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呼ばれた私と国宝級美貌の戦士達  作者: 白井夢子
第二章 その後に続く日常
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58.元の世界のハルの家族


「波留、長い旅行から帰ってるんでしょ?そろそろちゃんとお仕事しなさいよ」

「波留ねえに、ちゃんとした仕事なんて無理だよ」


母の小言に弟の千秋が指摘する。


「まあまあ、母さんいいじゃないか。波留はしっかりしてるし大丈夫だよ」

「お父さん、波留ねえほどしっかりしてない人はいないと思うよ」


父のハルを庇う言葉に、妹の菜摘が速攻で否定する。


「まあまあ、菜摘ちゃん。波留は顔は可愛いし、意外とモテるからそのうち結婚できるよ」

「え!波留ねえ、結婚約束してる人いるの?うわ〜なんか相手の人可哀想」


ハルを適当に庇う友達の言葉に、弟の千秋が失礼なリアクションを取る。


「彼氏はいないと思うけど、そのうち出来るんじゃない?多分」

「え〜でも、波留が結婚とかは無理じゃない?」

「波留って誰にも塩対応だもんね〜」

「引きこもりだし、料理やばいしね」


友達の言葉が酷い。




久しぶりに会った懐かしい家族と友達が、みんなでハルを蔑んでくる。


「ちょっと!私だって旅に出てる間、たくさんの人と出会ったんだから。イケメン達ともちゃんと出会ってるし」


ブスッとして答えるハルの言葉にみんなが反応した。


「え!マジで?今彼氏いるの?」

「………いないけど」

「波留……。もうちょっと頑張りなよ」


虚勢を張った可哀想な子を見るような目で、皆がハルを見つめてくる。





出会ったイケメン達。

ハルは確かに旅先でイケメン達に出会った……気がする。

しかもただのイケメンではない。国宝級美貌のイケメン達だ。


『みんなの連絡先は分からないけど。近くにいたら、嫉妬の嵐に巻き込まれるくらいの危険を持った――』と考えた時、ハルは戦士達を思い出した。


「あ」

思わず声に出る。



そうだ。どうして忘れていたのだろう。

あんなに国宝級美貌を持った戦士達だったのに。

色々と女の子にだらしのない面を持った子達だったけど、あんなにずっと一緒に旅していたのに。


そうだ。今回の討伐が終わったら、自分はあの世界に残る事を考えていた。

もうこの元の世界は、自分とは遠い世界になってしまっているだろうと思っていたからだ。


だけど、この世界はハルから遠ざかってはいなかった。戻ろうと思えば、このまま自然に戻る事ができる。




「あ」

また声が出た。


神様の言葉を思い出したのだ。

「懐かしい人々と会わせてあげましょう。その先の道はハル自身で選びなさい」

――神はそう話していた。



この遊園地は近々閉園する。

ハルはきっとそれまでに答えを出さなくては、今度はあの異世界に戻る事が出来なくなるのだろう。







「波留?どうしたの?」

急に顔を強張らせたハルに、母が声をかける。


「お母さん、私―――」

続ける言葉が見つからなくて、ハルは母親をただ見つめた。


あの世界には、双子もケルベロスもオルトロスもユニコーンもいる。それからずっと旅してきた戦士達も、知り合った仲の良い人達も。

だけど家族はいない。それからこの地元の友達も。


出すべき答えが見つからない。






「――いいんだよ」

「え?」


全てを包み込むかのような父の優しい言葉に、ハルは何のことか分からなくて聞き返す。


「波留、仕事がなくても、彼氏が出来なくても大丈夫だ。波留はしっかりした子だから、一人で生きていけるとお父さんは信じてるよ」

「お父さん……」



父が優しい声で「大丈夫だよ」と頷きながら、ハルの心を深くえぐってくる。


――それは嫌だ。

ハルは別に仕事がしたくないわけでも、孤独を愛しているわけでもない。

仕事もなく彼氏一人いない人生の、どこが大丈夫かが分からない。



そうだ。何を迷っていたのだろう。

あの世界には、彼氏はいないけど仕事のツテはいくつかある。

あの世とこの世の案内人でも、白い国でのアッシュの手伝いでも、メイズのお店での雇われスタッフでも。

どれも立派な人を介しての仕事だ。

家族から、「ちゃんとした仕事しなよ」とため息をつかれる事もなくなるだろう。


家族が別にいいよと言ってくれるなら、あの世界で生きていこうとハルの心が決まった。




「お父さん、お母さん。私、遠い世界になるけどいくつか仕事に誘われたんだ。ちゃんとした人に紹介してもらった、ちゃんとした仕事だよ。

ただ、もう会えないくらいに遠い場所なんだ。ちゃんとした社会人になるために行ってきてもいいかな?」


「波留が選んだなら、その道を進みなさい」

「そうねえ。元気でいるなら、それでいいわよ」


――あっさりと認められてしまった。

許可してくれそうな気はしていたが、拍子抜けするくらいに軽かった。


「あ、うん。じゃあそうしようかな」

ハルも軽い感じで返事を返しておく。






ハルの就職が何とかなりそうな事に安心したのか、皆の興味がハルから薄れて、他の話題に移っていく。


「今、針美容液に注目しててさ〜」

「あ。もしかしてコレじゃない?私も買ってみたけど、痛すぎて無理だった。お母さんにあげたら、すごく効くって話してたよ」

「あ、うちのお母さんも使ってるやつだ」

「あら、原さんと堀井さんのお母さんも?何?何ていう美容液?おばさんも使ってみようかしら。ちょっとその画像送ってもらってもいい?」


「ねえ、お父さん、帰りにうどん屋さん寄ろうよ」

「え〜俺、焼肉屋がいい」

「じゃあ、うどんと焼肉のあるお店に行こうか」



それぞれがそれぞれに平和な会話をしている。

この世界は、魔獣も魔物もいない平和な世界だ。

『やっぱりこの世界も悪くないかも……』とまたハルに迷いが出てきた。







「ハル、やっと見つけました」


ハルがうーんと目を瞑って考え込んでいると、この世界で聞くことがないはずの声が聞こえた。

驚いてパチッと目を開けると、目の前にシアンが立っていた。


青い瞳と青い髪を持つ、青い戦闘服を着た男。

国宝級美貌の戦士の、青い彼だ。


「え……」

あり得ない現実にハルは目をしばたかせた。



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