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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第三章 さらに続く日常
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04.ハルの名を呼ぶ人


「みんなどっちに歩いて行ったっけ?」


少し立ち止まっただけなのに、みんなの姿はもう見えなくなっていた。

長く続く大きな道の両脇には、たくさんのお店が立ち並んでいる。


「この辺りだと思うのですが……」とミルキーが話すので、この中のどこかのお店がシアン母のお店なんだろう。


「お店の名前、聞いておけば良かったね。「シアンさんのお母さんのお店はどこですか?」って聞いたら分かるかな?」


『誰かに聞いた方が早いかも』と思って、声をかけやすそうな人を探そうと周りを見渡すと、「ハル!」と聞き覚えのある声に名前を呼ばれた。





「あ!!オルトロちゃん!」


振り向いた先に、オルトロスを連れたセージがいた。

ハルはわあああ〜と駆け寄って、ガシッとオルトロスにしがみつく。


「オルトロちゃん!よしよし、オルトロちゃんは今日も可愛いね。良い子だね〜。よしよし。

――あ。セージさん、こんにちは。セージさんもオルトロちゃんとこの国に遊びに来たの?すごい偶然だよね」


オルトロスにしがみついてよしよしと撫でながら、ハルはセージに挨拶をする。オルトロスとセージに会うのは久しぶりだった。オルトロスのもっちり手触りが気持ちいい。



「久しぶりだな、ハル。僕らは遊びに来たというか、ドンチャヴィンチェスラオ王子から、ハルの所に向かうよう指令が入ったんだよ。フォレストからも「急いでほしい」って電報が届いたしね。この国には今着いたとこなんだ。ハルの乗った船より一本遅くなったみたいだな」



セージ達に会えたのは偶然ではなかったようだ。

ドンチャ王子は彼らにもハルの護衛を頼んだらしい。


「ハルはシアンとはぐれたのか?何があったんだ?」


尋ねるセージに事情を話すと、「シアンの強さは母譲りだからな。母と姉の2人がかりで抑えられたら、敵わないのかもしれないな」と頷いていた。


まるで知っている者を語るかのように遠い目をしたセージに、今度はハルが尋ね返す。


「セージさんはシアンさんのお母さんとお姉さんを知ってるの?会った事あるの?」


「一度だけね。ずいぶん昔の話だが、この町で偶然カフェ『ラピニカ』の前を通りかかった事があってね。ちょうど店の前にいたシアンに気づいて声をかけたんだ。「君は討伐者のシアンじゃないか?」ってね。話した事はなかったけど、彼は討伐者として有名だったから。

そのままシアンの母に呼ばれて、店で食事をした事があるよ。後で知ったが、この辺りではとても有名な店らしい」



「有名なんだ!……あ〜でもそれもそっか。あれだけの美人揃いのお店だもんね。有名にもなるよね。

シアンさんのお母さんもお姉さんも、国宝級の美女だよね。リアンさんのお母さんとお姉さんも綺麗な人だったよ。人気店になるの分かるよね。

お店の名前はラピニカって言うんだ。シアンさんのお母さんのラピスさんと、リアンさんのお母さんのベロニカさんの名前を合わせたんだね」


ふんふんと頷くハルに、セージは曖昧に微笑んだ。


カフェ『ラピニカ』が有名なのは、店の者が美人だからではない。

英雄シアンと討伐者リアンの実母の店ということで知られてはいるが、それよりも店を有名にしているのは、「ボッタクリの店」として名が通ってるせいだ。あの店は、商品に法外な値段を付けて、金を持っていそうな討伐者を狙っている。


あの時のシアンは客引き要員にされて、店の看板横に立たされていた。シアン目当ての、金を持っていそうな女子を狙っていたのだろう。

シアンを見て立ち止まった者の中から狙いを定めて、女達が店に呼び込む仕組みになっているようだった。


セージは討伐者でもシアン目当ての者でもなかったが、オルトロスの使役者としてそこそこに名が知られていたので、目をつけられて店に呼び込まれ、強引に高額な食事を注文させられた。金を持っていると見られたのだろう。


今回はオルトロスを連れているし、ドンチャ王子の指令でハルに付くので、変に絡まれる事はないだろうが、気をつけないとまたいい金づるにされてしまう。


セージにとっては大した金ではないが、用心することに越した事はないなと気を引き締めた。


「店はもう少し先だよ。少し歩くから、ハルはオルトロスに乗って行くか?」とハルに声をかけて、店の話題を終わらせ、余計な事は言わないようにした。


厄介な女達だという事は、一度会えば十分に分かっていた。今回はハルの護衛という立場に徹して、余計な口出しはしないつもりだ。







お店は近いらしいが、どんなに近くても、当然ハルはオルトロスに乗せてもらう。

背中によじ登って、ゴロリと寝転んだ。


「オルトロちゃん………。しばらく会わないうちに、いい毛皮になったね〜。夏仕様でカッコいいよ。接触冷感でサラサラだね〜。良い子だね〜」


久しぶりに会ったオルトロスの背中はとても気持ちが良かった。

暑い季節対応の、接触冷感素材のひんやりクッションになっていた。うつ伏せで寝転がり、そっと顔をつけるとひんやりして気持ちがいい。


だけど日に当たる背中が暑い。


「ねえ、オルトロちゃん。ちょっとだけ中に入れてもらってもいい?―――え、いいの?

ありがとう、オルトロちゃん。オルトロちゃんは優しい良い子だね〜。夏のオルトロちゃんはひんやり仕様だね〜」


オルトロスはハルの願いを聞いてくれて、少しだけ合体を解いて隙間を開けてくれた。

ハルはゴロンと寝転がりながら、隙間に入れてもらって、そのひんやり感に感動する。


「わ〜……気持ちいい。眠たいな……」


まるでクーラーの効いた部屋の中で、ひんやりお布団に包まれている気分になったハルは、眠たくなってきた。


もうすぐシアンの実家のカフェ『ラピニカ』に着く。

『すぐ起きなくちゃ……』と思いながらも、ひんやりした感触がとても気持ちが良くて、目が開けられない。


ハルは快適な眠りへと導かれていった。



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― 新着の感想 ―
義理の母と姉がぼったくりの店をやってるのは割と大問題な気がするんだけど笑
お久しぶりのセージさんとオルトロちゃん♡ 第三章お待ちしてました! これからのハル達が楽しみです^_^
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