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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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05.マゼンタの家族


翌朝ハルが双子とリビングに向かうと、すでにダフニーは姿を消していた。


「今朝は早いな。ダフニーなら「早朝にしか狩れない魔獣がいるから」と言って、暗いうちからここを出たぞ」

「おはよう。メイズさんも早いね」


ハルはいつもよりかなり早起きしてきた。

朝からダフニーと話をしようと思ったが、どうやら彼女は帰ってしまったようだ。


「よく食べる者が泊まっていたからな。朝食の準備をするために早めに起きたんだ」

「そうなんだ。メイズさん、いつも美味しいご飯をありがとう。ダフニーちゃんはご飯を食べてから出かけたの?」


「時間がないからと、生卵を20個ほど飲んで行ったぞ」

「そっか。急いでたんだね」


卵を飲む事は気にならないのかと聞きたい気もしたが、不毛な会話に思えたので、「そうだな」とメイズは会話を終わらせた。





夜が明けたばかりでまだ早く、みんなが揃うまでは時間がある。

メイズは朝食の準備にかかり、ハルと双子はおしゃべりしておこうと、リビングに向かったところでマゼンタに出会った。


「あら、みんな早いのね」と話すマゼンタの服がいつもと違う。

「マゼンタさん、今日は神官様みたいな服だね」


「ああ、これ?アザレ国に帰ったから、一度神殿にも顔を出そうと思ってね」

「神殿?」


意外な言葉が返ってきてハルが聞き返すと、双子が説明してくれた。

「マゼンタ様は神殿出身なのですよ」

「そうなの?」


「私は孤児だったけど、治癒魔法を使える事が分かって、神殿で育ったのよ」

「そうなんだ……」


神殿出身を知って驚いた様子を見せたハルに、マゼンタも説明を付け足した。

英雄のマゼンタが孤児であり神殿育ちだった事は、皆が知る話で隠している事ではない。むしろ今まで知らなかったハルの、自分への無関心さに驚かされるくらいだった。


「神殿は近くだし、朝食前に少し挨拶に行くだけなの。ハルも付いてくる?」

「いいの?行こうかな。私がいたエクリュ国の神殿と似てるかな?」


ハルはミルキー騎士団での日々を思い出して、懐かしくなる。マゼンタの向かう神殿が気になった。


「いいわよ。ハルとお出かけなんて嬉しいわ」

「パールちゃんとピュアちゃんも一緒だよ」

「それでも私とお出かけしてくれた事ないじゃない」


確かにハルはマゼンタと出かけた事はない。

女の子大好きなマゼンタにいつもハルは警戒していた。だけど神官服はエクリュ国を思い出す。今日のマゼンタは正しい人のように見えた。

――正確に表現するならば、「正しい、国宝級美貌の神官様に見える」だが。



メイズに、少し双子と出かけるけど、朝食前には帰る事を伝えて、朝早い神殿に四人で向かう事にした。








マゼンタの育った神殿は、やはりどこかミルキー騎士団の神殿と似ていた。ミルキー騎士団の神殿ほど空気が澄んでいる訳ではないが、落ち着くものを感じる。


「マゼンタさんの家は良い家だね」

「そう?ありがとう」

ハルがマゼンタに感じた事を伝えると、マゼンタは嬉しそうに微笑んだ。





「マゼンタかい?おやまあ大きくなって。まあまあ、こんな素敵なお嫁さんを三人も連れて帰って来てくれたのかい?長生きはするもんだねぇ」


建物に入ったところで、杖をついてヨロヨロと歩くおばあちゃんに声をかけられる。


「あ。お邪魔してます。私はマゼンタさんの戦隊仲間のハルといいます。こちらは私の護衛をしてくれている、パールちゃんとピュアちゃんです。おばあちゃん、私達はお嫁さんじゃないですよ」


「そうかい、そうかい。ハルちゃんというんだね。一緒にいる二人のお嬢さんは護衛だったんだね」

「そうなんです」


「良い子じゃのう。こっちへ来なさい。お菓子をあげよう」

「あ、はい」


おばあちゃんに呼ばれて、祈祷室のような部屋に入ってお菓子を勧められた。可愛いピンク色のかりんとうだった。


「ここ祈祷室みたいな部屋だね」

「この部屋は祈祷室よ。うちは色々ゆるいのよ。この神殿の大神官様はババ様だから、ババ様がここの法律みたいなものなのよ」


「え……そんな感じなの?」

「まあだいたいそんな感じですよ」


マゼンタの説明に驚くハルに、双子も頷いて見せた。

『ゆるい戒律を持った神殿で育ったマゼンタだから、ゆるい道徳観を持ったのか』とハルは納得する。



ポリ…ポリ…とゆっくりかりんとうを食べながら、大神官のババ様がゆっくりと話し出す。


「ハルちゃん、マゼンタは幼い頃に親を亡くしてのう、高い治癒能力を持っていた事でこの神殿に入ったんじゃ。

神殿にいる者は忙しい大人ばかりじゃっだから、マゼンタも寂しかったんじゃろうな。この子はこの通り見目が良いから、街の少女達をたぶらかしてばかりいての、本当に手を焼いたものじゃ。

だけどやっと家族に紹介したくなるような子と出会ったようじゃな。「結婚を決めた人を神殿に連れて来る」と話しておったが、まさかこんな日が来るとは思わなんだ。

今日は本当に良き日じゃのう。後で式を挙げていきなさい」


「ご飯食べていきなさい」というように、「式を挙げていきなさい」と大神官のババ様に勧められる。



「おばあちゃん、私はマゼンタさんの結婚相手じゃないですよ」

「そうかい。結婚衣装は神殿のを使うといい。今用意をさせとるよ」


――話が噛み合わない。

ハルは戸惑ってマゼンタを見るが、肩をすくめるだけだった。


「ババ様は都合の悪い話は聞こえなくなるのよ。気にしなくていいわ」

「いやいや気になるよ。普通気になるでしょう?マゼンタさんは慣れてるかもしれないけど、今まで女の子達の動揺もすごかったと思うよ」


マゼンタはきっと、数々の女の子達を驚愕させてきただろう。


「あら。神殿に連れて来た女の子は、ハルが初めてよ。普通本気じゃない子を家族に会わせたりしないでしょう?」

「え……」



ハルはウッカリ一瞬マゼンタの言葉にドキッとしてしまったが、ここはときめくところではないだろう。

そもそもハルはマゼンタと付き合っている訳でもないのだ。


神官服のマゼンタは、ちゃんとした人に見える。

ついキッチリとした神官服に騙されて、自分のいる位置を見失ってしまうところだった。




祈祷室に結婚衣装を運び込んでくる神女達に、丁重に誤解だという説明をして、皆に惜しまれながら衣装の試着を断った。


「子供が出来たらまた見せに来ておくれ」

別れ際にかけられたババ様の言葉に、「私はマゼンタさんの結婚相手ではないですよ」と再度念押ししたが、通じているかは分からないまま、神殿を後にした。




「パールちゃんとピュアちゃんは、あまり話してなかったね」

ログハウスへの帰り道、ハルは双子に話しかけた。


「ババ様が嬉しそうでしたから。あまり強く否定するものじゃないと思いまして」

「そっか。おばあちゃんはマゼンタさんの事が大好きなんだね」


「私もハルの事が大好きよ」

「せっかく神官服で格好よくなってるのに。マゼンタさん、話すと残念になるね」



初めてハルに「格好いい」と言われて、マゼンタは機嫌良くハルに言葉を返した。

「ハルが結婚してくれるなら、女の子と遊ぶのは止めるわよ」


『絶対にそれはないだろう』という目で、ハルはマゼンタを見てやった。






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