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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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66.王家の静かな馬車の中で聞こえるもの


揺れもなく、滑らかな動きで静かに馬車が進む。

さすがは王家からの迎えの馬車だ。

座る座席からして違う。座り心地はまるでケルベロソファー張りの快適さだった。



ミルキーへ下った神託の中で、「ハルは無事だ」という内容も伝えられていたので、王家がハルを捜索する事はなかったが、「もしハルが戻った時はすぐに王城に向かうように」との通達が戦士達に入っていたようだ。

ハルは今、戦士達と共に王城へ向かっている。





「ハル、その腕のブレスレットはなんなんだ?それ石じゃないよな?」


静かに動く馬車の中でフレイムに聞かれて、ハルは自分の手首につけているブレスレットを見た。


「これ?これ宝石だよ。ケルベロジュエルなんだ」

「ケルベロジュエル?」

「うん。ケルベロボールをキュッと小さく丸めると宝石になるんだよ。ログハウスでシアンさんが、貯めていたケルベロボールを宝石にして、繋げてブレスレットにしてくれたんだ。すごく可愛いでしょう?」


シアンが作ってくれたケルベロブレスレットは、エスプレッソ色と、カフェオレ色主体の、石でありながらどこか温かみのあるアクセサリーだ。

稀少なカラーのミルク色と赤色と金色のケルベロジュエルも、センスよく散りばめられている。


ブレスレットでありながらもケルベロスも感じられて、ハルは一目見た時からのお気に入りだった。



「こんなに可愛いブレスレット初めて見たよ。ケルベロちゃんみたいですごく可愛くて綺麗でしょう?絶対大事にするんだ!」


大事な物を触るように、ソッとケルベロブレスレットを撫でるハルに、シアンが優しく微笑む。


「とてもよく似合いますよ。ああでも、アッシュさんの腕輪の聖力とはあまり相性が良くないみたいですね」

「え?そうなの?私、魔力とか聖力ってよく分かんないんだけど」

「はい。一緒に付けていると、ケルベロブレスレットが崩れてしまう可能性もあります。残念ですが、王城でアッシュさんに会ったときに、腕輪はお返しした方がいいでしょうね」



シアンの言葉に、ハルはじっとアッシュの腕輪を見つめた。

もうずいぶん長く身につけているアッシュの腕輪は、つけている意識もないくらいに、そこにあって当然の物になっていた。

だけどこの腕輪はアッシュから借りているだけで、ハルの物ではない。そろそろ返すべきかもしれない。



「そっか……。じゃあこの腕輪はアッシュさんに返そうかな」

「そうしましょう。アッシュさんにお返しする時は、私も一緒に行きますよ。

ああ、アッシュさんの名前で、今思いつきました。

もう少しケルベロボールを集めて、今度はステッキ剣の形に細く長く伸ばしてみませんか?」


「え!!ケルベロステッキ剣?!」

「ええ。世界一素敵で可愛い剣が出来上がるでしょうね」



ケルベロステッキ剣。

そのネーミングからも、キュッと胸が締め付けられるほどに愛おしさが溢れている。

テンションが爆上がりになって目を輝かせたハルは、ふと気づく。


「……やっぱり魔法のステッキ剣と、ケルベロステッキ剣は一緒に持つ事はできないのかな?」

「それは難しいでしょうね。やはり剣士の聖力には敵いませんから。ケルベロステッキ剣の方が崩れてしまうでしょう」

「そっか……」


どちらか一つを選ばなくてはいけないらしい。

ハルはケルベロブレスレットを見つめながら、剣について真剣に考える。


ピカピカ光るアッシュの剣は、ハルに勇気をくれる剣だ。

簡単には手放す決心がつかない。



「魔法のステッキ剣は勇気をくれるから……」

「では、エクリュ国に遊びに行った時には貸してもらえるように、アッシュさんにお願いしてはどうでしょう?二つのステッキ剣を同時に持つとしても、長い時間じゃなければ、ケルベロステッキ剣に問題はないはずですよ」


ハルが返事を渋ったのを見て、シアンが優しく声をかける。


「そうしようかな……」

「それがいいでしょう。やっぱりアッシュさんも、手元に剣は持っておくべきですから」

「そっか。そうだよね。そうするよ」




ハルの返事に晴々とした笑顔になるシアンに、フレイムが不機嫌な声を投げつけた。


「シアン、勝手な事ばかりほざいてんじゃねえぞ。

昨夜俺の言った言葉も忘れるくらいボケてんのか?いいか、夫ヅラするなよ。夜にハルの部屋には入るなと言っただろう?」

「まさか。忘れてませんよ。ブレスレットを作りに行ったのは、今朝ですよ」


シアンの言葉に、ハルが説明を加える。


「この子、朝の四時半に起こしに来たんだよ……」

「ハル、眠かったら寝てて大丈夫ですよ。――全く本当に。自分勝手な事ばかり言う者がいるから、迷惑しますよね」


はああとシアンがため息をついてみせる。


「テメェが一番自分勝手で迷惑かけてんだろうが!!」

「ハル、そんな時間に尋ねてくる者をなんで部屋に入れたんだ?」

「そもそもシアンには告白されただけでしょう?」

「そうですよ。ハル、告白してくる者なんていちいち相手しててどうするんですか!」



戦士達の怒りが自分にまで飛んできた。

早朝に尋ねてきたのは、この青い男の方だ。

ハルだって寝ぼけていたが、ケルベロボールでブレスレットを作ってみようと誘われたら、目も覚めるし作ってもらいたくもなるだろう。

時間がおかしいというなら、この常識を愛する男の常識の方を正してほしい。


それに「告白してくる者なんて」と言い放てるのは、国宝級美貌の戦士ならではの言葉だろう。



「……告白されるなんて初めてだったし」

「「え?!」」


ブスッとしてハルが答えると、戦士達が目を見開いた。




なんだコノヤロウ。文句あるのか。

お前達はいいよな。ただ息をするだけでもモテモテの人生を歩んでて。

凡人にとっては、告白される事は日常なんかじゃないんだよ。


シアンに告白された事は、驚き過ぎていまだに現実味がないくらいだ。

人生初の告白だったのだ。当然だろう。

動揺し過ぎて逆に冷静になってしまっているくらいだ。



黙り込む戦士達にいたたまれなくなって、ハルはさらに言葉を重ねる。


「だって神様だって、シアンさんの想いを受け入れてみないか、って言ってたし。それって変わらない本当の気持ちだからお勧めしたんじゃないかと思うし……」


何も言わない戦士達の視線の強さに耐えきれず、ハルは「もういいよ。どうせモテ野郎どもには、凡人の気持ちなんて分からないよ」と言いながらケルベロ毛布に潜り込んだ。


信じられない者を見るような目で見てくる戦士達の顔なんてもう見たくなかった。






『ケルベロちゃん、もう開けないで』と、ケルベロスの中からハルのこもった声が聞こえる。


『ケルベロちゃん、あの子達は告白慣れ過ぎてるからあんな事が言えるんだよ。普通は告白されたら、相手の事を考えちゃうんだよ。本当に国宝級美貌のイケメン野郎どもは、イケメン常識でもの言う困った子達だよ』



ブツブツと小さな声で呟くハルの不満の声が、静かに走る馬車の中に響く。


「ハル、私も告白したのは初めてだったんですよ。ハルも私の事を考えてくれていたんですね」

『………』


ケルベロスの中に潜ったハルから、シアンの言葉への返事はないが、シアンは輝く笑顔を見せていた。


そんなシアンを呆然と眺めながら、『伝えても伝わらないだろう、との思い込みは間違いだったか』と戦士達は苦々しい思いで黙り込んでいた。




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