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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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65.ユニコーンの憂鬱


ユニコーンは憂鬱だった。

昨日からすごく嫌な事ばかり続いている。


少し前まではとても楽しい事ばかりで、浮き立つ毎日だったのに。

朝起きて、大好きな女の子のところに遊びに行って、美味しいおやつを一緒に食べて、帰ってきて少し休んで、また女の子のところに遊びに行って……と、繰り返す日々が今までにないくらい充実していた。


仲良くなった女の子は、ユニコーンの美しさを誰よりも分かってくれていて、会う度に優しく撫でながら褒めてくれる。それにいつも甘くて良い匂いがするし、小さくてとても可愛い子だ。

お嫁さんにしちゃおうかな?って考えてたくらいだ。


あの子が可愛いお嫁さんで、ユニコーンも可愛いお嫁さんになれば、可愛い二人でずっと楽しく暮らしていけるに違いない。

『今度天国に、ユニコーンカラーの虹色の花が咲いたら、花束にしてプロポーズしよう』って考えていた。




だけど一緒に過ごす時間が楽し過ぎて、この前遊んだ時についちょっと張り切ってしまった。


間違って、今回の神託の討伐のラスボスをうっかり消し去ってしまったのだ。

そんな雑用業務は、忌々しいあの英雄達に押し付けておけばいい仕事なのに。


消し去った瞬間にやらかした事に気づいたが、『次のシーズンの魔獣を、前倒しに送って討伐させとこう』と誤魔化す事を決めた。


誤魔化せるように数を調整して魔獣を送るつもりだったが、あまりにも無礼な事を話す英雄達に仕返しをしたくなった。

アイツらは馬料理の話なんかで盛り上がっていたのだ。


そんな無礼を許せるわけがない。


当然アイツらは天罰を受けるべきだし、罰として大量の魔獣を送り込んでやったのだが―――

全て神様にバレていた。


「ユニコーン、英雄達と息の合った討伐を見せてくれましたね」なんて、不本意すぎる言葉をかけられてしまった。

それにユニコーンのやる気を引き出してくれたからと、「ハルが元の世界に戻りたいと望むならば、安心して戻る事が出来るようにしてあげましょう」とユニコーンに言い出したのだ。




『冗談じゃない、絶対に嫌だ』

そう思った。


あの子が元の世界に行ったら、あの子はこの世界の事は夢のように忘れ去ってしまうかもしれない。


――お嫁さんになるはずの自分の事も。


「私はあの子と結婚するから、元の世界に連れて行くのは嫌!」と強く神に訴えたが、「ハルの幸せのためだから」と宥められるだけで、ユニコーンの意見なんて聞いてくれなかった。


ユニコーンの側にいる神は、本当に頼りにならないヘッポコ野郎だ。

いつもぼんやりした姿をしてるし、いつも「世界平和のために頑張っている英雄達に優しくしてあげなさい」と嫌な事を言ってくる。


「今回の最終地点の魔物は、英雄達だけでは討伐が難しいかもしれません。ユニコーン、手伝ってあげてくれませんか?一度挨拶に行きましょう」なんて、言ってきた時もある。

その時は、まだあの可愛い子と知り合ってなかったから、嫌すぎて泣いて暴れ回ってやった。

神への嫌がらせに、地獄をちょっと浄化してやったりもしたものだ。




でもまあいい。

どうしてもあの子を元の世界に送って行かないとダメだと言うならば。

自分を思い出すまで、元の世界でユニコーンを推していけばいいだけだ。こんなに可愛いユニコーンを見たら、忘れかけた思い出も、きっと蘇るはず。


そう思って、表向きは素直に神に頷いておいた。





真夜中、あの子を迎えに行った時。

あの一番忌々しい青い男が自分達に気づいて、あの子の名前を呼んだ。


もちろん止まってやるつもりはなかった。

追いかけてくる事も、追いつかれる事も予想できたが、それはそれで良かった。


あんな男は、隙を見せて地獄に連れ出して落としやればいい。

――そう考えるととても楽しい気分になって、眠るハルを乗せながら、足取りは軽くなっていた。




計画通りにあの青い奴を地獄に落とす事は出来た。


だけどあの男は、大人しく地獄に振り落とされればいいのに、ユニコーンの自慢の尻尾の毛を根こそぎ抜こうとしやがった。

すぐに蹴り飛ばしてやったけど、美しい毛を二本も抜かれてしまった。


腹が立って地獄の鬼に、「後は頼んだぞ」と念押ししたのに、なんの役にも立たない鬼どもだった。




あの青い男は本当に忌々しい奴だ。


ユニコーンのお父さんとお母さんになる人なのに、図々しくもユニコーンより先に挨拶をしやがった。

ユニコーンのおやつになるお菓子を、勝手にたくさんもらっていた。


それに。

勝手にあの子に告白なんてし出した。

「愛してる」なんて言葉は、ユニコーンがあの子に伝える言葉だったのに。



震えるほどの怒りを感じたが、所詮あの青い男もただの人間だ。

あの世界に置き去りにしてやったらいい。


そう思って最初の乗り物とは姿を変えて、油断させて置き去りにしてやるつもりだったのに、勝手にあの子にくっついて背中に乗ってきやがった。

帰りも地獄に落としてやったが、今度はこの美しい立て髪を三本も抜かれた。


「今度こそしっかりやれよ」と鬼にキツく言い聞かせたのに。

あの青い男は、常識知らずにも地獄の鬼を滅亡させる勢いで討伐を始め出した。

ユニコーンだって、さすがにそこまではしたりしない。


青い男が非常識すぎて、神はあの子に青い男を押し付けちゃうし、もう本当に信じられないくらいくらいに悪い事続きだ。




ユニコーンはふ〜っと深いため息をつく。


あの子をここに連れて来たいけど、こういう時だけ勘のいい神が神の道を封鎖してしまった。

最悪すぎる。



「ユニコーン、今はここにハルを呼んではダメですよ。地獄の鬼達は今、メンタルケア中だってお話したでしょう?地獄は必要悪なんですよ。

青い英雄の気配を感じるだけで鬼の心が不安定になるから、今は青い英雄を絶対に刺激しないでくださいね。トラウマになったと鬼が不安を訴えているんです」


そんなつまらない言葉を、何度も神は言い聞かせてくる。





『神様に「あの子に会わせてくれないなら、鬼の悪を浄化して天使にしちゃうから!」って言ってやろうかな』


ハルを想って、そんな事をユニコーンは考える。





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― 新着の感想 ―
笑 地獄の鬼が可哀想すぎる。メンタルケア中なんですね。 しばらくは青の色を見ただけで怯えてそうですね。
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