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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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64.充電が切れる前に


「そうだ。ケルベロちゃんの部屋に鍵がかかってたんだよ。ケルベロちゃんを閉じ込めないで」



夕食後、ハルは戦士達の質問に答える形で話をしながら、『これだけは言っておかなくちゃ』とよしよしとケルベロスを慰めながら戦士達に注意した。


フォレストがため息をつきながら答える。


「しょうがなかったんですよ。部屋に鍵をかけておかないと、ケルベロスはハルを探しにすぐにここを出て行こうとするんですから。

神から「ハルの事は心配しなくていい」という言葉もあったと聞きましたが、そう聞いても心配でしたからね。モスグレイ山までも神の道を探しに行ったんですけど、僕達ではどれだけ探しても神の道は見つけられなかったんです。

ケルベロスは何かを伝えるように鳴いてくるのですが、焦りは伝わっても何を伝えたいのかが分からなくて。ハルはケルベロスに何か伝えて言ったのですか?」


「モスグレイ山まで探してくれてたんだ……。ごめんね、どこにいるか神様に伝えてもらえばよかったね。

でも……うーん……?ケルベロちゃんに何か話したかな?あの時はすごく眠たくて、お休みの挨拶して……」


ハルは首をひねる。


「あの時はまだ神様と会う事も、元の世界に行く事も知らなかったけど……どうしてかな?ケルベロちゃんに、もっとちゃんと挨拶しとかなくちゃって思ったような……?」


ハルはうーんと考えて結局思い出せなかったので、他の話題に変える事にした。

ハイスペックな英雄達からすれは、「眠かったから覚えてないや」と昨夜の事も思い出せないような凡人の感覚など分かるはずがないだろう。


そんな事を正直に話したら、信じられない者を見る目で見られて、悔しい思いをするのがオチだ。



「それよりさ、シアンさんユニコちゃんの羽を拾ってたんだって。綺麗だから取っておいたら、ユニコちゃんが地獄で光の道を作ってくれたみたいだよ。

もしかしたらユニコちゃん、シアンさんを助けるために何か魔法をかけてくれてたのかも。あの子は優しい良い子だからね」


ハルの言葉にシアンが微笑む。


「本当に。ユニコーンには感謝し切れないですよ。あの時掴んだユニコーンの尻尾は、暗闇が広がる場所に来た時に手が離れてしまったんですけど、その時偶然尻尾の毛が手に絡まって数本抜けてしまったんです。

もしかしたらあれは私を助けようと、プレゼントしてくれたのかもしれませんね。抜けたばかりの尻尾の毛を靴に巻き付けたら、足元を照らしてくれて助かりました。

帰りも、やはり私が乗ると重かったんでしょうね。途中で私を落としてしまったようですが、その時もたまたまユニコーンの立て髪が手に絡まって、数本抜けてしまったんです。立て髪も闇の中に光をくれましたから、あれはきっと偶然なんかじゃなく、ユニコーンの心遣いだったのでしょうね。

痛い思いをしてまで私を助けてくれるなんて。本当にユニコーンは良い子ですよね」


「そっか。それ絶対偶然なんかじゃないよ。絶対ユニコちゃんの気遣いだと思う。ユニコちゃんって本当に良い子すぎるよね」




『確かに偶然なんかじゃないだろうな』

そう思いながら、戦士達は黙って二人の会話を聞いていた。


「そうですね」とにこやかにハルに微笑むシアンは、どうやら故意にユニコーンに地獄に振り落とされたようだ。

そうではないかと思っていたが、シアンの方もそれなりに嫌がらせを返したらしい。神獣の毛を靴に巻き付けるなんて、正気の沙汰とは思えない。

だけどシアンもユニコーンも、お互いに後ろ暗い部分があるから、おそらくハルが本当の事を知る事はないだろう。


ユニコーンの羽だって、あれだけ戦士達の前で堂々とむしり取ったというのに。

『本当にこの男は勝手な事をぬかす奴だ』と、戦士達はシアンにうんざりした目を向ける。




「あ。そうだ!神様から大事な話を聞いてたんだった!」

「何だ?何かあったのか?」


ハッとハルが顔を強張らせたのを見て、戦士達が緊張を走らせ、フレイムが声をかけた。


「うん。実は……ラスボスを消滅させたあのすごい攻撃、私の攻撃魔法じゃなかったんだ。私の呪文はユニコちゃんのやる気を引き出すだけで、私が魔法少女になったわけじゃなかったんだよ……。みんな、期待させてごめんね」


残念そうな顔で謝るハルに、「最初から分かっていた」など言えるわけもなく、フレイムは「そうか……。残念だったな」と無難に言葉を返しておいた。




「では討伐も終わった事ですし―」

「とにかくドンチャヴィンチェスラオ王子への報告があるし、話が落ち着くまでは結婚云々の話は無しだ。みんなハルを心配してたんだ。これ以上お前だけが勝手な行動をするな」



夕食の席でもハルの隣に座り、今もまた当然のようにリビングのソファーでハルの隣に座るシアンに、フレイムが釘を刺す。

どうせ今も「結婚の準備があるので、私達はこれで」とか言い出すつもりだったのだろう。



フレイムの言葉に、シアンがうんざりした顔で大きくため息をつく。

「本当に勝手な事ばかり言いますね」


「テメェに言われたくねえよ!おいハル、こんな野郎と一緒にいてもハルの両親は心配するだけじゃねえのか?もう一回ちゃんと親に説明できねえのか?」


「え?……あ!出来るかも。そうだ携帯充電してもらったんだった。繋がるか見てみよっと」


フレイムの言葉に「そういえば」とハルは思い出して、遊園地に着て行った洗濯前のパジャマのポケットから携帯を取り出して、またリビングに戻った。



「よし、電話してみよう。お母さんにかけてみようかな。スピーカーにしておくね。みんなを紹介するよ。………あ。もしもーし、お母さん?」


「波留ねえ?おかーさーん。波留ねえから電話だよ!」


どうやら妹の菜摘が、姉からの電話だと気づいて、勝手に母親の電話に出たらしい。


「なつ?今家なの?あのさ、一緒に旅してる子達を―」

「もしもし波留ねえ?なんか電波悪いよ。どこにいるの?珍しいね、お母さんに電話するなんて。あ。もしかして仕事の面接に落ちたの?」


「違うよ。次の仕事はこれから考えるん―」

「……え。マジで。お母さん、波留ねえ面接落ちたみたい」


どうやらハルの声は届かないようだ。

届かない声を、菜摘に沈黙の肯定と受け取られてしまった。


「もしもし波留なの?お母さんに代わったわよ。

も〜波留ったら、どうせ面接にも寝癖つけたまま行ったんでしょう?立派な社会人は寝癖つけて出かけたりしないのよ。すっぴんで寝癖つけてメリーゴーランド乗って遊んでるのは波留くらいよ。しっかりしない」


母の小言の後で、隣で母に話しかける父の声がする。


「まあまあ母さん、いいじゃないか。ハルに「化粧をしないで寝癖をつけて行ってもいい仕事を選びなさい」と伝えてくれよ。ハルにはシアンくんが付いてるんだろう?ハルもしっかりした子だし大丈夫だよ」


弟の千秋も一緒にいるのだろう。少し大きな声でハルにアドバイスを送ってくる。


「波留ねえ!どこでも寝ちゃうんだから、仕事は立ち仕事を選びなよ!在宅ワークなんて選んだら、絶対昼寝ばかりして、すぐクビにされるから!」

「波留は立ちながらでも寝ちゃう子よ」

「あ〜そういえばあの時さあ、」



ハルはプッと携帯を切ってやった。

みんなを紹介してあげようとスピーカーにしていたのは間違いだった。

ただみんなにハルの悪口を聞かせてしまうだけになってしまった。自分の声が届かない電話なんて、切ってしまうのが賢明だ。



携帯を握ったまま黙って床を睨むハルに、声をかける者は誰もいない。



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