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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第三章 さらに続く日常

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05.護衛大集合


遠くでシアンの声がする。


『――っせえな!んな服着るかよ!』


こもって聞こえてくる声に、『……服?』とハルはぼんやりした意識で考える。


今日のシアンはいつもよりオシャレな服を着ていた気がする。朝会った時から、国宝級美貌のシアンが、いつもにも増して眩しいほどのイケメンぶりを発揮していた。


『私も家族のみんなと会った時、オシャレしておけばよかったな』とシアンを見ながら思っていたので、今日の彼の格好は覚えている。


家族と会う時こそ気合を入れるべきで、ハルだって両親や妹弟に会った時にオシャレをしていたら、家族にあんなに馬鹿にされることはなかっただろう。

賢い彼の事だ。シアンは今日、家族と会うためにとびきりのオシャレをしたに違いない。



………それにしても。

シアンはあんなに乱暴な言葉遣いをする人だっただろうか。


うう〜んと腕を伸ばして、ハルは起き上がることにした。

寝ぼけているらしい。






「あ、ハル様。お目覚めですか?」

「ハル様お疲れだったんですね。もう夕方ですよ」


体を起こすと目の前に双子がいた。


「……あ。パールちゃん、ピュアちゃん!到着したんだ。予定より早かったね」


ほんの数日ぶりだけど、旅先のセレスト国で会えた双子に、新鮮な気持ちになって「わあ!」と再会を喜んでしまう。




「ハル、目が覚めましたか?―――すみません。私が乱暴者に捕まってしまったばっかりに、ハルを迷子にさせてしまって」


双子との再会を喜ぶハルの前に、スッと立ったシアンは、いつもと変わらず穏やかな話し方をする彼だ。

さっきの乱暴な言葉使いは、夢か聞き間違いだったらしい。


そして寝ぼけながら思い出していたシアンの服は、やっぱりいつもよりオシャレな服だった。

オシャレな服を着て―――手には大きなトレーを持っている。


辺りを見回すと、ここはお店の中のようだ。

広い店内にはテーブルと椅子が並び、あちこちに座るお客さんが見えた。シアンは早速お店の手伝いをして、親孝行をしていたらしい。



「シアンさん、お店の手伝いをしてたんだね。私は大丈夫だったよ。ミルキーさんもいたし、セージさんとオルトロちゃんにも会えたから。

ね、オルトロちゃん。よしよし、オルトロちゃんは良い子だね〜。夏のひんやりオルトロちゃんも、最高に可愛い良い子だよ。

―――あ。リアンさん、久しぶり」


よしよしとオルトロスを撫でたハルは、シアンの後ろに立ったセルリアンに気がついて挨拶をした。

セルリアンもお店の手伝いをしていたのだろう。彼も大きなトレーを持っている。


『あれ?』


久しぶりに会ったセルリアンは、以前と印象が違って見えた。洗練された紳士のようだ。白い手袋も眩しい。

『リアンさんって、こんな感じだったっけ?』と、セルリアンをマジマジと眺める。


以前会った時のセルリアンは、ラフな服装をしていた。彼の服の好みを知るわけではないが、今日のかしこまった格好は、私服ではなく制服だろう。


「リアンさん。その服、執事さんみたいでカッコいいね。執事カフェみたい。「おかえりなさい、お嬢様」って言ってみてよ。お客さんみんな喜ぶよ」


「執事?―――おかえりなさい。ハルお嬢様」


「!!!」


何気なく言ってみただけだが、スタイルのいい男が質の良さそうな服を着て礼を見せてくれるというのは、なかなかに衝撃的だ。

パチリとハルの目が覚めた。


「それいいよ!リアンさん!それでお客さんお迎えしなよ!すごくカッコいいよ!ね、パールちゃん、ピュアちゃん、執事のリアンさんカッコいいよね!」


「そうですね。全女子がセルリアン様の虜ですね」

「癒される女子でお店は大繁盛ですよね」


数日ぶりの再会もあって、キャッキャッと三人で会話が盛り上がる。

やっぱり女子会はいい。


「それは―――どうも」と少し照れた様子を見せたセルリアンは、ハルがオルトロスの隙間から引っ張ったリュックに視線を向けた。


「オルトロスにリュックも入れてたのか?………っていうか、その出てるの何だ?」


セルリアンの言葉にリュックに視線を落とすと、またリュックの口が開いて、ハニコぬいぐるみが顔を出していた。


ハルはゆいぐるみを取り出して見せてあげる。

フワリと虹色の立髪を揺らすぬいぐるみに、セルリアンの目が釘付けになっていた。


「これゆいぐるみのハニコちゃん。神様にもらったんだ〜。リアンさんは前に一度、モスグレイ山でユニコーンのユニコちゃんに会ってるよね。ハニコちゃんって、ユニコちゃんにそっくりで、すっごく可愛いでしょう?」





「…………」


セルリアンは何も言えなかった。

どこをどう見たら、以前モスグレイ山で見た凶悪そうな瞳をしたユニコーンが、こんなに可愛いぬいぐるみとそっくりに見えるのかが分からない。


それよりも気になるのが、ぬいぐるみから放たれている魔力だ。

神からの贈り物ならば、この魔力は神聖力であるはずだが、全身を刺してくるような攻撃的な魔力は、神々しい魔力というより高圧的な禍々しさが感じられる。

このぬいぐるみには、あの凶悪そうだったユニコーンが憑依しているに違いない。


それに暗く光るつぶらな瞳は、セルリアンの隣に立つシアンをじっと見つめていた。

その瞳に闇が見える。どうやらシアンはこのぬいぐるみに嫌われているようだ。



『こんなヤバいものに目を付けられるなんて、気の毒な奴め』とシアンに目を向けると、シアンは冷たく鋭い目でぬいぐるみを睨み返していた。


『コイツ……』


昔から度を越した傍若無人ぶりを見せつける奴だと思っていたが、それは神の領域にいるものに対しても同じらしい。

幼馴染が、神獣に対しても不遜な態度を見せていた。


セルリアンは信じられないものを見る目でシアンを見つめる事しかできない。



「おい!リアン!シアン!お前らサボってないで、早く料理を運べ!冷めるだろうが!―――ったく」


シアンの姉アクアに名を呼ばれ、これ幸いとばかりにセルリアンはひとまず場を離れる事にした。



「ハルと共に国に戻ったシアンを見張っていてほしい」と、ドンチャ王子から緊急指令が入り、討伐先から急いで戻ってきたセルリアンだったが、こんな神をも恐れぬ非常識な男とは、なるべく関わるべきではない。

こんなヤツの近くにいても、とばっちりを食うだけだ。


「ああ。今行く」と答えて、大人しくアクアの言葉に従った。

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