる事になった。
メイズとフォレストとマゼンタも彼等とはチームを組んだ事があるようで、親しげに皆で挨拶を交わす姿を見て、ハルは今日はシアンの横の席を選んだ。
カーマインとルビーに挨拶する事もなく、我関せずというように一人涼しい顔で席に座るシアンが可哀想に思えたからだ。
「シアンさんにもお友達が訪ねて来てくれるといいね」
「それは別に望みませんね」
――友達にも塩対応な男だった。
「みんな久しぶりの再会みたいだし、邪魔をしないでおこう」とシアンに伝えて二人で静かに座っていると、ルビーが挨拶に来てくれた。
「シアンさんね。噂に聞いた感じそのままの人ね。
そしてあなたが黒戦士ね。話に聞いていたけど本当に小さいのね。私はフレイムの幼馴染のルビーよ。よろしくね」
「あ、はい。こちらこそ」
返事を返す事もないシアンを、信じられない者を見るような目で見ながら、ハルはルビーから「見えない何か」を敏感に感じ取る。
『これはビームだ』
世の中には、女子同士しか気づけないビームがある。
ルビーから静かに放たれるそれは、まさにそれだった。
フレイムの近くにいる女子が許せないのだろう。
しばらく平和な日々が続いていたからと油断した。
やはり国宝級美貌の戦士なんかと一緒にいると、ろくな事がない。
「積もる話もあると思うし、みんなでゆっくり話してね」
『私のことなど気にせずに』という気持ちを込めて、ハルは気配を消してもぐもぐもぐと食べる事に集中する事にした。
もぐもぐとハルが口を動かす中、昼食の場では賑やかな会話が広がっている。
「それで何で急にここへ来たんだ?俺達が神託の討伐中だって知ってんだろ?」
「お前久しぶりの幼馴染に言う事がそれか?この森にいるっつう噂を聞いて、わざわざ会いに来てやったんだよ」
「フレイムったら手紙ひとつくれないんだもの。あれだけ一緒にいたのに薄情ね」
三人の幼馴染の会話に、『それは薄情だ』とハルは頷く。
「フレイム、お前この前まで休暇だったんだろ。お前だけでもクリムゾン国に帰って来いよ。討伐期間じゃないなら、黒戦士のお守りも要らないだろ?」
「そうよ。黒戦士ってエクリュ国をこの世界の故郷にしてるんでしょう?休暇中は、エクリュ国に行った方がいいんじゃないの?」
二人の幼馴染の言葉に、『確かにそうだよね』とハルは頷く。
「ぁあ?んな事を言いに来たんだったら今すぐ帰れ」
「はあ?テメェ誰に物言ってんだよ」
「……もうちょっと止めなさいよ。フレイム、そんなんで大丈夫なの?
本当に私がいなかったら誰がフレイムの喧嘩を止められるのよ。黒戦士には無理な話でしょう?」
『確かに無理だよ!』と激しくハルは頷く。
「フレイムなんかを怖がってて神託の討伐なんか出来るのか?記録係ってなんだよ。誰でも出来んじゃねえのか?」
『まあね』と頷く。
「ちょっとカーマイン、それは言い過ぎじゃない?」
『どうかな?そうでもないよ』と首を傾げた後、肩をすくめる。
『自分は全く関係ない』という顔をしながら、幼馴染三人の会話にひとり静かに参加しているハルが気になって、フレイム以外の戦士たちは会話が耳に入ってこなかった。
カーマイン達の侮辱を受け流して、物言わず静かに会話に加わっているハルを眺めていた。




