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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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71.神からの言付け


ミルキーは目の当たりにした奇跡に震えた。


「寝癖を軽く見てると痛い目に合う」


遠く離れた世界から、ハルの母は娘に厳しい愛を持って寝癖の危険を予言していた。


さすが神に愛される者の母だ。ただ者ではない。


一見ただの小言のように見えるが、確かにハルは寝癖が原因で痛い目に合っていた。

恐ろしいくらいの自然な流れで、ハルはシアンとの結婚を認める言葉を口にしてしまっていた。


神からも疎まれるような英雄との結婚だなんて、「痛い目に合った」なんて言葉では済まされないだろう。

ハルはもう引き返しの効かない所まで流されてしまったようだ。




「ハル様のお母様は全てを見通すお力をお持ちなんですね……。寝癖の災難を告げられるなんて、さすがハル様のお母様です」


「災難?……あ〜そうだね、確かにね。ドンちゃんが寝癖で痛い目に合ってたよね。お母さん、たまにすごいんだ」


「そうなんだよ」と言いながら、ハルはドンチャ王子の手を見ている。


痛い目に合ったのはハル自身だというのに、それに気づいていないようだ。

ハルに幸あれと、ミルキーは静かに神に祈った。






その時。

ミルキーの頭に、ミルキーを呼ぶ声が響いた。


―――『神だ』

神がミルキーを呼んでいる。


ハッと顔を強張らせたミルキーは、ドンチャ王子にすぐに知らせた。


「ドンチャヴィンチェスラオ王子にご報告いたします。新しい神託が下されるようです。神が私を呼んでいます。すぐに聖堂へ行って参ります」


ミルキーの言葉に、ドンチャ王子は神妙な顔で頷きを返した。

英雄達も顔に緊張を走らせる。


ドンチャ王子の頷きを確認して、ミルキーは足早に部屋を出て行った。







部屋を出ていくミルキーの背中を眺めながら、ハルはドンチャ王子に尋ねてみた。


「今日の神託をもし神様の世界で聞く事になったら、ミルキーさんの帰りは何日か後かもしれないよね。

ドンちゃん、ミルキーさん今日中に帰って来れると思う?」


ハルが神の世界に行った時は、いつもこの世界では長い時間が流れている。

ミルキーも、もしかしたら数日間は帰って来ないかもしれない。そうなれば神託内容を聞けるのはまだ先になりそうだと予想してみた。



「ミルキーはしばらく待てば帰ってくるんじゃないかな。神託を受けるのに神の世界に呼んでもらえる事はないからな」


ドンチャ王子の話に、「そうなんだ」とハルは頷く。


「なんか神様の世界の時間って不思議だねよね。

この世界から、神様の世界経由で元の世界に行った時は、すごく時間が経ってたけど。

携帯の電波は神様の世界を経由してないのかな?お母さんとは普通の時間で話せてたよね。

そういえばお母さん、神様が私の部屋を片付けてくれたって言ってたね。

突然住人がいなくなった部屋って、残されている物が傷んでいそうで怖いよね。神様大丈夫だったかな?」


ハルの言葉を聞いたメイズがハルに諭した。

「ハル、冷蔵庫に雪だるまはダメだ」


「雪だるまは傷まないよ」

「……そうだな」


「そんなものを冷蔵庫に入れてはいけない」と伝えたくてかけた言葉だったが、ハルから返された言葉に、『この緊迫した時に話す話ではなかった』とメイズは話を終わらせた。








ドンチャ王子の予想した通り、ミルキーはすぐに戻ってきた。

本当に神からの話があったのかと不思議に思うくらいの時間だった。


「早かったね」とハルが声をかけると、ミルキーから「ハル様へのお言葉を預かりました」と伝えられた。

神の言葉は、ハルへの伝言だったらしい。


「神からハル様に何かお伝えしたい話があるそうです。

今夜ハル様を呼ばれるとの事でした。――そ、そ、それから「青い英雄シアンにも必ず伝えるように」とのお言葉を預かっ………ヒッ」




「神がハルを呼ぶ」と聞いた途端、英雄達の目が鋭くなった。

さらに英雄シアンへの言付けがあると伝え切る前に、シアンの目が鋭さを増した。

神の言葉を警戒するのか、シアンから緊迫した魔力が漏れ出ていた。冷たい魔力と鋭い目が、自分に向けられている。


神からの伝言を伝えるという役割に、『これも神の試練なのか……』と、ミルキーは震える手でキリキリキリキリと痛み出した胃を抑えた。



「英雄シアン様。あまりミルキーを強く見ないでやってもらえませんか?」


ドンチャ王子がシアンに注意を促してくれたお陰でシアンが目を伏せてくれたが、シアンの鋭い魔力がチクチクとミルキーを刺している。

まるで『早く話せ』と責められているかのようだ。



「か、神は英雄シアン様に、「朝食までにハルを戻すから、絶対に迎えに来ないように」と伝えられてます。

く、く、くれぐれも、か、神のお言葉をお忘れなきよう、ど、どうぞお願いいたします………」



朝食前にはハルを戻すと告げられているのにも関わらず、シアンの魔力がさらに鋭くなっている。


『痛い……』

ミルキーはそっと自分の腕をさする。


シアンから放たれる鋭い針のような緊迫した魔力が、ミルキーの肌をチクチクと差していた。

英雄達はさすがに動じないようだが、ドンチャ王子も双子も兄も居心地が悪そうな顔をしている。




「神様の話って何だろう?わざわざミルキーさんに言付けなくても、直接話してくれたらいいのにね。

あ。引っ越しありがとうって話しておこうっと。きっと神様が家賃も払ってくれてたんだよね。家賃のお礼も言わなくちゃ」


いつもの調子で話すハルは、シアンの魔力に何も感じていないようだった。



神がミルキーにわざわざ言葉を託したのは、シアンを警戒したのだろう。

ハルを神の世界に呼んだ途端に、シアンに迎えに来る事を恐れて、ハルが戻る時間を先に告げたに違いない。


『痛っ』

少し大きな魔力がミルキーの腕を刺した。

ミルキーはサスサスと自分の腕を優しくさする。


チクチクチクチクと刺さる魔力が、とても痛かった。







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