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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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74.ハルのお気に入り


ハルには今、超絶お気に入りのものがある。

それは神から贈られた、可愛いユニコーンのぬいぐるみだ。


あまりにも気に入りすぎて、ハルはぬいぐるみを小脇に抱えてどこにでも連れて歩いている。


『ぬいぐるみを持ち歩くなんて少し子供っぽいかな?』と思ったが、神からも可愛がってほしいと頼まれているし、部屋に置いておこうとすると、なんとなくではあるけど、ぬいぐるみが寂しそうな顔をする時があるのだ。

ぬいぐるみのつぶらな瞳が潤んだように見えて、結局置いていく事など出来なくなってしまう。



食事の時は、用意してくれたハルの隣の席に置いておくし、魔獣訓練も当然一緒に連れて行く。眠る時だって一緒だ。


王城で働く者達はそんなハルの姿を見て、「救世主様はなんてお可愛らしい……」と頬を緩めたが、ぬいぐるみの正体を知る者達は違った。


ぬいぐるみには、いつユニコーンが憑依するか分からない。

うかつに『呪いのぬいぐるみじゃねえか』などと口走ろうものなら、つぶらなぬいぐるみの瞳がキラリと鋭く光る。

いつでもユニコーンを抱えて歩くハルは、まるで歩く時限爆弾のようだった。





マゼンタがハルに声をかける。

「ハル。持ち歩いていると、大切なぬいぐるみが汚れてしまうわよ」


「大丈夫!パールちゃんとピュアちゃんが、汚れ防止の浄化魔法をかけてくれたんだ!」


ハルに元気に言葉を返されて、マゼンタは「そう?それは安心ね」返すしかなかった。



フォレストがハルに言葉をかける。

「そんなにいつでもユニコーンを持ち歩いていたら、ケルベロスが寂しがりますよ」


「大丈夫!いつでもケルベロちゃん四人は一緒だから!」


ハルに笑顔でユニコーンをケルベロスの一頭にカウントされて、フォレストは「四人ですか……」と答えるしかなかった。


英雄達がハルからぬいぐるみを離そうとしても、なかなか上手かいかない。


朝の訓練指導を終えたそんな英雄達は今、皆の寛ぎの場として用意された部屋でハル達を眺めていた。

ケルベロスの横にぬいぐるみを置いたハルが、双子と楽しそうに話している。



「ユニコーンが宿っている時と、そうじゃねえ時が分かれば、無駄に気を使う必要はなくなりそうなもんだけどな」


「確かにな。この前の夕食に馬肉料理が出た時は焦ったが、あの時はただのぬいぐるみだったしな。いつでも気遣ってなくちゃいけないってのは、なかなか面倒だな」


フレイムがうんざりとした顔で話すと、メイズが同意した。



「憑依してるかどうかは、見分ける事が出来るかもしれませんよ。こうすれば分かりそうじゃないですか?」


答えながらシアンは、懐からユニコーンの羽を出して、テーブルの上のホコリを払う仕草をした。


途端にぬいぐるみのつぶらな瞳が暗くキラリと光る。

ぬいぐるみの殺意がシアンに向いていた。


「今は注意したほうが良さそうですね」

「お前………」


涼しい顔で何をし出すか分からないシアンに、英雄達が恐ろしいものを見る目を向ける。


確かにユニコーンは厄介な馬だが、神に最も近く仕える神馬の羽をちぎり取った上に、その羽をホコリ取り代わりにする男。


しかもその不敬極まりない男は、今のぬいぐるみにユニコーンが宿っていると知りながら、忌々しそうにぬいぐるみを睨み返している。


「やめろシアン。これ以上あの馬を刺激すんなよ。あの馬は今はしょせんぬいぐるみだ。こっちが何もしなかったら、ただ大人しく憑依してるだけじゃねえか」


フレイムが声をかけると、シアンがフッと皮肉げに笑った。


「大人しいぬいぐるみ?……まさか。あの馬、ハルが見ていないところで、私の指に噛みつこうとするんですよ。この指輪が気に入らないみたいですね。

神からの祝福を噛み切ろうとするとは、どれだけ不敬な馬なんでしょうね。……常識はずれも甚だしい」


シアンは苛立ちを含んだ声で話しながら、軽く手を上げ、「この指輪がそんなに気に入らないのでしょうか」と、ユニコーンに見せつけるように指輪を見せている。


「確かに常識外れな野郎だな」

「そうですよね」


嫌味を込めてフレイムがシアンに言葉を放つと、平然とした顔で返された。


自分に向けられた言葉だと分かっていながら返された返事に、『コイツには何言っても通じねえな』とフレイムはため息をついた。





少し離れた場所で、ハルが楽しそうに話す声がする。


「そろそろこのミニユニコちゃんにも名前をつけてあげなくちゃいけないよね。ミニユニコちゃんはケルベロちゃんと四人兄妹だから、ユニベロちゃん?

―――あ!なんかミニユニコちゃんが、悲しそうな顔になった気がする!もっと女の子らしい名前が良かった?

………ハニコちゃん?――あ。なんか嬉しそうな顔になった気がする!」


「ハニコちゃん、可愛い名前ですね」

「さすがハル様です。名前のセンスが良いですね」


「へへへ。そうだね、なんか良い名前だよね。ハニコちゃん、『私のユニコちゃん』っていう意味の名前だよ!」






ユニコーンのぬいぐるみは、ハニコという名前が付けられたようだ。


ハルもぬいぐるみから何かを感じ取ってはいるようだ。

あまりにも自然に感じ取りすぎて、あのぬいぐるみが憑依されているとも思っていないようだが。


「ハニコちゃんに決定!」と嬉しそうなハルにチュッとキスをされたユニコーンの目は、もう暗い光を消している。

今はもう憑依中なのかどうかは分からない。


英雄達は微妙な顔で、ハル達を眺めていた。







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