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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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68.新たな神託


ハルも目覚めた事だし、ドンチャ王子は呼び寄せた戦士達とお茶を飲みながらハルの話を聞いていた。


この世界のドンチャ王子にとっては、ハルの不在はひと月以上の期間であったが、元の世界に行っていたというハルには一日もない時間だったようだ。

「部屋に置いてたお菓子が傷んでたんだよ……」と残念そうに話していた。

当然のようにハルの隣に座る英雄シアンの姿以外に、ハルに変わった様子は見られない。



ハルがケルベロスの中で眠っている間に、今回の経緯は英雄達から報告を受けていたので、後はハルの気持ちを確認するだけだった。

念のためにハルからの話も聞き終えてから、ドンチャ王子はカップを置いて最後にハルに尋ねた。


「ではハルは、英雄シアン様と共にいる事に不満はないのだな」

「うん。不思議な感じはするけど、不満はないかな。地獄を越えてまで迎えに来てくれるのって、シアンさんしかいないと思うし」


確かにそんな人間は、英雄シアン以外にはいないだろう。

ドンチャ王子は、少し残念に思いながらもハルの言葉に頷いた。




「ドンチャヴィンチェスラオ王子にも祝福していただけるなんて光栄です」


先程の無礼な態度とは打って変わって、英雄シアンが自分ににこやかな笑みを向けてくる。


『祝福までした覚えはないが……』と思いながらも、ドンチャ王子は英雄シアンにも小さく頷いておいた。

神の領域で暴れる男にこれ以上関わってもろくな事はないだろう。



ハルの気持ちを確認し終えて、ドンチャ王子はミルキーに声をかける。

「ミルキー。そろそろ神からの啓示を伝えてくれないか」


ドンチャ王子の指示にミルキーが立ち上がり口を開いた。


「承知いたしました。実はみなさんが到着する直前に、神託が下っています。皆が今の状況をはっきり理解した上で言葉を伝えるようにとの事だったので、い、いま……今から………ヒッ」






話し出したミルキーは、新たな神託に緊張を走らせた英雄達の、自分に向けられる強い視線に震えた。


今まで何度か神託を受けた事はあるが、受けた神託は静かな場でドンチャ王子に落ち着いて伝えるものだった。

こんな風に英雄達の圧を受けながら話した事はない。


英雄達が自分に向ける強い魔力と鋭い視線は、「早く話せ」と自分を責めているかのようだ。

声が震えて上手く話せなかった。



「ミルキー落ち着きなさい。英雄様もあまりミルキーを強く見ないでやってもらえませんか」


ドンチャ王子がミルキーと英雄達に注意を促す。


「は、はい……。申し訳ありません……」と謝罪するミルキーから、英雄達もすっと視線を外した。


英雄達から向けられる強い視線からは逃れられたが、『こんな事でいちいちビクついてんじゃねえよ!』という、言葉にしない英雄達の苛立ちの魔力は伝わってくる。


キリキリキリキリと胃が痛み出したが、今回の神託は「必ず皆に伝えるように」と神からの念押しが入っている。

なんとしてでも必ず皆に伝えなくてはいけない。


ミルキーは痛み出した胃を押さえて、言葉を振り絞った。



「か、神の言葉をお伝えします……。英雄様達への警告です。「決して当分地獄には立ち入らないように」という事です。

ドンチャヴィンチェスラオ王子へは「司令官として、この点に関して英雄達をよく指導するように」と伝えるよう神託を受けており、特にシアン様とメイズ様に注意を払ってほしいと念押しもされております」


「英雄メイズ様も指名を……?」



ドンチャ王子が怪訝な表情で呟き、英雄達はメイズを訝しむように見つめた。


「メイズ、正直に言え。お前まで何やらかしたんだ?」

「いや、僕は何も―」


「私は正当防衛なので致し方ないですが、メイズはもう少し自身の振る舞いに気をつけた方がいいですよ」

「シアンにだけは言われたくない!」


「メイズ、見かけによらないわね。意外だわ」

「誤解だ!」

「神の名指しを受けるなんて、よっぽどの事ですよ……」

「冤罪だ!僕は何もしていない!」




ハルがスッと席を立って、双子に小さくヒソヒソと耳打ちする。

「犯人ってさ、みんなそう言うよね」


「そうですね。常套句です」

「クロですね」

ヒソヒソと双子が言葉を返す。


「何しちゃったのかな?」

「ここでは言えない事ではないでしょうか」

「神は見ているのですね」

小さな声が部屋に重く響いていた。




「いや、僕は本当に何もしていない。ミルキー!どういう事だ!本当に神は僕を名指ししていたのか?」


メイズが立ち上がってミルキーを強く睨みつけると、ミルキーは肩を揺らした。




メイズは、必要以上に怯えるミルキーを苦々しい思いで眺める。


今日この城で久しぶりに顔を合わせたミルキーは、シアンと自分の顔を見て顔色を失くし、ビクビクと自分達に怯える仕草を見せていた。


確かにミルキーは普段から、自分達英雄を恐れる仕草を見せているが、今日の態度は目に余るほどだった。

決して自分と目も合わせようとせず、必要以上に怯えて震えるミルキーに、つい苛立ちを感じさせられるほどだった。


心当たりがない事で、自分に何か問題があるかのような態度を取られるのは心外だったが、怯えの原因は、神託で出た自分の名前が原因だったというわけか。


だけどメイズはやはり、神に名指しされる覚えはない。


「ミルキー、ちゃんと答えてくれ」

「ヒッ……!は、はい……。神は確かに「青い英雄シアンと、黄色い料理人メイズ」とお二人の名を挙げていたんです……!」


「料理人?」

「は、はい。確かにそうおっしゃっていました……」


黄色い「英雄」ではなく、神は「料理人」とメイズを指したらしい。


「あ」

メイズはここへ向かうまでの馬車の会話を思い出す。

「鬼料理の話か……」

あの話が良くなかったようだ。




「メイズさんはなんでも美味しく料理しちゃうからね……」

ポツリとハルが呟いた。


新たに受けた神託は、新しい討伐のお願いではなかったらしい。





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