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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第三章 さらに続く日常
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07.続く夏休み


「わ〜オルトロちゃん、オルトロちゃんは良い子だねぇ。今日のボールは、特別大きいボールになるよ。夏のひんやりオルトロボール、楽しみだね〜」


スイーッ、スイーッ、とハルはオルトロスを美髪ブラシでブラッシングしながら、オルトロスに話しかける。


「オルトロちゃん。昨日の夜の女子会、楽しかったね。オルトロちゃんは男の子だけど、可愛いから仲間に入れてもらえてよかったね。アクアお姉さんとサルビアお姉さんが作ってくれた、女子会オヤツも美味しかったね。また今日の夜も女子会だね〜」


久しぶりのブラッシングなので、今日はスペシャルコースだ。丁寧に、丁寧にハルはオルトロスをブラッシングする。


「シアンさんとリアンさんの昔話も面白かったね。二人ともヤンチャだったから、ラピスお母さんもベロニカお母さんも、よく二人を外に放り投げたって言ってたね。だから二人とも、よく人を放り投げちゃうんだね、親子だね〜」


スイーッ、スィーッ、とブラッシングするたびに、たくさんの毛が集まっていく。これだからブラッシングはやめられない。


「シアンさん達の男子会も盛り上がってたみたいだよ。みんなで朝まで暴れてたってセージさん言ってたし、旅行って感じだね。枕投げとかしてたんだろうね〜」




「あの、ハル様。決して枕投げをしていたわけではありませんから………」


ミルキーから弱々しく声をかけられて、ハルは顔を上げた。彼の顔色が悪い。


「ミルキーさんは一緒に遊ばなかったの?護衛の仕事が終わった夜は、ミルキーさんも自由時間なんだよ。ミルキーさんも旅行だと思って、遊ぶ時はちゃんと遊びな。ね?」


ハルはミルキーの真面目さを知っている。きっと昨夜も男子達が盛り上がる中、静かにみんなを見守っていたのだろう。

困ったように眉尻を下げるミルキーに、「遊んでも大丈夫だから」と重ねて伝えて、ハルは力強く頷いた。





『ああ……伝わらない』と、ミルキーは細いため息を飲み込んだ。


昨夜は大変だった。

決して男達は楽しく騒いでいたわけではない。激しく争っていたのだ。


ミルキーは昨夜を思い出して身を震わせる。

屈強な男達の諍いは、英雄達で見慣れていたはずだが、身内間の手加減なしの罵り合いは、飛び交う怒声がミルキーの胃を痛めつけた。


父親達はシアンの自分達に対する扱いにキレていたし、シアンも旅の計画が潰されて、最高に機嫌が悪かった。セルリアンだけがハルに執事服を褒められた事を根に持って、セルリアンにも激しい嫉妬を見せていた。


ミルキーは早々に自分に与えられた部屋に退散したが、いつまでも聞こえる怒声と争う騒音に、一睡も出来なかったのだ。


『それに』とミルキーはシアンを思い出す。


家族の前で地が出るシアンの口は悪かった。

神をも恐れぬ傍若無人な男だということは知っていたが、まださらに隠されたシアンの闇を見たようで、ハルが心配だった。


抑えていたため息が、はぁ………と細くもれてしまう。

ミルキーはキリキリと痛む胃をそっと押さえた。







ハルが機嫌良くブラッシングしている場所は、お店の前だ。

本当は部屋でブラッシングをするつもりだったが、シアンの母に止められたのだ。


「ハルちゃんが部屋にいて姿が見えなかったら、あの子達、ハルちゃんが心配で仕事が手に付かなくなっちゃうと思うの。

――そうだわ。お店の前の看板横に敷物を敷いてあげるから、そこでブラッシングするといいわ。あそこの土は柔らかいし、お店の中からもハルちゃんが見えて安心だもの」


「日除の大きなパラソルも置いてあげるわね」と言いながら、ラピスはブラッシング場所を用意してくれた。


ハルは元気のないミルキーの顔を眺めて―――それから隣に立ててある看板をなんとなく眺める。


看板にはカフェ『ラピニカ』の文字の下に、「どうぞ寛ぎのひとときを」とメッセージが描かれていた。

さらにその下には、いくつかのメニューと料金が小さく案内されている。


コーヒー   500セレ

ケーキセット 1000セレ

ランチ    2000セレ


「コーヒー一杯、500セレかぁ。セレってセレスト国の通貨なんだね。コーヒー一杯500円くらいとしたら、1セレで1円かな。………うーん、コーヒー飲まないから違うかな?

ねえ、ミルキーさん。回転焼き一個って、何セレくらい?」


「えっ?回転焼き……ですか?そうですね、1セレくらいでしょうか。1セレで、全国通貨の100バリですからね」


「…………」


ミルキーが教えてくれた回転焼きの値段はきっと、エクリュ国のハルがよく行く回転焼き屋さんの値段だろう。回転焼き一個100バリは、ハルの中では100円だと思っている。


『コーヒーが一杯5万円………』


それは高すぎるように思うが、国宝級美貌を持った美女がコーヒーを淹れて、国宝級美人がコーヒーを運んでくれるなら、もしかしたらアリかもしれない。


「そっか」とハルは答えて、またオルトロスのブラッシングに専念する事にした。

きっと看板に書かれた、「コーヒー 500セレ」の「セレ」の文字がとても薄くて小さいのも気のせいだ。



「オルトロちゃん。今日も最高だよ〜ひんやりだね〜良い子だね〜可愛いね〜。

昨日の女子会で、私も魔獣カフェ開きたいんだって将来の夢を話したら、みんな応援してくれてたね。

ねえオルトロちゃん、一緒にお店を開かない?オルトロちゃんと、ケルベロちゃんと、ユニコちゃん……は忙しいから特別ゲストで、癒しカフェ開こうよ。きっとたくさんのお客さんがオルトロちゃんに会いに来るよ。

うわ〜考えただけで楽しくなってきた!ねえ、オルトロちゃん。次の神託が下るまでここにいようよ。カフェの計画みんなで立てよう!」


「わあ!ハル様楽しそうですね!」

「私達もお手伝いしますね!」

「ありがとう!パールちゃん!ピュアちゃん!お店の名前も決めなくちゃね!」






ハルの会話を聞きながら、『まだ当分帰れそうにないな』とセージは覚悟を決めた。


セージの使い魔のオルトロスが、勝手に魔獣カフェの一員に組み込まれていた。

誇り高い魔獣のはずのオルトロスが、ハルの言葉に喜んで尻尾を振っている。


『本当にハルは不思議な力を持っているな』と、ハルには畏れにも近い思いを抱くばかりだが、嬉しそうに双子とはしゃぐハルは、客引き要員として店の看板横に居場所を作られた事に気がついていないようだ。


オルトロスを恐れてハルに話しかける者はいないが、ハルを見つけて足を止めた討伐者らしい男達が、店の女達に次々と声をかけられて、続々と店に呼び込まれていっている。


『気の毒な男達だ』とセージは思う。


これからあの男達は、ぼったくられる上に、禍々しいシアンの魔力に当てられるのだろう。

神の力によってハルは、シアンに憧れる女達の嫉妬の危険は無くなったようだが、ハルに憧れる男達には、シアンの嫉妬の危険が迫っていた。





シアンの家族紹介の回でした。

終わりではないですが、ここからはボチボチで旅を続けたいと思います。

いつもありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
完結になったら読もうと思っていたんですけど、でもレビューを見て負けて読みました。 面白かったです。
シアン割と毒親家庭?なのかな、それともこの世界では普通なのかな。みんな気が強いから癒し系のハルに惹かれるのは分かるな
今回のシアンの家族たちの話も面白かったです。しかしコーヒー一杯が5万円ですか…… どれだけの美人が出してくれるとしても、わたしがこの店に入ることはないでしょう(そもそもセレストに行けませんが)。 誰…
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