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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常

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12.記録年表は語る


アザレ国での長い休暇を終えて、再び討伐の旅に出た。

新しい討伐地でのハルの討伐生活は、今までと違ってやる事がある。


それは読書だ。


アザレ国で買った『英雄戦士大百科』はとても分厚い本で、戦士達の輝かしい功績がこと細かに書き綴られていた。


『貴公子フォレストとその一族』はゴシップ記事が多くて、『ほほぅ』と興味を引かれて楽しく読めたが、羅列される「輝かしい功績」などという、お堅い内容はそれほど面白いものではない。

ついつい途中で眠くなってしまう。


それでも買った以上は読破しようと頑張っているが、いつの間にか眠ってしまい、ハッと気づいた時には討伐が終わってしまっている事が多かった。


戦士達は、討伐中に本を読みながら頭を揺らすハルに、安心して討伐に専念することが出来ていた。

眠たくなるくらい無難な内容しか書かれていないのならば、自分の過去におかしな点を見出されていないという証拠とも言えたからだ。





今日も個人別の討伐記録年表を見ながら眠くなりかけていたハルだったが、『あれ?』とある部分に目に止めた。

それはフレイムの記録表だった。


記録年表には、その討伐時のチームメンバー名と討伐内容が記載されている。数多くの討伐記録の中に、必ず入っている女の子の名前を見つけたのだ。


名前は――ルビー。

『明らかに女の子の名前だ!』


ハルはハッと意識を戻してスッと背筋を伸ばし、もう一度しっかりとフレイムのメンバー記録を見返してみる。

他のメンズメンバーは名前が変わっても、ルビーの名前だけは必ずそこにあった。

メイズとフォレストとマゼンタの名前もたまに見つけたりして、よく見ると討伐メンバー年表は面白いものだと気づく。


「フレイムさんの恋人を見つけちゃった……」


ハルは、年表が語るプライベートに気づいてしまった。




急に食いつくように本を見出したハルを、戦隊メンバー達は遠目で確認していた。


『誰かの何かを発見したに違いない』

――勘のいい戦士達は、確信に近い予感を持つ。


メイズだけがハルの呟きから、『フレイムだったか』といち早く現状を掴んでいた。






討伐が終わり、ケルベロスに乗ってログハウスに向かいながら、ハルはフレイムをそっとうかがってみる。


フレイムは、シアンと並んで女の子に厳しい奴だが、長く続く彼女がいたようだ。

ずっと一緒にチームを組んで旅してきただろうに、神託の討伐で二人は離れ離れの恋人同士になってしまったのだろう。

 

『可哀想に……』

寂しい思いを隠しながら頑張ってきたのだろうと、ハルはいたわりの目をフレイムに向けた。





ハルからの視線に、『俺だったか』とフレイムは気がつく。


「おいハル。お前今日の本で何読んだんだ?」

「フレイムさんの討伐記録年表を見てたんだよ。神託の討伐が始まるまでは、色んなチームを組んでいたんだね」


「………俺の討伐記録を見て、何に気づいたんだ?」

「遠距離恋愛中だって事かな。彼女にちゃんと手紙書いてあげてる?」

「は?」


フレイムが信じられない者を見る目でハルを見た。


「なんで記録年表から遠距離恋愛してることになんだよ?」

「あ、ごめん。ルビーちゃんの事、内緒だった?」

「……」


『そういう事か』とフレイムはハルの思考の流れに気づく。


「ルビーはただの幼馴染で、そういう関係じゃない。あいつを女として見たことはねえよ」

「ソッカ。ソウナンダ」


はあとため息をつきながら話すフレイムに、ハルは一応話を合わせてあげる。




『ただの幼馴染』

『あいつはそういう関係じゃない』

『あいつを女として見たことはない』



このワードは、自分の気持ちに自覚なき者の言葉だ。


この言葉を呟く者は、ある日気づく運命にあるのだ。

ある日―――そう。

ルビーちゃんが他の男と親しげにしているのを見てしまったある日、苛立ちと共に「俺はあいつの事を……」とハッとしてしまうやつなのだ。


ハルは現実的な恋愛は未経験だが、ラブストーリーは妹の漫画でわりと読んでいた。

決して恋愛ごとに鈍感な訳ではない。


『フレイムさんが自分で自覚するからこそ、自分に素直になれるものなんだよ』と、ハルは心の中でフレイムに教えてあげる。


「ダフニーちゃん、元気かな?」

さらに幼馴染ラブで結ばれたダフニーの名前を呟いて、ヒントだって与えてあげた。




「お前、信じてないだろう?わざわざメンバーを調べたんだったら、こいつらに聞いてみろよ。メイズもフォレストもマゼンタも、俺の過去チームのどっかで名前見つけてんだろ?」


赤い男が突っかかってきやがった。

『やれやれ。素直じゃない奴はしょうがないな』と、ハルはフレイムの言う通り三人の戦士に声をかけてあげる。


「メイズさん、フォレストさん、マゼンタさん。みんなはルビーちゃんに会った事あるんだよね?どんな子だったの?フレイムさんの恋人じゃないって本当なの?」




「美人だから男達の間では噂になってる子だったな。今はどうか知らないが、俺がフレイムの隊にいた時は付き合っていたんじゃないか?」


「その子はフレイムにしか懐かないって言われてましたね。実際仲は良かったと思いますよ。付き合っているって噂でしたが、本当かは知らないですね」


「可愛い子だったわよ。想う人がいるからって、私は相手にされなかったけど」



――ハルの出した判定は『クロ』だ。

だけどこんな中途半端なタイミングで周りが騒げば、素直じゃないフレイムの恋は拗れてしまうだろう。


「ソッカ。チガッタネ」

ハルは大人になって、三人の意見を聞き流してあげることにした。




「お前ら……」

フレイムが三人を鋭く睨みつけると、三人は『本当だろう?』と言うような様子で平然としている。

――どうやら三人は嘘はついてはいないようだ。


フレイムは自分の知らないところで勝手に流れていた噂にウンザリとした気分になった。





「シアンさんは、神託前にフレイムさんと仕事をした事はなかったんだね。まだシアンさんの討伐年表は見てないけど、メイズさん達の名前も見つけられるかな?討伐メンバーはなかなか興味深いものがあるね」


「メイズとマゼンタとは、何度か隊を組んだ事がありますよ。私はほぼ同じ()のメンバーとしか隊を組まなかったし、私の記録の中に面白いものはないと思いますよ」

「そうなんだ」



メンズ限定を主張するシアンに、『確かに鬼畜なこの男と、チームを組みたがる命知らずな女子はいないだろう』と、ハルは納得した。








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