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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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69.王城での日々


集められた戦士達は皆、そのまましばらく城に滞在する事になった。

新たな神託を待つためだ。


今回の神託の討伐任務はすでに完了している。

英雄達は功績を称えられた上で、十分な報奨金も支給された。

本来ならばここで全員解散となるところだが、もうしばらくは神託を待とうという話が出たのだ。


それは「ほぼ終わった」と神が話していた次回の討伐指名が、また英雄達に入る可能性を考えての事だった。





「一旦解散して、神託があった時にまた集合をかければいいでしょう?私とハルは色々忙しいんですよ」


城で待機との言葉に、シアンが静かな怒りを見せると、フレイムが明らかな怒りを見せた。


「一度解散したら、集合をかけてもテメェは絶対に集まらねえと見なされたからだろう?!

なにが「二人で旅に出るから、()()()()()()()()()()()()()()すぐに駆けつけましょう」だ!テメェは声をかけられる前から断ってんじゃねえよ!」


「断ってなどいないでしょう?万一連絡が届かなかった事を考慮しただけですよ。だいたい次の討伐はほぼ終わってるそうじゃないですか。みなさんほどの実力があれば、私の力なんて必要ないですよ」


「シアンは勝手すぎるぞ!ハルからもちゃんと言ってやれ。この男は危険だぞ」

「え!危険?」




目の前の戦士達が声を荒げていたが、「自分が怒られてるわけじゃないし」とぼんやり戦士達を眺めていたハルが、メイズから振られた言葉にビクッと身体を揺らす。


危険。

危険というのは、シアンの言う「旅」の行き先が危険なのか。―――まさか地獄?


シアンは地獄を、「だいぶん片付けて明るくなりました」と話していた。

最近やたらと「実はこれも得意なんですけどね」と色々と得意な事をアピールしてくるシアンは、「実は地獄もこんなに明るくする事が出来るのですよ」と自慢するつもりなのかもしれない。


それはダメだ。

神から止められている領域なんて旅すれば、ドンチャ王子の監督責任も問われてしまうだろう。

ハルだってそんな所に行きたくない。



「シアンさん、お城にいようよ。オルトロちゃんだって来てるんだしさ、神様から話があるまでみんなで遊んで暮らそう?」

「ハルがそう話すなら……。しばらく城で一緒に暮らすのも良いかもしれませんね。城でこの先どこへ向かうか相談しましょうか」


あっさりとシアンが納得してくれて、ハルはホッとする。危ないところだった。

「そうだね。危険だから地獄だけは止めておこう」


そう話して、みんな王城に滞在しているところだった。







王城での日々は思った以上に楽しかった。

エクリュ国で過ごした毎日に似ている。


朝、双子がハルを起こしに来てくれて、神聖な魔法をかけてくれるので、スッキリと目覚める一日から始まる。



朝食後の戦士達は、ドンチャ王子から指令を受けて、王城の騎士達に訓練指導を行う事になっている。


フレイムとシアンは騎士の剣の指導に。

マゼンタはヒーラーの治癒魔法指導に。

メイズは厨房での料理指導に。

フォレストとセージは、魔獣使いの使役術の指導に。


それぞれの能力を活かした訓練指導だ。

どちらかと言うと個人プレー型の多い戦士達は、渋々ながら向かっているようだった。


ハルの討伐記録能力は、誰にも指導する事が出来ないので、一人プラプラしている日々だ。

護衛のミルキーと双子と一緒に、訓練指導時間は好きな所をウロついていた。







「ハル様、今日も魔獣訓練の応援に行かれるのですね」


「お待たせ〜」と駆けてきたハルの手に、オヤツの袋を見つけて、護衛のミルキーが声をかけるとハルが嬉しそうに笑う。


「うん。厨房でメイズさんにオヤツもらってきたんだ。今日はバターサンドクッキーだよ。先に一個味見させてもらったけど、美味しかったね、パールちゃん、ピュアちゃん」


「そうですね。ケルベロス様もオルトロス様も喜んでくれますよ」

「今日は良い重さですから。きっと楽しんでくれるでしょう」

「うん!さすが世界を代表する料理人のメイズさんだよね。顧客の要望に見事に応えてくれるお菓子だよ」



顧客の要望――それはハルの要望だ。

「美味しくて、崩れにくくて、持っても手がベタつかなくて、程よく重さがあって、遠くに投げやすいお菓子」という、魔獣訓練場に持っていくオヤツだった。





「ケルベロちゃーん!オルトロちゃーん!頑張れー!!」


訓練場に着くと、柵の向こうでケルベロスとオルトロスが試合をしていた。じゃれ合う二匹がとても可愛い。

嬉しくなってハルは大きな声援を送る。



ハルの声を聞いたケルベロスとオルトロスが戦いを止めて、フォレストとセージを物言いたげに見るので、使役者の二人は苦笑して試合の終わりを告げた。



「よしよしよし、ケルベロちゃんもオルトロちゃんもすごく格好よかったよ!仲良く遊んで賢いね。よしよし二人とも良い子だね。訓練場の魔獣使いさん達も可愛い二人にウットリしてたよ」


ケルベロスとオルトロスを撫で回すハルに、『魔獣使い達は、獰猛な二匹に怯えているが……』と思いながらセージが声をかける。


「ハル、その手に持ってるのはオヤツか?」

「うん!メイズさんが訓練用のオヤツを作ってくれたんだ。オヤツキャッチ訓練してもいい?」





セージとフォレストから許可をもらって、ハルは訓練を始めた。


「行くよ、ケルベロちゃん。今日はすごく遠くに飛ばすから、頑張ってね!――やあっ!やあっ!やあっ!」


ハルがバターサンドクッキーを精一杯遠くに遠くに投げると、素早く三頭に分かれたケルベロスがそれぞれにオヤツをキャッチする。


「完璧だよ、ケルベロちゃん!」

「よし、今度はオルトロちゃんだよ。これも遠いよ。いくよ〜それっ!やあっ!」

「わ〜すごいすごい!完璧だよ!みんな頑張ったね。よしよし良い子だね」





ハルが魔獣訓練場で楽しそうに遊んでいる。

ここには双子もフォレストもセージも、その魔獣達もハルに付いている。


「ハルの散歩護衛が終わったら来てくれ」とドンチャ王子に呼ばれていたミルキーは、ハルを皆に任せて王子の元へ向かおうかどうしようかと悩んでいた。



ソワソワと落ち着かない様子を見せてしまったせいだろうか。

自分の様子に気づいたハルに声をかけられた。


「ミルキーさん、どうぞ。ミルキーさんもオヤツキャッチ訓練したかったんだね。オヤツを追いかけてくれるみんながすごく可愛いもんね、分かるよ。ミルキーさんもやってみなよ」


「はいどうぞ」と三つのバターサンドクッキーを渡されて、ミルキーは「いえ、私は結構ですよ」と急いで断った。

いくら見慣れてきたからといっても、やっぱり魔獣を代表するような二匹は怖すぎる。決してオヤツを投げたいわけではない。


「遠慮しないで。ミルキーさんはいつも謙虚すぎるよ。ほら、ミルキーさんも楽しみな」


ミルキーの断りを遠慮と取ったのか、ハルの推しが強い。

手の上にバターサンドクッキーを三個乗せられてしまって、ミルキーはオヤツ投げに参加するしかなくなった。



「あ、は、はい。それでは……。あの……いきますよ」


「頑張って、ミルキーさん!思いっきり遠くに投げてね!」

「あ、はい……。それでは……」


ピュッピュッピュッ。


「あ…………」

思いっきり遠くに投げたバターサンドクッキーを見ても、ケルベロスはピクリとも動いてくれなかった。


ポトッポトッポトッ。

遠くにバターサンドクッキーが落ちている。




「あ〜……。よしよしケルベロちゃん、今のは速すぎたし、遠すぎたのかな?残念だったね。次は頑張ろう!

ミルキーさんも残念だったね。次はもう少しゆっくり投げてみなよ」


「はい、もう一回頑張って」と、また三個クッキーを差し出すハルに、ミルキーは震えながら「い、いえ、私にはオヤツ投げの才能はないようです」と必死に手を振って断った。


『お前が命令するというのか?――俺に?』というかのように鋭い目を向ける、誇り高い魔獣ケルベロスの圧が怖かった。

『だからといって俺に投げてくるなよ』というかのように、同じく誇り高い魔獣オルトロスまでもが自分を鋭い目で見つめてくる。



ミルキーは、「あ……あの、あのオヤツ、ひ、拾ってきますね。じょ、浄化魔法をかけたら食べれますからね」と、遠くに落ちているバターサンドクッキーを拾いに小走りに走っていく。









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ミルキーさんがいつも不憫すぎるから何か良いことあるといいなあ
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